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ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

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9/22

町外れ

 そう何度も性欲をかきたてられるのはまずい。真剣に向き合えば、ラズは僕の話をちゃんと聞いてくれるはずだ。


「あのさ、ラズ。続きは夜にちゃんとするから、あそこに見える教会の裏手へ行ってもらえる?」

「夜に? ほんとですかぁ?」

「う、うん。そこに小さな集落があるんだけど、さっき話した知り合いがいるんだ。きっとかくまってもらえると思うから」

「かくまう……うふふ♡ 分かりました。……ああ、夜が待ち遠しいです」


 ラズの汗が胸を伝って僕の頬に落ちた。その匂いはまるで香水のよう。サキュバスの汗の特徴なのかもしれない。


 翼が切った風の中に海の匂いが混じり始めた。向かっている街【トリノメーア】は巨大な港湾都市。


 目的地の集落は、早馬を飛ばしても海岸線から半日はかかる距離にある。それでも潮風が香るのは西風が年中吹いているせいだ。


「ゆっくり降りますね」


 高所が苦手と伝わったようで、ラズは蛇行しながら高度を下げていく。彼女の髪がその度に靡いて、ふわりふわりと僕の体を撫でまわす。なけなしの理性を総動員して耐えた。


 ようやく集落が原寸大に近づく。まだ早朝、人の影は見当たらない。僕らは集落に降り立ち、すぐ近くの茂みに身を隠すことにした。


 ラズが両手を胸に添え、目を伏せた。魔法を詠唱しているようだ。正確には、念じることで魔法を発動させようとしていた。ツノと翼、尻尾が、体へと収まるようにして消えていく。二本の牙も元に戻り始め、服も――。


「わああ! ラズ、服、服!」


 露わになっていくラズの肌。僕は慌てて目を塞いで顔を反らす。


「ん? どうなさいました?」


 いたずらっ子のようにおどけた様子で返すラズ。全く隠そうともしない。絶対わざとだ。


「いやあの……何か服着て!」

「少しくらい良くありません?」

「だめだめ、早く!」


 視界に入った気がする。胸の先にある、艶やかな桜色が――。


 (忘れろ、忘れろ! 見てない、見てない!)


「あ~。見ましたね?」


 すかさず僕に近づく。僕はびくっと体を震わせ、その視線から逃げるように背を向け続けた。ラズは何度も僕の視界に入ろうとした。


 人間の姿になっても、中身はまだ淫魔のままみたいだ。僕が逃げ続けていたら、ラズは裸のまま背中に飛び込んできた。


「わっ、だめっ。だめだってばラズ!」

「ちょっとだけ、ちょっとだけですから♡」


 とんでもなく柔らかいふくらみを感じる。ラズはそれを押しつけてくる。腕を僕の腰にまわしてぎゅっと抱きついて離れない。


(だめだ……何とかしないと……)


 そのとき、救いの神が――。


 褐色の煉瓦造りの家から、ひとりのドワーフが姿を現した。白髪の立派な髭を撫でながら、まだ薄暗い庭先で伸びをしている。


 間違いない――彼だ。僕が今、頼れるのは彼しかいない。ストラディバリ家にときどき蒸留酒を運んできては、僕の遊び相手になってくれた気のいいドワーフ。


 ラズに隠れて待つように言って、彼へと歩み寄る。懐かしいその背中に向けて、僕は彼の名を呼んだ。


「ボルガ!」


 彼は少し驚いた様子だった。けれど声の主が僕だとすぐに気づいて、右の口角だけ少し上げて返事をくれた。


「お久しぶりですな、ぼっちゃん」


 彼はあまり感情を表に出さない。快活なドワーフの中でも冷静な性格の持ち主として有名だ。


 間違いなく、彼は僕の身に何があったのか知っている。親族を除けば彼ほど僕のことを心配してくれている人物はいないだろう。


「久しぶりだねボルガ。会いたかったよ」

「よくぞご無事で。また大きくなりましたな」

「うん、おかげさまでね」


 ボルガの顔を見たら、ふと力が抜けた。故郷に帰ってきたかのような安らぎを感じた。幼い頃に何度か訪れていた、この場所。


(ここでよく歌ったりかくれんぼしたり、お酒造りの手伝いをしたっけな。……懐かしいなあ)


「して、ぼっちゃん。そこの半裸のお嬢さんはぼっちゃんの恋人ですかい?」


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