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ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

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危険な遊び〈side/エルヴェ〉

 ラズは迷っていた。だからこそ、良い答えが返ってきた。


「試してみないと分かりません。バンパイアは戦闘に優れた種族ですから、私が先に首を絞めてみてもよろしいでしょうか?」

「いいよ。お手柔らかにね」


 ディジーとリジーがお掃除の手を止めて僕たちを見つめている。さっきまで時折部屋へと吹き込んでいた風は止んで、服が擦れる音だけが響く。ラズが僕の首へと手を伸ばしてきた。


「うっ……」


 真っ直ぐに僕と視線を合わせ、徐々に首を圧迫してきた。ラズは表情を変えない。首を傾げ、医者が診察するかのように僕の首筋を見つめている。僕が眉間に皺を寄せると圧迫をやめた。


「ラズ、どんな気分?」

「あまり興奮は覚えません」


 淡々とした口調で、どこか他人事のような冷たい返答に思えた。


 今度は僕がラズの首へと手を伸ばす。すると彼女は首に手が届く前に上気し始め、目を閉じて首を前へと投げ出してきた。


 息は乱れ、すぐに汗ばみ始めた。サキュバスのときよりも反応が良い。両手が首に触れると同時に呻き声を漏らし、圧迫を始めると体をのけ反らせた。


「やっぱりマゾなんだね。むしろバンパイアのときの方が嬉しそうに見えるよ」

「うう……はい。もっと……」


 喉を親指で挟み、強く押し上げる。眉間に皺を寄せたところで手を緩めた。


「旦那様、やめないでください。もっと苦しくしてください。限界だったら腕を叩いて合図しますから」


 言われるまま再び首を絞めて押し上げる。眉間に深い皺が浮かび上がる。ラズは合図しない。さらに押し上げると、腰をくねらせて僕に押しつけてきた。


「うう…………うっ!」


 掠れた声と同時に合図がきた。


「うえっ……ごほっ……」


 咳き込み、苦悶の表情で呼吸する。僕は反射的に「大丈夫?」と聞きそうになった。しかし聞いてしまえば興ざめだ。想像より深い快感を得られて満足そうだったから。それを証拠に、顔を上げた彼女はうっとりとした表情をしていた。


「旦那様、もう一度していただけますか? すごく、いいです。粗相をしてしまいそうなくらい……」

「ふうん……。じゃあ粗相をしてしまうまで繰り返してあげようか?」


 ラズはびくっと大きく体を震わせた。同時に翼を広げた。押し付けている部分がひどく熱を帯びている。全身を小刻みに震わせ始めた。


 危険な遊びだ。死と隣り合わせの。


 首を絞めて、合図で緩めて――を繰り返す。6度目で、失神した。


 一部始終を見ていたディジーとリジーは、ラズに羨望の眼差しを向け続けている。


「ふたりにはまだしないよ。たくさん命令に従ってくれたら考えてあげる。でもね、僕にとってラズは特別な存在だってこと、覚えておいてね」


 ふたりとも聞き分け良く肯いている。ラズがいなければ僕はここに居ないし、当然こんな関係もなかった。それをよく理解しているんだろう。


「ふたりともいい子だね」


 気がつけば拭き合いっこは完了していた。上手にできたねと褒めたら、ふたりで微笑みあって喜んでいた。


 自然な表情に見える。どことなくゆとりが感じられた。毒がかなり抜けたのかもしれない。


「今日はありがとうございます、ご主人様」

「また会いに来てもよろしいですか?」

「うん、構わないよ。でも今度は窓からじゃなく、ちゃんと入り口から来てね」


 同時にこくりと頷き、扉から退出していった。


 ヴィンセントさんの言う洗礼というのはサキュバスの襲撃のことなのだろうか。たまたま僕の体は彼女たちにとって毒だったから躱せたけれど。


 すやすやとベッドで寝息を立てているラズの傍に座り、ようやく訪れた安らぎの時間を噛みしめる。


「ラズ、可愛いな」


 さっきまでの、ラズの苦悶の表情を思い出す。無性に綺麗だと思えたのは、生と死を意識したからだろうか。胸とお腹が上下に動いているのを見ているとほっとする。


 ――危険は楽しい。


 ラズとはもちろんのこと、ディジーとリジーとも。僕の毒がサキュバスを次々と狂わせていった。正直、興奮した。


 僕にサディストの一面があるなんて考えもしなかった。でも僕は、柔肌を傷つけたり尊厳を踏みにじるような悪人にはなれない。プレイの一環だからと望まれても、きっとできない。


 中途半端なのはラズじゃない、僕の方なんだ。


 ラズは僕の心の満たし方を知っている。抑圧された本性が剥き出しにされる。それを僕は異常なほど心地いいと思っている。


(僕はおかしい。サキュバス相手とはいえ、女の子を奴隷扱いするなんて……)


 相手から望まれれば奴隷を所有してもいいんだろうか。性的な興奮を得るための契約だからと言われて、受け入れていいものだろうか。ラズの寝顔に安堵しながら、僕の心は荒波にもまれていた。


 淫魔の住むロゼリア=ノクスに衝撃が走ったのは、その直後だった。


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