選んでね♡〈side/ラズ〉
お姉様たちは理解してる。頭でじゃない、その躰で理解してる。だから嘘はつけない。
旦那様の毒はサキュバスを狂わせる。お母様でさえ抗うことはできなかった。バンパイアのイザベルも無事には見えなかった。
全身が性感帯になり、触れられるだけで強烈な快感に襲われる。心も容易に掻き乱される。そこに言葉責めが加わると、えもいわれぬ快感が心身を満たす。
「お姉様方、選んでください。エルヴェ様に服従して体液を恵んでいただくか、あくまでも術で落とそうとなさるか。どうされますか?」
散々快楽を叩き込んだ直後にこんなこと言うなんて、私ってば悪い女。なんてずるい女。
「うっ……そんなの……」
ディジーお姉様が簡単に屈するとは思えない。長女だからってこともあるけれど、私はともかく人間の男に服従するなんて、屈辱が過ぎて耐えられないと思う。
だけど、リジーお姉様は――。
「いや……。でも、ほしい……かも」
「だめよリジー。しっかりして……」
想像以上に旦那様の毒が効いている。たった一度でお姉様たちをここまで乱してしまうのだから。
私の中で、さらに悪い気持ちが芽生える。
「お姉様方、服従すれば毎日のように最高の快感が得られますよ♡ さあ、私といっしょに旦那様に堕ちてしまいませんか?」
ふたりにマゾヒストの性癖はない。淫魔では私くらい。だけど、性質が全くないとは言えない。気持ちよさを覚えてしまえば話は別になる。
「何考えてるのよ……」
「ディジーお姉様、言葉の通りですよ?」
「毎日……? どう……しよう」
「リジーお姉様、悪い話じゃないでしょ?」
儚い抵抗でしかない。極上の快楽を前に、淫魔のプライドなんて風前の灯。
これまでは淫魔が完全に掌握してきた悦楽の世界。どんな快感でも私たちの認識の範疇だった。旦那様の毒はその臨界点を悠々と超えて、あっさり私たちを非支配へ陥れた。
「想像してみて。唾液や汗だけでそんなになってるのに、私たちに旦那様をどうにかできる? それに旦那様を失ったらどうなるか……私たちはどうすべきだと思う?」
ふたりとも何も言わない。
私たち淫魔は気持ちいいことにとても正直。でも、快楽の非支配に慣れていない。ううん、慣れていないんじゃなくて、今まではその必要さえなかっただけ。
「旦那様は……エルヴェ様は特別。私たちの世界を変えてしまう存在なの。ううん、もう変わってしまってる。……そうでしょ?」
「なに……言って……」
「ディジーお姉様、私は旦那様を選んだの。狂ってるって言いたければ好きなだけ言って」
ひたすら穏やかな声で伝える。ディジーお姉様はおしりを上げる猫のポーズで私を見上げる。
「私はずっと心のどこかで不足を感じてた。私が中途半端なハーフだからだって思ってた。でも不足を感じてるのはみんないっしょ」
リジーお姉様もおしりを上げている。襲い続ける快感に抵抗しているつもりなんだろうけど、顔は涙でぐしゃぐしゃになってる。
「ラズ、それ以上……言わないで」
「リジーお姉様もそう思うでしょ? だって、本気の絶頂を体験できたサキュバスって聞いたことある? 今それを体験してるお姉様たちなら分かるでしょ?」
私の言葉は甘く危険な誘惑に聞こえているはず。それがかえって淫魔の心をくすぐることを私は知っててやっている。
「屈しない……わよ」
「強情ね、ディジーお姉様。ただときめく方へ身を委ねればいいでしょ? そうしたら、毎日すっごく満たされるよ♡」
もう一押し。ふたりとも限界はとっくに越えている。ここで私は旦那様に羽根を渡した。
「旦那様、私のお姉様方にどうか言葉責めをお与えいただけますか?」
瞬間、ふたりは目を見開いた。絶望と歓喜が同時に押し寄せて、期待を膨らまさずにはいられないはず。
「ねえラズ、そうすればこのふたりは急に僕を襲うことはなくなるかな?」
「奴隷として忠誠を誓わせれば、旦那様のご命令は絶対になります」
「そうか。じゃあ……」
羽根を手に、まずはリジーお姉様に近づく。ふんわりと微笑みかけられ、抵抗の色が消えていく。旦那様はお姉様の腰をぽんぽんと叩いた。
「ひゃん……あうう、気持ちいいよぉ♡」
「あれっ、リジーさん。抵抗しないのですか?」
リジーお姉様の体はもう虜になっている。旦那様は分かっている。ディジーお姉様を後にしたのは、恥辱に溺れさせるため。それを感覚的に捉えている。
旦那様は隠さなくなった。言葉選びにも天性のサディスト気質が垣間見える。横で聞いているだけなのに、私まで興奮を覚える。
「リジーさん、僕の奴隷になりませんか? 僕の言うことを聞いてもらえれば、たくさん可愛がってあげますから」
何て甘い響き。リジーお姉様は素直に肯いた。思わず私もいっしょに肯きそうになる。旦那様が頭を撫でると、お姉様は甘えた猫のように旦那様の手にすりすりした。
「良い子だね、よしよし」
「はうん♡」
そして旦那様の目はディジーお姉様へ。
「ディジーさんも奴隷になってくれたら、こんな風に甘えていいんですよ。どうですか?」




