溺れさせて♡
気がつくと、紅茶を口に運ぶ旦那様の姿があった。目線の先、テーブルの上には純白のポット。カップは花柄のアンティーク。
「あ、起きたの?」
「旦那様、私……」
いつの間にか眠っちゃってた。旦那様がかけてくれたのかな、布団に包まれて体はぽかぽか。辺りを見回すと、お母様の姿はなかった。
「もう少し休んでいたら? 疲れたんじゃない?」
その言葉を聞いて、眠りに落ちる直前までのことが鮮明に頭に浮かび上がってきた。
旦那様に触れてほしいところ、撫でてほしい部分、指で触れられたいいろんな場所。自分の手指で、旦那様にこんな風にされたいって想像しながら気持ちよくしていった。声を殺したり、唸ったり、嬌声をいっぱい上げたりして。
そんな私の姿をじっと見つめていた――旦那様のあの眼。
それだけじゃなかった。解放された旦那様の野性、浴びせられた言葉のひとつひとつが私とお母様を確実に狂わせていった。体に一切触れることなく、私たちを快楽の沼へと誘って、溺れさせた。
『よく見せてごらん。ほら、もっと』
『それでおしまい? 違うよね。さあ、続けて』
投げかける言葉には優しさが滲む。旦那様は他人を本気で罵ることができない人。ましてやその相手が女性ならなおさら。それでも精一杯私たちを辱めようと言葉責めを続けた。
優しさと怖さの落差が、心までも性感帯に変えてしまう。旦那様は生まれながらのサディスト、そうお母様は言った。他人を無用に傷つける粗雑なサディストとは違う、悦楽の深淵へと沈み込ませる狡猾な真性サディスト。言葉を選んで、言葉と視線だけで、私を何度も追い込んだ。
お母様が明らかに興奮していた。お父様相手なら分かるけど、そんなこと一度だってなかったはず。狩りの時だっていつも余裕があった。なんなら毎回物足りなさそうにしていた。
ふたりいっぺんに責められている最中、お母様が漏らした言葉。
『責められるのって、悪くないわね♡ エル君が特別なのかもしれないけど……』
実力はサキュバスの最高峰とも言われるお母様。その性癖に開発の余地さえ生み出してしまう旦那様の資質。私はますます旦那様に溺れていくんだろうな。
――もっと溺れさせてほしいな。
「旦那様こそお疲れではないのですか?」
「僕は平気だよ。リリスさんが傷を治してくれてさ。でも、出血した分の血液までは再生できないから、しばらく安静にしていてくれって」
お母様は再生魔法が使える。傷くらいなら元の状態に戻すことはできるけど、失われてここには無い血液だけは旦那様の体の機能に頼るほかない。
骨まで損傷した私みたいな場合はメルドナの治癒魔法が最も有効。怪我した本人の自己回復機能を利用する魔法だから、自然なかたちで骨まできれいに修復できる。
――そうだ私、メルドナにまだ飛ぶのはだめって言われていたのに。
「そういえば、お母様はどちらに?」
「リリスさんなら、ラズが眠ったすぐ後にヴィンセントさんのところへ行くって出て行ったよ」
「そうですか……。あの、それから……例の小瓶は?」
「ああ……うん。ベッドの枕元に置いておいたよ」
恥ずかしそうに言う旦那様。言われる通りに枕元を見ると、中身が詰まった状態の小瓶が確かにありました。近づいて手に取ると、それだけで私の体はおかしな反応を始めて。
(そそられる匂い。まだ温かい……)
はあ、はあと息遣いが激しくなる。全身から汗が湧き出してくる。だめなのに、やめられない。馬鹿みたい私、小瓶に頬ずりなんかして。中身を取り出したい衝動にかられてる。
「ラズ? どうしたの?」
「な、なんでもありません旦那様」
危ないところだった。旦那様はいつご自分の体液を小瓶に詰めたのかな、寝ている私を眺めながら乱れ狂っていた私を思い出して採取されたのかな、なんてえっちなことばかり考え出していた。
「この小瓶は今から私が治療院へ届けます」
取り繕うために支度を始めようとする私。すると旦那様はすくっと立ち上がり、私の元へと歩いてきました。ベッドの上に乗り、そして私を後ろから抱きしめて。
そうだ、私まだ裸のままだ。旦那様は下着姿。吐息が耳をかすめて、体がぞくぞくと悦んで。
「届けるのは明日にしない? 僕まだ寝てないんだ。ラズ、いっしょにここで寝てくれる?」
旦那様の匂い、声、体温。私は急に全身の力が抜けてしまった。
「やっぱりラズはお疲れの様子だね」
そう言うと、旦那様は私をお姫様抱っこしてくれて。でも、裸だから――。
「あの……恥ずかしいです」
「さっきまであんなにたくさん見せつけてたのに、今さら?」
旦那様に見られてる。きゅっと足を閉じたら、首を傾げて不思議そうに私の顔を覗き込んだりして。
私をベッドに優しく寝かせつけて、布団をかけてくださいます。すぐ隣に潜り込んで、私をそっと抱き寄せてくれて。
「ラズ、すごくいい匂いがするね。それに……すごくえっちな匂いもしてる」
「旦那さまの方こそ……」
私たちはぴったりと体をくっつけた。
そしてそのまま、深い眠りの世界へ――。




