だったら♡
「ふたりとも待って!」
瞬間、私の心に冷たい風が吹き抜けた。淋しい、ヤダって叫びたくなる。
こんなときお母様はどんな気持ちでいるんだろって顔を覗き込んでみたら、信じられない光景がそこにあった。
「ひどいわエル君、二度も拒否しなくたっていいじゃない! 今はラズちゃんもいっしょだっていうのに、それでも私を受け入れてくれないの?」
お母様――泣いている?
眉を寄せて、涙を溢れさせて、唇を少し噛んで。
「あ、あの、リリスさん……ごめんなさい。泣かせるつもりはなくて」
「その言い方は卑怯よ。私が何されても傷つかない強い女だとでも思ってるの? ちゃんと傷つくのよ、私だって。拒否されたら魅力のない女だって言われてるみたいで、自信なくしちゃうわよ!」
共鳴するように同じ言葉を心の中で唱えていた。お母様と言いたいことが完全に一致していた。
旦那様は私たちを拒否しているわけではないって頭では分かっているけれど、色仕掛けで落とせないという事実が淫魔の誇りを揺るがしていることも確かで――。
「本当にごめんなさい。ラズも、本当にごめん。何ていうか、僕が恥ずかし過ぎて合わせてあげられないっていうか、そんなこと本当にしちゃっていいのかって腰が引けてしまって。うまく言えないけど……」
「エル君、じゃあ聞くけど……昼間にラズちゃんとあれだけ過激なことができて、どうして今はダメなのよ!」
「あれは僕が恥ずかしいことをさせられるんじゃなくて、ラズがしてほしいっていうのを叶えてあげたくて。それで……」
「納得いかないわよ! だったらエル君は、私たちが気持ちよくなってるところを見てるだけでいいからってお願いしたら、ちゃんと叶えてくれるの?」
お母様、とんでもないことを提案してる。でも、私もそれくらいは受け入れてほしいって思ってる。
「見てるだけ、なら。それなら……」
「言ったわね。一秒でも目をそらしたら、承知しないわよ?」
「泣かせてしまって申し訳ないので、望まれるなら……しっかり見ます」
「何よそれ。同じ泣くでも、快感で泣いて悦んでるところを見るのは好きってこと?」
旦那様は頭をぽりぽり掻いて、何かを誤魔化しているみたい。でもそれを見てお母様はにやりと笑って旦那様に迫った。
「私、分かっちゃった。エル君ってさ、根っからのご主人様気質なのよ」
「え? 何ですかそれ……」
「生まれながらのサディスト体質、サド侯爵ってことよ!」
私ははっとした。お母様の言うことがすっと心に入って来た。私も心のどこかでそう思ってた。
「だからラズちゃんとは相性が抜群なのよ。だってウチの子は真性のマゾヒストだもの」
「ちょっと、何てこと言ってるのお母様! 私を変態みたいに言わないでよ!」
「あ~ら、ラズちゃん。マゾじゃないって本気で否定できるの?」
「私はそんなんじゃない!」
「嘘おっしゃい。手枷をかけられて辱しめられて、びしょびしょになってたのは誰? あの様子だとそのうち縛られたいって言い出すんじゃない?」
「なっ……そんなこと……」
「あら、図星かしら?」
「ち……ちがうもん」
お母様ったら憎たらしいくらいの不適な笑みで顔を覗き込んでくる。気付いてるんだ、私がいけない妄想ばかりしてる子だって――。
「ふ~ん。まあいいわ。とにかくラズちゃんは、エル君にこんなことされたら狂っちゃうってことを妄想しながらするのよ♡」
「……うん」
やだって言えない。恥ずかしくてどうしようもないのに。見透かされてるのは釈然としないけど、すごく興奮しちゃうシチュエーション。お母様の目も艶かしく光ってる。
「人間の男って、実の母と娘が同時に乱れるところを見たいって思ってるものなんでしょう? しっかり脳裏に焼きつけてね♡」
「旦那様、どうかごゆっくりご覧くださいませ♡」
ついさっきまで私はマゾじゃないって否定してたのに、もう心は乗ってしまっている。
ほんのわずかだけど、旦那様から獣のような息遣いを感じた。その目に見つめられるだけで、私の体はびくんと反応を始めてる。
旦那様の視線が私のご馳走なの――。
「さあラズちゃん、全部を見てもらいましょう♡」
お母様から号令がかかる。ベッドに乗り、旦那様のすぐ後ろに座った。
「旦那様、こっちを向いてください♡」
私の声に振り向いてはくれたけど、俯いてる。旦那様、どうして見てくれないのかな。さっきはしっかり見てくれたのに。
何かが邪魔をして、心の檻に本心が囚われてしまっているみたい。羞恥心、倫理観、嫌われる恐怖――。旦那様は私とよく似ている。
「お願いです、怖がらないで下さい。どうか正直になって下さい。私たちがどうされたら乱れ狂うのか、想像してください。そして旦那様は本当はどうしたいのか、思い描いてください」
旦那様はついに顔を上げた。ギラギラと光る野獣の眼がそこにあった。体が急激に熱くなる。感度が上がる。それが感覚的に分かる。お母様も驚いた表情で旦那様を見てる。
私たちはその後、何度もその目に――――。




