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ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

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4/25

正体

 頭目は高らかに笑った。獣人が僕の髪を掴み、引きずりまわす。


「死なない程度に痛めつけろ!」


 大男の号令が聞こえる。同時に、僕の体に何発もの拳が撃ち込まれた。どんどん視界がぼやけてくる。


「やめて、お願いやめて! 私は何でもしますから。だから彼を助けて!」


 女の子がそんなこと言っちゃだめだ。相手は外道なんだ。君がどんな目に遭うか――僕はきっと耐えられない。

 

「生意気な口をききおって。おまえ、ついさっきまで小僧と求め合っていたな。情でもわいたというのか?」

「それは……」

「ふん。小僧の分まで貴族様に可愛がってもらえ。その方がもっと気持ち良い思いができるぞ」


 それ以上ラズを侮辱するな。蔑まれるべきはおまえ達の方だ。


 言ってやりたいけれど、声が出せない。まともに息を吸うこともできず、僕は殴られ続けた。


「もうやめて……」

「おまえ達が悪いんだぞ? 大人しくしていれば良いものを」


 頭目は吐き捨てるようにそう言うと、僕に歩み寄り、父の形見の剣を奪い取った。


「これは迷惑料としてもらっておく」

「かえ……せ。それは……」

「おい小僧、よく聞け。弱者は強者に奪われる運命なんだ。金も体も、その命もな」


(くそ! せめて彼女だけでも……)


 僕の顔を踏みつけ、すぐさま魔法を発動させた。体の自由が効かなくなる。ふらふらと、操り人形のように歩かされた。


「ラズ……逃げろ。俺のことは……放って……」


 逃げても無駄かもしれない。こんな深い森の中では、僕の他に救いの手はないかもしれない。


 と、思っていたのだが――――。


「いいえ。逃げたりしませんよ?」


 ――突然、ラズの口調が変わった。声色が少し大人びて感じる。堂々とした態度に思える。


 木々が輪唱するようにざわざわと揺れ動く。湖面は激しく波打ち、一気に霧が立ち込めた。


「何だ? 何事だ?」


 狼狽うろたえる男たち。次の瞬間、霧が吸い取られるようにラズの体を包んでいった。


 そして――。


「おまえ、何者だ!?」


 視界が戻ったとき、そこには雰囲気のまるで違う彼女が立っていた。頭には雌牛のようなツノが二本、お尻には黒く長い尻尾がある。


 顔にはほんのり化粧が施され、華やかなドレスを身に纏っていた。そのすべてが黒と紫を貴重としていた。


「貴様、まさか……」


 頭目が顔をしかめる。もう一方の魔族も険しい表情をしている。


「ずっと気がつかないなんて、本当にお馬鹿さんですね。みなさん、とっくに私の術中ですよ?」


 強い色気を漂わせる、艶かしい声だった。聞いているだけで心が蕩けてしまうほどに。


 口元には吸血鬼を思わせる二本の牙が見えた。それほど鋭さはなく大きさも小ぶりなせいか、怖さを感じない。むしろ可愛らしく思える。よく見ると耳も尖っていない。それも理由かもしれない。


 ラズは両手を広げると同時に、翼を羽ばたかせて見せた。


 ――何が起こっているんだ?


 舌を出し、人差し指と中指を交互に絡ませている。とろけるような目で、唾液を口紅のように唇に塗っている。


 その仕草に、僕は釘付けになっていた。僕だけではない。その場の全員が魅了されていた。


「さあ、いっしょに素敵な夢を見ましょう。甘く、甘く、ぞくぞくするような……。私の体が欲しいんでしょう? 私をめちゃくちゃにしたいんでしょう?」


 一言一句が心に火をつける。快感が波のように体を伝っていく。一切触れられてもいないのに。


 僕は不覚にもラズとの悦楽を妄想してしまっている。だが、男達はさらに尋常でない反応を見せていた。


「ああ……たまらんっ」

「最高だ。おまえは最高の女だ……」


 焦点の合わない目。快感に溺れているような、そんな惚けた表情。


「ねえ、気持ちいい? 気持ちいいんでしょ? だってほら、私の中で果ててしまいたいって、今思っているじゃない」


 ――これは夢か? 夢なのか?


 ぼんやりとした意識の中、脳裏には裸で体を重ね合う僕とラズの姿が浮かんでいる。熱く唇を絡め合ったときより、もっとずっと淫らな快感が僕の心と体を支配している。


 ――夢だ。これは夢だ!


「いいよ、みんな。私にみんなのすべてをちょうだい♡ 我慢しなくていいの。ほら、ほら♡」


 ラズの淫靡な声がこだまする。耳を塞いでも聞こえてくる。脳が快楽に操られているみたいだ。


「ああ!」


 魔族も人間も等しく声を上げた。と同時に、それぞれの体から薄紅色に染まったもやのようなものが吹き出した。それはラズへと集まっていった。


「うふふ、みんな素敵♡ わあ、こんなにたくさん。ありがとう、いただきます♡」


 口を開け、靄を吸い込む。男たちが次々と倒れていく。魔族も例外ではない。地に伏せ、痙攣し、目を開けたまま絶命した。


(これは一体……)


 ラズは指先を一本ずつぺろぺろと舐めていく。丁寧に、愛おしそうに、手についた蜂蜜でも舐め取るかのように。


「まあまあ……かな」


 すべてをしゃぶり尽くすと、ラズは少し不満げに言った。そして僕へと視線を向ける。


「ねえ、旦那様……もっとほしいです」


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