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ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

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37/58

仲裁

 ラズは渦をさらに大きく成長させる。しかも、片手だけで。


「何なんだお前は!」


 イザベルが怒声とともに漆黒の渦を放とうとした、そのとき――。


「待たれよ!」


 上空から声が。すかさずラズとイザベルの間に降下した。目を凝らすと、立っていたのは尖った耳を持つ長身の男。彼もまた、バンパイアだった。


 その姿を確認するや、はっとしたようにふたりは攻撃を停止した。


「……貴様は」

「久しいなイザベル。元気そうで何よりだ」


 仲裁に入ったバンパイアは穏やか口調で声をかけた。緊張の糸が切れ、場が鎮まっていく。


「うそ…………。お父様?」

「うむ。久しぶりだな」


 口元を緩ませて答えた。男の僕でも聞き惚れてしまうほど、低音で心地のよい声だ。


 眉と目がつり上がっていても、口元はやんわりと落ち着いている。顔色もバンパイアにしては青みが少なく、色白だ。整った顔立ちに体つきから品の良さが漂っていた。


 この人がラズのお父さん――。


「してイザベル、いつまで裸を見せつけているつもりだ?」


 イザベルは彼を睨みつけ、ぴくりとも表情変えずに部下から服を受け取って身につけた。


「なぜ止めた、ヴィンセント」

「当たり前だろう。我が娘の危機とあらば、駆けつけるのは当然というものだ」


 ふんと鼻を鳴らすイザベル。襟を正して、面白くないとばかりに腰に手を当て踵を返す。


「この場は引くわ。でも次はないわよ。邪魔をする者は徹底的に排除しますからね」


 そう言い放つと、翼を広げてさっさと飛び去ってしまった。


 ラズのお父さんは――ヴィンセントと呼ばれたバンパイアは――イザベルを見送ると、ラズの元へと近づいて頭を撫でながら言った。


「ラズ、お前のバンパイア姿を見るのはいつぶりだ? また一段と美しくなったな」

「お父様……」


 気が抜けたのか、ラズはその場で崩れ落ちた。父親がしっかりと彼女を抱き上げる。


「ラズ、大丈夫? ラズ!」


 僕は思わず声を上げた。僕が引き起こした事態なのに、厚かましくも、そうすることしかできなかった。


「案ずるな少年。気絶しているだけだ」

「本当ですか? ……なら、良かったです。でも、僕のせいでこんな大怪我を……」

「気にすることはない。魔族の回復は早い」

「でも……」


 うつむく僕に、腕に抱かれて眠るラズの寝顔を見せて言った。


「少し笑っているように見えないか? いかにもやりきったという満足そうな寝顔だ」


 恐る恐る顔を上げる。言われると確かに、ラズの口角が緩んで見えた。けれど翼は今にも千切れそうで、足は刺し傷と裂傷でひどく痛々しかった。


(こんなぼろぼろになるまで、必死で僕を助けようとして……)


 涙が出てきた。眠っているラズに何と声をかけたらいいか分からなかった。そんな様子の僕に優しく言葉をかけてくれた。


「まあ、そう自分を責めるな。今回のことは魔族同士の小競り合いだ。君は利用されたに過ぎない。災難だったな」

「災難だなんて……。僕は彼女に守られてばかりで、本当に自分が情けないです」


 力なく項垂れたのと同時に、聞いたことのある声が空から降り注いだ。


「あなた! ふたりは無事?」


 リリスさんだった。1日のうちに2度も会うことになるとは思わなかった。


「ちょっと、怪我してるじゃない!」

「このくらいなら綺麗に治る。問題は人間の彼の方だな」

 

 傷口からの出血はほぼ止まっていたけれど、どう見てもラズの方が傷は深い。魔族と人間とでは傷の癒え方にかなりの差があるようだ。


「ところで、自己紹介がまだだったな。我が名はヴィンセント、ラズの父だ。君の名前は?」

「エルヴェといいます」

「ほう、品のある良い名だな。エルヴェ殿、急な話で申し訳ないが、傷の治療のために我々と一緒に魔界に来てもらえぬか?」


 言葉に詰まった。返答しづらい申し出だ。罠ではなさそうだけれど、話が唐突で判断に困る。


 そんなとき、リリスさんが――。


「あなたエルヴェっていうのね。可愛い名前じゃない♡ エル君って呼んでもいいかしら?」

「おいリリス、まだ名前聞いてなかったのか?」

「あら、悪い? だってぇ、昼間はふたりがお楽しみ中だったから~」

「何だと? お楽しみって……何をだ」

「もちろんエッチなことよ~♡」


 とんでもないことを暴露してしまっている。実の父親の耳には決して入れてはいけない類いの情報では――。僕の血の気が引いていく。


「エルヴェ殿!」

「はい!」

「魔界でじっくり聞かせてくれまいか?」


 低く凄む声に険しい表情。断れない流れになった。リリスさんはその後ろでウインクしながら舌をペロッと出して「ごめんね」のポーズ。僕の勘だけれど、多分わざとだ。

 

「エル君。ラズちゃんの治療は多少厄介だし、君の傷を治すにも私じゃ応急処置が限界なの。向こうには腕のいい術師もいるから、ね♡」


 話しながら、魔力で僕の開いた傷口をぴたりと閉じていった。


「分かりました。お世話になります」


 流れのままに受け入れてしまったが、これが思わぬ過酷な日々の始まりになるとは、このとき僕は予想もしていなかった。


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