↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/58

助けなきゃ

 禍々しい魔力振、数は3体。ここから近い。


 表の通りからじゃない、裏手からだ。はっきり感じる敵意。それに、考えていたよりも強い力を持った魔族だ。飛び回っているのか、動きも速い。


 迂闊《うかつ》だった。昼間に感じ取っていた魔力振、あれは意図的に力を抑えていたんだ。そんな器用なことができるのは、かなり強力な魔力の持ち主くらいだから。


「行かな……いと……」


 旦那様が危ない。狙いは私――そう考えていたのに、この部屋に近づいて来る様子がない。旦那様を人質に取るつもりなんだ。私は敏感になった体を起こし、服を着る。何度も襲ってくる眩暈《めまい》に悶絶しながら。


 一歩が重い。気持ち良すぎて意識が飛びそうになる。部屋を出て廊下側の窓から飛べば人目につかない。体が感じたことのないような高熱を内側から発している。何とか窓を開け、翼を広げて飛び出した。


「ひあっ……くう……」


 翼が風を捉えるだけで力が抜けそうになる。うまく飛べない。汗が止まらない。


 3つの魔力振が一点に集まった。立ち並ぶ建物の裏手に広がる農地、その先に見える小高い丘。


 誘っている――。


 これは罠。そうと分かっていても行くしかない。向こうも私の動きに気づいている。しかも感じる魔力振から、二体はともかく残り一体が問題。実力が読み切れない。


 でもなぜか、私は負けない自信に溢れていた。毒が回っている状態だけど、驚くほど強大な魔力が自分の中に宿っているのを感じていたから。


 農地を抜けると血の匂いがした。知っている匂い――嘘だ、まさか。


 刹那、迫る挟撃。どちらも空中から。体を回転させて正面からの一撃、二撃を躱す。ほぼ同時に襲う背後の爪撃――速い。


「死ね!」

「きゃっ!」


 翼を裂かれ、血が爆ぜる。大丈夫、かすり傷。痛みはほぼない。毒の効果かもしれないけど。構わず丘の斜面を飛ぶ。


「待て小娘!」

「八つ裂きにしてやる!」


 漆黒の翼に長い爪、バンパイアだ。毒の抜け切らない今の私じゃ振り切れない。でも丘の頂上はすぐ目の前。不規則に飛んで攻撃の手を逃れる。


 視界が開けた。見えたのは――。


 規則的に並べられた墓石、その中央にふたつの影。ひとつはもう一体のバンパイア。闇より深い黒の長髪、鮮血のように赤い瞳。女のバンパイアだった。


 もうひとつは――。


「旦那様!」


 服が裂かれ、血が滲んでいる。女バンパイアが左手で旦那様の髪を乱暴に引き上げた。


「遅かったじゃない、淫魔」

「旦那様を離して!」


 今出せるありったけの速度で一直線に飛ぶ。そのまま女バンパイアの首を目掛けて爪を振り下ろした。けど――。


「甘いわよ」

「ぐあっ」


 腕を払われ、お腹に拳が食い込んだ。即座に胸ぐらを掴まれて、地面へと叩きつけられる。


 なんて速さ、なんて重い拳撃。それを右腕一本でやってのけた。この人――強い。


 本調子でも勝てるか分からない。圧倒的な速度と攻撃力。何より、不気味なほど余裕の表情で私を見下ろしている。


「あらあら、そんなものかしら? ちゃんと本気で来てちょうだい。殺しがいがないじゃない」


 追ってきた二体の男バンパイアが背後に降り立つ。強い殺意を向けてきている。けれど攻撃してくる気配はない。逃げ場を塞いでるんだ。


「それなら人質なんて取らずに、直接私にかかってくればいいじゃない。旦那様は関係ない」

「さっきから何なの、その旦那様って。淫魔のくせに人間と夫婦ごっこでもしているの? 嫌ねえ、これだから下品な一族は」


 この話し方、雰囲気。かなり身分の高いバンパイアかもしれない。


「私はどう罵られても構わない。でも、尊き存在でいらっしゃる旦那様を、その汚らわしい手で触れるどころか、傷つけるなんて絶対許せない」


 女バンパイアが体をぴくりとさせる。そして鋭い目付きで私を睨んだ。


「今何て言ったの? 私が汚らわしい、と?」

「ええそうよ。聞こえなかったの?」


 瞬間、殺意で目の赤が淀んだ。とてつもない威圧感。私の体はぶるぶると震え出していた。


「何よ、大層な口を叩くわりに、あなた怯えているじゃない。でもね、容赦しないわよ。失礼な小娘に相応しい惨めな死に様を与えてあげるわ」

「死ぬべきはあなたの方よ。旦那様の素晴らしさが分からない人に生きている価値なんてない」

「言うわね。私好きよ、あなたみたいな愚かな子。スケベなことしか取り柄のない淫魔が、どうやって私に勝とうっていうの?」


 認めたくない。実力に差があるのは嫌でも理解できる。隠すことなく放出して見せる魔力の大きさに、私は絶望しそうになる。


「私は旦那様を守ると約束しました。たとえこの身がどれほど壊されようと、必ずあなたを殺します」


 強がりなのは分かってる。それでも、わずかな可能性に賭けたい。だけど――。


 そんな私の心を挫く言葉を、女バンパイアは告げてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。