来訪者
その後に続くラズの言葉に、僕は不覚にも安堵してしまった。
「旦那様の野性的なところが見られて、すっごく興奮しちゃいました♡」
「え?」
彼女はふんわりと微笑んだ。僕も自然と微笑み返していた。そうしたら、腕を拘束された状態の彼女を直視できなくなっていた。
「キャー♡」
突然歓声を上げ、無邪気にぴょんぴょん跳ねている。見た目は幼い少女のラズ。誕生日に欲しいものをもらったときみたいな喜び方だ。
胸もゆさゆさと揺れて――。
「ラ、ラズ……とりあえず服着て!」
きょとんとして首を傾げてみせる。どの仕草も僕の心を掴んで離さない。まだ見ていたい気はしたけれど、僕は急いで洞穴へ服を取りに行った。
彼女を真昼のステージに立たせたまま。
無機質な高山になんて誰も来ない、誰にも見つからない――そう慢心してしまっていた。完全に油断していた。
「こんなところで何やってるの?」
ラズの声じゃない。色気を強く漂わせる大人の女性の声だった。洞穴の暗さに目が慣れてしまって、どんな姿か確認できない。その何者かに向けてラズが言った。
「どうしてここにいるの?」
「あら、久しぶりに会いにきたっていうのに第一声がそれ? ママ悲しいわ」
(ママ……? ということはもしかして、淫魔四女帝のリリス様ご本人ってこと?)
「いいから答えて!」
「えっとねぇ~、ラズちゃんがどれだけエッチな娘になっているかなって気になっちゃって」
「何よそれ。私はお姉様たちとは違うの。過激なことなんて簡単にはできないの!」
「あら、その格好で良く言うわよね」
ようやく目が慣れてきた。視線の先には顔を真っ赤にするラズがいた。彼女の服を抱えて戻ると、リリスさんは上空からちらりと僕を見た。翼を悠然と羽ばたかせて。
「あら、可愛い男の子を連れてるわね。初めまして。私はラズちゃんの母、リリスです。ひょっとしてあなた、ラズちゃんのプレイメイト?」
「お母様、変なこと言わないで! この方は……」
「ん? この方は?」
ラズはすぐに「私の旦那様です」と返すと思っていた。だけど、もじもじと恥ずかしそうにするばかりで、なかなか口を開こうとしない。
そこで質問が僕に飛んできた。
「ねえ、君。あなたはウチの子とどういうご関係? 見たところ、ただならぬ関係に見えるけれど」
「そ……それは、えっと…………。旅の友です」
嘘は言っていないけれど、当然納得されることもなく――。
「なあにそれ。旅の友って、女の子を脱がせて拘束して野外露出プレイを楽しむ仲のことを言うのかしら?」
「これは……その…………」
僕がいい淀んでいると、ラズが食いかかるように主張した。
「旅しているうちに仲良くなって自然と求め合うことだってあるでしょ? 魅力的な人と出会ったら私だってしたくなることくらいあるの!」
墓穴を掘っているとしか思えないけれど、本人の表情は真剣そのものだった。
「それにしては過激すぎよね。でもまあ、奥手のラズちゃんにしては頑張ってて、素敵よ♡」
「からかわないで! 私は真剣なの!」
むきになって言い返したところまでは良かったけれど――。とんでもないことを口にしたと気づいたみたいで、ラズは僕らに背を向けた。
「あらあら♡ ……安心して。私はふたりを邪魔するつもりで来たわけじゃないから」
「あの、じゃあ、どのようなご用件ですか?」
僕が聞くと、優雅に翼を広げ、長い尻尾をくるんと腰に巻き付けて目の前へ降りてきた。それまでのおどけたような雰囲気からは一転、真剣な眼差しを僕に向けてくる。
「……とても重要な用件よ」
声にも緊張感が漂っている。ラズもただ事ではないと、僕らの方へ向き直った。僕は急いで手枷を外し、服を手渡した。
ラズは服を身に付けながら言った。
「重要って……。私が家を出てからの90年間、何も言って来なかったじゃない」
「それだけ大事な話なのよ。しかも、あなたたちふたりに関係することだから」
そう言って僕とラズをぐいと抱き寄せ、静かに、噛み締めるような口調で言った。
「いい? よ~く聞いてね。ラズちゃんにとって彼はね…………」
一度、もったいぶる。重い空気がのしかかって来るように感じた。そして続く言葉に、僕らは言葉を失った――。




