支配欲〈side/エルヴェ〉
僕は大胆になっていた。自分でも信じられないくらいに――。
どうしてこんな破廉恥なこと、冷静にできてしまうのだろう。ラズが喜ぶことをしてあげたいから――そんなの言い訳だ。あまりに過激すぎて思考が追いつかない。それも言い訳だ。
僕は冷静にラズを辱めている。恥ずかしがる彼女を見て、激しく高揚している。強烈な興奮が僕を襲う。こんな可憐な子にひどいことをしておいて、僕は喜んでしまっている。
認めたくない。でも僕は――。
「ここで……広げるんですか?」
「……うん。ほら、早く」
彼女は目を伏せ、顔を横に向ける。髪で顔を隠そうとする。僕の中の野獣がそれを許すなと騒ぎたてる。右手で鎖をしっかりと握り、左手で彼女の髪をかき上げて耳にかける。羞恥に苛まれるその顔を覗き込む。
「あっ……だめ……」
僕は「だめ」って言わせたいのだと気付いた。「だめ」って言ってほしんだ。
それに、恥ずかしがっているときのラズは、その言葉を口にすることで興奮することにも気づいてしまった。
――『だめ』は『もっとして』の代わりなんだ。
「もっとだよラズ、もっと」
「ああっ……恥ずかしいです、旦那様!」
開かれ、内腿が露わになっていく。腰の幅より大きく開かせ、僕は膝をついて彼女を見上げた。華奢な体に見事なふくらみが見える。昨日の夜より少し大きくなっている気がする。
顔を赤くして彼女は目を開き、僕を見下ろした。
「うう…………だめ、だめえ♡」
憂いを含む眉。けれど眉間は開いている。潤んだ瞳は悦びの色に輝いて見えた。言葉とは裏腹に――。
乾いた風に、未知の匂いが混じっている。
「旦那様の……えっち♡」
手枷はかけられていても足は自由に動かせる。抵抗しようと思えばいつでもできる。決して難しくない。でもラズはそうしない。
高揚、平静、興奮――支配。
僕はまた立ち上がる。ラズは、はらりと涙を流す。微笑みながら。たまらず鎖を引き寄せて、指で涙を拭う。
惚けた目が僕を誘っている。これより先を切望しているのが伝わってくる。
でも、それはまだ――僕にはできない。
「どうしたのですか旦那様、やめないで! もっとしてください♡」
「今は……ここまでにしよう」
「どうして?」
ラズは本気で僕との関係を進展させたいと願ってくれている。出会った時からずっとそうだ。僕はそれを断り続けている。淫魔とか吸血鬼とか、種族の違いが問題なんじゃない。
「……僕が意気地なしなだけなんだ」
そう言って僕は力なく地を見つめた。ラズの呼吸が鎮まっていった。幻滅されても仕方ない。僕が弱いのは身体能力だけじゃない。それなのに、僕は生意気にも彼女を守りたいだなんて本気で思っている。
結局僕は口先ばかりの人間なんだ。でもそんな僕に、ラズは――。
「それは違います! 旦那様は意気地なしなんかじゃありません!」
叫ぶような必死の声。驚いて顔を上げると、そこには涙があった。
「ラズ……」
「そんなこと言わないで下さい……。旦那様は優し過ぎます。私のこと、いっぱい考えてくれて……私をこんなに大事に扱って下さっています。私のわがままなのに、真剣にお相手して下さって……」
「違うよ、わがままなのは僕の方だよ。本当はラズのこと……心の底から抱きたいって思ってる。……でも怖いんだ。このまま関係を進めてしまったら、すぐにお別れがきてしまう気がして」
「私は旦那様から離れて行ったりしません! だって……」
はっとしてラズは言葉を飲んだ。その先の言葉が何なのか、僕の心は淡い期待とわずかな不安で騒めき始めた。
野の花ひとつ見当たらない荒涼とした岩山で、彼女の体はひときわ輝いていた。
「僕は欲望に任せて、思うままにしたいって考えてしまった。結局、体目当ての連中と変わらないんだ。強欲で、卑しくて、支配欲に目がくらんだ野獣なんだよ」
「そんなことありません。旦那様は他の誰とも違います。旦那様は私を想いながらほしい刺激を下さいます。私の気持ちを考えて下さっています。野獣なんかじゃありません! でも……」
「でも……?」




