この感じ♡
岩山に降り立って、洞穴の前へ。
どうやら魔獣とかの巣ではなさそう。周りに何かいるような気配もない。見晴らしはとっても良くて、休憩するには最高の場所。景色を楽しむにも、遮るものが何もないから言うことなし。
旦那様は着くなり大興奮。
「うわあ、すごい! 海も山も良く見えるね。霞んではいるけど、大陸の北端も見えてるんじゃないかな?」
「ラズには見えますよ。ほら、あそこです。海岸線が見えてます」
「えっ、どこどこ?」
旦那様の顔がすぐ近くに。私は指でその場所を示しながら、ちゃっかり体をくっつける。いい雰囲気。景色に夢中の旦那様と自然とイチャイチャできちゃってる。
「霞の濃いところの下あたりに」
「う~ん。あっ、あそこかな? 茶色に見えてるのは山かな、そのすぐ左斜め上の辺り!」
「そうです、そうです!」
旦那様ったら子供みたい。すごく可愛い。目をキラキラさせて、声まで上ずってて。今すぐ抱きしめたくなっちゃう。
「大陸がこんなに小さく見えるなんて。海だってこれほど青いとは思わなかったよ!」
「うふふ♡ そうですね」
旦那様の腕にしがみついちゃう。胸をぎゅっと当てて意識させようとしたけど、景色に夢中過ぎて気付いてない。もっと押しつけて顔を寄せる。
市街地を指差しながら――
「あそこが今日の目的地です」
「あ……うん、そうなのか」
見た、私の胸の谷間を。意識してる。だって二度見してたの、見逃してませんからね。
景色を十分に楽しんで、洞穴の入り口に座ってひと休み。ひんやりしてて気持ちいい。誰にも邪魔される心配のない、ふたりきりの空間。大胆なことしたくなっちゃうな、ここで。
屋外なのに――。
「旦那様ぁ♡」
「わっ……ラズ?」
「ふたりっきりですね♡」
えいって旦那様の胸に飛んで行って、しっかり上目遣いで甘えちゃう。毎回毎回同じじゃ飽きられちゃう?
ううん、男の人は好きでしょ? 何回でもされたいことだって、お母様も言ってた。シャイな旦那様には、あざといくらいで丁度いいはず。
「ラズ……うれしいけどさ…………」
すぐ顔を赤くする。あ~、まんざらでもないんだ。ここでしちゃっていいの?
「うれしい……けど?」
「……ああ、もう!」
「きゃっ!」
旦那様ったらきつく抱きしめてきたりして。そうやって照れを隠すのが癖になってるの?
息が耳にかかってる。くすぐったくて変な声が出ちゃいそう。開いてた足を閉じたら、旦那様の膝の上に乗る感じになって。
腰を強く押しつける。私、興奮しちゃってる。
悪戯な気持ちが加速する。変なこと考え始めてる。翼をバサッと羽ばたかせ、いったん旦那様から離れる。そして――。
「旦那様、こんなのどうですか?」
「……これって」
魔法で首輪なんか出しちゃった。首輪に鎖をつけて旦那様に手渡す。リュケイオスの廃墟で出会ったとき、私はこんな格好をさせられてた。
興奮を煽る道具で男心に訴えかける。
「ご要望に何でもお応えします。どうぞこの鎖を引いて、ラズを好きなように扱ってください♡」
「あのさ……それじゃあのときの連中とやってることが変わらないよ……」
「違うんです。私ああいうシチュエーションに興奮しちゃう、ダメな子なんです」
両手をグーにして口元にあてておねだりしてみる。小悪魔みたいに。私、本物の魔族だけどね。
旦那様の呼吸が変わった――。
急に静かになる。肩で息をしてる。少しずつ、少しずつ、鎖を手繰り寄せ始めた。
私を見つめる。鎖がピンと張る。旦那様の喉が動いた。そして鎖をゆっくりと引き絞って――。
「ラズ…………おいで」
「……はい♡」
この感じ、すごくイイ。旦那様に必要とされてる。支配されちゃってる。
――私、喜んでる。
奴隷商人にばかりわざと捕まっていたのは、自分の性癖を満たすためでもある。でも、ずっと期待外れだった。みんな自分のことばっかりで。
――旦那様は違う。
私の心をくすぐるの。貴方のような人にこそ、私は支配されたいの。誰かの自由を奪おうなんて考えたりしない貴方だから。
ちりちりと鎖が鳴る。首輪に振動が伝わる。さらに鎖を引かれて、顎を持ち上げられて――。
「んん……」
唇を塞がれる。逃げられない。強く引かれる鎖と、動きを封じる首輪。柔らかな旦那様の感触。
両手で首輪ごと私の首を掴む。旦那様の目に野性の色を感じる。ほんのちょっと怖い、ぞくぞくされられる視線。
「……こういうのが好きなの?」
「はい……。軽蔑しましたか?」
「しないよ」
「でしたら……もっと過激なこと、お願いしてもよろしいですか?」




