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ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

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24/58

逃避行〈side/ラズ〉

「山沿いに森を低く飛べば、今日中に目的の町まで行けます」

「えっと、それって僕がまたラズに抱きついて飛んで行くってこと?」

「そうです♡」


 どこへ向かうにも毎回その方が早いし、ずっとくっついていられるし、名案だよね。考えるだけでドキドキしちゃう。


 でも何だかちょっと恥ずかしい。今までは全然平気だったのに。ううん、旦那様に出会ってから、少しずつ平気じゃなくなってるかも。


 旦那様と家を出る。束の間の隠れ家から――。


 変化の術で人間の女の子に。森を離れて集落の外れ、ボルガさんの元へ。


「おや、おふたりさん。昨晩はゆっくりと眠れましたかい?」

「おはようボルガ。おかげさまでね」

「ありがとうございます。よく眠れました」


 雰囲気で察したらしく、ボルガさんは寂しそうな表情で言いました。


「もうお出かけになるので?」

「うん。旅に出ようと思ってね」

「旅ですか……良いですな。ならば道中お気をつけて。またいつでもお立ち寄りくだされ」


 特に詮索はしてきません。対応はあっさりして見えますが、旦那様の気持ちを汲み取っているのが感じられます。


「世話になったね。今度来るときはぜひお礼をさせてよ」

「でしたら異国の酒が良いですな。なんでも大陸の北端には珍しい酒があると聞きます」


 ボルガさんは、「北に進む方が安全だ」と暗に言っているのだと思います。


「探しに行ってみるよ」

「お願いしますよ、ぼっちゃん」

「うん。……じゃあ、そろそろ行くね」

「いってらっしゃいませ」


 大事に思っているからこそ静かに見送ってくれる。ボルガさんは素敵な殿方です。


 それで私ったら、つい――。


「ボルガさん、ありがとう♡」


 ほっぺにキス。走り寄ってしちゃったから驚かれちゃった。でも、私は旦那様に良くしてくれる人が好き。旦那様のことが好きな人はみんな私の仲間だもん。


 走って旦那様の元へ戻る。表情がちょっと固い。もしかしてやきもち妬いてる?


 人目につかないように森へ入ってからサキュバスの姿に。旦那様にはお口にキス。そしたら表情がやわらいだ。やっぱり妬いてたのかな。だったらうれしいな。


「旦那様、来てください♡」


 腕を広げてお誘いする。頷いて、私を抱きしめる。私も抱きしめ返す。勢いよく翼を広げて、木々の間から空へ。低く、低く、森のすれすれを飛ぶ。


 胸の谷間から、照れくさそうにしてる旦那様の顔が見える。伝わってくる体温にほっとする。えっちな気分になりそうなのを我慢するのは大変だけど。


「疲れたら言ってください。休憩しながらでも時間にゆとりはあると思いますから」

「うん、ありがとう」


 始まった私たちの逃避行。もうこれって駆け落ちみたいなものじゃない? 楽しすぎてドキドキしちゃって、旦那様に心臓の音がバレちゃいそう。


 これだけくっついてるんだから、伝わっちゃってるよね? 顔が熱くなってきてる。体はとっくに熱くなってるけど。


 海風が気持ちいい。森の香りも心地いい。何より旦那様といっしょに眺める景色は最高。太陽の光に弱い体質じゃなくて良かったな。


「ラズは疲れない?」

「私は大丈夫です。空を飛ぶ方が楽ですし、よく眠れちゃいましたし」


 そうだった。昨日は寝落ちしちゃったんだった。旦那様とあんなにいい雰囲気になって、いろいろ期待してたのに――。私のバカ。


 でも、すごく幸せな時間だったな。


 向かう先に、岩の連山が見えてきた。海岸線を遮るように海まで延びている。トリノメーアの港町を離れ、内陸部へと森は続く。その森には小さな集落が点々と拓けている。


 トリノメーアの街は大きい。ローレル王国で最も広大な面積を持っているって聞いたことがある。山間部を抜けた先に立派な市街地があるらしいけど、たぶんまだ遠い。


 しばらく飛んでいると、ひときわ大きい岩山が行く手を阻むように立っていた。


「ねえラズ、あの大きな岩山のどこかでひと休みしない? 景色が良さそうだよ」

「そうですね。見晴らしの良いところを探してみますね」


 すごく高い岩山。誰にも見られずにイチャイチャできる場所があるかも。ゆっくり旋回していると、八合目辺りに良さそうな洞穴(ほらあな)を見つけた。


 昨日の続き、しちゃったり? な~んてね。


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