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ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

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21/22

ご褒美って

「何だい?」


 僕が聞くと、ラズは残りの紅茶を一気に飲み干し、僕に抱きついて来た。


「わっ! ちょっとラズ?」

「私、今日がんばりました。何かご褒美をいただきたいです」

「ご褒美? えっと……急に言われても……」


 躊躇っていると、ラズは顔を近づけて言う。


「お風呂に入りたいです」

「え、あっ、それならすぐに……」


 抱きついたまま、今度は耳元で――。


「旦那様といっしょに……です♡」


 とんでもなくいい匂いがした。髪はまだ乾ききっていないし、着替えたわけでもないのに。やっぱりフェロモンなんだろうか。


 サキュバスのときのラズは――特にうっとりした表情のときは――お花畑のど真ん中にいるような、とびきりいい匂いがする。


 僕はラズと混浴する場面を想像してしまった。悟られたらまずいと咄嗟に顔をそらしたけれど、全然間に合わなかった。


「ああ~旦那様、今えっちなこと考えましたね?」

「か、考えてないよ! ちょっとびっくりしただけだって」

「ええ~? ほんとですかぁ~?」


 ラズが顔を覗き込んでくる。完全にいたずらっ子の表情で。


「ラズわぁ、い~っぱい考えてますよ? うふふふふ♡」


 だめだ、さっそく理性が消し飛んでしまいそうだ。ただでさえ可愛い顔してるっていうのに、仕草もありえないほど可愛くて、甘い声まで出されてしまったら――もう逃れられない。


「旦那様、お風呂は魔法ですぐに準備できますから……服を脱いでください」

「え、ちょっと……」


 僕の服に手をかけるラズ。思わず振りほどいてしまった。するとラズは――。


「じゃ~あ~、ラズが先に脱ぎますね♡」


 僕の背後にまわった。そして少し離れた場所から何かが擦れる音がした。息がつまってうまく呼吸できない。パサッという音の後に、コツ、コツと靴で交互に床を叩く音が。鼓動が早すぎて心臓が破裂しそうだ。


 足音が近づいて来る。すぐ後ろで止まる。ラズの指が背中に触れた。


「私だけじゃ、恥ずかしいです……」


 上着を脱ごうとする。うまくいかない。汗ばむ体は正直だ。いくら本心を隠そうとしても、ラズには誤魔化しなんて通用しなそうだ。


「お手伝い致しますね」


 ラズが僕の上着に手をかける。服はするりと脱げていく。上半身が露になる。ラズの指がゆっくりと僕の背中をなぞる。そのまま下着に辿り着く。


「それは……自分で脱ぐよ。後ろを向いていてくれない?」

「はい……」


 ふわりと舞ったラズの髪が、僕の背中を撫でていった。僕の中で何かが弾けた。裸になり、浴室へと向かう。後ろをついて来る足音。靴はまだ脱いでいないようだった。どんな姿でそこにいるのか、僕は頭の中で像を作り始めた。


 浴室の前で立ち止まる。靴を脱ぎ、体をかがめて揃えているラズの姿が横目に入った。その肌色に、ますます呼吸が乱れる。扉を開け、浴室へ入る。ラズもついて来る。


「お湯を張りますね」

「うん……頼むよ」


 背後にラズが手を翳している気配を感じた。浴槽に水が現れ、徐々に湯気が立ち登る。待っている間、少しも寒さを感じなかった。


「準備ができました。そこの椅子に座ってください。お背中をお流しいたしますね」


 ドキッとした。おしとやかな、大人びた声で言われたから――そのせいもあるけれど、女性に体を洗ってもらうなんて経験がないから。


 でも、「自分でやるよ」という言葉を、僕はなぜか飲み込んでしまった。本音が言えない代わりに黙ってしまうなんて、自分の情けなさが嫌になる。


 ラズが風呂桶で浴槽のお湯を(すく)う。檜の匂いがふんわりと香る。同時にラズから漂う華やかな香り――。


 夢の中にいるような感覚がして、もしかして魅了(チャーム)の術を使っているのかも、と思った。けれど、僕とふたりだけの空間でラズはそんなことするだろうか。


「失礼いたします」


 肩から滑り落ちていくお湯をラズの手のひらが追いかけていく。お湯の流れに沿って背中をやさしく撫でていく。僕のすぐそばに備え付けたあった石鹸へ、ラズはゆっくり手を伸ばしてきた。


 そのすぐ後、手でこすって泡立てているのが分かった。肌理(きめ)の細かくなった泡が、ほわっという音を響かせていた。


 ふんわりと綿毛のようになった石鹸の泡が、首筋から肩へ、背中をなぞって腰や脇腹へとのせられていく。


「ラズの方が疲れているのに、こんなことまでしてもらって……」

「いいんです。だって、これがしたかったんですから」


 ゆったりした手つきで、ラズは僕の体を洗い上げていった。そして――。


「前の方も……お流しいたしますね」

「え?」


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