表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活  作者: 有の よいち
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/22

救出

 男達が一斉に襲いかかった。その目は獣欲に満ちている。


 もう見過ごせない――!


「待て! その子に手を出すな!!」


 剣を抜き、僕は叫んだ。


 単身、悪党に立ち向かう。実戦の経験などありはしない。おまけに剣術も人並み以下だ。完全に捨て身だった。


「誰だ貴様は!」


 大男が唸るように言う。


「名乗るほどの者ではない」


 流浪の身となった元貴族の僕に、名など無いに等しい。どうなってもいいんだ。


「俺たちの邪魔をする気か?」

「だったらどうする?」


 大男の問いに毅然と答える。失うものなんてもう、何もない――。


騎士(ナイト)様気取りか? 命知らずな奴め」


 せめてこの少女だけでも守れたら――。


 特に何を成すでもなく、何の取り柄もない、こんな僕だけれど。


 男達がゆっくり剣を抜いた。すでに僕は囲まれている。少女は獣人に捕らわれている。このままでは救うこともできず、犬死にだ。


 でもひとつだけ――策がないわけじゃない。


「すぐには殺すな」


 頭目らしき男が言うと、じりじりと間合いを詰めてきた。笑い声を漏らしながら、剣をおもちゃのようにちらつかせる。彼らは僕の非力さを見抜いていた。


 いや、見抜くというより、筋力もなければ背丈もない、僕が弱者であることはすでに承知のはずだ。当然魔力を持っていないことにも、連中はとっくに気付いているだろう。


 だからこそ、好機(チャンス)はある。


「存分にいたぶってやれ!」


 号令と共に襲いかかってくる男達。迫り、間合いに入り、武器を振りかざす。


 ――今だ!


「爆ぜよ、閃光烈波(ライトニング)!!」

「なにぃ!?」


 無数の光の矢が闇夜を裂く。一瞬で男達の視界を奪った。放たれた光に攻撃力はない。だが、目眩ましには十分だ。


「くそっ、魔石か!」


 魔族の男が毒づく。その通り、魔石の力だ。


 【雷光の剣】。失われた我がストラディバリ家の家宝にして父の形見。(ガード)に嵌め込まれた魔石には光属性の魔力が宿っている。


 使える魔法の数は手にした者の技量に左右されるが、たとえ魔力を持たなくとも念じさえすれば発動できる優れものだ。


「小娘を押さえつけろ!」


 白髪の男の声。獣人が呼応し、吠える。


 光の中、少女の元へ走る。いかに剛力の獣人が相手でも、怯んでいる今なら剣で腕を振り払える可能性くらいはある。一か八かだ。


 少女を抱き寄せ、剣を振り下ろす。


「ぎゃあああああ!」


 けたたましい獣人の悲鳴。その腕は――なんと切り落とせているじゃないか。信じられない。


 雷光の剣は魔力が無ければ切れ味は期待できない、そう聞いていた。僕に魔力なんてない。それなのに、重厚な獣人の腕をあっさり落とすことに成功した。


 光が収束していく。迷っている暇はない。


 即座に剣を納め、少女を背負う。そのまま森へと走った。男達の目が闇へ慣れる前に、できるだけ距離を稼がなければ。


 ふと気付く。


(この子の体、軽すぎないか?)


 興奮で血が沸き立っているせいなのか、体の奧から力が(みなぎ)っていた。ひょっとしてこれも雷光の剣に秘められた力なのか。


「待て小僧! ……畜生、よく見えねえ」


 傭兵の苛立ちが伝わってくる。まだ追って来る心配はない。とにかく走って、身を隠せる場所を探さなければ。


 森の奧へと突き進む。暗闇がどんどん深くなる。今夜が満月なのは幸いだった。おぼろげながらも足元は何とか見える。必死に走り続けた。


 息が上がる。足が鈍り始めた。見かねた少女が僕に言う。


「もう大丈夫です、下ろしてください。とても苦しそうです。お願いです、休んでください」


 耳をくすぐる清らかな声に、僕はたまらず足を緩めた。気が付いていなかった、肩で息をしていることに。


 ずいぶん奧まで来たようだ。目を凝らして辺りを見回すと、少し先に小さな湖が見えた。その畔には休むのにちょうどいい岩場もある。


「あの木陰へ行こう」

「はい」

 

 湖畔の大木の陰にある一枚岩へ、身を投げ出すように仰向けになった。息が苦しい。こんなに走ったのは生まれて初めてかもしれない。


「あの……大丈夫ですか?」


 幼さと色気が混じる魅惑的な声に、誘われるように視線を向けた。瞬間、また目が離せなくなった。


(この子、本当に人間か? あまりにも……)


 アメジストの瞳が僕の意識を吸い込む。そう錯覚させられる。目線を移しても、純白に輝く肌に心が捕らわれてしまう。


 これまで見知ったどの国の姫君でも、この子と並んでしまえば色を失いかねない。


「あんまり見ないで下さい……」

「あっ……ご、ごめん」


 しまった、彼女は下着姿だ。途端に頬が熱くなる。ごまかすように、僕は慌てて顔を反らした。


 湖畔に寄せて跳ねる波、湖面を撫でるほのかな風。火照った体に心地いい。


 そこに重なる彼女の声――。


「助けていただき、ありがとうございます」


 心が震える。体が騒ぐ。


「良かった、君が無事で。何とかうまくいったよ。あはは……しばらく動けそうにないや」


 心臓は高鳴ったままだ。頭もぼうっとしてくる。


 体が重い。もう動けそうにない。岩の上に横たわったまま、僕は彼女へと向き直って聞いた。

 

「あの……君の名前は? 僕はエルヴェ。エルヴェ=フォン=ストラディバリ」

「私はラズ」

「ラズ、か……。素敵な名前だね」

 

 今度は彼女が顔を反らす。


 その瞳が揺れているように感じた。やけに照れくさそうに見えたのは、僕の願望が見せた幻だろうか。


 ――いや、幻なんかじゃなかった。


 ――次の瞬間、世界が時を止めたんだ。


「あなたの方こそ素敵なお名前です、()()()


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ