残念でした♡
「男って、どうしてみんな同じ手に引っかかるのかなぁ~」
「ん? 何だと?」
眉を下げて、何が起こっているのか全然分からないって顔してる。立場が逆転している現実に思考が追いついてないみたい。
「残念でした♡」
私は男の背後から声をかける。すごく驚いてる。無理もないよね。私に勝てるって、自信満々な様子だったもん。
「どういうことだ?」
「あなたはずっと夢の中にいるんだよ? 気がつかなかった?」
「い……いつからだ?」
「崖の上で見かけたときからだよ♡」
そんな馬鹿なって言いたそうな顔。私は肩に手を置いて耳元でささやいてあげた。
「ねえ……自分の体、よぉく見て♡」
「なに? こ、これは…………まさか!」
「そっ、正解♡ あなたの魔法だよ」
自らの魔法で拘束され、薬液を注がれている。認識したと同時に男には激痛が走って――。
「ぎゃああああ! 助けてくれええええ!」
今さら遅いよ。さっきされたのと同じように、私は正面から男の様子をじっくりと見物する。
「うふふ♡ 痛い? 痛いでしょ。私の体を痛めつけて、自分ばっかり気持ち良くなって……。私ね、あなたじゃ全然物足りなかったな」
「ぜ、全部……夢……だったのか?」
「そうよ。言葉を荒げて抵抗されたり、苦しい顔で嫌がられたり、ああいうのが好きなのね。心の声、ずっと聞こえてたよ?」
顔がどんどん青くなってく。怖いよね、心まで覗かれて。でもね、もうすぐ終わるから。
「苦しい? すぐに楽にしてあげるね♡」
一気に絶望の表情になる。苦痛と恐怖が混じった、あなたに相応しい顔。
「やめろ……。殺さないで……くれ」
「だ~め♡ 旦那様を悪く言って、私のこと犯そうとしたんだもん、無理。いただきまぁす♡」
「待ってくれ……頼む。ああ……あ…………」
目の色が薄くなってく。体がだらんと地に崩れていく。急激に体温がなくなっていった。見開いた目を濡らしていたのは、激しい雷雨だった。
思った通りあんまり美味しい精気じゃなかったけど、宿ってる魔力はまずまずかな。
「あ~あ、びしょびしょだぁ。早く旦那様に温めてもらお♡ あっ、いっしょにお風呂とか……やだ私ったら、何考えてるの?」
妄想が膨らんじゃってうずうずしてる。急いで帰ろう、旦那様のもとへ。
打ち付け爆ぜる雨水に汚されない高さで、ギリギリ低く飛ぶ。土の匂いで木々の香りはすっかり淀んでしまっていて、旦那様との仮の住まいが余計に恋しい。
今夜でおしまいなのかな――。
せっかく旦那様とふたりきりで暮らす場所を手に入れられたって思ったのに、悪魔祓いを装った魔族に邪魔されちゃって。死体が見つかったら、やっぱり住まいを手離さなきゃいけないのかな。
そういえば、さっきの魔族――変だった。
魔族なのにちゃんと悪魔祓いの能力を持ってた。祓われる側の魔族に祓う能力があるなんて。私とはまた違う特殊個体だったのかな。
――何かがおかしい。
私自身が異質な存在だから単純に敏感になっているだけ、そんな気もする。特殊個体同士は引き合うものなのかな。
分からないけど――ちょっと怖い。
やっと着いた、隠れ家の前。体をぶるぶるっと震わせて雨水を払う。それでもずぶ濡れだけど。
扉を開けたら――。
「ラズ!」
「だ……旦那様!?」
「こんなにびしょびしょになって」
玄関で待っていてくれた旦那様、持っていたタオルで私を拭いてくれて。髪、顔、体――翼も尻尾も丁寧に優しく、隅々まで。ふわふわで気持ち良くて、あたたかい。
「ありがとうございます」
旦那様の目をじっと見つめて――のはずができなかった。何だか照れくさい。どうしてだろ。
「おかえり、ラズ」
優しい声、優しい眼差し。あたたかくて、じんとして、私たまらなくて――。
目頭が熱い。涙が溢れてる。止められない。
(どうして泣いてしまうの? 旦那様の前だと、私どうしてこんなに泣き虫になっちゃうの?)
「……ラズ?」
「何でもないです。……ただいま、旦那様」
にこっと笑ってくれる。涙のわけを聞かないでくれる。
そっと抱き締めてくれて――。




