夫婦みたい♡
あんまり心地よくて、いつの間にか私も眠っちゃった。翼で旦那様を包み込んだまま、胸にぴったり顔を寄せて。
「おはようございます、旦那様♡」
「ん……おはよって、あれ? 夜?」
「正しくは夕方です」
ふたりベッドの上で目覚めるとか幸せ過ぎ。体を起こして伸びをする旦那様を見ていると、新婚さんってこんな感じなのかなって妄想が膨らんでくる。
「ちょっと顔を洗ってくるよ」
「私も行きます」
並んで顔を洗うとますます夫婦みたい。だめ、どうしてもにやけちゃうよ。
「ラズ、楽しそうだね」
「はい。旦那様とふたりきりですから♡」
タオルで顔を拭くのも同じタイミング。石鹸の匂いがふわっと広がる。ふたりとも顔が赤くなってると思うけど、夕陽のせいでよく分からない。
寝ている間にボルガさんが来たかもしれないって、旦那様は玄関の扉を調べに行った。扉の隙間に手紙が挟まっていたみたい。
「何て書いてあるんですか?」
「えっとね……起きたら呼びに来てくれって」
「それだけですか?」
「……みたいだね。ほら」
まるで賞状みたいに手紙の両端を持って広げて見せてくれた。確かにそれしか書いてない。手紙というよりメモみたい。
集落へ戻るとなると人の目に触れるかもしれない。私は変化の術で人間の姿になった。
「人間のラズ、久しぶりに見た気がするよ」
「……可愛いですか?」
「うん、可愛い。でも、サキュバス姿の方が…………もっと可愛い、かな」
びっくりした――。可愛いだなんてさらりと言ってもらえてるけど、旦那様の口から初めて言われた。やだ、私照れてる。絶対顔に出ちゃってる。うれしいな、すごく。
「とりあえず、ボルガを呼びに行こうよ」
「はい、旦那様」
何だか不思議。特に何とも思わなかった仮の姿に、今はすごく違和感がある。ずっと人間の姿で過ごしてきて、狩りをするときだけ本来の姿を見せるのが日常だったのに。
本当はサキュバス姿のまま過ごしたい。
私にとって変化の術はそれほど魔力を消費するものじゃないけど、気持ち的には窮屈な感じがする。でも、人間の姿の方が何かと都合がいいのは確かで――。
集落へと下って行くと、正面から強い海風が吹きつけてきた。ちょっと肌寒く、重たく感じた。森を抜けると風は一段と強くなった。
すぐにボルガさんの姿を見つけた。雨戸を閉めているところだったみたい。
「おや、おふたりさん。よく眠れましたかい?」
「うん、おかげでね」
「ベッドでふたり、幸せな時間でした」
私がそう言うとふたりとも苦笑い。何かエッチなこと想像してない? 違うとは言わないけどさ。
「どうぞ中へ。今夜はひと雨来そうな気配ですな」
――嫌な空だな。さっきまであんなにお天気が良かったのに。
ボルガさんが旦那様と私にホットミルクを出してくれました。土色の陶器に注がれたヤギのミルクからふんわりと甘い匂いが漂っています。
ボルガさんは小さな木の樽のようなジョッキに麦酒をなみなみと注ぎ、豪快に一気飲みして見せました。
「ぷはー! いやいやすみませんな。一日の終わりにはこいつがないと締まらんのです」
「構わないよ。こっちこそご一緒できなくて申し訳ないね」
「ぼっちゃんはまだ飲めない年頃でしょう。謝ることじゃありませんよ」
「……飲めたらいいなって、いつも思うよ。ボルガの造るお酒、早く飲んでみたいな」
人間族の決まりでは、酒類はある程度の年齢にならないと飲むのを許可されないと聞いています。確か、体に悪影響を及ぼすとか。人間族の体も難儀なもののようです。
「ところでボルガ、手紙のことだけど」
「それなんですが……。食事の準備のこともあるんですがね、ちょっとお伝えした方がよいと思うことがありましてな」
ボルガさんの表情がわずかに曇りました。
「実はですな、教会が何やら騒いでいると小耳に挟んだもので、昼間に様子を見に行ったんです。そうしたら、どうも辺境の森で魔族が暴れたらしいと……」
きっと私のことだ。教会の連中が私を探しているんだ。
「あの辺りは闇商人なんかも出入りしてますからな、普段はそう騒がれることもないんですが。どうも貴族が関わっていたとかで、明日にでもこの町に捜索隊が来るらしいのです」
貴族――ひょっとして旦那様のこと?
そんなはずない。あの場所には私と旦那様、それから私が殺した奴隷商の男たち以外に気配は無かった。客は貴族と聞いていたけど、闇取引――ましてや人身売買を公にするとは思えない。
だったらなぜ? 一体誰が?




