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9話

 


 上下黒の服に身を包んだ高比良たかひら 紫苑しおんが見上げる先にあるのは、貴金属専門店「イブブヴィーエ」の看板。


「ここがこの街で一番大きなアクセサリーを売り買いできる店だよ」


 案内役である赤髪の少年、デヨンがいった。


「それじゃあさっさとあの趣味の悪いネックレスや指輪を売りさばいてしまおうじゃないか。まさか落としたりはしていないだろうね?」


 紫苑が振り返って聞く。


「もちろんです!これを持って歩くのは本当に心臓がぎゅっとなりますよ。スリに遭うんじゃないかと心配で。これでようやくその心配から解放されるんですね」


 白い袋を抱え込んだカナタがほっとした表情で言う。


「私も注意して見ていたから大丈夫よ」


「サクヤ、ありがとう」


 きれいない服に身を包んだ妹に感謝を告げる。


 ここまでの道中、紫苑たっての希望によって服屋で3人ともに新しい服を購入し、着替えていた。


 先ほどまで紫苑が着ていたのは魔王召喚をするようなカルト教団の白装束であったために一刻も早く着替えたいと思っていたからだ。


 そのついでに遠慮していた二人にも服を買った。


 金は信者たちが持っていたものだから使うのには惜しくも無いし、自分だけ買うのは心が痛む。カナタもサクヤもどう見ても安っぽい服を着ていたからだ。


 結局のところ、紫苑が自分の服を選ぶのに一番時間がかかったのでデヨンは呆れていた。


 最初のうちは我慢していたが、ついに「男の服などどうでもいいじゃん」と本音を言ってしまったが、それに対しても紫苑は聞く耳を持たず頑固にこだわり続けたので、店主も呆れていた。


「十分に注意した方が良いよ」


 デヨンが言った。


「何をだ?」


「ぼったくりだよ。商人っていうのは自分の利益のためには平気で嘘を付くからね。しかも宝石なんて言うのは素人にはよく分からないものだから余計に怪しいって聞くよ」


「ずいぶんと詳しいんだな」


 感心したように紫苑が言う。


「これくらい誰でも知ってるよ」


 何気ない感じを出そうとしているのかもしれないが、鼻がぴくぴくしているのが褒められて喜んでいるのは明らかだ。


「せいぜい安く買いたたかれないように気を付けることだね」


「そう言われても気をつけようがないと思うのだがな」


「それはそうなんだけど、後から文句を言う方法が無いわけじゃないよ」


「ほう?」


「まあまあ、それについては後で教えてあげるよ」


「そうか、それなら行くとしようか」


 子供たちの返事と共に店内に入った。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




 広い額をしたイケオジの店主がさわやかな笑顔を浮かべながら言った。


「我々が鑑定させていただいた結果、お客様がお持ちいただいた品はどれも素晴らしいものだと判明いたしました。従いまして合計2,750万ゴールドで買い取らせて頂くというのはいかがでしょうか」


 カナタは思わず声が出そうになった。あの洞窟で拾い集めたネックレスや指輪が、まさかそれだけの大金になるとは思ってもみなかった。


 小さな村でずっと貧しい暮らしをしてきたカナタにとっては世の中の全てが買えるのではないかと思うほどの大金である。


「そんなものか………」


 紫苑が言った。


 自分とは違って、魔王として召喚されたこのひとは全く動じていないようだ。お店の立派さと、店員さんの雰囲気に圧倒されている自分とは大違いだ。


「これでも我々としては色を付けさせていただいたつもりなのですよ」


「そうなのか?」


「はい。お客様がお持ちになった商品はかなり個性が強いので人によって好みが分かれるのです。しかも今の流行とは違っていますのであまり高く取引されることはありません。買った時の値段よりも価値は大きく下がってしまっているのです」


「なるほどな………たしかに趣味が悪いデザインだとは思っていた」


「そうはっきり言われてしまっては返答に困りますね。あういうデザインが好きな人も一定数はいるのですから」


 苦笑いを浮かべる店主。


「2,750万か………」


「いかがでしょうか?」


「ところで」


 紫苑の声のトーンが上がったことにカナタは気が付いた。


「こういう商品を取り扱う店ではぼったくりをすることがあると聞いたのだが本当か?」


 息が止まるかと思った。まさか店の人を目の前にして直接そんなことを言うとは思わなかった。


「確かによく聞きますね、非常に嘆かわしいことです。そういった輩が一人でもいることで我々の業界全てに対してそういった悪い印象を持たれてしまいます。しかし私どもの店ではそういったことは一切ありませんのでご安心ください」


「本当か?」


「もちろんで御座います」


「正直に言うとな………俺はやられたらやり返す性質なのだ。それでも自信を持って大丈夫だと言えるのかな?」


 空気が張り詰めているのを感じる。


「もちろんで御座います」


 イケオジは表情を崩すことなく言い切った。


「わかった、それじゃあ買い取ってもらおうか」


「ありがとうございます」


「それとな、店主。あなたの名前を教えてもらえるか?」


「私の名前でございますか?」


「オーナーがいるのであればその名前も教えてもらいたいな。それと、できれば奥さんの名前も」


「はぁ………」


 初めて笑顔が崩れた。


「真っ当な商売をしているのであれば答えても何ら問題ないと思うのだが?」


「もちろん答えることは出来ます。今までにそんなことを言うお客様はいらっしゃらなかったので驚いただけです」


「そうか、私にしてみれば大きな取引をする上で相手の名を知ることは大切なことなのだがな」


「確かにお客様の仰る通りだと思います。私は店主兼オーナーのスミスです、そして今現在妻は居ません。それでは今後ともよろしくお願いいたします」


 笑顔を取り戻した店主から2,750万ゴールドを受け取って4人は店を出ていった。





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