8話
「そこの高貴なお兄さん、もしかしてこの街を知り尽くしている優秀な案内人が欲しいんじゃないですか?」
クエンカという街に入ったところで元気良さそうな少年に声を掛けられた。
「そんな知り合いがいるのかな?」
「知り合いっていうか俺がそうだよ。俺がこの街を知り尽くしている優秀な案内人ってわけですよ」
「君が?」
「そう。俺はこの街のことは何でも知ってるから格安で案内してあげますよ」
無理して使っているようなぎこちない敬語だ。
確かに道案内は欲しいと思っていた。カナタもサクヤもこの街は初めてだし、俺に至ってはこの世界自体が初めてだ。
しかし、カナタと同じくらいの子供に案内などできるのだろうか。
「その顔、もしかして俺がちゃんと役に立つか心配しているんじゃないですか?」
「よくわかったね」
「それくらいすぐにわかりますよ。だいじょぶうです、安心してください。さっきも言ったけど俺はこの街の事なら何でも知っているんです。それぞれの娼館でどの娼婦が人気で得意技が何かまでちゃんと知っているんですよ」
とんでもないことを言っている。
「しょうかん?しょうふ?」
サクヤが首をかしげている。
「役に立たなかったらお金は払わないよ?それでもいいかい?」
「もちろん!」
今の話は終わらせた方が良いと判断して前向きに考えてみることにした。これでおかしなアピールはしてこないだろう。
「ところで君の名前は?」
「デヨンです」
「それじゃあデヨン、君を雇うための金額はいくらだい?」
「一万ゴールドでいいですよ」
「カナタはどう思う?」
「いくらなんでも高すぎると思います」
即座に返事が返ってきた。
「そんなことないって、これくらいが普通だよ」
デヨンが即座に言い返す。
「だって一万ゴールドなんて大人のひとが二日かけて稼ぐお金ですよ?それを街を案内しただけで貰うなんてありえないと思います」
「いやいや、田舎だったら二日かかるかもしれないけど、この街だったら一日で稼げる金額だよ。田舎と都会じゃ給料が違うんだから」
デヨンの鋭い指摘にカナタの動きが止まる。
確かに前の世界でも田舎と都会では給料が違うのは当たり前にあることだ。それはここでも同じらしい。
「だとしても一万ゴールドは高すぎますよ。案内なんかなくたって歩いてみればどこに何があるのかはわかりますから」
「わかっちゃいないな」
デヨンが笑う。
「歩き回るための時間を節約するのが案内なのさ。たったの一万ゴールド払えば時間が節約できる。優秀な人ならその時間でそれ以上のお金を稼ぐことだってできるんだ。足を痛めることなくね」
勝ち誇ったような顔をしながら挑発する。
「僕はそうは思わないですね」
カナタがすぐに言い返す。ここまで感情的になっているのは今まであまり見なかった。
「お金を払って人に教えてもらっても頭に入らないですよ。自分の足で歩いて一生懸命覚えようとするから覚えるんですよ。一ゴールドを笑うものは一ゴールドに泣くと言う話もあるくらいお金は大切ですから。それに足腰も鍛えられます」
なんということだ。少年同士の意地の張り合いが目の前で繰り広げられている。面白い。実に面白い。
「君の名前は?」
「カナタだよ」
「カナタね。それじゃあ言わせてもらうけどカナタは勘違いしてるんじゃないの?」
「勘違い?」
「案内っていうのは只どこに何があるのかを言うだけじゃないんだよ」
「どういうこと?」
「例えばレストランがあったとしてあることだけなら、確かに看板を見ればわかるさ。けどね、そこがおいしいレストランかどうかっていうのが大事なんじゃない?俺の言う案内っていうのはその情報も含めてのものなんだよ」
「デヨン君にはそれが分かるっていうの?」
「デヨンでいいよ。もちろんわかるから言ってるんだ」
「だってこれだけ大きい街なんだからレストランなんか沢山あるんだよ」
「全部自分で行かなくたって知り合いのから聞いた評判とかも合わせたらかなりの数は説明できね」
カナタとデヨンは睨み合う。
カナタが頭のいい子供であることは知っていたけれど、このデヨンと言う少年も負けず劣らず頭がいい。
このふたりは今日初めて会ったのに、まるで仲のいい友達みたいに見える。見ていて面白かったし、そろそろこの辺で止めておこうか。
「勝負は引き分けだね」
シオンは言った。
「案内の報酬は五千ゴールド、ただしいまいちだったら一ゴールドも払わない。それでどうだい?」
「なんだか俺に不利なような気がするなぁ………けどまあそれでいいよ。なんか面白そうだし」
「それじゃあ契約成立だね」
「うん」
赤髪の少年は気持ちよく頷いた。
「それじゃあさっそく娼館にいく?」
行かないね。




