5話
魔王召喚の儀式が行われた洞窟の中に子供の明るい声が響く。
「シオンさん、こっちに良いのがありました」
カナタが新しく見つけた部屋の中へ入って見ると、そこには大きなテーブルいっぱいに並ぶ豪華絢爛な食事が用意されていた。
一番目に付くのは豚の丸焼き、そのほかにも大きな焼き魚、生ハムっぽやつ、グラタンっぽいやつ、エビのチリソースっぽいやつ、ホタテっぽいやつ、なんだか全く分からないやつ、サラダ、デザート、ワインなど色々ある。
「ほう!これはすごいな」
「そうですよね!」
「もしかしたら魔王を召喚することに成功した後でパーティーでもするつもりだったのかもしれないな」
「僕もそう思います」
「美味しそう」
カナタの妹のサクヤの口から涎が流れている。緊張しているのか、これまであまり声を出していなかったのに、「美味しそう」といったということは、よほどお腹が空いているに違いない。
「せっかくだから頂こうか」
「いいんですよね?」
「カナタは真面目だな。もうこれを食べれる人間は私たち以外にはいないよ」
俺が全て始末してしまったので。
「そうですよね………」
なんだか微妙な空気になってしまった。あの時の事を思い出すと自分が自分じゃなかったような気もする。しかしまあ今更過ぎたことを考えていても仕方がない。
「思う存分頂こうじゃないか」
「「はい!」」
カナタが持って来てくれた皿を持って料理を見ていくが、これだけあると何から食べていいか迷う。
と言うか果たしてこの世界の料理は自分の口に合うのだろうか。もし会わなかったらこの先の生活は地獄だな。
一番気になるのは豚の丸焼きだな、やはり。
「どうした、食べないのか?」
「いえ、食べたいんですけどまずは最初にシオンさんが食べてもらえませんか?」
?
「毒見?」
「僕たちこんなに凄い料理を食べたことなくて、なんか申しわけなくて。僕達みたいなのが本当にこんなに美味しそうなものを食べてもいいんのかなって」
「なんだ、遠慮していたのか」
「なんか怖くて」
「気にせずに食べたらいいんだよ。料理は食べるためにあるんだから」
「そうなんですけど………」
それでもやはり気になるようだな。それなら豪快に食べているところを見せてやって安心させてやるのがいいだろう。
フォークをぶっ刺して豚の丸焼きの一片にかぶりつく。
「おお………美味い!」
なぜかカナタが拍手している。
冷めてはいるけれど外はパリッとしていて中はジューシーで美味しい。今まで食べた豚肉の中で断トツで一番おいしい。
知らない間に大分腹が減っていたようだ。思えば最後に食事をしたのはいつだっただろう。どんどん豚にかぶりついていく。
俺はバイキングの時でも色々食べてみるよりは、好きなメニューばかり食べていくのが好きなたちだ。
「ほら、二人とも遠慮しないで食べなさい」
「はい!」
それをきっかけにして二人は勢いよく食べ始めた。
見ているだけで嬉しい気持ちになる。
こんなに凄い料理を食べたことが無いと言っていたのは本当なのだろう。二人とも本当に幸せそうな顔で食べている。
特に妹のサクヤの方の食欲が凄い。フードファイターみたいな勢いで次々に食べ進めていっている。
さて、飲み物の方はどうだろう。ガラスの器にはいろいろな色の飲み物が入っているがオレンジ色のやつはオレンジジュースで間違いないのだろうか、恐る恐るにおいをかいでみるとオレンジジュースっぽかった。
これでこの世界にはオレンジがあるという事が判明した。今の所食べ物に関しては問題なさそうだ。
「シオンさん!」
「どうした?」
カナタが声を掛けてきた。
「このビッグシマシマグリーンワームを蒸したやつはとても美味しそうですよ?」
?
「なんだねそれは?」
嫌な予感しか感じないのだが一応聞いて見る。
「ビッグシマシマグリーンワームのことですか?それなら芋虫タイプの魔物の名前ですよ。すごい高級食材だって聞いたことがあるんです」
やはり思った通りだった。
「それはカナタに任せる」
「え、でも………」
やはり自分が最初に食べるのには遠慮があるようだ。
「私は芋虫タイプの魔物のアレルギーがあるから食べられないんだ」
「え!そうなんですか」
「だから遠慮なく食べてくれ、高級食材ならきっとおいしいんだろうさ」
「わかりました。そういう事でしたら僕が頂きますね」
「遠慮は不要だ。食べきれずに腐らすのはもったいないからどんどん食べてくれ」
「はい!」
十分に食べたら人間のいる街に向かって出発することにしよう。今はとにかく情報が必要、そのためには人間の力が必要だ。
銀色の髪をしたサキュバス。
あの子にまた会うために俺はこの世界にやって来たのだ。




