4話
涙を流しながら抱き合って喜ぶ兄妹。
ずっと背中に隠れていたサクヤが大きな声をあげながら飛び跳ねているのを見ると、こちらまで感動してしまう。いつまででも眺めていたい光景だった。
「あ、」
サクヤと目が合った。
「よかったね」
声を掛ける。
「ありがとうございます」
声は少し小さいものの、しっかりと目を見て言ってくれた。
「本当に本当にありがとうございます。まさかこんなこと………まるで神様が奇跡を起こしてくれたみたいです」
涙が美しい。
「僕からもお礼を言わせてください。本当にありがとうございます。ほんとうに奇跡みたいです。ここに連れてこられた時にはもう生きることを諦めていたんですけど、まさかこんなすばらしいことが起きてくれるなんて………」
カナタの頬は涙でべちょべちょになっている。
それにしても魔王の次は神様か………。
悪気無しにお礼を言ってくれているのはわかるけど、色々と変わるものだな。そう考えたらおかしくて笑ってしまった。
「?」
そんな俺を見て少女は首をかしげている。
「なんでもないよ。とにかくよかったじゃないか、私も嬉しいよ」
「はい!ありがとうございます」
元気よく言った。
多分このサクヤという少女は本当は元気のいい子だったのかもしれないと思う。それが火傷によって性格が変わってしまったのだろう。
それが治ったことで性格まで元に戻ってきている。そう思うとすごく清々しい気持ちだ。
「もしかしてシオンさんは、こうなることが分かっていて白い球体を僕たちにくれたのですか?」
カナタが聞いてきた。
「なんとなくね………」
それにすぐ気が付くとは頭のいい少年だな。
「本当に嬉しいですし、ものすごくありがたいんですけど、最初は心配してしまいました。サクヤは苦しそうにしているし、何が起きているのか分からなくて」
「自信はあったけど確信は無かった。何しろこれをやるのは初めてだからね。もし最初に治せると言ってしまって、それができなかったときに失望させるのはあまりにも残酷だから黙っていたんだ」
「なるほど………そういうことだったんですね」
これで自分がこの世界で何ができるのか分かった。
オレンジ色の球体は爆発と炎を。
白い球体は治癒を。
これが俺が持つ力なのだ。
「さて、服も手に入ったことだし私は人間の住む街に行ってみようと思うんだけど私にはこの世界の地理が全く分からない。洞窟の中に地図なんかはあったかい?」
カナタとサクヤは俺が着れるような服を探して洞窟の中を探し回ったわけだから見ていても不思議はない。
「僕たちが見た限りは地図は無かったと思います」
「そうか………」
それはかなり残念だ。地図無しではどこに行ったらいいのか分からない。
「魔王様も街に行くつもりなんですか?実は僕たちもそうしようと思っていたんですよ」
おお。
「家に帰るという事だね?」
「あの、そうではなくて新しいところで生活をして見ようと思っているんです。さきほど魔王様に頂いた高そうな腕輪がありますので、それを売ればお金になると思いますので」
「家には戻らないのかい?」
「実は僕たちの両親は死んでしまっていないんです」
カナタは淡々と語る。
「ですから村には僕たちのことを待ってくれている人はひとりもいません。それだったらいっそ、新しい街で新しい生活をふたりでして行こうと話し合ったんです」
「そうなのか」
何か事情があるようだ。
「さっきまでは不安だったんですけど、サクヤの怪我を魔王様に直してもらったので僕はすごく今、前向きな気持ちなんです。きっと新しい街でもやっていけると思います」
「それはどうかな?」
「え?」
「子供二人だけで暮らしていけるものだろうか。私は難しいと思うよ」
「そんな………」
「住むところはどうするつもりかな?」
「それは宿を借りたりとかして」
「宿屋は子供だけで泊まらせてくれるのかい?」
「それは………」
「もし駄目だと言われたらどうするつもりなんだい?」
「う、」
「そこらの公園で寝るにしても雨が降ってくるかもしれないね。それだけじゃなく寝ている間にお金を盗まれるかもしれないよ」
「ううう、、」
「そしたらご飯を買うお金もないね」
「それは、働けば………」
「子供に働く場所なんかあるのかな?何日で見つかる予定だい?君たちはいったいどんな仕事ができるんだい?」
「ううううう………」
カナタは泣きそうになっている。それを見たサクヤも泣きそうになっている。
「というわけで私が町まで一緒に行ってあげよう」
「ええ!?」
「実は私もこの世界のことは何も知らないからひとりでは不安だったんだ。しばらくの間だけでもお互いに協力し合っていこうじゃないか」
「いいんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます。本当の所は不安だったんです、僕達だけで暮らしていけるものなのかどうか。魔王様がいてくれれば助かります」
「私の名前は高比良 紫苑だ」
「え?」
「魔王などと言う呼び方は止めて欲しいな。これでも少し前までは間違いなく人間だったんだからね」
「タカヒラシオンさんですね、わかりました」
「紫苑と呼んでくれて構わないよ。だけど私の方が年上だから呼び捨ては駄目だ。「さん」か「先生」をつけて呼んでくれ」
「呼び捨てになんかしませんよ、シオンさんは妹を治してくれた恩人ですから」
「よし!そうと決まればこの洞窟の中にある金目の物をすべてかき集めるんだ」
「わかりました!」
きびきびと動くカナタとサクヤを腕組みをしながら見て、満足そうに頷く紫苑だった。




