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3話

 


 少年の背に隠れている少女は体を縮めてますます小さくなった。


「これは熱湯を浴びてしまって………」


「病院には行ったのかい?」


「いえ………」


「そうか」


 洞窟の中にしばらくの間沈黙が流れた。この話題は二人にとって触れられたくないものなのは明らかだった。


「服を探してきてくれたお礼に良い物をあげようじゃないか」


「いいもの、ですか?」


 目をぱちくりしているカナタが可愛くて笑った。子供と言うのは反応が素直なので見ていて飽きない。


 紫苑は掲げた手の指先から白い球体を生み出す。


「そ、それは!」


 驚き戸惑うカナタとサクヤを尻目に、高比良たかひら 紫苑しおんはそのピンポン玉に似たものをつまんで自分の口の中に入れた。


「あれ?」


 キャンディーを名前るように口の中で白い球体を転がしている。


「驚いたかい?」


「はい驚きました。てっきり僕は………」


 思っていた通りの反応が見れて満足だ。


「これは君がさっき見たものとは全く違うものだよ」


「そう言われてみれば色が違ったような気が………」


「おお!よく気が付いたね。やはり君は随分と賢いな」


「え、ありがとうございます」


 ふたりの視線は紫苑の口の中に注がれている。


「あのカルト教団の連中を葬り去ったのはオレンジ色の球体なんだ。こっちの方は爆発なんかしないし甘くてとてもおいしいんだよ」


「そうなんですか。同じような見た目なのに全然違うんですね」


「そうなんだ。なぜこんなことが出来るようになっているのかは自分でも分からないんだけど、当たり前にできる。不思議だよね」


「聞いたことがあります。世の中には赤ちゃんの頃から自然と魔法が使える人がいるって」


「そうなのか」


「水の魔法を持っている魔法をもった子供ならまだいいけど、炎の魔法を持っている子供が生まれた時には、火事になるかもしれないからお母さんは少しも目が離せないんだそうです」


「なるほどね………」


 疑問が生まれた。


「火の魔法を使える子供は火の中にいても大丈夫なのだろうか?それとも自分が起こした火がきっかけで死んでしまうのか?」


「あ、ええと………すいません、それはちょっとわかりません。僕には才能が無くて魔法が使えないもので」


「そうなのか」


 異世界に来て魔法が使えないという事もあるのだな。


「それにしてもこれは思っていたより美味しいよ、甘くてミルクの香りがしてね」


 これには何か名前を付けた方が呼びやすいだろうな。こっちはミルク味だからミルクボールにするか?いや、なんだかミルクボーイみたいだからやめておくか。


「服を探してきてくれたお礼に、君たちにもひとつづつ分けてあげようじゃないか」


「え!?」


 それは嬉しさというよりも驚きと不安の声だった。


「大丈夫、今見ただろう?これは爆発したりはしないんだ」


 そう言った後で、口の中にまだ残っている球体を見せる。キャンディーよりも溶けるのが早いので、もうすでに半分以下の大きさになってしまっている。


「それは嬉しいんですけど、ちょっと怖いというか」


 よほど爆発を生み出したオレンジ色の球体の記憶が強いらしい。


「安全は私が保証するよ」


 そう言いながら、指先から白い球体を二つ生み出した。そして指先で軽く弾くとふわふわしながら二人の元へとゆっくり飛んでいく。


「あ………」


 カナタはそれを両手で受け止めた。


 爆発しなかった。


「大丈夫だ」


「だから何度もそう言っているじゃないか」


「そうですよね、すいません」


 手の中にあるそれは綿毛のようにほとんど重さを感じない。少しの硬さは感じるけど力を入れればわれてしまいそうだ。


「食べてみなよ、甘くてとてもおいしいよ」


「ありがとうございます」


 何度も突いて見て爆発しないことを確かめた後で、背中に隠れている妹に手渡した。


 なんだかわからないけど、これを受け取らないことはとても良くない事の様な気がしていた。


「一緒に食べようか?」


「………」


「大丈夫だよ、信じて食べてみよう?」


 未だ不安そうな様子をしていた少女だったが、一気に口の中に入れた。


「ちょっと!一緒に食べようって言ったのに」


 カナタも慌てて口の中に入れる。その途端、天国にいるかのような至福の甘さが口の中に広がった。頭の中が真っ白になって体が痺れて心臓が高鳴る、おいしさ以外のことは何も考えられない時間だった。


「う………」


 気が付けば傍に体を丸めている妹がいた。


「サクヤ!」


 苦しんでいるような気がするけど何が起きているのか分からない。


「大丈夫、そのうちに収まるはずだ」


 声に反応して振り向けば白装束の魔王が自信ありげに立っている。


「ううう………」


「サクヤ大丈夫なの!?苦しいの?」


 何も言わない、こっちも見ない。ただ丸まって苦しそうな声をあげ続けているだけだ。


 何かが落ちた。


「わ!」


 それは目玉だった。


「サクヤ!」


 ゆっくりと体を起こしていくサクヤ。


「え………」


 その顔に赤く爛れた皮膚は無く、左目にはきれいな瞳があった。


「カナタ、私、見えるようになってる!」


 眼球の中心が自分を見ている。


「治ってるよサクヤ!」


 奇跡だ。


「目も肌も戻ってる!」


 少女は自分の目と皮膚に触れたあと、大粒の涙を流した。


「カナタ!」


 世界の全てが輝いている気がした。


「サクヤ!」


 洞窟中に響き渡るほどの大きな声で叫び、力強く抱きあった。




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