2話
魔王召喚の生贄だった少年が戻ってきて恐る恐ると言った様子で声を掛けてきた。
「これなんですけど、もし良ければいかがでしょうか」
少年が手に持っていたのは白装束。
「私に?」
問いただすと緊張感を増した表情になった。声を掛けることを悩んでいたのだろう。
「はい。何も着てらっしゃらないので、もしかしたら必要なんじゃないかと思いまして」
確かに自分はいま裸だ。
「帰る途中で見つけた横穴の中にありました。多分あの人たちが着ていたものだと思います。見たところ新品のようですから、お役に立つのではないかと思いまして」
「なるほど………」
ずいぶんと勇気と優しさを持った少年だ。
「ありがとう、助かるよ」
そう言うとほっとした表情になった。
「それではどうぞ」
カナタという少年がその白装束を持ってきてくれる。
自分だったら魔王と呼ばれていたような奴の近くからは一刻も早く逃げたい。それなのにわざわざこうして戻ってきてくれた。心が温かくなるのを感じる。
「ありがたいんだが、できれば違う服がいいな」
「へ!?」
「その白装束は宗教感が強すぎる」
カナタは少し固まった後で口を開いた。
「それは確かにそうですけど………」
「それを着ていたらあいつらと同じカルト教団の信者だと思われる。それは嫌なのでね、できれば違う服が欲しい」
「ち、違う服ですか?」
「その服が置いてあったという事は、あいつらはこの洞穴を普通に利用しているのだろう」
「確かにそんな感じはしました。食べ物とか荷物もありましたし………」
「だったらほかに違う服もあるはずだ」
「そうですね、そうかもしれません」
「探してきてくれ。このままだと私は風邪をひくかもしれないから素早く早く頼むよ」
「え、」
目を見開いてかなり驚いている。
「さあ急いで」
「わ、わかりました!」
少年は急いでUターンしていった。背中には妹らしき少女も一緒についていた。
果たして二人は戻って来るだろうか。
期待と不安を抱きながら背中を見送った。
◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆
「魔王さま、この服はどうでしょうか!」
カナタが再び戻ってきて服を持って来てくれた。
「ダメ!」
「ええぇ!?」
カナタは飛び上がった。
「ダサすぎ」
ちゃんと戻って来た少年が持って来たのは虎の顔が大きくプリントされたトレーナーだった。
「この薄暗い洞窟の中でも目立つくらいい無駄にキラキラしていて趣味が悪すぎる。そんなもの日曜日の成金親父専用の服じゃないか」
「は、はぁ………」
「見た瞬間君もダサいと思っただろ?」
「それは、少しだけ………」
「じゃあなんで持って来たんだ?」
「いや、けど、あの、服なのでいいかと思いました、すいません」
「そういう考えは良くないよ。服と言うのは着られればなんでも良いというわけじゃないんだよ」
「すいません」
「しかもそれは新品じゃないね」
「そうですね、誰かが着たものだと思います」
「においを嗅いでみなさい」
言われるがままに少年は鼻を近づけた。
「おじさんの匂いがします」
「ダメ!問題外!却下!」
「うう………」
がっくり肩を落としている。
「落ち込んでいる暇はないよ。今すぐに違う服を探してきなさい、あまり時間を掛けたら私が風邪をひいてしまう」
「あの、」
「なんだね?」
「魔王様も風邪を引くのでしょうか?」
「ううむ………」
どうなんだろう。と言うかそもそもにおいて魔王であるという自覚も無い。
「たとえ風邪をひかなくてもとにかく服は必要だ」
「はい!すいませんでした」
踵を返してUターンしていく少年、その背中には少女を連れている。彼はどうやらずいぶんと性格が良いようだ。良すぎて将来悪い人間に騙されないか不安だな。
◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆
「魔王さま、この服はどうでしょうか!」
少年が三度服を持って来た。
「ダメ!」
「うう………やっぱりですか」
「君は私のことを馬鹿にしているのかね?」
「いえ!決してそんなことはありません」
明らかに慌て、怯えている。
「じゃあなんだねその服は?そんなものを私が着ると本気で思っているのか?」
「すいませんでした。ですけどどんなに探しても他に着れるものは見当たらなくて」
「だからといってバニースーツは無いだろうバニースーツは」
胸元がざっくい開いた黒のハイレグ衣装、ご丁寧に耳とネクタイまでついている。
「すいません………」
少年は枯れたニラのようにシナシナになっている。
「しょうがない、ある物で我慢するしかないか」
「これを着るんですか!?」
「白装束に決まっているだろう」
「あ、そうですよね」
「何を言っているんだ君は」
「すいません」
本当は嫌なのだが全裸よりはましだと思うしかない。
首から足元まで一体化した独特な服で、ローブというのだろうか。初めて着るタイプのものだし下着が無いので違和感は凄い。
けれどまあ恥ずかしさは無くなった。実の所、相手は子供とは言え人前で裸でいるのはなかなか辛いものがあった。
「魔王様、着心地はどうですか?」
「なかなかいい」
さらさらとして肌触りが良くて気持ちがいい。
「それは良かったです。多分すごく高価な服だと思いますよ、持った時にすごく触り心地が良かったので」
「なるほど………それにしても気になることがあるのだが」
カナタの後ろにいるサクヤに視線を向ける。
「なんでしょうか?」
「君の妹の目はどうして白く濁っているんだい?」




