チャプター23
〜王城 玉座の間〜
「どこから説明したらいいかな。錬金術って、探求の学問なんです。この世界の成り立ちはどうなっているんだろう、水ってなんだろう。木ってなんだろう。これとこれを掛け合わせたら何かできないか。そういう疑問が発端となって出てきた学問なんです。数々のアイテムは副次的に生まれたもので、当初の目的ではないんです」
錬金術については真面目に勉強してきたのだということを思わせるように、サラサラと言葉が出てくる。頭の中にあったのは、その昔読んだ参考書の序文や、かつて錬金術を学んでいた頃、教師たちから聞かされた先人たちの話。しかし、この思いは後進の錬金術士、少なくともフォルクローレ自身はしっかりと受け継いでいるつもりだった。
「して、その話がこのアイテムの効能とどう繋がるのだ?」
「はい。このアイテムは、何かを目的として造られたものではないんです。錬金術の果てを見たくなった誰かが、試行錯誤を繰り返した結果でできて、それをレシピに残したんです。もう、その目的もわかりませんけど。美しい金属が作りたかったのか、それとも、所定の素材を掛け合わせてみたくなったのか。でも、現在までレシピが残っていて、こうしてそれを再現することができる。それが錬金術なんです」
昔から脈々と伝わっているのはレシピだけでなくその思い。だからこそ、今見せるのは便利なアイテムではなく、ただただ美しく、しかしながら難易度の高いアイテムなのだ。それが、散々悩んだ末にフォルクローレが出した結論だった。
「あ、もちろん爆弾を作っていって、うっかり間違ってここで爆発したら大変だからっていう理由もありますけどね」
「そ、そうか。確かにそれは危険だな……」
冗談なのか本気なのか、そんな恐ろしいことも平気で口にする。しかし、王の耳にもフォルクローレの作る爆弾は高性能だと伝わっていたので、もしものことを考えると、そのようなものでなくてよかったと思った。
当初は国力増強のための兵器のようなものを持ってきてくれることも少しは期待していたのだが、それはとんだ思い違いだったらしい。この場で実演せねばならぬとなれば、城にどのような被害が出るかわからない。それに、思えばそもそものきっかけは錬金術とやらの秘技が見たかっただけなのだ。貴族連中の間で噂になっていた錬金術というものを目の当たりにしてみたかっただけなのだ。
「なるほどのぅ。これが錬金術の秘技、というわけか」
「はい!」
先人たちの熱い思い、並の人間では到底辿り着けぬ境地を感じ取り、王はただただ感心するしかなかった。さっきまであっけにとられていたのが嘘のような変わりようだった。そして、見れば見るほど目を奪われるそれは、単に美術品として見ても、十分に価値があるように思えてきた。
「うむ、実に見事であるぞ」
「ありがとうございます!」
決して嘘をついたわけではないが、こういう説明は必要だろうと考えていたので、王が納得の様子を見せたことにはホッと胸を撫で下ろす。
やるからにはこの表情になってもらわなければ意味がない。狙い通りの結果になって、本当に安心した。錬金術士としての矜持はもちろん、相手は国王だ、粗相をしでかしては、何があるかはわからない。
「さて、それではそなたに褒美をとらせねばならぬな。何か欲しいものはあるか? 内容によっては叶えてやれぬものもあるが、言うだけはタダじゃ、まずは何なりと望みを言うてみるがよい」
「!」
内心のガッツポーズを隠すように、少しだけ考えるフリをして、それから小さく切り出した。
「王様。それでは、これを美術品か工芸品としてお買い上げ頂けないでしょうか。決して彫像や絵画にも引けをとらない美しさだと自覚しています」
「ふむ。それは確かによいな。しかし、目利きがあるわけでもなし、かようなもの、いくらで買えばよいのか……買取額については、後日ということでよいか?」
思いの外あっさりと買い取りを承諾してくれたことは嬉しい誤算だった。具体的には後日、というのも想定の範囲内だ。彫像や絵画、工芸品の金細工などであれば、ある程度相場があり、それなりに目利きのある人間もいるだろう。しかし、こんなアイテム、誰も見たことがないのだから、値段のつけようがない。
もちろん、物好きであればいくらでも出すのだろうが、それは「適正価格」ではない。
「もちろんです。まずは王様のご納得のいく価格をご提示ください。それと、もう一つよろしいでしょうか」
「ん、まだあるのか? 言うてみよ」
虹色の小箱の買い取り話が片付いた以上、気は楽だった。これで、もう一つの褒美について話が破談になっても保険がある。エルリッヒとの約束の手前切り出さないわけにはいかなかったが、どちらかといえば身勝手なお願いに当たるものだったからだ。
実のところ、「金貨3000枚」という言葉が、ずっと脳裏にこびりついて離れないでいたのだ。
「ありがとうございます。彼女のことなんですが……」
ちらり、とエルリッヒに視線を送る。
「エルリッヒか。それがどうかしたのか?」
「はい。彼女はここしばらく、私の手伝いをするためにずっとお店を休んで付き添ってくれました。彼女がいなかったら、これはできなかったと思います。だから、彼女にも何か報奨金のようなものをお願いできないでしょうか」
「フォルちゃん!」
(約束、忘れてなかったんだね! 嬉しい!)
手伝いを承諾したのは自分の意思だったが、お店を休んでいるのは事実で、この間の収入がなかったのもまた事実なので、今後の生活のためにお金が必要なのもまた事実なのだ。だから、満額とまでは言わないまでも、いくばくかの報奨金がもらえることは今後の生活を左右すると言っても過言はない。
だからこその約束だったのだ。だから、結果はどうあれそれを守ろうとしようとしてくれたことが嬉しかった。
「ふむ、そういうことか。あいわかった。では、そなたら二人に褒賞として金貨10000枚を払い渡そう。それで良いかな? 分配は、二人で決めるがよい」
「「!!」」
その法外な金額に驚いたのは二人だけではなかった。そばで立っていた親衛隊の面々も表情には出さないが驚いていたし、何より、大臣の驚きようは尋常ではなかった。
「へ、陛下! 何をおっしゃっているのか、分かっておいでですか! その金属の買い取りもですが、金貨10000枚といえば大金ですぞ! 陛下が払い渡すお金は国民の税金なのですから、もう少しお考えください! これは、議会が黙ってはいませんぞ?」
「うるさいのぅ。わかっておる。誰も国庫から出すとは言っておらぬではないか。王家の私財から払うのであれば、誰も文句はあるまい。そういうことじゃ。それなら良いであろう?」
大臣の言葉を心底うるさそうに流すと、名案とばかりに説明した。もともとそのつもりだったのか、大臣が文句を言ったから予定を変えたのか、それはわからない。しかし、いくら王家の私財といえど大金であることに変わりはなく、王妃をはじめとした家族の反対もありそうなものだが。
大臣も同じ心配をしていたようで、すぐさま小言が入る。
「そのお話、王妃様は承諾なさっているのですか?」
「っ! お、王妃のことは良いではないか。王妃とて宝石を買ったりドレスを買ったりしておるのだから、たまには良いではないか。王に私心は許されぬなど、古い話ではないか」
あからさまな童謡から、王妃との力関係が見て取れる。王といえどそこは変わらないのだと、つい笑みを浮かべてしまいそうになるが、そこはぐっと我慢する。
「と、とにかく、そなたらには確かに金貨10000枚を払い渡す故、安心するように。これの買い取りについても、しかるべきものをフォルクローレのアトリエに寄越す故、待っておるが良い。それでは、良いひと時を過ごさせてもらった。礼を言う」
威厳を保つために必死な様子を見て、ますます王に親しみを覚える二人だった。
「陛下もこうおっしゃっておられる。二人は下がり応接間で待っておるが良い」
「はい。それでは王様、失礼いたします。ごきげんよう」
「きょ、今日はこれを見ていただきありがとうございましたっ!」
典雅な様子のエルリッヒに続き、ぎこちない様子のフォルクローレが続く。そうして、二人は玉座の間を後にした。お披露目は、大成功だった。
〜つづく〜




