2話 お気楽令嬢は救いたい
「ムギ様。本当にこのままハクを旅のお供に
お連れするつもりでございますか?」
「もちろんよ〜♪
だってこんなに可愛いハクだもの♪」
「わんっ!」
「それはわかりますが、さすがに目立ちすぎます」
ケモ耳獣人と化したハクに大きな布を巻き付け、
うまく身体を隠してみたものの、
獣人というのは希少種につき、
ツムギ以上に身の安全を保証できない。
悪党や賊にでも捕まり
身売りでもされてしまっては
ハクにとってもよくないし、
ツムギも当然後悔をすることになる。
今ならまだ、アマハラの家にハクを帰らせることが
できるというアヤメの提案でありましたが……
「ハク。あなたはわたくしのいない
アマハラのお屋敷にいるのと、
危険を伴うかもしれませんが、
わたくしと一緒に旅をするのと
どちらを選びますか?」
「主様を護るために、一緒にいるわんっ!」
「……はぁ」
「ほらね?では連れていきますよ?」
「ハクに聞いたら本人は
そう言うに決まっております……」
「アオオォーン!」
観念したアヤメは
ハクに自分のことももツムギ様のことも
どちらの身も護るようにキツく言いつけ
渋々旅をつづけることにしました。
港町に到着した一行は
さっそく旅人用の服をハクの分も追加して
購入することに。
「はぁぁあ♡なんて可愛いのですか〜♪
ハクったら、あなたはわたくしを虜にして一体
どうするおつもりなのでしょう……♪」
「はっはっ♪」
尻尾をまるで隠す気もないハクと
そんなハクにメロメロのツムギに
呆れながらも付き添うアヤメ……
ハクの着せ替えごっこを
目いっぱい楽しんだツムギは
あきらかに持ちきれない量の服を購入し、
港へと向かいます。
しかし、
港へ向かう裏路地へ入ったところで
ツムギはこの町の現実を見てしまいます。
――子供が物乞いをしている姿。
――あきらかにカタギの者ではない荒くれ者。
――汚い布を寝床に路上にいる町人の数々。
「アヤ。……これは一体どういうことですの」
「ムギ様。
この町はすでに廃れてしまっております。
民とは目を合わせないようにお願いします」
「アヤ?
これはどういうことかと聞いているのですよ?」
ヤマト国はお世辞にも民度が高いとは言えず
一部の貴族や商人、財を持つものと
一般の民との格差は大きく広がり
物乞いの絶えない国となってしまっているのです。
とくにこちらは
二大名家のもうひとつ、
イザナミ家の領地内。
アマハラ家の領地内はまだしも、
イザナミ家の内政はお世辞にも
良いとは言えない環境でした。
ここの港から船に乗ってしまえば
隣国であるナーロッパ諸国へたどり着けます。
しかし……!
「ムギ様!船へ向かいましょう……!」
「アヤ。今すぐこの者達に
食事と宿の手配をしなさい。
今着ている服以外の先程買った服は
全て返却して用立てをするように」
「ムギ様!お気持ちはわかりますが……!
そんな付け焼き刃では
根本的な解決には至りません!
全てを救うなどキリがない所業なのです……!」
「今、この目の前で苦しんでいる民を
わたくしは知らぬ顔で船に乗ることなど
できません。アヤ、すぐに用意しなさい」
「……はい!かしこまりましたムギ様」
「主様♪了解だわんっ!」
大きな荷物を持ったハクはその場で
荷物を下ろし、先程買った服を
裏路地の民に配布を始めました。
「はぁ……一番恐れていたことが……」
アヤメは長年仕えているこのツムギの性格を
よくよくわかっています。
困っている民を目の前で見て
このお方が黙っているはずがないのです。
ただ、今は、ハクのこともあります。
無事に国を出ることを優先したかったのです。
持ち金のほとんどを物乞いや家無しの
よく知らない領地外の民のために
最初の町で使い切るという
愚行とも善行ともとれるツムギの行い。
一行は港町の民へのほどこしをこれでもかと実行。
案の定、著しく目立ってしまったのです……。
遠目から一行を見る男たち。
「……何者だあの3人?」
「すぐイザナミ家に報告を」
「どこのお人好し貴族だ?」
「1人様子がおかしいぞ?」
「まさかアレ、獣人……?」
「おいおい、このまま船に乗るんじゃねえか?」
「逃がすかよ?すぐ人を集めろ」
「こりゃとんだ儲け話になりそうだぜ」
さてさて、稀代のお人好し令嬢である
ツムギ一行は無事に出港できるのでしょうか……?
――さて、ここでひとつだけ
種明かしを。
授名スキルというものは
名付けをすることにより
存在を確立させ、
命を吹き込み、
進化の可能性を付与するスキル。
それぞれ進化の過程は違えど、
その名を与えられたものを
擬人化させたり、進化させる事ができるのです。
当然、本人も、アマハラ家も
ただ動物に懐かれるだけのスキルだと
勘違いしておりますが
実はこのスキル、無限の可能性を秘めた
規格外のスキルだったのです――




