1話 お気楽令嬢の旅立ち
ここは神の国と呼ばれる島国ヤマト。
ヤマト天皇を支える二大名家のひとつ、
アマハラ家には三男四女の兄弟姉妹がおりました。
その一番末っ子である四女ツムギは
動物が大好きでとても感性豊かなお姫様。
名家の子達は、それぞれ神託が捧げられ
特殊能力を持って生まれます。
長男セイメイには【付喪】。
妖を使役する陰陽師の能力。
長女ヒミコには【破魔】。
結界や呪いを打ち破る能力。
アマハラ家の者たちは
さすが名家に相応しい能力を持っていたのですが
この四女ツムギは【授名】という能力。
名前をつけるとなんと……
動物にとても懐かれるという
なんともゆるふわで脳天気な能力で
家族や周りからもお気楽令嬢と呼ばれていました。
そんなツムギは15歳の誕生日を迎え、
父である当主マサカドにとある打診をします。
――国中の動物と触れ合い
名付けをしてペットにするため
旅に出たいのでございます――
マサカドは家の事は兄姉に任せ、
気にせず気楽に旅をして見識を広めるようにと
旅の許可を出します。
そうして、危険なことはしないという約束のもと、
お供に侍女である剣士兼お世話役のアヤメと
一番長くペットとして飼っている闘犬のハクを連れ
旅に出ることになりました。
ところが、このツムギ姫。
とんでもないお気楽お転婆ぶりを発揮し
それはそれは、とんでもない旅路となるのです。
これはそんなお気楽令嬢とお供の
波乱万丈な旅のお噺でございます……
「海外に行きますわよアヤメ!」
「ツムギ様!?」
「世界中にはヤマトでは出会えない
たくさんの動物がいるとの事!
お父様やお兄様お姉様には内緒で
海外を旅して回るのです〜!」
「……なにか企んでいるとは思いましたが……
まさかそんな事を考えていたとは……
はぁ、かしこまりました……ツムギ様の事ですから
止めても無駄なことはわかっていますが、
本当に、危ないことだけはお控え頂きますよう、
くれぐれもよろしくお願いします」
「さすがアヤメですわ!
アヤメなら協力してくれると思っておりました♪」
「アオオォーン!」
ハクは遠くまでお散歩に行けることに
気づいたのか尻尾をこれでもかというほど
振りまくり主の足元をクルクル回っています。
馬車はさっそく海外へ出るため
港町へと向かいます。
「ツムギ様。海外とはいえ、
ヤマト国のアマハラ家といえば
それなりに名も知れております。
ですので少し偽名を使ったり、
身分を隠して行動をして頂きたいのでございます」
「庶民の旅人のような格好をすればいいのね?
楽しみですわ〜♪あ、名前もわたくしのことは
ムギとお呼びなさい。わたくしもそうですわね?
……アヤメではなく、アヤと呼びますわ♪」
「かしこまりましたムギ様。
港町へ着いたら庶民の服を買いましょう」
「旅人といえば、踊り子の服ですわね!?
ぐふふ……わたくしもついに、セクシーな
踊り子衣装を着て大人の仲間入りを……」
「……絶対ダメでございますムギ様」
「えぇぇぇアヤぽん〜?せめて可愛い服を〜」
「……アヤぽん!?もう、ムギ様ほんと
お立場を考えてくださいませ……」
お気楽令嬢に振り回される侍女アヤメ……
もといアヤの気苦労は
これからの旅を憂鬱にさせそうでしたが
アヤメはこのツムギの母にもお仕えしていた
クロガネ家と呼ばれる武家の一族。
母の代から絶対の忠誠を誓っております。
母はまだツムギが5歳の頃に
早くも亡くなってしまいましたが、
それ以降アヤメはずっとこのツムギに
仕えているのでございます。
ワクワクが止まらずちょっとヨダレを垂らしている
ツムギを横目にアヤメはため息を着くばかり……。
そんな道中
「アオオォーン!」
突然ハクが遠吠えをはじめました。
「ムギ様!隠れてくださいませ!
魔物でございます!」
馬車の荷の中に身を潜めたツムギ。
町の外には魔物が現れます。
ツムギは授名というお気楽能力しかない上に
戦闘のセンスはまるで無し。
しかし、このアヤメはアマハラ家の中でも
五本の指に入る剣豪。
そして、ハクは闘犬として
近場の魔物程度は軽く狩れる
最強クラスの番犬。
ヤマト国内を旅するくらいならば
このアヤメとハクを連れていれば
難なく無事に帰還できるレベルなのです。
現れた数匹の狼の魔物をいとも容易く
ハクは制圧。アヤメは出るまでもなく
無事に魔物を退けました。
しかし
ここで、不思議なことが起こります。
改めて今回旅に出て
魔物を狩り経験値を得たハクは
自身の身体に変化が起きたのです。
「どうしましたのアヤぽん?ハクは!?」
「あれは!?ハクの様子がおかしいのです!」
「アオオォーン!!」
ハクの身体は光り輝きその巨体はみるみると
二足歩行の人間のようになってしまったのです。
愛し愛されて育てられた動物は進化を経て
獣人となることがある。
この世界でまだ解明されていない
動物の進化のひとつである獣人化。
まさにそれが今起きたのです。
白い闘犬はケモ耳ふさふさの獣人と化し
周りをキョロキョロ見回しています。
「ハク!」
「ハク!!」
「……わん?」
馬車を飛び出したツムギとアヤメは
ハクの身体を確認する。
「ムギ様!これは獣人化!」
「きゃわいい〜〜♡ハク〜♪」
もふもふ!もふもふ!
「主様っ!アオオォーン!!」
「おわぁ!ハク〜!?」
「ハクが喋ったぁぁぁ♪」
ひとつの町に着く前にさっそく
事件が勃発したお気楽令嬢一行。
前途多難な旅は
こうして、始まったのでございます……




