049「屍竜が空を泳ぐ頃」
〈二〇二五年 七月二十九日 御加実電鉄本線〝ダンジョン〟〉
「────っ、思ったよりおおい」
フードの魔法少女たちから逃走に成功したレイたちの前に、またもやフードの集団が現れる。
十人ほどのフード集団、さらにそれを取り過酷数十ほどの人形兵たち。
もし仮に、あのフード集団が、魔法少女たち並みに強いのなら、この場では勝ち目はない。
「──流石に引いた方が良い!!」
ノワ子が、レイに対してそう叫ぶ。
退く?どこに?そうレイの胸中に疑問が浮かぶが、今はそれどころではない。
この三人をこの集団から守り通すことすら至難なのだから。
「あちらに出入り口のようなものが!!あそこまで、向かいましょう!!」
大声で叫ぶセバスチャン、混乱しているレイをどうにか落ち着かせようと躍起だ。
そして、セバスチャンの指した方向を見ると、少し小さな出入り口が百メートル程先に在った。
「ん、了解」
瞬時に襲い掛かって来た人形兵を殴り倒す。
背後、側面と波のように押し寄せる人形兵を即座に対処する。
ノワ子たちはセバスチャンに任せて、あのフードたちへの牽制を行う。
だが、自信満々と言った風に出てきたフード部隊は、何故か人形兵を壁にしてこちらを静観するのみ。
さらに、一歩、波を切り割くように詰める。
四方からの同時攻撃を跳躍して回避、それを予測し、空中に投げられた瓦礫を拳で叩き割る。
着地を狙った人形兵を、身体を逸らし滞空時間を遅らせ、タイミングを外して顔を足場にする。
八艘飛びの如く、人形兵の頭から頭へと乗り継ぎ、フード部隊へと迫る。
無論、頭はただ動いているだけでなく、こちらを狙って拳が差し出されていく。
背後から飛んできた瓦礫を屈んで避け、負けじと跳んできた二体の人形兵はタイミングを合わせて顔面に足を叩きこむ。
瞬時に、八艘分の人形兵を跳び終わった少女は────人形兵の前に降り立った。
『──────』
一人が、こちらに向かい拳を差し出す。
同時に、幾人かが背後から拳銃を持ち出し、誤射も構わず発砲する。
無論、【空想現界人】にとって弾丸は脅威ではないが、その弾速は普通の十倍ほどの速度であった。
何らかのアイテムだろうか、そんなことを思いつつ、拳で弾丸を跳ね上げる。
正確には逸らして、跳弾させる。
と同時に、こちらに迫る拳を掌で逸らす。
続けざまに、蹴るようにフードの一人に足をかけ、転倒させようとし……
だが、その軸足でもない梃子の原理を利用し、重心を完璧に見抜いた完璧な一撃を受けても、フードはびくともしなかった。
「──────ッ」
咄嗟に、全速力で後ろに跳ねる。
ゼロコンマ数秒前に居た所に、弾痕と数十の刃が振り下ろされていた。
──────硬い、そうレイはフードたちを判断しつつ、こちらに群がる人形兵に対処する。
武器は、銃に剣に、薙刀に様々……だが、おそらく全員が大樹のような硬さと重さを誇っているのだろう。
何より、姿を隠しているのもそうだが、おそらく彼らは敵の主力部隊だ。
そう、レイの戦場で鍛えられた第六感が言っていた。
ここまで、レイに追撃を与えにきたフード部隊はいない。
つまり、ここで、突出して無闇に怪我を負わされたくないという判断のもと、私の手札を見ているのだろう。
──────リティアは使えない。
ここでリティアを切れば、後々対応されやすくなる。
そして、リティアの魔力も温存したい。
レイの魔力は膨大だが、その従者たる彼女はそうではない。
そう、一つ一つを判断しながら、人形兵の猛攻を涼しい顔で回避していく。
ちら、とノワ子の方を見る。
レイはどうやら、囮を上手くできたようで、ノワ子たちは既に出入口の近くまで行っていた。
あとは、キキョウたちの奮闘如何で優勢が決まるであろう。
──────そう、判断をしたレイはさらに遠くにいる……白塗りの道化師を視線に映した。
◆◇◆◇◆
「──────っち、面倒だなぁ、魔法少女ってのはよ!」
蒼穹を仰ぐ、飛翔戦闘は、苛烈を極めていた。
機械の鷹へと姿を変えた機械猟犬を駆り、宙空を舞うキキョウ。
それを支えるように、フレイアは炎を纏った精霊をキキョウに付ける。
自身は少し小ぶりな鷹に立ち、ゆっくりとキキョウの周りを旋回し、魔法少女たちに魔術で迎撃していた。
そんな二人を前に、魔法少女二人組も負けじと、連携を発揮して彼女たちに追いすがる。
少なくとも、両対の戦いは拮抗し、さらに白熱していくのだった。
「──────《炎塵矢の如く》」
フレイアは、自らの言葉を炎と化し、飛び回る魔法少女へ炎矢を飛ばす。
圧倒的な速度で放たれたそれは、彼女たちを追尾し、障壁に阻まれる。
「む、無駄ですよ!!」
「そうそう、いい加減抵抗は辞めてほしいな!」
息の合った連携で、キキョウの鷹を追随する彼女たちを妨害するために放たれた矢は、しかし時間稼ぎにしかならない。
されど──────
「────ハ、こっちはクソチート無敵野郎を倒して来たんだよォ!!」
瞬時に、爆炎が二人を覆いつくす。
機械猟犬の《飛翔役》に備え付けられた、対空ミサイルだ。
フレイアの矢に合わせて放たれていた爆弾が、連続してバリアへと叩きつけられる。
「──────っ」
「ああ、もう火薬臭いっ!!」
しかし、罅が入っただけのバリアは治ってしまい、距離を取られる。
そして、反撃とばかりに撃たれたレーザーと銃弾は、炎の花を展開した精霊に迎撃される。
「罅は入ったなぁ……フレイア、もっと強い奴だ!」
「わ、分かりましたわ!《灰よ、熱となれ、焦がすは執炎なりや》」
フレイアの周囲に火花が集まり、炎を化す。
巨大な数本の炎の塊は、即座に槍の如く少女たちに高速で放たれる。
だが、高速で放たれたはずのそれを、いとも容易く回避してしまう二人。
だが、それに追いすがるように、回避された炎たちはこれまでの一撃とは一線を画す追尾性能で彼女たちを補足する。
「──────おいおい、魔法少女ってのは芸がねぇのか?」
炎と同時に、こちらを追尾するのは炎だけでなくキキョウが駆る鷹も同じだ。
あまつさえ、『撃墜狂』が駆る機体、それは炎を遥かに上回り、魔法少女へと接近する。
「──────そっちこそ、調子に乗らないで!!」
「芸が無いかは、倒し手から判断してほしいなぁ!ま、無理だろうけど」
弾幕に次ぐ、弾幕がキキョウへと降り注ぐ。
炎の塊など眼中にないかの如く、キキョウへの一点狙い。
何より、ここにきて光線の魔法少女が、手榴弾を使ってきた。
ピンク色の炎をまき散らす小さな玉は、キキョウの頭上で炸裂した。
「──────っ!?」
そして、ここで銃弾の魔法少女も、とっておきを披露した。
銃弾と銃弾がキキョウに追尾したのだ。
直線に放たれる弾丸が、あり得ない挙動をした。
否、それは弾丸同士の跳弾である。
炎の精霊たちの盾の合間を掻い潜るようにそれは、金切り音を立てて、キキョウへと迫る。
切り札の二重開帳、ここにきて逆転のための一手はキキョウには読めなかった。
「逃がすとでも?」
さらに、鉄塔のように折り重なった弾丸の軌跡は、上に逃げるキキョウを鳥かごのように囲い──────
「──────これで、終わりです」
そして、追い詰められたキキョウに真下から極大の光線が撃ち込まれる。
眩い輝きを放ち、それは鷹とキキョウへと着弾し──────
────瞬時、弾丸の魔法少女は違和感に気が付く。
あの追尾してくる巨大な炎たちが、視界から外れていたことに。
さらに言えば、キキョウはどうして上に逃げた?こちらから追撃しやすい場所に。
下の方が、こちらの視線を切り、反対側に回り込むなどすれば──────
──────そこまで、考えた瞬間、目が合った。
誰に?
こちらをその切れ長の、刃物のような目で切り割くように見るキキョウと。
至近距離で、牙が届く範囲に来たことを喜ぶ獰猛な肉食獣の笑みで、彼女は二丁拳銃を手に携える。
身震いするが、身体は反射的に動き、瞬時に、対応しようとする。
だが、さらに下から凄まじい衝撃が彼女たちを襲った。
炎の柱、それも数本が束ねられたそれが、死角であった下から一気にこちらを、突き刺したのだ。
「──────へ、調子に乗ってたのはお前らだったな」
銃弾の魔法少女は気が付く、彼女は自らの機体を解除したのだと。
そして、小さな少女の身になった彼女は、弾丸の鳥かごと極大のレーザーの合間を縫って落下したのだ。
上に逃げた理由は単純、下に待機させた炎の柱に注意を向けさせないため。
《拳銃役》の奥の手である、爆破する弾丸が魔法少女たちの障壁を砕く。
既に、炎の柱の衝撃が入っていた彼女らを守る盾は、爆炎の連打によって見事打ち砕かれる。
「──────フレイア!」
「────《鳴らせ、歌え、撃鉄せし炎靴》」
そして、頭上からは攻撃態勢に入ったフレイアが、炎の靴を纏い彼女たちに蹴撃をくり出していた。
そして、光線の魔法少女は予想外過ぎる出来事に硬直するしかなく──────
「──────チ」
一つの舌打ちと共に、それは起きた。
ぐらり、とフレイアの視界が揺れ、彼女の体が横に落ちた。
ありえない挙動を取ったフレイアは、咄嗟に旋回しどうにかその場に留まる。
「──────っ?なんだ!?」
キキョウも何が起こったかは分からなかった。
だが、魔法少女たちが何かしたのは明らかであり──────
「良く分からないけど、助かった?」
「と、ともかく……先にあの鳥を迎撃しようか!!」
だが、二人は素知らぬ顔であり、本当に何が起こったか分からない顔であった。
それでも、確かにこちらの渾身の策と、切り札を打ち砕かれたのだ。
「──────クソ、俄然不利じゃねぇか……」
そして、キキョウは撤退も視野に入れようとしたとき──────
「──────き、キキョウさんッ!!?後ろ、後ろ!!」
「あ?──────って、おわぁッ!!!?」
そして、フレイアが、少し遠くから必死そうに語り掛けてきた。
それに怪訝そうに眉を寄せ──────背後から迫った牙を咄嗟に回避する。
バサバサ、と空気を掴んで飛ぶその威容は、一目見ただけでキキョウを理解させる。
キキョウの駆る鷹は翼はあるが、エンジンで飛んでいる。
目の前にいるのは空想上の存在であり、竜であった。
だが、それに鱗は無く、翼の皮膜もなく──────肉もなく、目すらなく、窪んだ黒い穴は何も映してはいない。
「──────敵を、コロス」
そして、さらに竜、厳密にいうのならば飛竜の上に人が乗っていたのだ。
飛竜に騎乗する男は、その無情で無機質な声色で、ただそう殺意を口にしたのであった。
◆◇◆◇◆
──────突如現れた飛竜と、それに乗る虚ろな表情の男。
「────クソッ、次から次へと……!」
明らかに悪くなり続ける状況に、キキョウは舌打ちしつつ辺りを見回す。
レイ、セバスチャンの陸上組も、また別口の敵──恐らく改札前で襲ってきた人形兵であろう。
だが、人形兵を壁に不気味に佇むフードの集団もいた────そして、何より。
「──────白塗り野郎ッ!」
レイから見えないさらに背後、上からようやく見えるのは、あの時に駅に居た白塗りの男であった。
ここからでもわかる、寒い薄ら笑いを浮かべる姿にキキョウは全身の血が沸騰した感覚を覚える。
奴が、なぜここにいるか。
どうして、キキョウたちをここに招待したのかは分からない。
だが──もし、ここで彼を倒せば…………
「──────あ、危ないですわ!?」
「……油断、ですっ!」
「馬鹿、見え見えの誘いに乗んじゃねぇよ?」
瞬時に背後から迫る魔法少女を横目で確認し、丁度のタイミングで急制動する。
油断でないことを証明された、少女はさらに追撃しようとする。
「──────こ、ここおおこおここ、殺すうゥ!!」
呂律の怪しい男と飛竜がさらにその間に入り、キキョウへと牙を突き立てる。
──────余計なことを、とキキョウは舌打ちしつつ、魔法少女に向けていた照準を飛竜に移す。
「──らァ!」
放たれるは、轟音の爆炎。
キキョウの放ったミサイルは飛竜へと全弾命中、その脅威の当て勘にフレイアも舌を巻いていた。
「────撤退、撤退だ!フレイアッ!!」
──────爆音が収まり、爆煙煙る中で聞こえたのはキキョウの指示。
「────ッ、分かりましたわ」
「逃がすとでもッ!?」
「に、逃がしません!」
その指示の通り、フレイアはレイの元へと合流する。
当然、銃とステッキの魔法少女たちはそれを阻止せんとするだろう。
空中戦で一番厄介なのは、敵から逃げることが難しいこと。
無論、それはキキョウも理解している。
「──────何度も言うが後ろだぜ?」
そして、背を向けて逃走を図るキキョウは、そんな見え見えの……だが、何度もハメられた魔法少女たちなら分かる符号を口にする。
「「──────ッ!?」」
「──────ア`゛アアアアアぁッっ!!!??」
背後を見た魔法少女たちは、迫る飛竜に目を剥く。
キキョウが理解したことは単純、この飛竜と魔法少女たちは完全に連携が取れているわけじゃない。
むしろ、特に飛竜は連携など到底出来るような状態でないということ。
それさえ理解できてしまえば、飛竜乗りと魔法少女たちが邪魔し合うように誘導することは容易い。
「──────ッ」
「……っ、まっ──」
突然のことに気が動転した光線の魔法少女は、飛竜に攻撃をしてしまう。
銃弾の魔法少女の静止虚しく、飛竜の頭に光線が刺さる。
「──────ま、恨むんならその戦闘経験の浅さを恨むんだな?」
「……何というか、キキョウさんって少女相手でも容赦ないんですのね?」
その頼もしくも、恐怖を覚えるドヤ顔に若干苦笑いしつつ、争い合う両者を抜けたフレイアであった。
◆◇◆◇◆
「──────さァて、なんだか上は面白そうだねェ?」
レイたち、キキョウたちの激闘を対岸の火事の如く飄々と観戦する白塗りの男、彼の名をハーメルン。
【空想現界人】であり、彼らの中でも上澄みであるハーメルン。
ただ、彼はただその戦況を見守るだけ。
例え逃げられても問題ないとすら思える余裕を湛えた笑みは、その全てを容認している。
「──────天使の試運転には、丁度いい。もう少し粘ってくれれば、合格だよ」
すべてを飲み込むような笑みで、白塗りの魔人はベンチに座る。
そして、それでも揺るがぬ有利を啜るように、舞台を眺める観客は嗤う。
〈Tips!〉
・飛竜と飛竜乗りについて
一対は生まれながらにして、一つ。
世界は彼らを離さず、例え死したとしても。
それでも、残された者がいる。
それは、きっとすべてに守られたものである。
暗闇の中で、静かに息をひそめる。
されど、竜と男は主の命を守る操り人形。
誰にも知られず、彼らは朽ちていく。




