042「同時多発的敵対」
「────い、」
────微睡の中で、語りかけてくる声が聞こえた。
その煩わしい午睡を遮るような声は、少しづつ大きくなっていく。
まるで、その全てはが私を責め立てるように、それは波となり私を流す。
それでも、答えなければならない。
自身がどれほど傷つこうとも、どれほど辛く、暗いことが待っていると分かっていようと。
「────ろ、────い」
それは、覚悟だった。
少年が示し、そして私が手に取ったもの。
理不尽に抗い、暗雲を晴らし、自らの欲を満たすために。
そう、これが初めて、少なくとも前の世界でそうだったことはない。
だからこそ、彼の示した道を、私が切り開かなければならない。
「──きろ────い──やく」
だからこそ、私は刃にならねばいけない。
敵の喉元に突き立てる、鋭利なそれに。
────だが、ここに来て……私の過去が取り立てる。
渡されたはずの青年の記憶、感情が……私を責め立てる。
彼は許すだろう、そもそも彼自身は責め立てているわけではない。
私の穢れを、私の鮮血を、それらが責め立てる。
何とも思わなかったはずなのに、誰からも見られなかったから、そうしていただけなのに。
────だが、見られてしまった……彼に?いいや違う。
そう、知恵の実を食べてしまったイブは、天国には居られない。
否、天国と思っていた場所が、途轍もない牢獄で地獄で、そこにいた私は……
────そう、見ていたのは私……もっとも近くにいる彼の感情を受け取った私。
だからこそ、もう……清廉な彼の袂には────
「────い、レイッ、早く、いい加減に起きろ!!」
目を開けると、キキョウが居た。
なぜだろう……初めて、彼が居ないことに安堵している自分がいる。
そのことに、私は困惑していた。
◆◇◆◇◆
〈二〇二五年 七月二十九日 御加実市 ???〉
「起きなかったら、どうしようかと思ったぜ。銃弾ぶち込む判断取らなくて正解だった」
「……ぎりぎりせーふ」
そう、私の襟をつかんでいるキキョウが言った。
確かに、キキョウならやりかねない。
まあ、本当に目覚めない場合はそうしてほしいくらいだったが。
「ともかく、どうやら計らずしも、敵陣に着いちまったみてぇだ」
『ああ、どうやらそのようだ。周りを見るに君とナギトが言っていた。駅空間に酷似している』
リティアもいる。
そして、周りを見回すと、先ほどと同じ、けれどどこか違う無人の駅が広がっていた。
私とキキョウはそれに停車している電車の車内に居た。
「ったく、ありがてぇとはいえねぇ」
「たなぼた、じゃないの?」
『ああ、レイ。目下の問題を上げてみれば自ずと分かるだろう』
そういい、リティアは私に問いを投げる。
問題、そう言われると確かに問題だらけだ。
「ナギト、がいない」
「まぁ、それはともかく、さらにヤバいのがノワ子とリョウコ、んでアキサの一般人三人組が居ねぇことだな」
『半分は正解だ。もう半分はキキョウの通りだ。その言い方だとナギトが反目しそうだが、問題は三人の非戦闘員、それも一般人を抱えて敵陣に来たという事だね』
長々と語ってくれるリティア、確かにナギトが居ないだけでなくノワ子たちも居ないことが一番だ
私としては前者の方に目が行きがちだが、確かにナギトなら猛獣の居る森とかでもケロッと帰ってきそう。
「んで、リティアさんよ?お前の目から見て、ホームはどうだ」
『罠の類はない、とだけ。けれど、私の探知も万能ではない』
「なら、私が最初に行く」
どちらにせよ、リスクはある。
ならばよりタフな私が矢面に立つべきだと思い、ホームへと降り立つ。
「────おい、その意見には概ね賛成だけどよ、一応聞いてから行動してくれ」
「ん、わかった」
「本当に分かってんのかよ……」
生返事に眉間を押して、ため息をつくキキョウ。
そして、そのままキキョウも私の後からホームへと足を運ぶ。
どうやら、罠などはないらしい。
「────なるほど、妙な感じはねぇな。即死トラップでもねぇ……てことは」
『ああ、ここを作ったものが、私たちをハメ殺す目的ではないことが分かる』
そうか、確かに。
私も、はっきりとは分からないが、何となく殺気が無いとは思っていた。
先ほどの軽率な行動も、一応はそれがベースだ。
「リティア、ここがどんな場所か分かるか?」
『…………そうだね、この感じは【ゲーム】空間だ。現実空間と繋げられるのは驚きだが、どうにも違和感がある。まだ、何とも言えないが』
辺りを見回したキキョウがそう問いかける。
リティアが判明したことを口にする。
だが、厳密にここがどこか分かったわけではなさそうだ。
見た感じ、空の色以外は他の駅と変わらない見た目だ。
そう、分析していると……
「────あ!また、お客さんだ!?今日は大漁だね?」
幼い声が一つ、背後から聞こえてくる。
そちらを向くと、可愛らしい軍帽に車掌のようなコートを着ている少女が居た。
中に来たセーラー服とスカートは、中学生を思わせるが本人の見た目的に小学生高学年くらいだ。
「んー?あれー、なんだ雑魚は居なさそうだね」
「随分一方的に話すな、ガキんちょ?」
「ぷぷ、私の背丈とおんなじくらいの人に言われたくないよーだ」
出鼻から喧嘩を売っていくキキョウに、少女はきっちりと返す。
「ああん!?これは、その…………そう、色々あって、だ!アタシは二十歳越えてんだぞ!?」
「もう、そういう言い訳はいいから……ともかく、ここから出るならあっちからだよ?」
そう、顔を真っ赤にして必死に言い訳するキキョウに、意外と大人な対応をする少女。
その反応的に、ここがどこで、何かを知っているようだった。
「ここは、どこ?あなたは?」
「んー、まあそう焦んないで。歩きながら話そ?」
そういうと、少女は翻り、ホームを歩き始めた。
彼女が先頭を歩くことが、一応は裏がないという意味であるのだろう。
「分かった、大人しく着いてくが、妙な真似はするなよ?」
「それはオネェさんたち次第かな~?私には敵意がないよ!」
怪しい、とはいえ確かに敵意を感じないことも確かだ。
そして、目配せし合った私たちは、軍帽の少女についていくことになった。
「私の名前はねーマナナっていうんだよ?」
「私はレイ」
「アタシはウルフガンだ」
……………………あ、偽名か。
そう、目線を向けるとキキョウが、凄い嫌そうな顔をした。
あ、目線を向けると偽名だって疑われるか。
私も偽名にすればよかった、ロックマンとか……カッコいい奴。
記憶がカッコ悪くね、それ?と言っているがそれは無視する。
「…………んで、ここはどこでお前はどういう役割なんだ」
「そだねー、ここはお客人をもてなすとこで、私はお客人の案内役かな~?」
嘘じゃないけど、途轍もなく怪しい。
こういう人は、嗅覚の鋭い人間を騙すために、嘘でも本当でもないことを言う。
そうでなくとも、ナギトとキキョウは一度あの白塗りの人と会ってるから、疑うのは当然だろう。
「じゃあ、黒髪の……眼帯をした女の子、見なかった?」
「────っ」
そう、私が問いかけると、キキョウが息を呑んだ。
言って、気が付く……私はとんでもない間違いを犯したのかもしれない。
何か分からないが、勘がそう言っている。
「…………んー、知らない」
そう、何のけなしのいうマナナに、安堵する。
ともかく、大丈夫そうだ。
テレパシーとかがあれば、キキョウから色々聞き出せるのに。
「…………んで、結局ここがどこか。詳細を教えてくれよ」
キキョウは疑いの目を向けるように、そういう。
すでに、駅のホームは終わりに地近づき、出口へと降りる階段へと差し掛かっていた。
「えー?私はただの案内役だからなぁ。雇い主からは何も言うなって言われてるし、ここから出れば分かるんじゃない?」
「んじゃあ、もしお前を振り切って反対方向に逃げればどうなる?」
「それでも、ここから出られないだけだよ」
キキョウは警戒心マックスなようだ。
私は別にそうでもない。
彼女に殺気がまるでなく、強さもそこまで感じないからだ。
言動の怪しさはともかく、それほど警戒対象でもない。
「どうだか。この空間にいる以上お前は……」
「──────っ?」
そう、言いかけたキキョウだが、少女がピクリと止まる。
まるで、彫像のように動かない少女は、それでもここでないどこかを見ているようで。
そして、少女はこれまでに見なかった、歪な笑みでこちらへ笑いかける。
「──────んー、そうだねぇ。眼帯の女の子、探してるんだよねぇ?」
その言葉を放った瞬間、私の目に殺意の塊が現れた。
◆◇◆◇◆
「──────やはり、裏切り糸目関西弁キャラだったのか!」
一方、別のホームでは車内から出た三人組が、話をしていた。
そして、眼帯の美少女、安定のゴスロリ衣装を着ているノワ子が、話に上がった秋紗を責め立てていた。
「ま、待って~?カナっち、今はそんなこと言ってる場合じゃ…………」
「なら、この状況をどう説明する!ここまで、散々電車に乗って来た。だが、貴様と一緒に電車に乗った時だけ、ここに来た。すでに状況証拠は揃っていると言っても良いのではないか!?」
ノワ子は義憤に吠える。
ナギトの善意を利用して、それを裏切ろうとしたものがいるのであれば、自らのちっぽけな恐れなど踏みつける覚悟があるのだから。
「そりゃごもっともや。けど、本当に裏切るなら手緩いんとちゃう?家に、招いて毒でも盛った方が早いと思うけどな」
「それは目的によるではないか!この状況にせねばならない動機なぞ、いくらでも思いつく!」
「なら、逆に私が濡れ衣着せられてる状況も、いくらでも思いつくやろ」
バチバチ、と火花を散らす二人。
だが、正直ノワ子は喧嘩など、口喧嘩すらしたことはない。
だからといって、退くなどありえないのだが。
「──────ううん、カナっち。私は、秋紗先生が裏切る人とは思えない。従妹の言葉が、貴方ととても長くかかわって来た肉親の一人の言葉を信じられない?」
「──────それは」
そう、だがノワ子とて、今は居なくなったナギトやレイのことで混乱していた。
だからこそ、その元凶がいるならと、焦って糾弾していた。
「…………まあ、今は信じるほかないか。妾とて無闇に攻めるのは本意ではないからの」
「分かってくれて助かるわ。ま、結局ヤバい状況なんは変わりないけどな」
そう、秋紗の言葉通り、状況は刻一刻と悪くなる。
ここにいるのは非戦闘員、それも運動不足の漫画家二人とオカルト部一人。
「そうね、結構マズいことになって来たけど、どうしよう…………」
「ノワ子ちゃん、実は眼帯外したら秘めたる力発揮出来たりせぇへん?」
「ふ、妾は箸より重いものは持てん」
と、キメ顔を浮かべるノワ子も、頬から冷や汗を流していた。
実際過去の〝イベント〟でも、レイが居たからどうにかなったのだ。
ここにはキキョウもレイも、そしてナギトもいない。
「──────誰か来るなぁ、話し声からして二人か?」
すると、秋紗がそう口に出す。
そういわれて、ノワ子は耳を澄ましてみる。
「──────ねぇ、確かに。ここって、凄い空間ですわよねぇ」
「アハぁ、そうかもぉ、アタシはとぉっても凄い車掌なんだからぁ!あなたこそ、話の分かる魔術師じゃないのぉ!」
女の人の声が二人分聞こえてきて、困惑するノワ子。
そして、同時に焦りを覚えてしまう。
「どうする、隠れる方がいいとは思うがの?」
「いいや、バレん確証はないやろ。むしろ、隠れて見つかった時の方が心象悪いで」
確かに、そう心の中で同意したノワ子は、気に食わないので口を閉ざした。
そして、徐々に、声の主はこちらが視認できる距離まで近づいてきた。
どうやら、こちらと同じ三人であり、一人は声を出さずに後ろにいたようだ。
そして、三人はこちらを認識したと思われる表情を浮かべる
──────そして、ノワ子も遠目から出なく、はっきりと相手の姿が分かる。
一方は、赤髪の女性で、その衣服は黒と金を基調にした豪勢な一張羅であった。
貴族を思わせるその散り一つ、皺ひとつない金の星空のようなコートとズボン。
そして何より、その燃えるような瞳と凛々しい顔立ちが、彼女の貴き血を表しているようであった。
後ろにいるであろう人は二人に隠れていて、姿までは良く見えない。
そして、もう片方の少女は軍帽にセーラー服、そして袖を通さずに車掌のようなコートを羽織っていた。
「──────あら?あちらの方も……セバス?」
「…………ッ!お嬢様ッ」
「──────アハぁ!やっぱり居たじゃん、雑魚ぉっ!!」
そして、赤髪の女がそう言いかけた瞬間、先ほどまで柔らかい笑みを浮かべていた少女は、突如その顔を狩人のような険しいものへと豹変させる。
凶悪な嗤いを浮かべた少女がそう言い放った瞬間、ノワ子の目の前は電線に埋め尽くされた。
バチバチと、放電し塵が焦げたような香りがノワ子の鼻孔をくすぐる。
その攻撃を目で追う事などノワ子には当然できない。
迫る、電線の波を目に入れることすら──────
──────ガコォン、という固いものが遮られたような音が、耳朶を打つ。
「────邪魔しないなら見逃すよぉ?」
「────よ、よく分からないのだけれど、無辜の民を傷つけるのであれば……貴方は敵ですわ」
真っすぐと伸ばされた電線は、燃え盛る炎が形を成した壁に遮られていた。
そして、邪悪な少女と真っ向から対立する赤い髪の女、魔術師である彼女は……その信念で燃える緋色の目を目の前の敵に向けるのであった。
〈Tips!〉
・双子について
この双子は、怪談である駅に迷い込み、取り込まれた元人間の怪異。
原作では、車掌として主人公たちを恐怖の底へ叩き落としたが、【空想現界人】となった今は恐怖は半減し、本人たちも自身の暇つぶしと称して遊んでいる。
某きさ〇ぎ駅的なやつ。




