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036「異界の孤児院」


──────前回までのあらすじだぜ。


 ふふ、今回からあらすじを担当するカギンだ。

 あ?誰だってぇ?俺様だよ、あのストーカー話に出てきた奴!詳しくは023「ハイド&ハイド」を参照だ!忘れてただって?それも俺の能力の一環だぜ……たぶん。

 ともかく、あらすじだ。

 中学時代ヤバい系高校生間下部凪斗は、なんやかんやあってレイを助けてしまい、契約を結んでしまう。その影響で魂が吸い続けられてしまう。そんな中、突如【ゲーム】にご招待だ。〝イベント〟に【ゲーム】を抜けるヒントを探しに行くことに。空飛ぶ女怪盗、鎖野郎、銀狼などなど様々なイカレ達との出会いと、別れ。そしてレイとノワ子が軍服ロリコン男に連れ去られちまったぜ。ついでに拾ったうぉ、でっっっ……なシスターと共に後を追ったナギト。そして、別のエリアに降り立った彼はキキョウと出会うことに。ナギトは誤解されつつ、なんやかんや彼女と和解してレイ探しに向かう。そんな中デカいサメや狩人?五人衆やらを蹴散らす。ここは俺様も登場するぜぇ?そして向かうはレイの元。ピンチになっていたレイと子供たちの元へとついに合流するナギト一行だった。そんな感動の中、魔術師たちも合流し、自体は混沌へ。様子のおかしいキキョウを説得し、意気揚々と軍服男と対峙するナギトとキキョウ。そしてついでのように倒される聖教派の二人。なんやかんやあって、ナギトの奇策やら、キキョウの奮闘、最後に美味しいところを持って行ったレイの活躍により軍服男も討伐だ、あそこはすっきりしたぜ。そして、見計らったかのように〝イベント〟は終了、一体どういうことなんだ?ともかく、キキョウとナギト、レイ、子供たちは家路へとついたのであった。影が薄いぞ、ノワ子……この作品のヒロインの座がとられてしまうぞ!?ついでにカギン様のことも忘れるなよ……あ、もうちょっと話させ──────



──────以上、回想終了。



──────以下、第二部開幕。



◆◇◆◇◆


〈二〇二五年 七月二十六日 御加実市 冬条駅 駅前広場〉


 あれから、レイを家に泊めた。

 実は女子を家に泊めるのは初めてだったりするのだが、ともかく妹が合宿に行っていて助かった。

 百パー詰められる、というか他人を家に挙げると不機嫌になるのは、我が妹ながらちょっと気難しすぎる。


 あってよかった冬山合宿…………いや、南半球の外国で登山て中学生の登山部のレベルじゃねーだろ。

 


──────ともかく、俺とレイは一つ屋根の下で寝た。


 無論、何もなかった。

 期待してたとかない、ほんとうに。

 けれど、思春期男子というのは実直な生き物である。


 自分の家で、女子と二人っきり…………何もないはずがなく。

 なんてこともあり得るかな\とも考えた。

 



「……………………まあ、あるわけない。同人誌の見過ぎだぞノワ子」

「まて、とても妾に対する侮辱を感じたぞ!?二重の意味で!」


────が、無論そんなことはなく。

 

 何行前の話を蒸し返しているノワ子はともかく、残念ながらレイとは別の部屋で寝たし、特筆すべきこともないのでカットだ。


 レイが俺の家に泊まった翌日、俺たちは都心から外れた駅前広場に来ていた。

 サービスシーンなどはない、レーティングはちゃんとせねば。


「侮辱はともかく…………どうせナギトのことだ。聖なる乙女の湯上がり姿くらいみたであろう」

「──ぶっ、いやおま、なんで知……いや、ギリギリみてないが?」

 冷静に考えれば普通にカマかけだが、つい動揺して言ってしまった…………計ったなノワ子っ!

 仕方がないので誤魔化しておくが、ほんとうに神に誓って見ていない(無神論者)。


「──何、話してるの?」

 隣にいるレイが首を傾げる。

 真顔なので、攻めてる風にも取られるが、おそらく表情筋が死んでいるだけだろう。


「いや、ノワ子はやっぱり同人誌の見過ぎだってことをな」

「はぁ!?妾が見てるのは陽×凪の文芸部の御禁制生ものBLだがァ!??」

 おい、思ったより触れにくいヤバい話を持ってくるんじゃない。

 何がヤバいってあのオカルト部の『先輩』が関わってる特級案件だ。

 下手に禁止なり、破損させようものなら、全校生徒の前で朗読会が開かれかねない。


「なんで逆ギレしてんだよ。寝不足でテンションバグったか」

「ふ、お母上の膝枕で熟睡してきたわ。たわけがっ!」

 ああ、普通にテンション高いだけなのね。

 しかし、このノワ子を産んだとは思えないほど彼女の母は母性が凄まじい。

 ウチの母親はバリキャリ風だが、どちらかといえば慈愛の女神といった感じだ。

 

「普通にベッドで寝てこい。マザコンかよ」

「ふ、ナギトもぜひ我が御母の膝元で寝てみよ……トぶぞ?実際、陛下も──」

「────いや、それ以上は良い。生々しすぎる。お前の口は立て板に水かよ」

 ちなみに陛下というのは、ノワ子の父の事だ。

 こいつ、仲良くなった相手に隠すということをしなさすぎる。

 距離感バグってるのは元からだが、それでもやはり少し浮足立っているような気がする。

 昨夜の色々のせいだとは思うが、ちょっと興奮しすぎだ。


「あのな、少しは真面目に……」

「二人だけ盛り上がってる。私も混ぜて」

「ふむ、ではレイの母親はどうなのだ」

 おおう、触れにくそうなところを踏み抜くさすがノワ子(地雷スイーパー)

 そこに痺れる、憧れない~!


「…………分からない。気づいたときには戦場に立ってた」

「(思ったより重い空気になって絶妙な表情)あー、なんだ……その聖なる乙女よ、ママと呼んでも良いぞ」

「ママみを腹の中に置き忘れた奴が何言ってんだか」


 そんなこんなしょうもない会話をしつつ、キキョウを待つ。

 普通に早く来てくれ、ノワ子の暴走が止まらん。

 とはいえ、こういう平和な会話をしていれば昨夜の命を賭けた【ゲーム】が夢だったかのように思う。



「────相変わらず、お前らは騒がしいなぁ……一瞬で見つけれたぞ」

 そんなこんな、通行人に白い眼を向けられつつ、ギャアギャア言っているノワ子の相手をしていると、キキョウがあきれ顔で到着した。

 子供の体でも、年季が伺える表情をしている、本人は怒りそうなので言わないが。


「おっす。今日は軍の制服じゃねぇんだな」

「あんな堅苦しいの普段から着てられるか。気合い入れるとき以外は、これだぜ」

 キキョウは胸を張って、服を強調した。

 着崩した夏用のシャツに、少し大きめの腕輪(バングル)

 下は丈の短いダメージジーンズと健康的なスニーカー、夏らしい服装だ。


 ちなみに、乗り物の鍵をくるくると手遊びしているため、夏ではしゃいでる遊び人にしか見えない。


「んー、なんかちょっとオシャレしすぎな気がするのぅ。まるで誰かのために気合いを入れてきたような」

「────なっ、別にコイツは一応恩人だしあんまりだらしねぇ恰好は……ておい、夏にゴスロリ一択の奴に言われたくねぇぞ、コラ」

 何故かバチバチの二人の横であくびをするレイ、ちなみにレイは妹の服を着ている。

 前来ていたレザーの服は洗濯中だ。


「鍵、てことバイクの形態で来たのか?」

「ああ、ちいとゴツいが……この〝栞〟があれば、問題ねぇ」

 ああ、あの時俺たちがもらった、隠匿の栞か。

 確かキキョウの上司が作った奴、これから行くのもそのキキョウの上司の持つ能力で作った空間の孤児院なのだ。


「ん、楽しみ」

「ハッ、特別だ。お前らも《乗手役(ハウラー・ロール)》に乗せてやる」

「四人でも乗れるのかぇ?白バイにしょっぴかれんかの」

「栞があるから、大丈夫だ。もし見つかってもぶっちぎってやるだけだ」

 めちゃくちゃ不穏なことを言うが、まあこの際現実の法律やらは気にしない。

 滅茶苦茶破って来た俺にしてみれば、捕まらなければどうということはないのだよ。


「あの形態、車くらいのデカさのバイクだろ?ちゃんと道交法は守れよ」

「わあってる。てか、アタシは普通に二十六だぞ」

 ああ、見た目やら普段の言動やらでつい勘違いしてしまうが、キキョウはそこそこ年上だ

 『錬鉄のフェアリス』では語られなかったものの、流石に免許とかいう概念もあるか。



「アグリース高の白虎と呼ばれたアタシのドラテクを見せてやるぜ」


 そんな武勇伝語るヤンキーみたいなことを言い始めたキキョウに、俺はやっぱり徒歩で向かおうかなと思ったのであった。


◆◇◆◇◆




「──────やっぱり、母上はショタコン……はッ、ここは!?」

「ちょっとありそうなネタを口走るな。というか、そのネタはやったし、お前の母さんは死んでねぇだろ」


 十分後、グロッキー状態で路地裏に転がるノワ子が、危ないことを口走る。

 あれからキキョウのバイクに乗せてもらったが、飛ばすわドリフト走行するわで乗ったことを後悔した。

 沖縄で暴れ牛に乗った経験が無ければ、俺もノワ子のように彼岸を見ていただろう……ノワ子が見たのは母性の有り余った生霊だろうが。


「けっ、柔い姫様だこった。レイなんかケロッとしてるぜ」

 すっきりした顔のキキョウはノワ子をからかう。

 指さしたところにはスンとしたレイが、野良猫を捕まえていた。


「空想現界人と一緒にされても困るのぅ!貴き地位ゆえ、妾は鉛筆より重いものは持てんのよのぅ」

「なんで、日本の学校基準なんだよ。そこはペンとしとけよ」

 まだ息の荒いノワ子がそう返す。

 この二人は相性が良くないのか、それともただのプロレスなのか……両方か。


「ん、これ飼う」

「今はだめ、そこらへんに置いてきなさい。リティアがいるでしょ、リティアが」

『私はペット扱いなのかい?』

 びよんと伸びた猫を抱えたレイが言う。

 いや、自分がまさかお母さんみたいなことを言うことになるとは。

 レイへの方便とはいえ、リティアには悪いことを言ったか。


「あー、期待してるとこ悪いが、ウチの孤児院も猫飼ってる余裕はない。ガキどもで精一杯だ」

「分かった。リティアで我慢する」

『……もはやツッコみたくはないな』

 そういうと、レイは猫を離し、猫は去っていった。

 キキョウとてポイントはカツカツだろう、俺らの端末やらのポイントを支払ってくれたのだから。


「ふむ、では今度妾のエリザベス二世(犬)を見に来るかの?」

「────行く、絶対に」

 意外とレイは可愛いものが好きなのか。

 まあ、別に動物好きは普通のことか。

 レイの記憶、寝るたびに流れ込んでくるそれは、血を血で洗う戦場での記憶。

 俺も、まさか彼女がそこまで重い業を背負っているとは思ってはいなかった。

 彼女がここで、こうして平和に過ごせている……それ自体が奇跡なのだ。


「とにかく、孤児院に行くぞ。クアリ達とババアが待ってる」


 そんな風に感慨に浸っていると、キキョウが鍵を出して壁を小突く。

 すると、荘厳な扉が壁に浮き出るように現れ、音もなく開いた。



──────扉の中には、洋風の柵で区切られた孤児院が、ひっそりと佇んでいた。



◆◇◆◇◆




「──────いらっしゃいませ。孤児院へようこそ!ナギト様、他の皆さんも!!」


 扉から入り、異様な景色にあっけにとられながら、俺たちは大きな門の前まで来ていた。

 そこで出迎えに来てくれたらしいクアリが挨拶をしてくれた。

 ちなみに後ろにはレイたちと仲の良いルートとカルネもいた。


「…………露骨に盟友だけをヨイショしてないかね?」

「いや、気のせいだろ。俺の方が関わった期間が長いし」

 満面の笑みを浮かべたクアリに、その陽の気にあてられたノワ子あ渋い顔で俺に耳打ちする。

 

「ノワ子、レイ久しぶり……でもねぇか、というかノワ子って本当に結構年上だったんだ」

「ルート、失礼でしょ!あ、レイちゃん、会えてうれしい」

 ルートもカルネも、レイとノワ子の方が関わったから、好意的なだけだ。

 クアリのその満面過ぎる笑みも、たぶん地上に住まう民を慈しむ聖天使であるからであって、俺だけに向けられたものではないだろう。


「カルネ、ルートも昨日ぶり」

「ふふ、我が若見えするということかのぅ!」

 ポジティブすぎる、年齢は十分若いので精神年齢のことを言っているのだろう。

 この少年やりおるわ、ノワ子の本質を見抜くなんて。


「おーし、ガキども久しぶりの外の客だ。たっぷり遊んでやれ」


 どうやら、孤児院には庭もあるらしく、門の中は花壇や芝生もあり幼稚園のような作りであった。

 その中に遊びまわる子供たちが数十人、それが目をらんらんと輝かせていた。


「俺、子供ちょっと苦手なんだが」

「アタシもこっちに来る前まではそうだった。やってたら馴れるし、コイツらも暇してるから遊んでってやれ」

 まさかの命令だった。

 息抜き、というかおそらく本題はキキョウの上司との話だと追ってたんだが。


「よーし!妾と鬼ごっこしたい人ー!」

「ん、負けない」


──────速くも馴染んでいるノリノリの二人を見て、俺は苦笑して引っ張る子供たちの輪に加わるのであった。


◆◇◆◇◆



──────子供の体力を舐めていた。


 否、たぶん彼らもこの閉鎖空間で、辟易としていたのだろう。

 そこへきた久しぶりの来客だ、体力なんていくつあっても持たない。

 というか忘れてたが、この子たちただの子供ではない、小さくても【空想現界人】なのだ。


 故に…………


「……………………お、お兄さんはもうここまでのようだ。後は任せ、た(ガクッ)」


 体力には自信があった筈なのに、開始一時間も経てば膝が笑っていた。

 しまいに二時間で見事ダウン…………うん、完全に子供たちの体力を侮ってたわ。


「おお、逝ったか……盟友。よし、ではお絵かきでも遊ぼう」

「あははー、お兄さん情けなー!」

「僕、お兄さんのお墓作った!」

「派手な葬式やろうぜー!」

 うう、今時の子供は容赦がない。

 そして、棺桶ダンスを踊ろうとするなノワ子。


「ん、じゃあまだ鬼ごっこしたいなら私としよう」

 まだ動きたくてうずうずしている子供たちはレイの後をついていった。

 俺とノワ子は、比較的大人しい子供たち組と孤児院の中へと入った。



「これじゃ、保育士バイトと変わらんな」

「若き苗を導く役目もまた貴族の務めよ」

 そんなこといって、お前も膝ガクガクだろ。

 


「ふふ、なんだかんだと言って付き合ってくれるナギト様はお優しいですね」

「まあ、キキョウの手前、断るに断れなかっただけだ」

 笑顔で、お絵かき道具を用意しているクアリはそう言った。

 キキョウは孤児院内で食事当番らしく、遊んではいない。

 だが、やはりというかたった二人で、この人数を相手にするのは無理らしい。

 なので、年長組のルートとカルネの手伝いもあり、どうにか回っているのだろう。



「ふふ、そういうことにしておきます。ところで、ナギト様は【空想現界人】でも魔術師でもないのですよね」

「すまん、ありがとう……ん?ああ、ただの一般人だ。向こうのノワ子もな」

 休憩がてら、椅子に座っているとお茶を出してくれたクアリに頭を下げつつ、雑談に興じる。

 クアリも、ゆっくりと上品な動作で、俺の隣に座る。

 恐ろしく自然に隣を確保され、お茶も出してもらった……流石、クアリ、聖人クラスの優しさだ。


「────ふ、ついに出すべき時がきたようだな。妾のこの世の真理の書いてある(ノート)を!」

 ふと視線をノワ子に向けると、髑髏が拍子に書いてある黒いノートを取り出していた。

 髑髏って、安直だな…………姫というよりどっちかというと、海賊みたいなデザインだ。


「では、その…………怖くはないのでしょうか?あまり外には出ないので、話に聞く【ゲーム】があんなに過酷なものとは思いもしませんでした。そんな過酷なものに異能も無しにナギト様は何故立ち向かえるのでしょう」

 クアリは切実で、真剣な眼差しを向けてくる。

 彼女も彼女で、先日の経験を経て思うことはあったのだろう。


「別に、立ち向かってはいない、ただ逃げてるだけだ。」

「それは?」

 目を開いて、クアリが近寄ってくる。

 近すぎるが、ともかくそれでも彼女の勘違いは正しておきたい。


「俺は元々、陰気な性格でね。周りの奴らに引っ張られて、ここまできただけで大層な理念やら思想は持ち合わせてないんだよ」

「ですが、あの時のナギト様からは何か強い意志を感じました」

 クアリはそれでも異を唱える。

 確かにそうだ、だがそれは周りの熱に浮かされただけ。


「その通りだ。けど、別になんてことはない理由なんだ。生きるってだけの小さい目的だな」

「生きる…………」

 俺の言葉を聞いて、クアリは神妙に考え込む。

 まあ、そんなに真剣に聞かなくてもいいが、それでも俺はレイのためにも死ぬわけにはいかない。


「だから、俺に荷物を預けてる連中のためなんだよ。大層な理由があって立ち向かってるわけじゃない。ただ、死ぬわけにはいかないから必死こいて逃げてるだけかな」


 そう、それは小さな理由、されど俺にとっては何を犠牲にしても通したい目標。

 レイの傍にいたい、ノワ子を守る、キキョウを放って置けない。

 それらの理由は、あくまで自分が納得して生きるための通過点(もくひょう)に過ぎない。

 そう、それらはあくまで俺の我儘、信念やら理想なんて綺麗な言葉で飾りたくはない。


 だから、俺は細かいことは考えずに、ただ()()()()だけだ。



「…………立派ですね」

「え?そ、そうか?」

 聖人君子じみたクアリには、理解できない生き方かもと思っていたのだが。

 クアリは、俺の言葉を咀嚼し、大事に味わうように沈黙する。


「ナギト様は、今の一瞬を精一杯に出来ることを必死に考えて生きている。これは誰にもできることではないと思います。貴方はたった一人であったとしても折れぬ精神を持ち、不屈に立ち向かうことができる。それは私を救ってくれた時に証明してくれたではないですか」

 そう、クアリは閉目し、ただの賞賛ではなく慈しみの言葉をかけた。

 そんな大層な者でもないが、それでもクアリがそう言ってくれるのなら俺は()()()()()()


「う、まあ他人に頼りっぱなしの駄目な奴だけどな」

 つい、褒められると反応で貶してしまう。

 だが、それを山のように動じぬ笑顔で受け止め、クアリは返す。


「ナギト様は異能すら使えぬ、弱き者でありながら強き者足らんとして、生きているそれは尊いことです。たとえ貴方がどれだけ自分を貶そうと他の者があなたに信頼を置いている……すべてはそれらに帰結します。だからこそ、大事な場面で自身を偽ってしまうのはお辞めください。今は良くても、いつかそれはあなたを蝕むでしょうから」

 まるで預言者のお告げだ。

 だが、有難迷惑なそれとは違い、クアリであるからこそ俺の心にすっと沁みる。


「ああ、そうだな。精々正直に生きてみるよ。ありがとうな、クアリは夫を諫めるいいお嫁さんになるな。そいつが羨ましいよまったく」

「────な!?ええと、それは伴侶?細君?つまり私を…………」

 先ほどの理知的な笑みはどこへやら、言われたクアリは何故か顔を紅くして俯いてしまった。

 あ、やべ、セクハラだったか?怒っているのか!?キキョウに知られたら殺される。



「──────ねぇねぇ、みてー。キリンさんー」

 すると、お絵かきをしていた子供が、クアリに絵を見せてきた。

 子供らしい、良い絵を書いてどうやら自慢しに来たらしい。

 可愛いな、おい。これくらいの年齢の子供って一番かわいいよね(過言)


「あ、はい。とてもいい絵ですね。上手く書けていますよ」

 クアリも冷静モードに戻ったのか、そう微笑んで返答する。

 どうにか怒りを治めてもらったらしい、クアリでもセクハラは流石に怒るよなぁ……



「──────ふ、見てみろナギト。良い出来だ」

「お前も見せに来るのかよ…………てか上手っ!?」

 ノワ子も、自信満々にしたり顔で見せてくる。

 ノワ子が書いていた絵は、プロ並みに上手かった。

 いや、正直結これだけで食っていける絵をしてるのか。


「…………サヴァン的なやつ?」

「色々失礼すぎるだろ、貴様。妾の『蒼極の叙勲』を何たる言い草か!」

 タイトルまでつけてるし、絵画かよ。

 実際絵画レベルで上手いので、文句が言えない。

 でも、素直に褒めたくはない自分がいる。


「ああ、いつも聞かせてくる。騎士のやつね」

「よくぞ聞いてくれた、これはな。帝暗時代の黎明の中妾の元に颯爽と現れた騎士をイメージしておるのだ。そして、その騎士はいずれ妾と人には言えない関係となり────」


 散々聞いた話なので、耳から耳へ通して話半分くらいに聞き流す。

 すると、それを聞いていたクアリがまた、耳まで真っ赤にして聞いてくる。


「………………あの、まさかその騎士は、ナギ────」

「────よくぞ聞いてくれた!盟友亡き後、悲嘆にくれる我が支えになってくれる騎士なのだ!」

「普通に俺を殺すな。まあ、もうずっと聞いてる話だから何とも思わないが」

 何か勘違いをしていたらしいクアリはその話を聞いてぽかんとしていた。

 まあ、ノワ子の空想時空では俺は無き後に評価されるタイプの人物らしい。

 いや、海外の巨匠かよ。


「あ、ご、ごめんなさい。えっと、じゃあ私もナギト様の似顔絵を……」

「ほほう、中々いい題材選びのセンスだ。我も書こう、絵画風に!」

「普通に恥ずかしいんだが、肖像権とかないのか?」


 ともかく、そんなこんなありつつ、俺たちはつかの間の平穏を過ごすのだった。

 ちなみにクアリの似顔絵はデフォルメ化していて、めっさ可愛く、ノワ子の似顔絵は教科書に載ってる偉人の似顔絵にしか見えなかった。



◆◇◆◇◆




「────さてと、それじゃあ交渉と行こうじゃないか。ナギト」



 そして、今俺の目の前にいるのは、老齢のシスターであり、この孤児院のボスであった。

 そんな彼女は鷹のような目が、俺を射貫き、身を強張らせる。

 なぜ、こんなことになったのか。


 それは少し前の事に遡る。


────────かくして、日常は終わり、全ては次の段階へ至ろうとしていた。





〈Tips!〉

・ナギトの親について

 物心ついたときに、彼の両親はもうこの世にはいなかった。

 交通事故で両親は死に、両親の親友である今の母の元に訪れた。

 故に、今の家族に繋がりはなく、妹がいる。

 ちなみに、妹から冷たい態度を取られているが、ただのツンデレであり本当は異性として好かれている。

 ラブコメ主人公かよ

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