√B その②「ボスとゲームマスター」
〈二〇二五年 五月五日 御加実市 【ゲーム】結界 某所 路地裏〉
「──ヘイ、ベイビー、額に風穴開けたくなけりゃ、ポイント全部置いてきな?」
かつて、悪の王たるヒヴィヤ=カッスーラは言った。
悪こそ、全てのよりどころ、悪こそ真実を映す曇った鏡。
悪こそ──────世界の真理なり、と。
だが、それでもマリオは思う。
それは誰にでもなれるものではない。
悪というのは常に、流動的で絶対的なものではいけない。
この世界に来てから、初めて見えたものだ。
正義は絶対的で、悪というものは相対的に成らなければいけない。
悪を絶対的に言う者もいる。
悪を真実と、真理と、全てだという者がいる。
だが、少なくともラスボスたる彼はそうは思わない……思わなくなった。
この世界は。
創作物でないこの世界は、混沌に満ち溢れている。
例え、悪がどうであろうと正義が不変であることはこの世界でも、あの世界でも変わらない。
ただ、この世界で、悪を成すということは、正義を成すということよりも遥かに難易度が高いと確信した。
故に、なって見せる……悪の王、いや真正の大悪党に。
より変則的で、誰の敵にもならない、真に断罪される余地がなく、それでいて全てを操る黒幕に。
「──────すまない、その前に少し聞いてほしいことがあるんだけどいいかな?」
そして、マリオ=レンブラントは歩み始める。
己の中の〝悪〟を成すために。
「おいおい、聞こえなかったか?死にたくなきゃ、ポイント置いてけと言った。頭が追い付かねぇんだろうが、命が大事ならすぐに言う通りにした方が身のためだぜ」
されど、背後から銃口を突き付けた男は振り向いて無造作に近づくマリオに言う。
予想外の行動に出たマリオに対しても、彼は至って冷静だ。
そして、それはマリオもまた同じこと。
自身は常に逆境を覆し、向かい風に抗ってきた……そんな自身が彼を歩ませる。
口には出さない……雄弁は銀、沈黙は金、こういう人間にはぺらぺら諭すよりも、行動で示す方が良い。
「こっちとしても、空想現界人に死なれちゃ困るんだがな。けど、殺さない理由もないぜ?」
──────そして、男の引き金にかける力が強まった瞬間、瞬時にマリオは足を止めた。
「──────ああ、すまない。話を聞いて貰うには近づかなきゃいけなかったからさ」
「沸いてんのか頭、それとも薬物でもやってんのか?どちらにせよ、死神のカマがさらに喉に食い込んでるぞ」
知っている、というより承知で自身を追い詰める行為をマリオは取っているのだ。
少なくとも、怖気づく感情など当の昔に置いてきた。
「ああ、ポイントは払う。一文無しだから、ツケといてくれないかい?」
「良いジョークだ、遺言はそれでいいのか?坊や」
ギリギリ間合いの外、それもマリオが糸を出しそれを彼の体に巻くことができない距離。
素晴らしい勘と経験、それによって出された警戒の領域だ。
マリオは感心する、元々そう思っていたがさらに欲しくなった。
「さて、では本題に入ろう」
「ああ?良いからポイントを────」
「──────『ツケでいい。俺を仲間に入れてくれ』これは、君がこれから僕に言う言葉だ」
「…………正気じゃねぇな。その勇気だけは買うが、俺は今更群れるほど弱かねぇよ」
どうやら、話だけは聞いてくれるらしいとマリオは思考を巡らせる。
相手も鬼ではないのだろう、さっさと殺さずポイントを払うなら生かすというのは、ある意味ではまだ甘い選択だ。
そして、先ほどのマリオの行動……男にはマリオが引き金への力のかけ方を見極める力があると暗に証明した形になる。
話を聞くには十分、男は最大限警戒しているつもりのようだが、無意識にマリオの実力には関心が少し寄っている。
そう、男の心理を分析し、マリオは本題に入る。
「じゃあ、最後にこれだけ。おかしいと思わなかったのかい?僕が、何も抵抗手段を持たない僕が、初心者の狩場にのこのこと足を踏み入れたのを」
「はぁ?何言ってんだよ、お前さんどう見ても初心者だろ」
マリオの言葉に、眉をひそめる男。
すでに術中、突飛なことを言うマリオに反論、つまり見方を変えれば興味を示したことと同義だ。
「そうかもしれない。けれど、初心者を装うなんてちょっと【ゲーム】をやってれば誰でもできる。それに、初心者が明らかに格上の君に対してここまで堂々と近づけるかな?」
疑問を呈す。
まるで並み一つない湖面に、石を投げこむように。
「矛盾してるぜ。装うなら、敢えてばらさず、油断した俺を狩るべきだ。それにお前が百戦錬磨の【空想現界人】だとしても、【ゲーム】だけは初心者という答えが一番納得できるな」
思ったより冷静だ、そうマリオは目の前の男を分析する。
マリオの揺さぶりに対し、釣り針をかけられたものの冷静に捌いて吊り上げられないようにはする。
この【ゲーム】において情報は重要だ、引き出せるものは引き出しておきたい。
一人で挑むのなら、猶更そういう心理にはなるのだろう。
「そうでもない。それはあくまで、君の物差しでの事の測り方だ。そう例えば────」
そう、言いかけた瞬間、マリオは走り出す。
おそらく、一歩だ。
彼は何らかの銃器における達人であり、踏み出せるのは一歩まで。
それ以降はマリオの頭がハチの巣になるだけ…………しかし、その一歩が重要である。
『──────』
両者の視線が重なり、火花が散る感覚がした。
──────走り出すと同時に一つの端末を取り出す。
ポケットに入れていた手で操作していた端末。
画面を見ていなくても、操作は容易く、容易にそれを引き出せた。
『──────おにぃちゃん』
「──────ッ!?」
明らかな動揺を顔に出した男は、一瞬銃口がぶれてしまう。
そして、打ち出された弾が、顔を逸らしたマリオの額を掠った。
血を流しつつ、最短距離を詰める。
──────あと三歩、しかしそこまでが限界だ。
そして、マリオにとってはそこまででいい。
「──────ッ」
銃弾をこめかみに叩きつけようとし、男は驚愕した。
自らの首に宛がわれた確かな感覚、それは首を伝う細い糸であった。
──────そして、両者はようやく対等となり、男はまんまと交渉のテーブルに挙げられたのだった。
◆◇◆◇◆
「──────どうやって……いや、そもそもアレは」
「お察しの通り、ただ拾っただけの音声だよ」
そう、それはマリオが文字通り拾っただけの妹ボイスであった。
こちらに来るときの書店の店長から拝借したスマホの中に入っていたASMRの音声であった。
こっちでは電波がなかったとしても、ダウンロードしてあったので助かった。
あと、店番そっちのけで聞いていた途中であったのも幸いした。
このスマホと言う端末は便利だ、聞き途中ならボタン一つ、あの短い時間でも再生できた。
──────ただ、目の前の男が聞きたいのはそんなつまらない種明かしではないらしい。
「…………どうして、俺に妹がいることが分かった」
「あー、そっちか。別にそこまで難しいことは考えちゃいないさ」
まず、彼の言動や行動、そして身に着けていたものだ。
「その鞄、可愛いキャラのストラップが付いてるね。さっき本屋で見た」
「チッ、種明かしにはなっちゃいねぇな」
「焦らないで。それと、君は急いでポイントを得なきゃいけないと思っていた。且つ、銃器を扱う軍人であろうに、僕を殺すことに一瞬の逡巡が見て取れた。大切な誰かが、それを見咎める……そんな負い目が君の瞳にはあった」
そう、彼の持っている鞄につけられたもの。
それは男が持つには少女趣味なストラップだ。
そして、男はあまりにも甘すぎる……迷い無き修羅の心を持っていれば、走り出した瞬間に迷わずマリオは殺されていたはずだ。
「ああ、状況証拠を集めればそういう答えになるかもしれねぇ。けど、俺の守りたい存在が何で妹と当たりをつけれた?」
「そうだね。おそらく、言動的に君は妻帯者ではない。守るべき相手が同性ではない、それはストラップを見ればわかる。弟かとも思ったけど、あの音声だと声の高い弟とも取れるしね?あとは運さ」
「馬鹿げてる……そうだとしても、そんなあやふやな証拠だけで、自身の命を賭けれるか?」
そう、あくまでこれは状況証拠をかき集めただけの、推理なのだ。
多少の頭があれば誰でも至れるような推理、けれどそれを元に命を張るなんてことは誰にでもできはしないことだ。
「──────ああ、そんなことは問題じゃない。僕は君が欲しいと思ったから、そうした。掛け金なんて、僕自身くらいしかないしね」
男は思った、この目の前の男は明らかにイカれてる。
ただ、そんなイカレ野郎が自身とやり合えるなんてのは想定外中の想定外だ。
「ハ、確かにテメェが有能なイカレ野郎だとは認める。けど、この状況なら俺が引き金を引く方が早いと思わねぇのか?」
「じゃあ、そうしなよ。語るに落ちてる、人間の首は五センチでも切れると死ぬ。それは君も良く知ってるでしょう」
そう、ここまではすべて交渉の一端。
全てはマリオの想定通りに進んでいる、細い綱渡りだが、前世よりはマシだったりする。
「…………お前、俺を仲間にしてぇんだよな?こんな狡い騙し討ちで、俺がお前を認めて降るとでも?あくまで、今俺とお前は対等だぜ」
「そっちこそ、妹さんにしばらく会ってないようだけどいいの?」
そう聞いた瞬間、男の表情から余裕が消え、頬を冷や汗が伝った。
「……………………ッ」
「あ、これも本当。だって、君があの音声を聞いた反応的に、絶対聞き間違えたでしょ。大切な妹の声を聞き間違えるなんて、しばらく会ってない…………君一人で稼げるポイントがカツカツって証拠だよね」
今度は男が口を閉ざす番になった。
全てが彼の予測の通りだったからだ。
男は声を聞き間違えるほど妹に会ってないし、送っているポイントも自身の生活用ポイントをギリギリ削っているためだ。
「さて、そんな懸命で優しいお兄ちゃんに、素敵な提案をしようと思うんだけどいいかな?」
「…………テメェ、ふざけるのも大概に──」
そう、威勢だけは負けじと突っかかる男だが、それでも全ての事実と彼の異様とも言っていい雰囲気にのまれている。
そう、彼の最上の選択肢は、彼の話を聞かずに迷わず打つこと、それだけだった。
「────【ゲーム】外に行けるこの僕の、仲間にならないかい?ベイビー」
「……………………」
最も長い沈黙、やり返されたことによる怒りでもない。
疑いによる疑心のものでもない。
ただ、付いて行っていいかと言うだけの迷い。
運、だ。
そのはずだ、彼が例えそれを強引に手繰り寄せたと言い張るとしても。
だが、それでも事実として彼は、自らの有能さを証明し、少なくとも男に運も実力の内であると認めさせる有能さを示せた。
そして、ダメ押しとばかりに魔術師しか行けないはずの【ゲーム】外にいけると宣う。
よくよく見れば、彼には魔力が全くない。
それでは、【ゲーム】外にいる一般人と同じではないか。
それは、その言葉が真実であるという証拠よりも、よりマリオが有能であるという箔が増すという切り札に見えた。
ああ、クソ──────負けた、こっちに来てからは初めてのその敗北を噛みしめるように、男は苦笑する。
「──────ライオ、ライオ=ベルモンド。一生分ツケで良い、俺を仲間にしてくれ。後で、きっちり請求するぜ?ボス」
「ああ、安心すると良い。君の目の前にいるのは【空想現界人】で一番の黒幕だからさ」
静かに、銃口を下ろし、そして張られた糸が外れる音がする。
──────ここに、一人の〝クラン〟のボスが誕生したのだった。
◆◇◆◇◆
〈六月一日 【ゲーム】結界 〈フィクサーと愉快な仲間たち〉アジト〉
あれから数日、ライオはとある任務にあたっていた。
それは、【空想現界人】を拉致するという任務だ。
マリオ=レンブラントと組んだライオは、あらかた【ゲーム】の〝クエスト〟を荒らしまわった。
そして、それを見咎められ、とあるクランに喧嘩を吹っ掛けられたのだが、どうにか撃退できたもののこちらもかなり損害をおった。
無論、ポイントだけは荒稼ぎし、ライオも妹と久しぶりにゆっくりした時間を過ごせた。
不本意ながら、マリオを認め始める土台が、彼の中に出来始めていた。
「──────まあ、【空想現界人】の弱点を一々【ゲーム】外で探すのもコスパ悪いしね。どうせなら、情報通を呼んで調べてもらった方が早いのさ」
「────え?なに?ここどこ!?なんで、ボクのUNSの入り方知ってるわけッ!!?やば、これ詰んでるんじゃないの?ここで、爪とか剥がされる!?誰の依頼?ああ、恨み買いすぎててわからないや!」
そう、目隠しされ、椅子に張り付けられた少年が色々悟ってしまい、暴れる。
だが、彼の推測は間違いだ。
「おい、ボス。その言い方だと、これから拷問しようとしてる三流悪役のキメ台詞にしか聞こえねぇよ。ネットのオモチャにされんのがオチだぜ」
まあ、大体悪役に絡んで宥めるとマリオは面白いように期限を良くするので、自然とライオの言うことはそれ中心になる。
腹立たしい限りだ。
「ああ、すまない。勘違いさせたよ。僕は一流の悪役さ。君を拷問する意図はない…………むしろ、歓迎パーティーを始めるところさ。ピザでいいかな?」
「えーと、これ有無を言わさぬ感じ?別にボクはかまわないんだけどさ」
「…………ボスは大体いつもこんな感じだ。あと、目をつけられたら逃げられねぇぞ、経験者的にもいっとくよ」
目隠しがずり落ちた少年、フユ=オードリーは静かにジト目で苦笑いを浮かべるだけだった。
「──────んで、ボクにやってほしいことってなに?好きなあの子の、恥ずかしい写真?ボクの|AEDS《アディショナルエレクトリックドミネーションシステム》なら簡単だと思うけど」
ピザを頬張りながら、先ほどまで貼り付けにされていた椅子に座ってフユは口を開く。
彼は天才ハッカー、それも【ゲーム】のシステム自体にハッキング出来る程の腕前である。
「魔術を電脳的に改竄できる能力、だったよね?それでやってほしいことがあるんだけど」
「うーん、そっちかぁ…………実際は改竄というか、【ゲーム】のシステム《ナイトメア》の防備が厚すぎて干渉はできないんだよねぇ、精々【空想現界人】の情報を集めるくらいなんだよ」
どうやら、天才ハッカー、それも異能者であっても【ゲーム】のルールに干渉はできないようだ。
そしてマリオ、何をやりたいのかライオすら聞かされていない。
「いや、それで問題ない…………そうだね、僕がやりたいことそれは───〝ランキング〟二位〈正義の騎士団〉を完全に乗っ取る。その作戦に君の能力が必要なんだ」
そして、マリオは子供が悪戯を思いついた時のように笑う、
そんな荒唐無稽な大言壮語を、朝飯前のように語るボスに反論する思いすら沸いてこないライオだった。
「あ、それともう一つ、面白い子を見つけてね。調べてほしいんだ」
「結局デバガメじゃん」
「あんたの酔狂には付き合ってらんねぇ。ま、任務に支障のない程度にな」
──────それでも、ライオはどこか彼に期待してしまっている自分がいる。
そんな自分も悪くないとライオは思いだしていた。
◆◇◆◇◆
〈七月二十五日 ???〉
「僥倖僥倖、少しの問題もございましたが恙なく進行できましたねぇ!」
白の空間、白と黒に彩られた山羊の角が生えた怪人、彼が座るのも白いテーブル、椅子は三つ。
「いや、どう考えても失敗だろ。相変わらずいい加減な運営だな、全く」
山羊を模した男、ゲィトは悪びれもなくそう言い放った。
そして、それに噛みつくのは対岸に座る協力者である鬼面の男だ。
実際、彼がいうように第三回の〝イベント〟は終始例外だらけ、問題だらけであり、開いた期間はたったの四日である。
それも、問題の対処ができないと把握したゲィトによって強制終了された形である。
どこが恙なくだ、と彼は言外に悪態をついた。
──────そして、さらに彼らに加わったもう一人が口を開く。
「…………ふむ、余興としては少し物足りん。余の臣下としてこの余興をもっと楽しませよ。下民」
「ううん、やっぱりこいつ追い返せねぇ?ゲィト…………ま、無理だよな」
そう、まるで不遜な者を咎めるような視線が、鬼面の男を貫く。
それはある意味では、この【ゲーム】の異物である存在、それは本来ここに存在してはいけない者なのだ。
「ンン、無理……でしょうね。まあ、計画の進行自体は変わりませんではないか。汝隣人を愛せよ、貴方も暇をしていたでしょう?」
「偉そうな奴のお守は勘弁してほしい。それに、俺もこいつも今はただの穀潰しだろ。ま、コイツを解き放っちまえば、【ゲーム】が滅茶苦茶になるのは見えてるが」
「────フン、所詮は愚か者共の集まりか。余の〈十天騎士〉には遠く及ばん。王というのは、最後方で兵たちを鼓舞することが最たる役目と分からんか痴れ者め」
「あ、話通じてるようで、あんまり通じてないなコレ…………まあ、いいか。ともかくもうちょっとゲィトは〝イベント〟の運営を正した方が良いとは思うな」
珍しくツッコミ側に足を入れかけ、慌てて話を逸らす鬼面の男。
「いえいえ、と言っても。あの三体のボスとそのシステムはとっても良かったと自負しております」
「ああ。けれど、欲張ってあの〈ハーメルン〉に孤児院の情報を漏らし、引き入れたのはいいものの【ゲーム】の核であるボスの一体が奪われ、進行不可になった言い逃れはできんぞ」
そう、全てを混沌の渦へと引き入れようとして、その混沌の渦が制御できなくなったのが今回の〝イベント〟のあらましだ。
〝イベント〟のシステムまではよかった、しかしそれ以上の事を〝イベント〟外でやろうとしてこのザマだ。
「まあ、三体のボスを倒された場合のみ現れる〈区域〉の軛すら破壊するラスボス『三位一体』〝オーバードマンティコア〟が全プレイヤーに襲い掛かる!という展開が没になったのはいただけませんが。失敗は別に構うことなどありませんよ」
「なんだその〝ぼくがかんがえたさいきょうのもんすたー〟みたいな触れ込みは。ともかく、あまり遊びすぎるなと言いたいんだ。本筋は【ゲーム】の完遂。最終局面で油断して、失敗なんて目も当てられんぞ」
そう、あくまで、彼らの利害はそれに集約する。
理解できない話を目の前で広げられ、不機嫌な彼もその計画の同行者ではあるのだ。
「無論、余興は余興でも【ゲーム】完遂までの慣らしであることも理解しています。まあ、暇ですし遊びのような余剰がないと苦しいだけですよ?」
「……………………分かってるならいい」
そういわれ、押し黙る。
ゲィトは言う。
彼ら彼女らの命と、矜持と、魂を賭けた全身全霊の抗いを遊びであると。
「いいじゃないですか。次のイベントは更に〝ランキング〟勢〝クラン〟を巻き込んだ大規模なものを予定しておりますよ!!ああ、どうせなら陛下もご参加してみては?」
また、思いつきで場を荒らすようなことを口走るゲィト。
しかし、それも何度目のことか、すでに鬼面の男はそれを咎める気概など失せている。
「余が〝駒〟となることなどあり得ん。精々、愚民どもが足掻く姿でも眺めるのみよ」
「ふ、まあどちらにせよ。最終局面では全員出動願うわけだ。今は養生しておくさ」
テーブルを囲む、三者はお互いに視線を向け合う。
一者はただ全てを不遜に見下ろし、一者は仮面の下でただ閉目するのみ、最後の一者はまるで聖人君主のような柔和な笑みで駒を弄ぶ。
「ああ、そういえば〝姫〟のことだが。やはり、あそこに現界したか。全く、つくづく運命は悪戯好きだな」
そして、鬼面の男は初めて仮面の下で笑みを作った。
それは彼の心からの歓喜だが、それを知る者はこの場には居ない。
「……………………ほう?なるほどアレが、やはり礎は万事余の掌の上ということか。面白い」
そして、その言葉に呼応するように、陛下と呼ばれた男も口の端を上げる。
「──────どちらでも構いませんが、〝駒〟が出揃い細工は流流……すべては破滅へと帰還する。ああ、素晴らしいッ計画は次の段階に至るッ……おお、我が神よ見ていてください。貴方の使徒が役目を果たす時ですッ!!」
──────目を血走らせ、立ち上がったゲィトはそう高らかに宣言した。
彼らの思惑は絡まり、それでも全ては進んでゆく……全ての者が流した血を置き去りにして。
〈Tips!〉
・クランの本拠について
〝クラン〟には拠点を一つ登録することになっている。
場所などは開示することはなく、色々な個人では所有できない設備などを置くことも可能である。
〝クラン〟を設立するには、本拠と十人以上の人数とポイントが必要。
しかし、人数が足りない場合は足りない人数分ポイントを払えば、開設が可能。
ちなみに、30万ポイントくらい必要なため、並の空想現界人にはほぼ不可能。




