034「明日へと続く別れ」
〈二〇二五年 七月二十五日 御加実市 Dekopoモール前〉
「──足りねぇ、数人のガキどもは別所に連れ去られてたってわけか。舐めやがって」
キキョウは自身の無力に拳を握りしめていた。
あの後、子供たちと合流したキキョウは、人数を数えて驚愕した。
子供たちも逃走に必死で、気づかなかったらしいが……何人かの子供たちがいなくなっていたのだ。
「……ごめんなさい」
「いや、お前らは関係ねぇだろ。元々、あの軍服男だけでことを成すには無理があった…………協力者がいたんだろ」
確かに、あの扉で移動する能力、自由に空間を作り出すものも彼の能力ではないのだろう。
それに、だ。
「駅のど真ん中にいた、あの白塗りの空想現界人。多分あいつだな」
「本当にイラつかせてくれるじゃねぇか。この落とし前はきっちり付けさせるか、なぁ?」
不敵に微笑んだキキョウから殺気が滲み出る。
気持ちはわかるが子供たちも怖がってるから、やめて欲しい。
「まあ、今できることなんてほぼない。【ゲーム】にきっちり参加して、アイツの足取りをおわなきゃな。流石にキキョウも電力切れだろ?」
「──大分冷静な助言、どうもありがとう。ハ、あの時はあんなに熱心に口説いてきたってのによ」
口説いてないが?というか、これがデフォなのだ。
あの時の言葉は何かの間違いだな…………いや、色々恥ずかしいことも言ってしまったので本当にわすれたい。
キキョウさん、マジで弄るんじゃない。
「ん、キキョウもやられたの?あれ」
「ああ、アタシが好きだとかなんとか」
「な、ななななッ!?好き!?どういうことだナギト!盟友である我を差し置いてだな」
そう三者三様の反応を見せる彼女ら、全く姦しい。
俺も乗せられやすいので、何も言わずこの辺で退く方が正しい。
「あー、はいはい。この話終わり、今は真面目な話題が最優先だ」
────誤魔化すことなく話題を変えた俺を、三つの相貌がジト目で睨む。
キキョウは完全に笑ってんじゃねぇか、掻き回すなよ、本当にだぞ?
「よし、やっぱり今日は帰ろう!今すぐ!」
「────な、ナギト様?真面目な話をするのでは?」
そういう、クアリの純粋な発言が唯一の癒しだ。
全くこの純朴シスターを見習え、姦し三人衆よ。
──────そんなこんなしつつ、俺たちは安全地帯でようやく会えた安心で、つい話し込んでしまうのであった。
◆◇◆◇◆
散々無駄話をした俺たちは、〝イベント〟空間の外……つまり【ゲーム】空間内で、これからの段取りを決めていた。
夜なのに妙に明るいショッピングモールの、建物で言う端の方に来ていた。
ちなみにここからは地下鉄に連絡できたり、そのまま外に出ることもできる。
〝プレイヤー〟に見つかるのではないかと心配したが、キキョウ曰く隠形の結界的なのをはっているから心配はないらしい。
「──────んで、アタシたちは一旦孤児院に帰るけど、お前らは?」
ぞろぞろと孤児院の子供たちを引き連れた俺たちは、いったん休憩しキキョウと話し合っていた。
話し合いに参加しないノワ子やレイなどは子供たちと戯れあっていた。
……あんな体力よくあるな、ほぼ夜中ぶっ通しで死線をくぐっていた俺には無理だ。
まあ、グロッキー状態でノワ子とレイの相手をするのはしんどいので、子供たちが相手をしてくれているこの状況も悪くない。
「あー、そもそも俺たちはこの【ゲーム】?とやらに参加して間もないって言ったよな?だから正直このずっと夜の空間から出る方法もわからないんだ」
そう、正直今の今まで流されてここまで来たのだ。
情報も知らずやってこれたのは正直幸運だと思う。
「……お、おう。なんだか、お前と話していると歴戦の空想現界人と話してるみてーでよ。すっかり忘れてたわ」
キキョウは苦笑いしつつ、そう答えた。
「す、すごいです……ナギト様は【ゲーム】参加初日だったなんて……!」
「すごいのか?凄いか凄くないかでいえば、Noな気がするが」
クアリも最初に会ったときに言っていたのを忘れているようで、感嘆の声を漏らす。
ここまで進んでこれたのも、実際にはほぼ運がいいだけである。
なんならレイがいないと──いや、あんまレイと一緒に戦ってないような気がする。
だが、実際レイと一緒に戦う上で情報は必須、俺たちは知らないことが多すぎるのだ。
「んじゃ、この【ゲーム】空間から脱出する方法を教えてやるよ。単純にポイントを払りゃいいだけだ。10万くらいだっけ」
そう、あっさりというキキョウだが俺は少し引っかかる。
あーなるほど、ゲーム空間から出るだけでも結構ポイントが必要な感じか。
さっきの三位入賞で50万ポイント、その二割を払わないと出れないってとんだぼったくりだ。
そこから、【ゲーム】空間から出ても魔術師に追われるデメリット付き……誰も出ないわけだ。
んで、現実空間にいたレイは魔術師たちから見ればネギ背負ったカモだったのか。
「……あー、俺たち多分全員そのキキョウの持ってる端末?も持ってないぞ」
考察しつつ、キキョウに申し訳なさそうに事情を説明する。
「嘘だろ、端末持ってないとこの空間に出入りできないはず……そもそもこの世界に来た空想現界人には全員配られてるだろ?」
そう、信じられないものを見る目をするキキョウにリティアが答える。
『それについては私が答えよう。レイと私はそのようなものを持っていない。落とした記憶もない』
「ま、仕方ねぇか。端末もちょい高いけど、ショップで買えるし。やるよ」
そう、頭を書いたキキョウが、手に持った端末を慣れた手つきで操作していく。
端末も端末のショップとやらで買えるのか。
ますますソシャゲ味あるな、俺もやりたい…………が、渡りに船なキキョウの言葉に待ったをかける。
「いや、そこまで温情にあずかる義理は……」
「──あんだろ?あの時アタシを口説いた言葉に嘘が無けりゃな、責任は取ってもらうぜ?」
そう言われるとぐうの音も出ないというか、なんというか。
吐いた言葉は飲み込めない。
いや、あの時キキョウを元気づけることと軍服男に勝つ算段を立てることで精一杯だった。
正直、何を言っていたのか覚えていない……いや思い出そうとすればできるのだが、恥ずかしい。
「……う、いやまあ色々恥ずかしいことを言ってたような気がするが、忘れてもろて」
「────バカ、お前よ。空想現界人じゃないお前にしか言えない、卑怯な台詞って思ってんのか?心外だぜ、アタシだってそれくらいはわかる。だからこそ、あの時お前がアタシに本気でぶつかってくれたのが嬉しかったんだよ」
そう、照れくさそうに言い訳する俺にキキョウは、正面から俺を見据えて言う。
柄じゃなかった、そもそもここで言い訳することも見苦しいのだろう。
しかし、そんな俺にキキョウはまっすぐ向き合ってくれるらしい。
「そうです、あれはナギト様の言葉で、ナギト様の想いでした。だからこそ、キキョウ様の事を動かせたのです。まあ、何もできなかった私に比べれば全然ですけどね……」
そう、クアリは自重するように落ち込んだ。
そう悲観するほどでもない、俺なんてギリ貧弱に勝てるくらいだぜ?。
「ま、ともかく。アタシの感謝の気持ちだ。というか、現実空間への帰還と端末合わせても足りねぇくらいの恩がお前にはあんだぜ?ナギト、むしろ受け取らねぇほうが不義理だろ」
なんか、ここぞとばかりに理詰めで押してくる。
いや、こっちも助けた以上に助けられたような気がする。
いや……はい、こういうのが見苦しいんですよね。
「……わかった。受け取るよ」
「うぬ?我が中二魂をくすぐるアイテム授与の予感!」
「……ん、ノワ子、その話し方めんどくさい敵を思い出すからちょっと黙って」
「あ!キキョウ姉、スマホ持ってる!俺にもちょうだい」
「ちょっと、ルート。姉さんたちは真面目な話をしてるんだから、邪魔しない!」
キキョウから受け取った後、結局子供たちもレイたちも合流した
うるさいのが来て、その流れで子供たちもなだれ込み、真面目な話はお流れになった。
そこからは、子供たちと少々遊んで、俺たちは帰る流れになった。
キキョウたちは異空間にある孤児院へ直接行ける扉から帰るらしい。
そして、壁に現れた光り輝く小さな扉を鍵で開けたキキョウ、そして孤児院の子供たちは先に帰っていった。ルートとカルネはレイにお礼をしていき、クアリは俺の手を握ってシスターらしい祝福を授けてくれた。役得だ、まあ後ろからジト目をしてくる三人は忘れるものとする。
「おし、これを貸してやる」
そう言って、キキョウが渡してきたのは、一つの栞であった。
「これは────?」
本に挿む栞、触ると少し暖かく光を発しているようにも見えた。
しかし、何故今栞を渡すのか。
「アタシたち空想現界人は、現実空間に行っても魔術師に追われるだろ?その栞があればあら不思議、魔術師たちの探知に反応しなくなる」
あー、あの孤児院にいるキキョウの上司の能力か。
いや、便利だな……見方を変えれば、奇襲にも役に立つ。
「なるほど、異空間にある孤児院の建物もこの栞も、キキョウの上司の能力ってわけか」
「そういうとこ、察し良すぎだ。まあ、けど概ねその通り。ただババアが丹精込めて作った一点モノだ。なくすなよ」
たった一回の〝イベント〟を体験しただけだが、それでもこの【ゲーム】で孤児院をすることがどれだけ難しいかはわかる。
それを成した孤児院の主であるお婆さんはとんだ傑物なのだろう。
「それと貸すだけだ、返しにこい。具体的には明日とか」
なんだ、やけにケチだな。というか、わざわざ具体的に指定するほどか?
あ、そういうことね、はい。
「ま、なんだ今回の礼って事で、孤児院に招いてやる。レイとノワ子も来い、子供らもまだ遊びたがってたしな」
「ふぅん、素直ではない幼な子とは、また妙な女を口説いたな?ナギトよ」
「意外だな、初対面でもノワ子が話せるなんて」
「──ふ、妾も成長するということよ」
まさか、初対面の陽キャと話すだけで、ハムスターみたいに震えてたノワ子が…………こんなに立派に、お父さん嬉しいよ。
三日でリセットされそうだが。
「何か失礼な事考えてるだろ!?」
そう、憤慨するノワ子を尻目にレイが、茶髪の少女へと声をかける。
「キキョウ今度特訓しよ」
「おう、いいぜ。強そうなやつなら大歓迎だ。ただ、暴れて孤児院の備品壊すなよ」
なんだかんだ、結構仲良くしているレイとキキョウ。
やはり、戦闘を得意とする者同士通づる者でもあるのだろうか。
俺は寂しいが、まあ仲間がギスギスしてないのでOKです。
「──────じゃあ、またな」
「……おう、また。孤児院の主にも色々聞きたいことがあるから、明日会いにいくよ」
そうして、再会の約束をして、少女の姿をした撃墜の名手は扉の中に入って行った。
彼女が閉じた扉は、これまでが夢だったようにスッと消えて行った。
「いざ、無限の彼方へ!」
「バズライ◯イヤーかよ」
N番煎じであろう、ネタを擦るノワ子にツッコミを入れつつ、ナギトはキキョウに教えてもらった帰還の方法を試す。
方法といっても、登録した端末の画面にあるボタンをタップするだけだ。
そして、俺たちはようやく現実空間へと帰還することに成功した
長かった非現実トリップもこうして一旦は区切りがついたらしいことを、開目一番に目を刺す陽光の明るさが証明していた。
〈Tips!〉
・栞について
キキョウの上司、孤児院の主が能力によって作成したもの。
魔力を覚えたものを所有者として認識し、その存在をあらゆる探知から隠匿する奇跡が編み込まれている。
ただし、作成できるのは三枚まで、そして探知のみであるため目視や聴音などの直接的な感知は防げない。
異界の孤児院も合わせて、キキョウの上司の能力は他の現界人よりもかなり突出しており、実は生まれつきの【杖】持ちである。




