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032「虚空を穿つ」

〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 Dekopoモール 安全地帯(セーフエリア) 外縁デッキ〉



 場所は離れ、時刻は少し前……レイがナギトを行かせた場所、〈深海区域(アクアエリア)〉に近い安全地帯のデッキでレイは熾烈な戦いを繰り広げていた。



「おお、やはり我よりも速い!」


 顔面に拳を受けつつ、そう感想を口にするグロリアス、まるで負けないことがわかっているような表情だ。


 対するレイは小さい身体を活かして立ち回り、ヒット&アウェイ逃げながら戦っていた。

 両者の技量に関してはレイの方が上、しかし力や硬さはグロリアスの方が圧倒的に上であった。


「がはは、我が信仰の御旗の上に敵なし!」

 攻撃を入れるもののほとんどダメージがない、いやゼロだ。それはおそらくあの旗となって地面に突き刺さった儀式剣の影響だろう。

 儀式剣と呼ばれはするも、魔力のような光を帯び、重厚なその見た目は両刃大剣(バスターソード)と言える。

 そんな儀式()剣がグロリアスへの攻撃を通さぬ効果を付与しているのだ。


 衝撃も、そのダメージも、全ては栄光の元になかったことになる。

 

 瞬間、レイの体を捕捉した腕が伸ばされる。

 年齢の高い状態よりも速くなった少女の体感時間は引き延ばされていた。

 故に、グロリアスでは捉えられない速度で翻弄していたはずのレイに、彼の手が伸ばされた。

 確実にレイを見ている行動に、レイは瞠目しつつ手を弾いてグロリアスの間合いから脱する。


 

「────ハ、我を翻弄していたつもりか?花嫁を傷つけてはいけないと気を配っていたのだ、しかし、お前を立派な戦士と認めたゆえ、本気を出す」

「まだ言ってる」

 そういえばそんな話もあったな、とレイは思ったが吐き捨てる。

 そんなことよりも、問題は彼が本気を出していなかったことだ。


 こちらは精一杯、あちらは余裕を保っていた。

 僥倖ではあるが、むしろ嫌な兆候だ。



────故に、彼女はグロリアスを無視して、儀式剣の方へと走った。

 


「──む」



 グロリアスは一瞬だけ、顔を顰めたように見えたが、無視して鈍い彼をぶっちぎる。


 速さは勢い……すなわち力ということを体現し、最大限勢いをつけたレイはトップスピードの速度を乗せた拳を儀式剣に叩きつけた────が。



 ギィン、という金属がぶつかり仰け反ったような感触がし、儀式剣を見れば無傷だった。

 グロリアスと同じ効果か、いやそれでも抜けはするだろう。



「────隙、だのぅ?」


───この状況で、という話ではあるが。



 レイは瞬時に差し出された手を弾く。

 しかし、その勢いは吸収され、少女の身体はゴム毬の如く吹き飛ぶ。


 否、自ら吹き飛んだレイは、しかし予想以上に宙に浮いてしまう。

 自らで吹き飛ばした少女に追いついたグロリアスは、腕を引き絞り、拳を振り下ろす。


 咄嗟に身を捻って回避したレイは、振り下ろされた腕を蹴って、さらに離れる。


 

「────めんどうくさい」

 額から流れる赤いものは、拳が掠ったことによるものだ。


「────果たして、面倒臭いで済ませられるかな?」

 腰を低くし、拳を振り下ろした状態で構えるグロリアスは不敵に笑った。

 掠っただけでこのダメージ、まともに当たれば死ぬ。


────だからこそ、少女は彼の間合い(死地)へと突っ込んだ。


「…………!」


 グロリアスは自らよりも強さの劣る存在が、肉薄してきたことに目を見開いた。


 完全に彼女を捉えた状態で、勢いをつけて拳を振り下ろす。

 レイは瞬時に、その拳を掌で勢いを受け流す。

 鋼鉄をはるかに上回る硬度の拳がデッキに振り下ろされ、床片が飛び散った。


 飛び散った鋭い木片を意に介さず、少女は空いたグロリアスの横面に飛び蹴りをかます。

 衝撃もダメージもなかった…………故にレイを掴もうと右腕を回すグロリアスは、自らの顔を足場にして横の離脱する彼女を見た。

 咄嗟に掴みかかろうとするが、全ては彼女の掌で受け流され、無為とされてしまう。


 グロリアスは着地したレイへとローキックを放つ。レイはのけぞり後転しつつグロリアスの脚を上へと蹴り上げる………否、蹴りにあった横の勢いを上方へと曲げる。


 グロリアスは彼女の立ち回りに関心を通り越して、舌を巻いていた。

 彼自体技を磨いたことはないが、多数の修羅場を経験した身である。

 しかし、ここまで体術が上手く、何より受けと攻めの思考が柔軟な戦士はいなかった。


────そして、魔術師は笑顔を浮かべる。


「────ふははは!やはり、お前は我の子を産め!!強いお主と強い我ならば最強の子を作れる!!なあに、少し傷ついたとしても治る!」

 そう、笑みを湛え、高らかに好意をレイに叩きつけるグロリアスは────


「──────ん、勝ったらいいよ」

「……む!?」

 言質はとった、そう思った瞬間少女の姿が掻き消える。

 気配は後ろ、安直だな!と振り向いた瞬間、グロリアスはとあるものに触れた。



「─────ッ!!?」


 とあるもの、それは彼の刺した儀式剣であった。

 まさか、とグロリアスは気がつく。

 自身が視界を狭めて彼女へと前のめりになり、我を忘れて攻撃するうちに誘導されていた、と。


 一瞬、儀式剣を傾けてしまいそうになり、咄嗟に手を退ける。

 重心は乱れ、本来衝撃もダメージもないはずの彼は自ら仰け反ってしまう。


 儀式剣の方にほんの少し寄りかかってしまいそうになり、慌てて逆方向に体重を向け───


 そして、足元に自らを背負う少女の姿を見た。


 

「─────っ、何を!?」


 驚愕に目を見開いたグロリアスは今更気が付いた。

 彼女はテコの原理で、グロリアスごと儀式剣を抜こうとしているのだ、と。


 彼は儀式剣に体重を預けてしまっている体勢だ。

 少女に足ごと押し上げられたグロリアス……皮肉にも彼は自身ですら知らない自らの《術式》の仕様を危機によって察することになる。


 衝撃もダメージも吸収されるが、持ち上げることはできるのだ。

 一瞬の内に、グロリアスは《術式》解除の危機に立たされていた。


「──なぬぅッ!?」


 ぐぐ、とすでに完全に傾いてしまったグロリアスは、己と二回りも違う少女に背負い上げられる。

 ありえない力で押し上げられ上手く、体勢を変えることは難しかった。

 藻掻くグロリアスの抵抗虚しく、ついには儀式剣の切先が地面から離れようとし────



「─────《我が信仰を証(ショック・)明する咆哮(ハウル)》!!?──ッ■■ァァ!!!!!!!!」

 グロリアスは信仰と矜持にふさわしくないからと使う予定のない、奥の手を開帳した。

 宣言と共に、辺りに響き渡る獣のような咆哮は地面に蜘蛛の巣状の罅を広げていく。


 少女は轟音の爆心地で魔力と、これまで与えた衝撃の全てをその小さな身に受けてしまう。


 咆哮を終えたグロリアスは抜けかけていた儀式剣から離れ、衝撃に鼓膜をやられ全身が痺れて動けない少女へと向かう。


 

「ふ、我をここまで追い詰めるとは大した器だ。我を受け止めるにふさわしい」

 そして、笑みを作りゆっくりとレイへと歩みを進める。


 レイは音のない世界で、どうにか立っていた。

 爆音だけでなく、魔力と衝撃が全身を突き抜け、前後不覚になるところをどうにか踏みとどまっていた。


 彼女を捕らえるために、ゆっくりと両腕が差し出される。

 それに抵抗するためにレイはその手を握りこむ。

 図らずしも、指を絡め力比べをする形となった両者、だがそれをしている余力は再生能力のかなり下がったレイには無い。



「……おお、可愛い抵抗だ。使わないと決めていたが、無傷で手に入れることができたのだ。懺悔することはあるまい?」

 そして、弱弱しく抵抗する彼女手を強く握り、そのまま押し倒そうとし──────



──────ぐぐ、と押し返される感覚に襲われた。


 グロリアスと二回りも小さい体は、徐々に大きくなっていく。

 それとともに押し返す膂力は膨れ上がり、地面には踏ん張った跡が付き始める。



「─────う、嘘だろぅ……?」


 力には自慢があった、例外である『神斧(プリースト)』を除けば同僚の中では一番だと。

 ありえないほどの握力で握られた両手の手甲は、ひしゃげ、つないでいた金具が飛んでいく。

 

 のけぞる、どころか押さえつけられるという、地面すれすれに背中が来るまで、押し返され、グロリアスに矜持がズタズタに引き裂かれたような感覚が襲う。



 そして、レイは彼を跨いで、何でもないような無表情で彼を見下ろす



「────────────ほんと」



 短く口を開いた彼女は、目の光に人を殺すものを宿しているとグロリアスは確信するのだった。


 かくして、呪いの解かれた姫による無双劇が始まったのだった。


◆◇◆◇◆


〈Dekopoモール 深海区域(マリンエリア) 四階〉



 最終決戦の火蓋が切って落とされる。

 場所はモールの四階、おそらく様々な店舗が並ぶ中でガラス張りの透明な外壁がそれらを囲んでいた。



「──────案外、役にたつもんだな」


 そう呟いたキキョウは、機械仕掛けのガントレットを着けていた。

 キキョウの能力、《工兵役(メイカーロール)》で作り出した、劣化《拳闘役(ナックラー・ロール)》である。

 無論、《形態変(シェイプシフト)》は一度に一形態しか使えないため、たまに原作でキキョウが使っていた小技だ。本人的にはほぼ使わない機能を勝手につけられて、憤慨ものらしいが。

 まさか、こんなところで拝めるとは思わず、ナギトは興奮してしまう。

 しかし、そんな自らを律し、務めて自らのやるべきことを脳内で反芻する。



────軍服男も同じことを考えているだろう。



 この建物に地下はない。

 故に、軍服男は上に行くしかなく、そして四階まで上がった|彼の一番して欲しくないこと《少年の狙っていること》は──




────この階から落とす、ただ一つのみだ。



 二人はその相貌を交差させ、向かい合う。

 己の矜持を持ち寄り、そして譲れないものを賭けて戦うために。


 

「────らァ!!」


 先陣を切ったのはキキョウだ。

 自らのガントレットを精一杯振り上げ、ジェットにより加速して超速の拳で軍服男へと殴りかかる。


 対する軍服男は防御を選ぶ。

 そう回避できる速度ではなかったためだ…………しかし、ガードするも後退してしまう。

 キキョウの拳は彼の交差した腕に叩きつけられる。

 そして、振り抜くと同時に、即座に足のローラーと手甲についたブースターの加速で離脱する

 その間隙はナギトの弾幕で埋める。

 無論、撃った弾丸の半分も当たればいい方だが、軍服男も疲労や先ほどの戦いで傷ついており、弾丸が通るようになっている。

 それにナギトの射撃の腕もほんの少し上がってきていた。


 ヒット&アウェイ…………キキョウのすばしっこい動きにより、翻弄される軍服男はジリジリと交代していく。


 

「結局、一番(これ)がわかりやすいなァ、おいッ!」

 本来格上である軍服男に全く引かないキキョウ、それは彼女の背後を守る少年に由来する。

 空想現界人でも、魔術師でもない彼がそこに立ち、微力ながらキキョウと戦っている。

 ただ、その事実がキキョウを奮い立たせる。

 そして、その事実が軍服男を追い詰めていく。


 偶に見える、キキョウの表情は晴れやかで、軍服男の薄ら寒い笑顔などには屈していない。



「──────なるほど、まさしくッ終幕間近(クライマックス)かッ!!」

「チッ、うるせえな!そう叫ばなくても、お前の命を終わらせてやるからよ!!」

 そう、高らかに宣言する軍服男は、しかしついにガラスの壁まで追い詰められていた。


─────残り、三十秒。後が無い俺たちは……それでも軍服男を倒せるあと一歩まで迫っていた。


 致命のセリフを吠えたキキョウは、さらに軍服男へと肉薄する。

 ブースターを吹かし、軍服男へと殴りかかるが、その猛攻を無視した軍服男が自身の傷もかまわず前に出た。

 そこから、軍服男はありえないほどの強靭(タフ)さを見せ、キキョウの攻撃もナギトの銃撃もすら構わずに、反撃すら飛んできた。


────残り十五秒。


「────クソッ」


 焦ったキキョウは、軍服男の攻撃と同時に反撃(カウンター)を狙う。

 そして見事、肉を切って骨を断つ一撃を軍服男へと喰らわせた。


「──おわ!?」

 そして、吹き飛ばされた自身をナギトにキャッチさせる荒技を行う。

 そのまま、助走距離を確保したキキョウはさらにもう一度渾身の追撃を、軍服男にかます。



────しかし、ブーストした一撃を軍服男は片腕で受け止める。



「──ッ!?」

 驚くキキョウ、しかしそれをした軍服男も手から血が吹き出ており、余裕はないようだ。

 ナギトは咄嗟に弾丸を放とうとするが、キキョウへの誤射を恐れてトリガーを引けない。


「んん、それでも、私は止まらない……止まるわけにはいかないッ!タリアを()()()()まで!!」

 

 ぎりぎり、と手甲が軋む音がする。

 その表情は笑顔を貼り付けたまま、それでもまるで全てに苛立っているような気がした。


 こうしているうちにも時間は減っていく──残り5秒。

 世界の不条理へと睥睨し、それでも自らの娘と称する少女の首へと手を伸ばし────

 

──残り五秒。


「────テメェの事情なんざ知るかよ?独りでやってろやッ!!」


 キキョウは、砕けたガントレットをするりと脱ぎ、咄嗟に横へと離れる。


──残り三秒。


 キキョウを横目で見ていた軍服男は、ふと上を見上げた。

 瞳に映るのは落下してくる手榴弾……極限まで引き延ばされた時間がそれを投げた少年を写す。


 確認していたはずだ、彼は撃つのを躊躇っていた。

 それ以外は何もしていないはずだ。

 否、ナギトは後ろに手を回し、見えない背中から的確にキキョウのいる場所にロングスローを行っていた。


 混乱する軍服男はそれでも、咄嗟に手榴弾を弾き返そうとする。

 いかにナギトとて、手榴弾を扱うのは初めてであり、触ったことくらいはあるがピンを抜いてどれくらいで爆発するかは知らない。



────故に、ナギトは銃を構える。



『────これで残弾打ち尽くしたというわけだね』

 

 どこからともなく、聞こえた声と共に、弾丸は打ち出される。

 魔術の風に寄り、操作されたソレ(弾丸)は手榴弾のど真ん中を打ち抜────



──残り二秒。



────く前に、軍服男は身体を後ろに倒し、()()()()()()()()()


 一秒を切る攻防の中、軍服男の下した判断にナギトは舌を巻く。

 瞠目し、驚きを隠せないキキョウはナギトの横で落ちていく軍服男を見る。


 そして、ナギトは一瞬で軍服男の意図を察する。

 もし、爆破で落とされた場合は建物と距離ができ、建物の外縁に捕まって落下を防ぐことができない。

 しかし、自らで落ちた場合は話が違うのだ。


 この土壇場でありえないほどの、的確な行動だった。

 勝ちを確信した軍服男は、落ちると同時に下の建物外縁の突起を掴もうとし────



──残り一秒。


────ふと、影がさす。




 夜にも拘わらず、不自然に明るいはずの外。

 そんな明瞭な空間に一つの影が差し、見上げると────少女がいた。



────それは、自らが何もできないと思っていた少女だ。


────自らと同等の身体能力を持つ魔術師の相手をしているはずだった少女だ。


────早すぎる、呪いが解かれて三分しか経っていない。


────その時間で、魔術師を倒し、ここまで走ってきて屋上から合わせて飛び降りたと?



────ふと、自身を見下ろしていた少年と目が合う。全て計算づくであり……勝ち誇って笑みを湛えているはずの少年はなぜか少し悲しそうで────




────────ガツン、とレイの拳が軍服男の頭を貫く。


 本来の落下より、はるかに速い速度で地面に叩きつけられた軍服男は……



 遠くで、極大の雷光を湛える電磁砲を見た。


「──《発射(ファイア)》ッ!」

 

──閃光、キキョウの宣言の後、全てを薙ぐ破砕音が彼を撃ち抜いた。



────残り、零秒。



 そして、後に残ったのは腹に大穴を開けた軍服男と、遠くで砲身から煙を出す電磁砲だけであった。




◆◇◆◇◆



 軍服男が落ち、轟音と共に放たれた閃光が彼を貫いたのを見届けた俺は、ボロボロになったキキョウを連れて一階まで降りてきていた。

 レイも居たが、一度子供たちの無事を確認しにいってもらった


「────え?」

 ともかく、俺たちは落ちた軍服男の近くまで来ていたクアリと合流した。

 突如として疑問の声を上げたキキョウへと、俺は振り向く。



「────!キキョウ、まさかお前ッ!?」

「き、キキョウ様!?」


 キキョウに目を向けると、彼女の身体は眩い光に包まれていた。

 俺は目を細めつつ、その様子を見守ろうとして、ふと遠目に見えていた軍服男に目を向ける。


 どこかで見たことがあるような、彼の笑顔を見る。

 こんな状況になってまで、彼は笑顔を浮かべるのか。

 否、俺は思い出してしまった……彼の過去もその悲劇も。



────光が収まると、キキョウは()()姿()()()()()()()()()


 前の、姿と……あれ?



「────あの野郎……ふざけ、やがって……ッ!」


 キキョウは頬を引き攣らせつつ、青筋を立てて鋭い目つきがさらに人を殺せるような表情となる。


「……ん、あーなるほど」

 その姿を見て、納得してしまう。

 あの光は年齢操作の呪いが解けたものではなく、呪いが()()に変わった演出だったのか。


「アイツ、コロスッ!!」

「キキョウ、もう殺してるぞ」

「……キキョウ様、私は小さい貴女も好きですよ?」

 クアリが慰めようとするが、多分それはフォローになってない。

 原始人ばりの片言で殺意をあらわにするキキョウだが、一旦冷静にため息を吐いた。



「はあ、ともかく確かに死んでるな────」

「────いいえ、まだ閉幕したとて舞台挨拶が残っているぞ……タリア」


 仰向けのまま、目を見開いて俺たちを瞳に映す軍服男に俺たちは驚愕した。


「──え」

「────ッ」

 驚愕に身を強張らすクアリと、息を飲み咄嗟に拳銃を向け警戒するキキョウ、しかしおそらくは大丈夫だろう。

 目の前の空想現界人の体は崩壊しかけている。

 それでも警戒するキキョウとクアリを置いて、俺は軍服男へと歩み寄った。


「────ああ、そうだな……遊鏡の()()()()

「何故、私の名を……」

 そして、確かに今更ながら思い出した彼の名を口にしたのだった。

 名を呼ばれた軍服男、ガリアスのその狂気の滲んだ笑みは抜け落ちてしまう。


──────まるで、何かに縋るような顔のガリアスは、全てを飲み込む漆黒の瞳を俺へと向けていた。



〈Tips!〉

・キキョウの能力について その③

 《形態変(シェイプシフト)》《工兵役(メイカー・ロール)》は文字通り、様々な兵器を作成できる能力。

 キキョウはこの能力があまり好きではないが、今になって役立った。

 各《形態変(シェイプシフト)》の《役》の劣化版を作成したり、拳銃、手榴弾、通信機なども作れる。

 材料はそこら辺の鉄とかで出来るため、お得である。

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