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016「美しさに報いるために」

〈二〇二五年 七月二十四日 Dekopoモール 大地区域(ガイアエリア) 地下三階〉



────誰かが、間違いを犯したわけでもなかった。


 目の前に、連れ去られていく少女、そして自信を盟友と慕う友人。

 彼女らはなすすべなく、そうなった理由もわからなかった。


 手も足も出なかった、純然たる敗北。

 自身の無力、ただの高校生に出来ることなど何もない。

 それでもこれまで多少は上手くいっていたのは、運が良かっただけ。


 この期に及んで、言い訳ばかり思い浮かぶことに反吐が出る。

 そう、全てはどうしようもないもの────



『──────仕方がない?それは違うでしょ』



 それでも、脳裏によぎるのは尚もその言葉。

 そう明朗な笑顔で言っていた彼女は、もういない…………あの頃の頼もしすぎる仲間たちも、だ。

 自身に満ち溢れて、何でもできると嘯けるような黄金時代はすでに過ぎ去った。


 後に残ったのは、彼女を失って何もかも諦めた自分だけ。


 でも、それでも、だからこそ……と俺は、かつての残滓(レイ)に手を伸ばした。

 しかし、離さないと決めていた筈のレイの手は、容易くすり抜けていった。


────掴んですらいない手を、何故握っていると勘違いしていたのか。



 自分にはその手を握り返す力すらないというのに。

 


 すでに、レイとノワ子をさらったあの軍服男はいない。

 どこに行ったのかも、どうやってさらったのかも、今は何もかもどうでもいい。

 何もかもわからない、誰もかもいなくなった。


 あやふやな意識の中で、頭の中の声が歩けと命じている。

 その命令のまま、俺は、死に場所を求める死兵のように……幽鬼の如く足を上げる。




「──────あ、」

 ふと辺りを見ると、いつの間にかかなり歩いていた。

 飲食店街の外れの、こじんまりした休憩スペースが眼前に在った。

 辺りは青い偽物の芝が張られていて、その中心には謎のヤシの木の模造品が鎮座している。


「どこか、休める場所を……」

 幸いにも、獰猛な魔獣には会わなかったらしい。

 だが、終わらせてくれる存在が欲しかった俺にこの時間は苦痛である。


 揺れる視線で辺りを見ると、小さな遊具もあった。

 休日に来れば、よく子供たちが遊んでいるところを目にするだろう。


 ふと、見つけた小さなベンチに何かを誤魔化すように腰掛けた。


 こんなことをしている暇はない、レイたちを追いかけなければならない。


…………俺一人で?ムリに決まっているだろ。


 こんなにも自分が弱かったことを、今更ながら自覚する。

 あれは事故みたいなものだった…………仕方がない、仕方がないんだ。


 ぐるぐると回る脳内で、自身が胡乱な視線を向けてくる。


『言い訳するなよ、凡人風情が。お前にその権利は無いだろ?』


 言い訳?俺は一体誰にしているというのか。

 誰でもない誰か?俺自身?

 あの頃の自分か?それとも仲間?

 

────レイ?ノワ子?リティア?…………多分、全員だ。


 一度の失敗、たかが一度の躓きで、()()()()()()()すべては狂ってしまった。

 全ては繰り返す……俺は自身をどれほど戒めようと、反省することすらしない。

 すべての元凶は自分、あまりに明快な答え(自分自身)が幻影の如くこちらを睨んでいた。


 そして、目の前がまっくらになり…………淀んだ安寧と共に──────




──────ふと、目を向けた先に一人の少女がいた。



「──────っ」



 輝きを放つ金髪であり、レイと似ているが明らかにレイより幼かった。

 十か十一ほどの年齢であり、あどけない顔で将来は美人になるであろうとわかる。

 年相応の背丈と年不相応の胸部のふくよかさ…………そして何より彼女はシスター服を着ていたのだ。


 そんな彼女はどうやら意識を失っているようで、芝生の上で脱力し、熟睡するように目を閉じていた。

 

 その姿を見て、一瞬で思い浮かんだことは気絶、幼い…………あの軍服男の能力である可能性があるということ。

 あまりにも符号が揃いすぎている、ここに来て手がかりのようなものが転がっていた。

 絶望の中、ほんの少しだけ見えた光明であった。

 そんな存在に光に群がる蛾のように、ナギトは立ち上がってシスター少女へ向かう。


 芝生は思ったよりも音を吸収するらしく、足音は無い。

 辺りはしん、と静まり返っていてまるでこの世界に二人しかいないようだ。

 静寂を体に感じつつ、おもむろに少女に手を伸ばす──



「──────────ブロロォォォォォオオオオオァ!!!」

 

 

────そして、地面から這い出た大顎によって芝生広場は飲み込まれた。




◆◇◆◇◆




「────────ブロロォォォォォオオオオオァ!!!」

 現れるは大顎を備えた食虫植物のハエトリグサを巨大にしたもの。

 芝生そのものに擬態していたのか、そのまま、芝生に踏み入れたものを丸のみする算段だった。

 そして、その中に踏み入った哀れな餌は、なすすべなく嚙み砕かれる────




「────まじか、こんなのもいんのかよ……てか、臭」



────巨大ハエトリグサの後方に、シスターをお姫様抱っこで抱えたナギトがいた。



 ナギトはすでに、この芝生広場がハエトリグサのテリトリーであると気が付いていた。

 一瞬、昔に嗅いだことのある睡眠薬のような臭いを感じたからだ。

 なのですでに息を止め、素知らぬフリをしてシスター少女まで近づいたのだ。

 シスター少女の近くに来るまで、この怪物が待つかどうかは賭けでしかなかった。


 しかし、こういう罠を張る奴は慎重であると読んだナギトの粘り勝ちであった。



「────とはいえ、ここからどうするんだって話だが……」

 無論、この場から離れるのが最善だろう。

 だが、その思考を読んだように巨大ハエトリグサは蔓を伸ばして、俺たちを囲んだ。

 おそらく、俺を警戒しているようだが、怪物に比べれば俺に脅威度はない。

 なので取り越し苦労なのだが、自身の睡眠罠が効かなかったことが利いているらしい。


 とはいえ、このままでは伸ばした蔓で締め上げられてしまう。


──────結局は助けることへの欲求なのか。


 絶対絶命の危機に、それでもナギトは笑みを零す。

 目の前にいる人間をつい助けようとする、助けになりたいと思う。

 エゴでも、偽善でも、誰かのためなら何でもいい。


 そういう我儘を我ながら自覚する。

 勝算も、利害も、生死さえ度外視した手助け。

 親友から受け継いだ、その狂気的とでもいう業のようなものだ。



「……ま、難しいことは考えない方向性で、悩むのはレイとかノワ子のことだけで精一杯だわ」

 先ほどの暗く、淀んだ思考を打ち払うように、俺は頭を振った。

 疑いもせず少女を助けていたら、俺はハエトリグサの思う壺だった。

 おそらく睡眠薬で眠らせた餌に引っかかる他の餌を釣る寸法だったのだろう……いや、この怪物思ったよりも頭いいな。

 まあ、この少女、巨にゅ……いやふくよかなので餌としてはそこそこ食いでがある扱いなのか。

 そんな不純なことを考えつつ、俺はなすすべのない状況に苦笑いを浮かべる。


 でも、思ったより状況を楽しんでいる自分がいた。

 あの吹き抜けに落ちた時のレイもこんな気持ちだったのだろうか。

 少なくともメアリアのようなスリルを楽しむ変態ではないが(濡れ衣&失礼)


 確かに俺は無力で、どうしようもない……しかも、大言壮語を騙るただの一般人だ。

 それでも、それが自分だ……後悔することも自分を改めることもしない。


──────そう、それでいいのだ。


 仕方がない、なんてことはない。

 打開方法も、無いなら無理やり作り出すだけなのだ……安全やら意義など、()()()()()()()()

 それに俺には仲間がいる…………なら、それをよりどころに進むのみ。


 一度の失敗などで止まっている暇はない、()()()()()()がそうしたように。


「……とはいえこの状況は打開できないなぁ!?」

 ま、今は仲間いないんですけど。


 そして、少しずつ狭くなってくる蔓サークル……流石にこれは死んだかと合掌しようとしたとき──────



「──────ガァアアアアア!!!」

 


──────空から、鎖の固まりが墜ちてきた。




 あまりに突然、そして予想外の方向から血生臭い鎖が落ち、そして蔓をすべて串刺しにする。

 凄まじい速度と威力を保持した鎖束は、巨大ハエトリグサの頭を上下に貫通する。


 その光景に口を開くことしかできないナギト……しかし一瞬で我に返り、咄嗟に気づく。


「──────本体は別に……!」

 そう、ナギトが気づいていることがもう一つあった。

 あの植物体には本体がいるということだ。


 だが、そういえば、()()()の鎖の能力は────とそこまで思い立って口をつぐんだ。



 ぶちゅり、と腐った果実を潰すような音が、地から這い出た。

 蔓を貫いた鎖がそのまま地面へ直行し、地中にいた本体を貫いたようだ。



 まあ、この〈区域(エリア)〉にいるのはイヌ科のモンスターだ。

 ハエトリグサの化け物は明らかにルールに反する。

 何らかの空想現界人の仕業という可能性もあるが、明らかに弱そうな俺をここまで警戒するのは、警戒心の強い獣だろう、なんて当たりをつけていた。


 ま、目の前の鎖男には関係ない話だった。

 鎖の生物を探知し、追尾する能力を忘れていた……普通に反則だろ、これ。


「………………」

 そうして、鎖男は無言で貫いた狼をそこらに放り捨て、俺たちへと一瞥する。


 あ、わりぃ俺死んだわ…………え?

 鎖にハチの巣にされるだろうと、辞世の句を考え始めた俺は横を素通りした鎖男を二度見する。


「……やっぱメアリアが失礼すぎたってことで、結構紳士なのか?」

 『むきーっ!失礼な!!あ、失礼なのは僕かぁ……』と頭の中で聞こえたが、無視しよう。

 理由はわからない、けれど敵対しないのはありがたい。

 とはいえ、空想現界人やらと比べると、か弱き男子高校生は近くに居られるだけで心臓に悪い。


 だが、困惑している暇はない。

 ここから離れること、それが先決だ。

 魔獣により眠らされたシスターを抱えつつ、俺は芝生広場を後にしたのだった。



◆◇◆◇◆


 

 あんな大見得切ってたのに、おおよそ運により危機を脱してしまった。

 とりあえず、シスターを背負った俺たちはレストラン街を抜けて、下の階への階段まで来ていた。

 シスターは起きなかったものの、そこまで体重は重くないので抱えるのに苦労はなかった。

 ただ、揺れる二つの肉塊が背に触れ、色々マズいことは敢えて語らないでおこう。

 

 しょうもないことを言っていないで、とにかく状況を整理すべきか。

 レイとノワ子がさらわれた、謎の軍服男によって……だ。

 軍服男の能力、ケルベロスの能力、その他いろいろ疑問があるが、それは一旦置いておこう。


 それよりも、朗報としてレイの位置が分かることに気が付いた。

 おそらく、《身体の契約》による契約(パス)のおかげだろう。


 あの時は気分が落ち込んでいて気が付かなかった。

 まあ、悔やむのは一旦止めておこう。

 遠く離れたレイが俺の助けになってくれている、それはとても心強い。


 ともかく、俺はレイの位置を感じる方向へと足を進めていた。

 しかもモンスターに会うこともなく、順調にDekopoモールを順調に進めていたのだ。


 まあ、目下ただ一つの問題をあげるとするなら一つある。



──────後ろから、視線を感じることくらい。



 尾行なら、何回かされたことがあるからわかるが、この気配はあの鎖男のものである。

 先ほどから感じる視線、そして気配は前に行ったり後ろに行ったり、様々な方向から俺を覗いてくる。

 もし、シスターの意識があれば、これだけで顔を青くしていたかもしれない……恐怖で。


「──────うーむ、さっぱりわからない」

 そして、より疑問なのがおそらく鎖男は俺たちの近くにいるモンスターを排除してくれていること。

 ここまで、全くモンスターと会わないのもおかしい話なのだ。


 そう、敵対しないのならともかく、協力してくれる覚えはない。

 まさか、メアにひどいことをしたから恩返し的な…………ないな。



 ともかく、非常に視線を感じる。

 そもそも、意思があるのかどうかすらわからない鎖男に、何かを話して怒らせるわけにもいかない。


 ただ、この疑問は別に解決しなくても問題はない……すっきりはしないが。



「まあ、もう迷わないって決めたんだ……今は進むしかない」

 そう自分に言い聞かせ、俺は階段を下りて行った。

 


────階段を降り切った地点で、鎖男はこれ以上はついてこないらしく、立ち止まった。


 ナギト的にはとても助かったが、頭の中が違和感で埋め尽くされる。

 しかし、彼が同行してくれなかったら、確実にここまでたどり着けなかっただろう。


 地下四階の入り口、外の駐車場入り口近くに鎖男は佇む。

 その振る舞いは粗野だが、こちらへの最低限の気遣いをほのかに感じる。


 違和感の正体を解すように、俺は鎖男の顔を凝視する。

 なぜだろう、鎖男に見覚えがあるような……


「──────あ!」 

 俺はふと鎖男を見て思い出す。


──────空想現界人である彼の()()に。



◆◇◆◇◆





 その男は誰から見ても、〝悪〟であった。


 その男は騎士であり、軍人であった。


 鞭使いのテリスマンと恐れられた実力者だった。


 貴族であり、その権威と実力を笠に着て、市民をいたぶるような典型的な悪役であった。


 しかも程度をわきまえており、自分の悪事が明るみに出ることはない程度のギリギリで楽しむ、最悪の騎士であった。


 仲間内で違法な薬を楽しみ、新人を薬にはまらせ、破滅させる。

 

 上司の妻を寝取り、捨てる。


 騎士団の税金を横領したこともあった。


 すべては、己の栄華のため。


 すべては、己の猜疑心を満たすため。


 男は、常に何かを疑わないと気が済まない性質だった。


 だから、その狂ってしまいそうな疑心を紛らわすために。


 乾いたその疑いを潤わすために、真実と実直に裏付けされた〝悪〟に手を染めた。


 誠実な〝悪〟は、薄っぺら栄光を駄賃のようにもらえる正義よりよっぽどマシだ。


 それが男の口癖であった。


 そう、だからこそ徹底され、潔癖と言えるほどの証拠隠滅は男から断罪を遠ざけた。


 だが、それでもいつか天罰はやってくる。


 裏切ったのは男のもっとも近くにいた共犯の騎士。


 男の集めた金をわが物とし、亡き者としようとした。


 いくら実力者と言われた男でも、人数には勝てない。


 三日三晩の逃亡劇の末、大けがを負っってしまったが、どうにか路地裏に逃げ込むことができた。


 傷だらけの自身を見下ろした痩せこけ薄汚れた青年が、虚ろな目で立っていた。


 自分たちの腐敗のしわ寄せを現したような運命に、男は絶望した。


 男は己の罪を呪って、運の悪さに苛立ちを隠せなかった。


 この盗人は、自分の纏った金目のものを奪って敵へと売り飛ばそうとしている、と。


 そうに違いないと思い込み、必死に地を這い逃げようとするが力が入らない。


 だが、青年は自らに近寄り、そして優しげに何らかの言葉をかけた。


 それどころか、その汚らしい襤褸で止血をし、そのその細腕で私を引っ張りゴミ捨て場に隠したのだ。


 しかも、青年は自身に飯を分け与え始めた。


 この世の光景とは思えない男は口を開けるしかなく、そしてその開いた口に食物が入れられた。


 腐っていない、ただあまりにも味のしない食材。


 ただ、何日かぶりのまともな飯で、これまで食べてきた何よりも美味しい食材がそこにあった。


 そして、男は初めて気づく、悪でも正義でもない〝なにか〟に。


 清廉でも汚泥でもない、それでも〝美しさ〟と言えるものが……こんな誰も目にとめない場所にあったのだと。


 そして、青年の献身は男の回復するまで、続いた。


 回復した男の前にあの青年はいなかった。


 それでも、男は構わなかった。


 世界のどこかに、必ず美しさはあるとわかったから。


 そして、男はすべての罪を、自らに加担してきたものらの罪を、洗いざらい吐いた。


 もちろん決定的な証拠を自らでそろえたので、ついでに男以外の悪事に手を染めた者もいもずる式に投獄された。

 

 男は牢屋の中で、あの時の青年を思い出す。


 言葉も、意義も必要のない〝美しさ〟。


 かけがえのないそれは疑ってばかりいた自身に、ほんの少しの勇気をくれたのだと。

 

 もう一度、やり直そう、あの美しさに報いるために。




──────そして、その願いが叶うことはない。


 男のいた街はその夜に『鎖の悪魔王』に滅ぼされたのだから。



 かくて、彼はその美しさ()()を奪われ、悪魔の奴隷へとなり下がった


◆◇◆◇◆






「──────テリスマン」

 その言葉が出たのは全くの偶然だった。

 『デモンズサークル』という同人ゲームに出てくるとある、悪魔王の眷属の名前だ。

 主人公には敵対しないどころか優しさを見せる不思議な悪魔だった。


 血濡れた鎖を操り、外套を纏ったその悪魔と目前にいる男は非常に似ている。

 『デモンズサークル』は昔の同人ゲームで、ファンタジーノベルゲーの金字塔だ。

 結構有名だが、ノワ子がやっているのを見た記憶があるくらい。


 その時に偶然見たのが、テリスという名の悪魔である。

 まさか、こんなところで本物と会うとは思わなかった。

 あの時助けられた青年と同じ、そんな理由で俺たちをここまで護衛していたのか。


 あの蔓の狼の時のも偶然じゃなかったのかもしれない。


 ただ、シスターはともかく、俺はあの助けられた青年、そして『デモンズサークル』の主人公とも同じ年齢だ。

 故に、あの時のタックルでは毒気を抜かれ、ここまで護衛してくれたのか。



「……………………」


 彼は俺の呼びかけに答えない。

 そのまま背を向けて、去るのみだった。



「──ありがとう、助かった!」


 ただ、感謝に反応した鎖が手をふっているように見えるような、そうでもないような。

 少なくともナギトはそう思いたかった。


 そして、俺は一度、シスターを地面に下ろし、鎖の男……テリスマンを見えなくなるまで見送った。




…………


……………………


……………………………………





「──────おや、ナギトさんじゃないですか……また会うなんて奇遇ですねー?」

 その余韻に水を差ように、ふよふよ浮いている不思議な少女が口を開く。


「ちょっとは余韻に浸らせてくれねぇ!?」

「……ふふ、また別の女の子を連れていますねぇ、ナギっちゃんも隅にはおけませんなぁ?」

 普通に無視して会話を続けるなボケ。

 まあ、人聞きが悪すぎる言い方はともかく、ここで会えるのは案外悪くない。

 それはそれ、これはこれ、だ。


「…………メア、お前に怒れる鎖の貴公子が訪ねてきている────後ろを見ろ!」

「なにゅあぁぁっ!!?っていないじゃないですか!驚かせないでくださいよ……」

「ノリいいなお前……そうだな、この子はちょっとした拾いものみたいな感じだ」

 意外と返してくれるメアリアについ、素直に足元に寝かせてある少女の事を口走ってしまう。

 正直この子の扱いは定めかねているのが現状なので、メアリアに共有するのもやぶさかではない。


「なるほど、うぉでっ…………なロリを拾ってきた、しかも物扱い……有罪(ギルティ)ですね。略式死刑でいいですか?」

「温情ゼロかよ。流石に妹より下の年齢をそういう目で見れんわ」

「えー?ほんとぉにぃ??ん、というかパツキンちゃんとシュバ子ちゃんはいないんですか?せっかく鎖トークしたかったのに」

 やけにねっとりとした疑惑を向けてくるメアリア、しかしどうやら二人が居ないことに気づいたらしい。

 いや、鎖にあれだけ狙われててトークしたいとは思わんだろ。

 ノワ子のあだ名も前と違ってるし、本当適当な奴だな。


「ああ、かくかくしかじかでな」

「なるほど、これこれうまうま、ダイ〇ツのケーというわけですな」

 あの鹿のCM知ってるやつ居ねぇだろ、令和だぞ今。

 ともかく、よくわからない戯言を流しつつ、俺はこれまでのことを話し始めた。




※ナギト説明中




「──────ふうん、軍服を着た愉快犯にパツキンちゃんとノワ子ちゃんを攫われちゃったというわけですか。んで、ナギトはレイちゃんの位置を把握できるから追っていると」

 話を聞いていたメアが、聞き終わった後にそう呟いた。



「ああ…………ただ、おそらくレイのいる場所は」

 そこまで言った俺は言葉を切って、視線を向ける。

 視線の先にはゲート、すなわちこの〈区域(エリア)〉を区切るものである。



 そう、その先にあるのは──────



「〈深海区域(マリンエリア)〉ですか。なるほど、厄介ですねぇ?」

「ああ、別〈区域(エリア)〉ともなれば、流石に慎重にいかなきゃならん」

 というか、アナウンスでは〈区域(エリア)〉間を移動することは難しいと言っていた。

 けれど、実際どう移動していいかすらわからないのだ。


「まあ、流石のメアリアも〈区域(エリア)〉間の移動方法なんて知らないか……」

「知ってますよ?全然移動方法知ってますよ」

 そう軽く言ったメアリアは歩き出し、そして俺の方へと振り向く。


「まあそうだよな──────え、マジで!?」

 知らないと決めつけていた俺は、メアリアの言葉に瞠目して、素っ頓狂な言葉を返してしまう。



「ええ、向かいましょう……〈ショップ〉へ!!」


 そして、俺は少し前に目標地とした場所の名前を、再度聞くのだった。


〈Tips!〉

・ナギトの親友について

 ナギトの親友、中学生時代にもっとも仲良くなった彼女は、とても快活で理不尽を許せない人間だったという。

 ナギトはそんな彼女があらゆる問題に首を突っ込んでいき、それを放って置けないため付いて行った。

 そして、彼らは中学を卒業し、別々の高校へと行く。

 だが、その直前彼女は駅のホームから電車に飛び込み、死亡する。

 警察曰く、彼女は家族は全員死に、親が残した借金を苦に自殺したらしい。

 ナギトは気が付かなかった、親友は彼女自身の理不尽に対しては抗う術は無かったのだと。

 そして、親友の兆候は出ていたはずだ、彼女が必死に隠していたとしても気が付けた筈だ。

 何故、気が付けなった?


────それはナギトが親友に対して、彼女は快活で明朗であるべきという感情を押し付けていたから。


 そして、ナギトは全ての情熱と信念を貫く正義を捨て、静かに目を閉じた。

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