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017「空腹は胃もたれに似て」

〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 Dekopoモール 大地区域(ガイアエリア) 最下階〉


「──────らっしゃっせー」

 その店は明らかに隠されていて、階段の裏にひっそりと佇んでいた。

 上に行くときに通ったはずの場所だが、その時にはなかったはずだ。


 メア曰く、認識阻害魔術が組み込まれているらしい。

 いや、商店なのに客が来なくなる仕組みにしていいのか、とツッコミたくなった。

 ちなみに、シスターさんはまだ意識が戻らないので、入口のところに寝かせている。


「ふ、ここが知られざる名店〈ショップ〉ですよ!」

「店名そのままなのかよ?隠れた名店感が台無しだな……」

「お客様ー、店内はお静かにー」

 おっと、怒られてしまった。

 奥のカウンターにいるのが店員らしいが、まるで気の抜けた話し方で覇気がない。

 見た目は、ボサボサの銀髪で、店の制服なのかエプロンを上に、ジーンズとヨレヨレのシャツがさらにだらしない印象を助長させる。


「いやー、彼GM側だから怒らせるのは駄目ですよ?ナギトさん」

「怒られてたのはお前だろ、メアリア」

 自覚のない発言にツッコミつつ、店内を見渡す。

 コンビニというわけではなく、どちらかというとファンタジー世界にある道具屋っぽい内装だ。



「なんつーか、これもGMが作ったんなら、趣味がまるわかりだな」

「そーですね、まるでゲームの道具屋みたいでしょ?」

 まあ、ここ自体が【ゲーム】の〝イベント〟なので当然と言えばそうだ。

 しかし、現代のショッピングモールに、突如ナーロッパ(小説家になろうの非実在ヨーロッパ)に出てきそうな商店があると違和感がすごい。


「なんか、ポーションぽいやつとか、雑誌とか、装飾品に装備……いろいろ置いてあってちょっと興奮するな」

「ですよね!食料品以外なら、〈ショップ〉に大体置いてありますから」

 メアから、聞き捨てならない言葉が出る。

 こちらとしては死活問題であるので、ここで流すわけにはいかない。


「そう、食料品だ…………メアはどうやって手に入れてんだよ?」

「あー、ナギトさんはそういうこと知らなそうですもんね」

 明らかに最初の説明も受けてないどころか、端末も持ってないだろうし……とメアは付け加える。

 こういう情報はできれば聞き出したいところだ。


「端末?」

「ええ、空想現界人……【ゲーム】のプレイヤーなら最初に配られる必需品ですよ。食料もここで、ポイントと交換できます」

 なるほど、そういうシステムなのか。

 でも、俺とノワ子は空想現界人でもないので持ってないのが普通……

 てか、なんでプレイヤーでもないのに【ゲーム】に参加できているんだ?

 それらはともかく、正式な参加者たるレイがその端末を持っていないということはかなりおかしいな。



「これが、端末です!ここで、この〈ゲーム〉内での色々は丸ごとできますよ」

 そういうと、メアが懐からスマホと遜色ない端末を取り出した。

 画面は、ソシャゲのホームメニューのような見た目で、下の方にメニューバーがあって……みたいなUIをしていた。


「へー、ほぼスマホと変わりないんだな」

「大体は。ソシャゲはできないですけど」

 そりゃあ、現代人にとっては致命的だ。

 まあ、GMとしては【ゲーム】に参加させるための装置なんだから、ゲーム機能なんて入れるわけないけれど。


「んで、結局、エリア間を移動する方法ってのは何なんだよ?」

「少し脱線しましたが、それについて話すときが来たみたいですね!」

「少なくとも、俺はポイントとやらは持ってないぞ?持ってないと何も買えないが」

 ここにくる道中、メアは方法についてもったいぶって教えてくれなかった。

 しかしここに来た時点で方法にこのショップが関係することは流石にわかる。

 

 ただ、俺たちは端末もなければポイントもないのだ。

 万引きでもするのか?怪盗らしく。


「今、失礼なこと考えてませんか?」

「か、カンガエテナイヨ……」

 なぜバレた、女の勘か?

 ともかく、真っ当な方法ならいいんだけど。


「いくら何でも、GMの商店で悪さはしませんよ?私、義賊ですんで」

「ねずみ小僧的な存在てことか」

「そんなダサい名前の人と一緒にしないでください?私はスタイリッシュなんで」

 知らねえのか、一応お前の祖先的な人だぞ。

 スタイリッシュとか自分で言うもんじゃねぇだろ。

 

「じゃあ、怪盗〇ッド」

「あれちょっと派手過ぎません?」

「どの口が言ってんだ……ファンに謝れ」

 ともかく、メアと話していると脱線しがちだ。

 お前も大概派手な格好してんだろ、しかも肌色多め。


「普通に、この商店で売ってる〝区域(エリア)入場券〟ですよ」

「なるほど、売ってるんだそういうの」

 とはいえ、あのGMらしき人のアナウンスでは、エリア間移動は難易度が高いと言っていた。

 嘘とは思えないし、こんな簡単に手に入るとは思えない。


「ええ、20万『狩猟ポイント』で買えます。ちょうど、私の全所持『狩猟ポイント』と同じですね。なので、これから買ってこれをナギトさんにプレゼントします」

「────待て、〝イベント〟に必要なものを貰うわけには……」

 端末で、食料やらを買えるのなら、生活必需品もポイントで買える。

 この〝イベント〟に必須なものを、全額プレゼントされるのは流石に罪悪感がある。


「構いませんよ!私のものはほぼさっき倒した銀狼のものですし、」

「けど、なんか要求とか借りとか、言い出すだろ?」

「私の扱いひどくありません!?」

 まあ、メアリア自体ノワ子と同じアホの子臭がするので、仕方がない。

 それに、やっぱりモンスターを倒すことで、『狩猟ポイント』が手に入る仕様なのか。


「ん、じゃあもしかして俺たちに山分けされるポイントが……」

「お察しのとおり、ナギトさんたちのポイントが全部私に入ってきました。合計10万ポイントが」

「まてまて、半分はお前のなんだろ、渡していいのか?」

 銀狼を倒して、10万ポイントってことはかなり『狩猟ポイント』自体はレートが低い。

 要するに、20万ポイントの入場券はとんでもない値段だということ。

 鎖男と状況が揃ってギリギリ倒せた銀狼の二匹分のポイントで、エリア間移動しかできないのはあまりに法外な値段だろう。


「問題ないです。私自体〝イベント〟には興味ないですし、なにも問題ありませんよ」

「──────でも、」

「ふふ、ここに来て罪悪感が湧きましたか?でもいいんです。とても良い経験をさせてもらいましたし」

 そう、メアはまるで宝物を握りしめるように微笑んだ。

 これは、結局借りになってしまうな。


「すまん、けどありがとう。お前のおかげで、レイたちを追える」

「ふふ、こちらとて感謝する立場です。銀狼との戦いは本当に久しぶりに心が躍りました」

 そして、微笑み合った俺たちは、〈ショップ〉で入場券を買ったのであった。


 店員は迷惑そうな顔をしていたが、まあ空気を読んで注意しなかったらしい。

 

 かなり、幸運と温情に恵まれ、レイを助けに行く目処はどうにか立ちそうだった。


◆◇◆◇◆




「────じゃあ、またどこかで」

 そして、俺たちは〈深海区域(マリンエリア)〉ゲートの前まで、来ていた。

 メアリアにもついて来てほしかったが、どうやらこの《入場券》で通れるのは一人のみらしい。


 とにかく、これで新しいエリアへと行ける。

 昏睡中のシスターさんには悪いが、一緒に〈深海区域(マリンエリア)〉に行ってもらう。

 メアリアに引き取ってほしかったんだが、普通に断られた。

 彼女の安全のためにも、預けたかったが仕方ないので一緒に来てもらおう。



「ふふ、ナギトさんは本当に不思議な人ですね。求めていないのに、あなたには協力してくれる人が寄ってくるのですから」

「そうかもな。昔から運だけはそこそこ良いんだ」

 メアリアは笑顔の奥で、冷静に思考する。

 そう、それ(幸運)はあくまでおまけ……真に彼を守るのは、運命を引き寄せる知恵だ。

 メアリアはナギトをあくまで冷徹にそう評価する。


「さて、それではお気を付けて」

「ああ、気を付ける。また会ったら、次は敵かもな?」

「ふふ、その時は容赦しませんよ!」

 そして、笑い合った後にゲートを超えるナギトを見送る。


 その後ろ姿に、メアリアは笑顔で手を振り────徐に振り返った青年は口を開く。


「────あ、そうだ、最後に一つだけ……()()()()()()()



──────笑顔がすっと、消えた。



「……なんの話です?」

 離れたゲートの向こうにいるナギトはメアリアの言葉に、確信を持った目で見た。

 メアリアには、彼が何をもってしてその答えに至ったかはわからない。

 されど、ただの当てずっぽうではなさそうなことが彼の表情から伝わる。


「別に簡単なことだろ。仲間がいるってお前は言ってた……なら、そこから色々推測できた」

「それだけで、どうして?」

 メアはわからない、特にボロを出していなかったはずだ。

 そう、少なくとも仲の良い女友達の関係を演じれていたはずだ。


「メアリア自体には違和感がなかった。けど、最初にあった時、お前は「トレイン」しちゃいましたと言った。ゲーム用語で、悪意をもって追跡している敵を擦り付ける行為の事を指す、つまり言葉から罪悪感が感じた。あの時、意図的に鎖男をけしかけたって方が考えやすい。それに、お前都合よく現れすぎだぞ……鎖男がいなくなった直後に現れたのも、とんでもなく()()()()()()()()

「ですが、それと陽介さんを結びつける根拠はないでしょう?」

 そう、ナギトにとってそもそも陽介はおかしな存在だった。

 あの高校での件で魔術師から逃げられる一般人はいないのだ。

 だが、陽介はあの時連絡できるほどの余裕があった……ナギトが違和感を感じてもおかしくはない。


「まあ、むしろ陽介の命令で、俺たちを見に来たって方が違和感がないって思った。カマをかけただけだ。けど、あの言葉をかけたお前の反応で確信したよ」

 陽介とメアリアの違和感を繋げただけのほぼ勘みたいな推理だ。

 ほんの少しの情報を無意識的に集めた、か細い答えが口に出ただけで、彼自身当たるとは思ってなかった。



「…………はぁー、ナギトさんて普段のほほんとしてる癖に、意外と抜け目ないですよねぇ?」

 そう、息を吐いてすでに誤魔化すことをやめたメアリアは苦い顔をする。

 ただ、ほんの少しうれしそうなのであると付け加えておこう。


「そっちこそ、想定外のことには弱いなんて意外だな」

「ぶー、こう見えて、意外と純粋な乙女なんですよぉ」

 そう、頬を膨らませ軽口を返すメアリアは思う。

 どうやら看破したからといってナギトが何かを言いたいわけではないらしい。

 おそらくゲートの向こうにいき、メアリアの方が手を出すことができなくなった状況。

 この状況だからこそ、彼は自身の目的を看破したのだとメアリアは気づく。


 このナギトという青年は、やはりボスに匹敵する切れ者だと改めて実感する。


「──────もし、先にあなたと出会っていたのがなら……いえ、これ以上はやめておきます」

 もしも、という言葉は好きではないが、それでもメアリアはつい口にしてしまう。

 刹那主義である彼女にとって、今以外を想うことは不粋なのだから。




「…………こっちにもイロモノが多いからな、これ以上は勘弁だ」

 そう、ひらひらと手を振った青年は徐々に小さくなっていく


 そして、メアリアは少しの寂寥感と共に、去っていく彼をただ眺め続けたのであった。



◆◇◆◇◆






「──────へくち…………風かなぁ?」


 そして、とある場所のとある時間、彼はくしゃみをした。


「おいおい、お前が一番弱っちぃんだから体調管理はしろ、ボス」

 そう、母親のような心配をする部下、そして彼は廃ビルの一室にいた。


「まあ、メアリアたちが頑張ってくれているからね?こっちも、〝計画〟を詰めないとね?」

「…………俺は肉体派だからな、お前に任せるよ」


 妙に態度のでかい部下を許容しつつ、彼は静かに机へと向かうのだった。



◆◇◆◇◆





「──────ううむ、やはり意識を失った人間は重いな」

 〈大地区域(ガイアエリア)〉から打って変わって、地面と壁が黒に染まった薄暗い〈深海区域(マリンエリア)〉を幼女シスターを背負った俺は歩いていた。


 正直、十一、二歳の女児など羽のように軽い、重くはないのだ。

 しかし、最後に菓子を食ってから二時間以上たっている。

 すでにカロリー不足が深刻となった俺の体は、食物を欲している。


 正直、どんなものでも持つだけで重く感じるだろう。


 おんぶされ、その金髪を揺らすシスター少女は、まだ起きる気配がない。

 まあ、生物の作り出した睡眠薬を永遠に嗅がされていたのだ。

 専門家ではないのでわからないが、十時間くらいは起きないかもしれない。

 

「うへぇ、とはいえ。シスターさんを置き去りにするのもなぁ」

 実はこの子が実は完全記憶能力をもっていて、歩く魔導図書館とかそんな感じの存在なら、協力してもらえば戦力にはなる。

 まあ、そんなしょうもない妄想はともかく、自分よりも結構年下の幼女を戦わせるのは、自身の道徳が反応するので駄目だ。


「とはいえなぁ…………」

 そう、背負うのなら必然的にこの体制になる。

 この持ち方が一番楽なのだが、背中に彼女の年不相応の()()が当たる。

 つまり、高校一年生の健全な男子たる俺には毒であるのだ。


 それよりも、空腹の方がひどいことによってどうにか誤魔化せるのが不幸中の幸いだ。


「ま、北海道の雪山で飲まず食わずのサバイバルした時よかましか」

 まあ、あの時は、最強マタギ少年も一緒にいたからどうにかなったのだが。

 というか、改めて思い返しても小学館のサバイバル漫画みたいな状況だな。


「…………独り言やめよ、カロリーもったいない」

 頭もおかしくなっているようで、先ほどから独り言が止まらない。

 ともかく、自重しようとして己の中にあるレイとの契約(パス)に集中する。


 レイは少し遠くにいるらしい。

 空腹なのでレイがいる地点に行けるかすら、心配になってきた。

 いや、そもそも俺が行ったとて、どうにかなるのか。


──────ここで、生産性のない問答をしても意味がない。


 そう、とにかく前に進むべし、だ。

 それだけが、何もできない俺にできることなのだから。




「──────っ」


 暗い廊下を進んでいると、大きな水槽がある部屋についた。

 これまでも小さな水槽がある場所はあったが、ここまで本格的な水族館な部屋はなかった。

 ナギトも何度か来たことがあるが、明らかに前によった時よりも巨大に増築されていた。

 〝イベント〟仕様の部屋、つまり────



──────宙を泳ぐ、巨大な深海魚の視線がナギトを横切る。


 咄嗟に隠れていなければ、恰好の餌食だっただろう。

 先ほど横切った深海魚は見たこともない種類で、アンコウの発光体を持つシーラカンスのような見た目で、顎と口にはびっしりと不揃いの牙が付いていた。



「(────宙を泳ぐ魚、それがこの〈区域(エリア)〉魔獣のテーマか!)」

 とはいえ、そうなればイヌ科よりも明らかに危険度が増す。

 このエリア限定だろうが、空を飛べるモンスターなど狙われればおしまいだ。

 しかも、このエリアは入り組んでいる上に狭い。

 魚群などに出くわせば、絶対死ぬ。


──────思ったより、一人で進むのはきついな。


 せめてシスターが起きてくれたら少しは取れる手もあるのだが。

 今はないものねだりをしている場合じゃない……ともかくあの深海魚を避けて、レイのいる方向へと出よう。


「──────っ!?」

 そう思った瞬間、息を呑む。

 目を向けた先にいたのは、一匹のナマズであり、彼の周りには目に見えてわかるほどの放電現象が起こっていた。

 こんな時に、別の魚に出くわすのはついていない。


 すい、と近づいてくる電気ナマズから離れるために、俺は目の前の巨大深海魚が居た大部屋へと逃げ込む。

 ここは順路として、二手に分かれておりどこから入っても一周できるつくりなのだ。

 


 後からついてくる電気ナマズは、さらに速さを上げて追ってくる。

 完全に捕捉されたようだ。

 上がった息を殺し、酸欠に喘ぐ肺に鞭を打ち、ナマズが入ってこれないほど狭い通路を目指す。


 薄暗い順路に足がもつれそうになるが、平坦な床なので、どうにか持ち直す。

 人を一人背負っているため、重心が不安定で走りにくい。

 

 もうそろそろ、狭い通路があるはずの場所に付く。

 用務員用のそれは、扉があり魚は入れない場所だろう。

 この空間なら、電気は通っていないし、電子鍵なので開いているはず。


 そう、決め込んだナギトは、どうにかナマズに追いつかれる前に従業員用員通路にたどり着く。


──────だが、その前に従業員用通路の手前から巨大なカサゴが現れる。


 縞模様で、サンバの衣装のようなヒレをもつその魚は、棘に毒を持つ。

 瞬時に、正面の電気ナマズと右にいるカサゴから逃げるために左に舵を切る。

 急な旋回でシスターを取り落としそうになるが、どうにか掴んで離さない。


 咄嗟に回避したナギトだが、すでに体力はギリギリであった。

 この魚鬼ごっこもあと一分も持つかどうか。


 しかも、この先には用務員通路はない。

 だが、この大部屋の出入口がある。

 そこまで保ちそうにないのだが、しかしシスター少女のためにも必死に走るしかない。


 足の上げる悲鳴を無視し、 必死に出入り口であるお土産コーナーに急ぐ。

 まあ、おそらくこの魚たちは、この大部屋からも出られるとは思うが……



────だが、それでも電気ナマズとカサゴが俺に追いつく方が早い。


 そして、電気ナマズの電撃が、俺へと届く寸前────



──────俺は、別れた狭い通路を左に曲がった。


 そこは狭いがそれでも電気ナマズやカサゴも入れるような通路。

 だが、俺の意図は単純。



──────ぐちゃりと、電気ナマズの頭が噛み千切られる。



 それを行った仕立て人は、先ほど見た巨大シーラカンスである。

 あの魚はこのエリアの円周大通路を周回している、そしてこの大部屋には他の魚は一匹もいなかった。

 つまり、あのシーラカンスを恐れてここには入ってこないのだろう。

 もしくはあのシーラカンスが食べつくしたか、道中に食べかすのような死骸の欠片も見えた。

 つまり、同族殺しが誘発できると当たりを付けた。


 そして、イヌ科魔獣よりも魚に知性を感じなかったのだ。

 おそらく、あの銀狼のように群れを形成している可能性も薄い。


 この〝イベント〟の〈区域(エリア)〉は生物たちの生息域(コロニー)を思わせる。


 電撃をものともせず、その体を食むシーラカンス。

 その光景を目にしたカサゴは逃走を図るが、シーラカンスはさらに加速してカサゴをも丸のみにした。


 圧倒的な食物連鎖の残酷さを感じつつ、俺は通路で息を殺していた。

 あのシーラカンスを見たときから、アレの周回速度割り出し、どこで出会うかを計算していた。

 中学受験で何の役に立つかわからないAさんとBさんが池を周る問題を、きちんと理解しておいてよかった。


 まあ、通路の位置はまでは計算していない、偶然だ。この大部屋には円周の大通路から外れて別の円周通路に繋がる直線通路が何か所かある。全部を計算していたわけではないが、どうにかうまくいった。


 まあ、あとは俺たちよりも明らかに体積の大きい餌のほうが優先されるかもみたいなそんな緩いよそくだったが。


 そして、息を殺している内にシーラカンスはもとの周回コースに戻った。

 少女が寝ているのも影響していただろう。

 十一、二の少女にあの光景は色々駄目なものがあるだろうし、ショックで声を上げれなくてよかった。

 割とスプラッターな光景を見てきた俺でもきついのだ。

 正直俺も悲鳴くらい上げそうになった。


 まあ、大阪で暗殺者に狙われた時の気配を殺すスキルが役に立つとは思いも寄らなかった。

 本当に何が役に立つかわからない、AさんBさんにも感謝だ。




「…………はぁ」

 どうにか、運と根性でお土産物コーナーへとたどり着いた。

 あのシーラカンスが去ったあとも特に襲われることもなく、妙に明るく感じるお土産部屋へとたどり着くことができた。

 

 とにかく、入口の横の壁に座り込む。

 正直もう立てないくらいは疲弊している。

 

 見ると、どうやらここも〈ショップ〉らしい。

 だが、〈大地区域(ガイアエリア)〉のものとは違い、どうやら店員はいないらしい。

 かわりにペッ〇ーくんみたいな清算機械らしき機器がレジにあった。


 どうやら、安全地帯なようだ。


 ガイアの方の〈ショップ〉にも、モンスターはいなかった。

 あんなに探して見つからなったものが、ここまで早く見つかるとは。

 いや、危険地帯を超えた先にあったので、意外と発見難易度は高いのか。

 確かに、あんな化け物シーラカンスがいる大部屋なんだ、普通は迂回するだろう。


 俺は、モンスターから逃げるため仕方なく入ったが。


「───ふう、とにかく腹は減ったが一息…………」

 

 


────パァン、と銃声が鳴り響く。


 漂う硝煙の匂いとともに、横を見るとすぐ近くの壁に穴が開いていた。

 間違いなく自身へとむけられた()()であるそれを理解する前に──────




「────死んどけ、下衆野郎…………そうだな、最後に言い残すことはあるか?聞いてやるとは言ってねぇがな」

 そして、銃口をこちらに向けた少女は、明らかに苛立ち立ちを含んだ声をこちらに投げつける。

 有無を言わさず人が殺せそうな視線で、少女は躊躇いなく引き金を引く。

 たぶん、一般人が到底処理できないであろう弾幕に、無能力者の青年はさらされる。

 


──────そして、ナギトは自身の前途多難な運命を呪った。




〈Tips!〉

・ショップについて

 〈ショップ〉に置いてあるアイテムは、大体RPGとかに出てくる回復薬とか剣などである。

 ただし、食料品は置いていない。

 店員はGMが呼び出した運営側の【空想現界人】であり、店番や防犯なども担っている。

 手抜きで店員が居ない〈ショップ〉もある。

 〈ショップ〉が出てくるのは〝イベント〟限定であり、特に隠匿された場所にあるものは価値のあるものが置いてある。

 ただ、武器や装備を買うものはあまりいない。

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