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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第一章:さよなら、美しき絶望の日々

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第二話 決闘宣言

 一日の授課程が終わり、アーシェは教員の呼び出しを受けていた。


「君は成績はそれなりに優秀なんだから授業も真面目に受けてくれ。適性も雷撃と中々に珍しいものを持っているんだ。前例が少ない分、研究成果は出しやすいだろうに」

「別に受けてないわけじゃないですよ。でも結局適性がないと基本三属でも最低限の魔術しか使えないですし、雷撃なんか何度かやってますけど、風の影響ないからあんまりやる気が出ないんですよね」

「教員の目の前でそれを言うとはいい度胸だな。まあ言わんとせんことはわかる。それでも、火と水はそれなりに使える。ちゃんと覚えておくように」

「はい……」

「それはそうと、今日はこれから王太子殿下主催のパーティーがあるんだろう。急がなくていいのか?」


 教員にそう言われて、彼は授業内までに考えていたことを思い出す。

 このままだとトラブル必至なイベント事だが、彼がどうにか諫めればそこまでの大事にもならないだろう。


「君も難儀だね。取り巻きが故に――」

「なにも問題なんてないですよ。俺はあの人の傍に入れるだけで……」

「本当に君は難儀な性格をしているよ」


 呼び出しから解放され、頼まれた書類を職員室に届ける。

 少し時間が遅れたが、今からパーティーに向かえば出遅れることもないはず。


「いい加減相手を見つけないといけないかなあ……」


 貴族である彼には世間的な体裁を考えると結婚相手が必要だ。親の紹介による、いわゆる見合いというものに頼ることもできるが、特にそう言った結婚には愛などない。

 まあ、貴族同士のものに求める方が間違っているかもしれないが。


 彼にそういった話はない。公爵令嬢に尽くすことに重きを置いてきてしまった彼にとってはある意味当たり前かもしれないが、そろそろ家族が心配している。


「かといってエレノア様以上の女なんて――はぁ……この考え方が悪いか。とりあえず服装を整えて会場に向かうか。今からだと少し遅れるかな」


 そう言いながら彼は着付け屋のもとへ向かい、しかるべき服装へと身を整える。担当した人物がまだ慣れていない新人だったのか想定より時間がかかったが、それでもまだどうにかなるレベルの遅刻となる。

 ただ、遅れてきたとはいえ会場に着いた時の異様な空気感に関しては気づかないわけにはいかなかった。


 空気の中心にはエレノアと王太子とその他の男。件の女がいる。

 彼はそれだけでやばいと感じたが、彼が飛び込めるような空気感ではなかった。


「――なにがあったんだ?」

「アーシェか。いや、最初はただの小競り合いだったんだ。だけど、エレノア様が少しずつ癇癪を起していて……」

「お前、なんで笑ってんだ?」

「へ……?いや、笑ってないぞ。それでだな、あの女の子にいじめを指示した、してないでもめててな」


 取り巻きの言う通り、彼に聞こえてくる彼女たちの口喧嘩はまさにその通りともいえるものだった。


「殿下なぜ私の言葉を信じていただけないのですか!」

「で、でも――私の教科書を破った人たちがあなたから指示されたと……」

「黙っていろ!私は殿下と――」

「エレノア、もういい。お前のその態度が物語っている」

「ですから、私はそんな指示を――」

「で、でも皆さんが嘘をついてるなんて……」


 彼女の必死の弁明がその場に響き渡る。しかし、証言としていくつもの言葉がある。

 ただ、王子たちは根本的に間違えている。嫌がらせがバレ、自分が逃げるために公爵令嬢の名を出すなど考えられることだということを。


 この場合は証言が取れたとしても発言の信憑性が薄い。

 それに気づいている人も多いが、この場でその発言をする者はいなかった。そうしていると、彼女の目が据わり、なにかを決めたような表情をする。


(まずい……!)


 急いでアーシェは飛び出して彼女を諫めようとするが、その動きを他の取り巻きに止められた。


「は……? お前ら何してんだ。今のエレノア様の表情で何かをしでかした時、なにもいいことなかったろ!」

「なにもいいことないからだろ。もう俺たちはあいつから解放されたいんだ。黙ってろよ」

「ふっざ、けんなよ――裏切るつもりか!」


 彼は他の取り巻き男たちに、いつもとは打って変わって羽交い絞めをされる。

 他の女子たちはその姿を見て笑っているだけで何もしてこない。もうこの状況だけで、彼女の見味方が自分だけしかいないことを察する。


 そして、今この状況で彼女に行動を起こさせてはいけない。しかし、そう思った時にはもう遅かった。

 彼女の放った手袋が王子たちの女の胸に力なく直撃していた。


 決闘の宣言。

 彼女が行った行為の意味は簡単だった。その行動の末に王子は何かを見限ったのか、彼が落ちている手袋を拾い上げる。


「事ここに至って、この様か。公爵家も堕ちたものだな。フィアナ、怯える必要はない――」


 一般的に婦女子が殴りや剣術による闘技での決闘は、淑女足らしめないとし、行われることはない。その場合は、基本的に代理決闘の形がとられる。

 主に取り巻きの強い男子がそれに出る。この場合――


「俺が――いや、俺たちが代理人として決闘に出よう。なに、負けることはない。いじめなどと卑劣な真似をする相手になどな」


 エレノアは体裁などすべてを無視して本人が出るつもりだったのか、この結果に少しうろたえる。

 しかし彼女にも取り巻きがいないわけではない。その中には成績がそれなりに優秀なものもいる。だが、今は状況が良くない。


「お前ら……今は俺たちが前に出るところだろ」

「余計なことを――」


 アーシェは取り押さえられてるところに追い打ちで頬を殴られた。まるで出ていくなというばかりに。それですべて理解した。

 こいつらは彼女を助けるつもりはない。しかも――


「この状況――本当にお前らは……!」


 いじめは取り巻きが仕掛けた可能性がある。彼の知らない場所で。

 適当に学生生活を邪魔し、見つかればエレノアの名を出す。


 この者たちが最近の公爵の行動に辟易しているのは知っていた。だが、貴族社会で裏切るという行為がどれだけ重いものか。いや、子供故に本質を理解していない。

 おそらく、今は数があるから大丈夫だとでも考えているのだろう。


 そこまで考えが付き、彼は一切の躊躇なく自身の魔術を起動した。

 雷撃が周囲を巻き込みながら放電し、彼に触れていた者や半径5メートル以内にいた人間たちは軒並み気絶する。空気が焼けるような匂いに会場が静まり返る。


 決闘以上の騒ぎを起こし、全員の注目を集めたうえで彼は高らかに宣言する。


「俺が決闘に出る」


 ――たとえ、一人であったとしても

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