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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第二章 訪れた帝国での日々

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第十八話 不完全な生命体

 部屋に入り、戦闘を始める。


 目の前の真っ白な魔物は、その巨体をゆっくりと動かし始める。


 それが静かな合図となる。

 先ほどの攻撃をさせないために、アーシェがすべてを置き去りにして先行する。体に電気を流しながら高速機動によって敵に接近する。


 その後ろに続くのはエレノア。

 火の魔術で攻撃をしつつ、彼の近接攻撃を支援する。


 ビオラは基本的には戦闘に参加せずに後ろで待機する。

 緊急時の脱出口を確保するためだ。先ほど二人が彼女の戦闘能力を聞いた時に、絶句したのは言うまでもない。

 だが、ビオラは元からパーティーに戦闘面を期待されて雇われた人材ではない。

 主に罠の解除や荷物持ち等の役割が主だ。こういったダンジョン攻略では間違いなく重宝する戦力である。


 だから、これから戦闘を行うのは実質アーシェとエレノアだ。


「しっ――!」


 彼は飛び上がり、手刀や蹴りで魔物の一部を斬り落とす。

 飛び上がったことで、なにもできない滞空時間が生まれる。しかし、それに合わせて彼のもとに火球が飛んできた。


 耳元で鼓膜に響く攻撃が炸裂するが、それが彼に直撃することはない。

 衝撃が彼に当たるが、その勢いで彼は態勢を直しながら着地する。


「いつつ……ふぅ、思ったより皮とかは固くないな。なら、土手っ腹をぶち抜いて救出を優先するか」

「アーシェ、よそ見をするな!」


 エレノアのその一喝で彼は自分の眼前に迫っている攻撃に気付いた。

 思考がブレていたのを読まれたのか、視界外からの攻撃。避けるのがかなりギリギリになってしまった。


 しかし、彼の魔術を起動し、即座にその場から離脱する。


「ったく、なにをしているんだ」

「エレノア様、感知してる熱源のところにマークをしてもらえますか」

「まさか――」

「俺がそこをぶち抜いて救出します」

「わかった。だが、攻撃がお前を巻き込むかもしれないぞ」

「大丈夫です。少々きつい魔術ですけど、避ける瞬間に使うくらいなら少々のダメージで済むはずです」


 そう言って彼はまた前方に飛び出す。

 今度は雷魔術を少しずつ飛ばしながらエレノアにヘイトが向かないように立ちまわり始める。


 魔術を当てて、後退する。

 討伐を目的とせず、ヒットアンドアウェイに徹する。討伐して、腹を割るほうが早いと考えるかもしれないが、相手はあくまで未確認。


 攻撃を繰り返し、相手の行動パターンが変わったりするなどがあれば、中の三人がどうなるかわからない。

 もし中の人体を貯蓄した状態でいるのなら、一気に消化する可能性がある。なら、極力ダメージを与えず、力を使わせないように調節するのが正しいだろう。


 彼の目的を理解したエレノアは魔術で炎の針を生み出す。

 できるだけすぐ消えないようにかつ、微量なダメージを傷口に与え続けるように作った。


 作成したのは三本。この三本を目的の位置に寸分たがわずに打ち込む必要がある。

 だが、この距離なら彼女が外すことはない。


 彼女の感知する熱源は人型にとらえている。

 その的を完璧に彼女は撃ち抜いて見せる。まずは一体目――


「アーシェ、まずはそこに――え?」


 目印を撃ち込んだと、彼に合図を上げようと先ほど彼が逃げていた位置に視線を戻すと、そこに姿はなかった。

 代わりに、彼女が撃ち込んだ目印(アンカー)の目の前にすでに移動していた。


「どらあああああ!」


 一瞬彼が光ったかと思えば、アンカーのある場所に穴をあける。

 次の瞬間には魔物から彼が飛び出してきて、一人の男を抱えていた。


 彼はそのままビオラのもとに駆け寄り、その男を彼女に見せる。


「こいつであってるか?」

「は、あぁ……トール!」


 彼女の反応を見て、生存の可能性を確かに感じ取る。


「エレノア、次だ!」

「あ、ああ――わかった」


 次の二本目もすぐに刺さる。

 その瞬間に、アーシェはアンカーごと魔物の肉をぶち抜いてもう一人救出する。


「ジェスタ――!」


 ここまでは簡単だった。

 しかし、そこで魔物の動きが変わった。


「ピギャアアアアアア」


 周りをついばむような不快な鳴き声を発したと思えば、魔物の肉がもぞもぞと蠢き始める。

 とてつもなく嫌な予感を感じたアーシェはすぐに動き出し、エレノアもそれに合わせた。


 アンカーが刺さり、彼が突っ込んであと一人を救出するだけとなる。

 だが、そうはいかなかった。


 アーシェの攻撃が敵に弾かれたのだ。


「かった……なんだ、急に硬度が変わった?」

「アーシェ、何かおかしい。熱が――人型が移動を始めてる。行先はたぶん、魔物の心臓に――」

「ちっ、中の人数を減らしてもアウトだったのか」


 おそらく正解は、一発で全員を救い出すことだったのだ。

 しかし、それを怠ったわけではなく、完璧に救い出せる安全策に走っただけであり、二人に非はない。しかし、状況が悪いのは事実。


 このままでは一人飲み込まれる。


「ギィブル――お願い、ギィブルを助けて……嫌、私を一人にしないで!」


 状況が悪化していることにビオラも気づいた。

 そして、自分の一番大事な人がまだ救われていないことにも。


 だが、道がない。

 眼球や口でもあれば、そこから侵入できるかもしれないが、そう言った器官すらない。


 奴の体は今や固い皮膚に覆われて、完全防御状態に変わっている。


 時間だけが過ぎ、エレノアの感じる熱も少しずつ弱まっていく。

 このままではまずい。だが、突破口が――


 その時、彼女の目に先ほどのアンカーが映る。


「アーシェ、防御を突破する術を思いついた」

「なんですか」

「私のアンカーを起爆させる。幸いにすでに人影は動いており、あの下に目的の人物はいないだろう。だが――」

「そこからは完全に俺頼みってことですね?」

「ああ、安全策とは言えない。しかし、防御を一時的に突破するには内部から一発でも炸裂させるしかないだろう」

「わかりました。じゃあ、五分――五分間で戻ってこなかったら、このダンジョンから離脱して助けに呼びに行ってください」

「わかった。無事で帰って来いよ」


 そう言ってエレノアはアンカーを爆発させる。


 爆炎が収まりきるより前にアーシェは全速で飛び込み、魔物の体内に入り込もうとする。

 しかし、その瞬間にエレノアの瞳に映ったものがあった。


 魔物の体の一部に、自分たちの所持するものと同じ救難信号を出す魔道具があった。しかも、起動して真っ赤な光を放っていた。


 アーシェが体内に突撃した時に落としたものか?

 しかし、荷物はビオラが持っている。しかもなぜ起動している?


 その瞬間、彼女のはビオラとの会話を思い出した。


『私たちはこのダンジョンで救難信号を出した冒険者の助けに来た。お前がその信号を出したのか?』

『ち、ちが――そんなの、知らない……』


(そうか、あの魔物は――)


「アーシェ!」


 彼女の叫びが届くよりも前に彼は魔物の中に飛び込んでいった。

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