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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第二章 訪れた帝国での日々

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第十七話 最奥の部屋

「死体の確認はしたか?」

「はぁ……!? だから目の前で――」

「質問に答えろ」

「い、いや、飲み込まれたところは見たけど……でも、でも――」

「なら深層に向かう。調査依頼を引き継ぎつつ他の行方不明者を探す」


 そう言うと彼は、荷物を分け始める。

 まるでここからは一人で行くとばかりに。その行動にエレノアは待ったをかける。


「一人で行くつもりならやめろ。深層に行く判断は構わない。だが、それをしたいのならば彼女をこのダンジョンから無事に脱出させてからでもおかしくないはずだ」

「彼女の話が本当なら、時間の猶予がないでしょう。なら、先行して俺が行きます。エレノア様ならここからの脱出くらいなら何の問題もないでしょう」

「それはそうだろうが、未確認のもとに一人で行く理由がない。せめて彼女を――」

「あの……」


 これからの方向性で少しだけもめ始めたが、そこに水を差すように冒険者がしゃべり始めた。


「私は、その深層に向かっちゃダメでしょうか……?」

「それならば全員で深層に向かうことになるから問題はないのだが――」

「未確認を前にして足が竦んでいたら助けられないぞ」

「それは――でも、あなたに言われて気付いたんです。私、まだみんなが死んでるなんて思いたくないって。だから、ちゃんとこの手でできるなら供養してあげたいです……」

「エレノア様――」

「なんだ」

「できるだけ、俺より自分とこいつを優先して助けてください。このまま深層に入り、調査依頼を引き継ぎます」

「わかった。だが、お前も無理ばかりするんじゃないぞ。できるだけ、私の目の見えるところでやってくれ。そう言えば、お前の名前を聞いていなかったな」

「あ、あの――ビオラって言います。でも、いいんですか?」

「気が変わってもいいんだったらこの問答を続けるといい。早くしろ、気が変わらないうちにな」

「は、はい!」


 そうして、アーシェとエレノア。ビオラを混ぜた三人でダンジョンを踏破していくこととなった。

 更に深層に突入し、いわゆるダンジョンの中の難易度が変わるといわれる地点を超えてきたあたりで、敵の様子に異変が起きた。


 アンデッドが異常な数はびこっているのだが、それは大した問題ではない。

 そういうダンジョンだと聞いてはいるので、驚くことではなかった。ただ、今までのアンデッドとは違う特徴がその魔物たちにはあった。


 アンデッドは通常、人型や獣型など様々あり生前より多少崩れているだけで、基本的には生き物だったころの形は保っている。

 しかし、目の前のアンデッドはどうにも人としての特徴がみられないものがあった。


「なんだ、あの白いのは……?」

「あ、あれが未確認です」

「そうか、あれが未確認か。あのアンデッドそのものか?それとも、あの白いのが、か?」

「どうしてわかるんですか?」

「いや、あのアンデッド、熱源が二つある。この反応から見るに、寄生されて二つの存在が一つになっているというのが妥当なところだろう」


 エレノアの解析を聞いて、アーシェは戦闘の組み立てを考え始める。

 考えられる厄介な点として、アンデッドを殺してもそのまま寄生生物をエネルギー源としてよみがえるパターンや宿主を探して寄生生物部分がさらに凶暴になる可能性。


 どちらにせよ、一番に排除すべきは頭についている白い謎の生物だ。

 彼は一瞬で飛び出し、敵に認識されるよりも前に雷を纏った手刀でアンデッドの頭を真っ二つにした。


「は、速い……」

「戦闘は彼に任せよう。あれでも、格上に喧嘩を売って自爆で引き分けに持ち込む阿呆だからな。実力は確かだ」

「それって、大丈夫なんですか?」


 敵との遭遇に関しては大して問題はないと、三人はスムーズに進んでいく。

 ただ、少しずつ敵の数が減っていくことに関しては少し違和感を覚えてしまう。だが、あくまでそういう配置なのだと無理矢理納得させながら進んでいくと、最奥のフロアを発見する。


「ここか……じゃあ、入るぞ」


 アーシェの合図でダンジョンの最奥――ボス部屋と呼ばれる場所に突入する。

 本来このダンジョンは攻略済みで、この部屋に対象のボスがいることはない。しかし、三人が感じ取るこの気配が、それを否定する。


 彼らの目の前に姿を現した魔物は巨大な体躯で、真っ白だった。

 魔法陣を思わせるようなものが体の各所に描かれているが、それの意味はよく見ることができない。


 三人は現れた魔物を良く分析してから攻略しようとしたところ、その思考をアーシェはいち早く放棄して動き出した。

 エレノアも次の瞬間には気づいたが、少し遅かった。


 それは、一瞬の風を切るような音だった。

 攻撃とは思えぬ音――それがアーシェの頬をかすめながら後方に飛んでいく。エレノアとビオラを射線から弾き飛ばし、遅れてアーシェもボス部屋から飛び出した。


「なんだ今の攻撃は!?」

「エレノア様、怪我はありませんか」

「私は大丈夫だが――ビオラのほうはどうだ」

「わ、私も大丈夫です。でも、やっぱりあいつが――みんなの姿も見えないし……」

「それに関してはもしかしたら希望があるかもしれない」


 エレノアの言葉に二人の注目が集まる。ビオラのほうに関してはより強い視線を送っている。


「さっき私の領域にいた熱源は、七つだった」

「七つ……俺と、エレノア様とビオラ。そして、あの魔物――四つ分の熱があるってことは」

「ああ、もしかしたらまだ生きているかもしれない」

「じ、じゃあ――!」

「だが、予断は許さない。明らかに熱源の反応が弱い。このまま時間だけが経過すればどうなるかわからん」


 本来の適正通りの魔物なら、この三人でも勝てる。

 しかし、先ほどの高火力攻撃を鑑みるに、明らかな適正の上昇。本来なら引くべきだろう。だが、救助という観点においては戦うしかない。


 理想と現実はこの場の全員に見えている。

 だからこそ、この場で合流したばかりのビオラは戦ってほしいなんて言えるわけない。彼女のできることなど、負けるのを理解したうえで仲間とともに逝くことだけだろう。


「じゃあ、行くか。俺が先行する。二人は引き続き後方支援を頼む」

「わかった。ほらビオラ、立つんだ」

「え、え……? なんで?」


 彼女は困惑した。

 絶対にここは戦闘に出るべきではない。だというのに、二人は勇敢に立ち向かおうとしている。見ず知らずの自分たちのために。


「人を見捨てるのは私の性分ではない」

「というわけだ。俺はこの人がやりたいと思うことをするだけだ。今が立ち上がるべき時ならそうするまでのこと」


 二人の言葉を聞いてビオラは涙を流す。

 この救世主二人に一生の感謝を忘れずに生きていこうと決意した瞬間だった。

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