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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第二章 訪れた帝国での日々

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第十六話 発見

「ここが例のダンジョンというわけか。よしアーシェ、入るぞ」

「魔法石等の確認は済ませてます。いつでもいいですよ」


 カイズル死霊墓所に到着した二人は、ある程度の装備の確認を終えたうえで中に入る。

 その時、思い出したようにエレノアがアーシェに魔道具を渡した。


「すまない。これのことを忘れていた」

「これは……?」


 受け取った魔道具を見て彼は首をかしげる。

 魔法石を簡素にはめ込んだだけのものに見えるが、その道具が放っている魔力は相当な代物を思わせるものだった。


 それが自分たちの所持品に無いものでなければ、何の疑いもなく受け取ったのだが。


「これは協会の方から渡された救難信号を出すための魔道具らしい。なんでも、高ランクのパーティーや危険度が一定以上と予測される依頼には、危険を知らせ、他パーティーの増援を呼ぶために装備しないといけないものらしい」

「あぁ、それだったら、俺たちみたいな低ランクの冒険者は持っていないものですね」

「本来は自費で携帯するものらしいが、今回は特例ということであちらが用意してくれたものだ。お前のことだから、私から離れることはないだろうが、万が一のためだ」

「わかりました。でも、この魔道具はこのまま傷一つなく返すとしましょう」

「ああ、そうだな」


 そうして、二人は完全にダンジョンの中へと足を踏み入れた。

 エレノアが領域を開き、熱を感知。できるだけ敵とのエンカウントを減らし、危険な状況から身を離す。


 アーシェの戦闘以外での役割は、道順の捜索だ。

 彼の魔術で、微弱な電気を飛ばしながら、壁の位置を探り続ける。これを使えば暗くとも道をたどることができ、分かれ道があっても、その道がふさがっているのか違う道に通じているのかが判断できる。


 二人の魔術を全力で駆使して、一切魔物との戦闘を起こさずにかなりの深層までやってくることができた。しかし、ここで問題が起きる。


 地上からダンジョンに入って、休みを挟みつつ進んで4時間程度経過してからエレノアの魔術の精度が落ちてきた。

 彼女の集中力が落ちてきたからというわけではない。今のこの状況がまずかった。


「しっ!」


 会敵したところでアーシェが即座に片付けるので問題ないのだが。

 しかし、その状況に少しずつエレノアの顔が曇り始めていた。


「すまない――どうしても相手がアンデッドとなると、人型ものだから……」

「捜索のための人と熱源だけじゃ見分けづらいって感じですかね。しょうがないですよ。アンデッドの体温が低いって言っても、周囲よりは基本的に温度は高いし、それに助けるための冒険者も体温が下がってるかもしれないんで、無視はできないですもんね」

「本当にすまない。なにからなにまで戦わせてしまって……」

「気にしないでください。こういう閉鎖的な場所だと、炎を出すわけにもいかないですし、人を探すのに集中もしないといけない。戦闘は任せてください。アンデッドなんて、ちょっと力が強いだけの人なんですから」


 彼はそう言ってエレノアを諫める。彼女もそれ以上は自分を責めなかったので、特に気にもしていなかったが、彼の見えないところで彼女が自分の拳を握って、震えていた。


「本当に、情けない……」


 その呟きは再度アンデッドと戦い始めたアーシェの耳には届かなかった。


 彼が前に出て、エレノアがやってくるアンデッドの大軍を察知し、さすがにそれを避ける。

 ずっとそれの繰り返しとなっていたが、ついに彼女が違う反応を見せた。


「……!? アーシェ、ちょっと待った」

「なにか見つかりました?」

「い、いや……人型の熱を感知したのだが、一人だけでうずくまってるようにも感じる。しかも、道の真ん中というより――」

「わかりました。じゃあ、そっちに向かいましょう」


 そうして熱源のほうに向かうと、人影が見える。

 遺跡の中にあるガラクタなどで体を覆って隠れているが、その風貌は先に聞いていた冒険者の一人の風貌と一致する。


「おい、大丈夫か」

「ひっ!?」


 明らかにおびえたような声が響き、絶対に何者かがいるのだが、その何者かは絶対に姿を現さない。

 本当に怖い目に遭ったのだろうが、このままでは二人の目的は達成できない。なので、アーシェは無理矢理ガラクタを剥ごうとしたが、それをエレノアが制した。


 ここは任せろとばかりに彼女が前に出て、冒険者に話しかけた。


「私たちはこのダンジョンで救難信号を出した冒険者の助けに来た。お前がその信号を出したのか?」

「ち、ちが――そんなの、知らない……」

「じゃあ、なにがあったか話してくれないか」

「わ、私も皆も――あいつらに、あいつらに……あああああ!」


 エレノアの言葉が引き金になったのか、思い出したくないものを思い出した冒険者が錯乱し始める。しかし、彼女も負けじと引くことはなかった。


 錯乱を始める冒険者をしっかりと抱きしめて暴れないようにしてから耳元でささやいた。


「大丈夫だ。大丈夫――」

「はっ、はっ、はぁ……はぁ……」

「私たちはお前を助けに来た。だから――」

「おねが、い……みんなを、助けて――助けて……」

「そうだ、私は助けに来たんだ」

「うっ、くっ――ぐす……」


 冒険者はエレノアを抱きしめて、嗚咽を漏らしながらも少しずつ平静を取り戻していく。

 彼女の声を聴きながら冷静になり、今の自分の状況を少しずつ話し始めた。


「最初は、楽な依頼だと思ってた――」

「そうか。聞くところによるとお前たちは強いらしいからな」

「ああ、強いんだ。強いはずだ。なのに、あいつらが――」

「未確認の魔物というやつか?」

「そうだ。見たことも聞いたこともない形をしていた。だけどあいつらは集団で動いてて――このダンジョンの最奥に住み着いてた……」

「最奥……? このダンジョンのボスというわけか。いや、すでに攻略済みだからいるはずが――」

「そうなんだよ。いるはずのないボス――私たちは戦闘を仕掛けた。でも、でも――」


 二人は話の概要をだいたい理解した。

 未確認が想定以上に強く、パーティーがほぼ全滅して命からがらというわけなのだろう。救難信号もバラバラになったうちの誰かが発信したものではないか。


 となると、その冒険者に朗報ともいえることがあることをアーシェが話した。


「教会のほうに救難信号が届いている。お前が出していないということは、他のパーティーメンバーに生存者がいるはずだ」

「そんな、そんなわけない!」

「なんでそうなる。状況的に――」

「皆は、私のパーティーの仲間は、もういないんだよ!」

「まだわからないだろう。生きているかもしれないだろ」

「わかるよ!だって、だって――私の目の前で……」


 その言葉を聞いて、アーシェは少しだけ後悔をした。

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