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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第二章 訪れた帝国での日々

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第十五話 正式な依頼

 翌日――


 目を覚ましたエレノアはゆっくりと起き上がり、周りを見渡す。

 すると、すぐそばにパンを準備しながら座っているアーシェの姿を見つけた。


「おはよう、アーシェ」

「ああ、おはようございます。朝食――パンの準備ができてます。昨日買ってきたシロップをつけながら食べれば幾分かマシになりますよ」

「――ありがとう。世話をかけてしまって申し訳ないな」


 早朝から固い上に味のないパンを食べ、出かける準備をする。

 冒険者として生活していくならここまで速い必要もないが、やはり今までの貴族生活で少し時間が早めになっている。


 本来ならその日暮らしの冒険者ならばどの時間から働いていても問題ない。

 深夜まで飲んで、昼から依頼を受けるというのもメジャーなやり方だ。ただ、二人の場合はどうしても夜早く寝て、朝は規則正しく起きる。


 その生活習慣が簡単に乱れることがなく、こうして早朝から動き始めるのだ。

 幸いにも冒険者協会は基本的に日夜問わず空いている。日勤担当や夜勤担当などで受付などの職員は違うが、問題なく使用が可能だ。


「ふぅ……」

「どうした?」

「いや、ちょっと食欲がなくてですね……食べます?」

「……もらおう」


 いらないならばとエレノアは彼のほとんど口のつけられていないパンを受け取り、頬張った。

 口をつけられていなかったが、なんだか気恥ずかしくなった彼女はアーシェから目を逸らす。


「体調が悪いのか?」

「いえ、特に気にするほどじゃないです。昼には食欲も湧くとは思いますよ」

「ならいいのだが――今日はどうするんだ?」

「特に決めてないので、依頼を見てから決めましょう」

「そうだな。よし、行くぞ!」


 パンを詰め込み、一瞬の間に飲み込んだエレノアはバッと立ち上がり、準備を始める。

 それを見たアーシェはすぐに部屋を出た。


 しばらくして着替えが終わったエレノアはひょこっと扉から顔を出して、アーシェに合図を送る。


「もう大丈夫だぞ」

「じゃあ、行きますか」


 ◇◇◇◇◇◇


 訪れた協会は少しだけ騒がしくなっていた。


「なんだ?」

「あ、会長――二人が来ました! あの、ちょっと待っててください!」


 騒ぎの原因はなんだか二人のようだったが、厄介払いというわけでもなさそうなのでおとなしく待機する。

 しばらくすると、その協会で一番偉そうな男が姿を現し、二人を奥へと案内した。


「この度は少々お騒がせして申し訳ありません。少々こちらも立て込んでおりまして――」

「とりあえず、用件を話してもらおう。大丈夫だ、無碍にするつもりはない」

「ありがとうございます。では、さっそく本題から――先日、この協会を中心に活動するCランクのパーティーが依頼に出たのですが、おおよそ一刻ほど前に救難信号を魔術で飛ばしてきまして」

「ふむ、だが私たちが救助に向かうには圧倒的にランクが足りないはずだが」

「わかっています。ですが、昨日にインパクトボアを苦戦することもなく討伐。身体能力も他より秀でているとの目撃証言もあります。どうか、助けに向かっていただけないでしょうか。もちろん、正式な救助依頼として報酬もお支払いします。依頼達成をしていただいた場合、特例としてBランクへの昇級も検討させていただきます。どうか、どうかお願いします」


 正式な協会からの依頼。

 エレノアの言う通り、無碍にするものではない。だが、現行冒険者デビューをしたばかりでEランクのアーシェとエレノアに頼むような内容ではない。


「どうする、アーシェ」

「俺は構いませんよ。B級になればある程度の報酬も期待できますし、今の宿よりいいところにすれば、ある程度寝床も柔らかくなるでしょうし。あとはエレノア様の判断に任せます」


 アーシェは特に意見を言わない。あくまで選べばどうなるか等のことは提案するが、すべての決定権はエレノアにある。

 正直な話、結果は順当だった。


「依頼については理解した。私たちに話が回ってくるということは他の強いパーティというのも出払っていたりと難しいのだろう。私たちで良ければ、調査に向かおう」

「あ、ありがとうございます!」

「エレノア様、俺は宿に戻って準備をしてきます。協会の方で説明を受けつつ、待っててください」

「わかった。そちらは頼んだ」


 そうしてアーシェは宿の方へと戻っていった。

 彼が戻ってきたころには、エレノアも必要なものを受け取り、依頼に向かう準備ができており、すぐさま二人は目的の場所へと移動を始める。


 その道中でエレノアは受けた説明の内容を彼に繰り返していた。


「救難信号を出したのは、あの協会でもそれなりに腕の立つパーティだったらしい。で、そのパーティーが受けたという依頼が、遺跡(ダンジョン)で目撃された未確認の魔物の調査とのことらしい」

「未確認……それが今回の件の原因ですかね」

「おそらく――と、断定するには早いだろうな。遺跡(ダンジョン)調査は当然だが、想定外のリスクが伴う行為だ。それはアーシェも知っているはずだ」

「確かにそうですね。じゃあ、とにかく罠に警戒。突入したパーティーを救出――特に未確認について調べる必要はないですよね」

「そうだな。できたらいいだろうが、それは私たちの優先目的ではない。あと、その未確認がもし原因の場合、必要な状況になれば討伐も許可されている」

「わかりました。エレノア様は、領域を使って索敵などをしてください。俺は前線を張って戦います」

「――頼りにしているぞ」


 二人が向かったダンジョンと呼ばれる場所は、各所にある正体不明の洞窟や施設のこと。

 誰がどんな目的で作ったのか。いつ生まれたものなのか。中にどんな脅威があるのか。それがはっきりしないダンジョンのほうが数が多い。

 巷では超古代文明の遺物ではないかと言われている。


 二人がいる帝国はそのダンジョンの数が外国に比べて数が多い。理由はなにも判明していないが、これがこの国の冒険者が多い主な理由だ。

 そして、向かう先のダンジョンは、数少ない目的と作成者が知られているもの。


『カイズル死霊墓所』


 その昔、妻の死者蘇生を試みた男が残した施設。彼の死後、異常な量のアンデッドがあふれかえった狂気の施設であり、ダンジョンとしての歴史が全体の中でかなり浅いもの。

 難易度としては適性を守ればそれほど難しいものでもない。まあ、初心者が敢えて行くような場所ではないのは確かだが、準備さえすれば死ぬことはない。


 そんなダンジョンで起きた事件。

 未確認とは何か、二人は依頼を達成できるのか。この時のアーシェとエレノアはあまり悲観的なことは考えないようにしていた。

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