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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第二章 訪れた帝国での日々

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第十四話 帰還、そして――

「い、インパクトボアを単騎で討伐!? ち、ちょっと待っててください。その、手続きとか少々長引きそうなので、しばらく座ってお待ちください! か、会長――!」


 二人は協会へと戻った後、依頼達成の報告をし、報酬を受け取った。

 インパクトボアというそこそこのネームドの魔物を倒し、その頭部を持ち帰ったことについては一悶着あったが、それも協会で素材として売却し、幾ばくかの金銭とした。


 宿に戻る前に食事を済ませ、目的のものだけを購入し、足早に宿に戻ってきた。


「んー、一日目はそこそこ順調に依頼を達成できたな」

「そうですね。インパクトボアの討伐によって、近日昇級用の依頼を持ってくるとのことでしたけど、それを受ければもう少し難度の高い任務を受けれるようになりそうですね」

「そうか――ならもう少しやりがいのある依頼をやりたいな」

「だからと言って命が危なくなるようなのはごめんですよ。あくまで、冒険者稼業はしばらくの活動のためのつなぎなんですから。とは言ってもこの分だと、何年かは冒険者をやめられそうにないですね……」


 そう言ってアーシェは金貨の入っている袋を揉む。

 その動作にエレノアはビクッと反応をした。


「そ、そう言えばだな――その、私が持っていたお金なんだが……」

「……?」

「さっきの冒険者たちに渡してしまって……そのだな――」

「なくなったんですね。じゃあ、これを」


 彼は彼女の言いたいことを理解して、持っていた袋から数枚の金貨を取り出して渡す。日用品や個人で買いたいものなど好きに使える金銭は少しでも持っておいた方がいいだろうからと、彼は何の疑いもなく渡した。


 しかし、エレノアはその行動に釈然としなかった。


「た、ただでさえ少ない路銀を無駄遣いしたことを責めないのか……?」

「はぁ? 俺はエレノア様が優しいのは知ってますよ。大方、重症の冒険者の治療のために渡したんでしょう。それにそれくらいならすぐに取り返せますよ」

「そ、そういうものなのか? と、とにかく、ありがとう」


 自分の行いに対して、彼の信頼が厚いのは少し心苦しいところもあるが、ここは素直に金貨を受け取っておいた。

 しばらくは会話らしい会話はなかったが、エレノアが思い出したようにアーシェに聞いた。


「そう言えば、私の領域に人が入ってきたと言った時に、遠方を見ることができていたようだが、どういう魔術なのだ? やはりお前の魔術は扱うものが少なくて手札がよくわからん」

「あー、あれは体に張り巡らされている神経系に電気を流して感覚を緊張状態にしてるんですよね。さっきやったので言うと、目の神経を緊張状態にして遠くのものを見れるようにするんです」

「そ、そんなすごいことができるのか……でも、魔術を自分の体に流すのって、特に反動とかないのか?」

「まあ、ありますよ。ちょっと前にこれに気付いて耳で試してみたんですよ。その時に、長時間使ってたら鼓膜が弾け飛びましてね」

「はじっ!?」

「多分長時間の行使はできない感じですね。まあこの術、見えすぎるし、聞こえすぎるし、感じすぎるしで制御きかないんで、こっちの意味でも長時間は使えないですね」

「それって実用性あるのか……?」


 彼女の聞く限り、制御しきればとても強い力のように思える。

 ただ、本人がそれを否定している。では何が強いのかよくわからない。今回のように人を見つけることができればいいが、毎度都合よく力を使えるわけではない。

 では、彼一人では――


「一応、俺って近接戦より、魔術弓での戦闘のほうがちょっと得意でして――遠方から撃ち抜く時、この力を使うと基本外しません。どんなに遠くても、街一つとか離れてない限りは当たります」

「ああ、遠方の敵を感知して一方的に攻撃する。戦場に立てば、一気に形勢を覆せるな」

「まあ、今日みたいにすでに近場に入り込まれてたりしたら使ってもさして意味ないですけどね」


 ケタケタと彼は笑うが、彼女には何が面白いのかはよくわからなかった。


「いいなあ……私もお前のように魔術をうまく使えるようになりたいな」

「うーん、だったらエレノア様は領域効果を視覚に適用できるようにしたらどうです?」

「私の領域を?」

「熱を感知するものでしょう? だったら、それを目で見られるようにすれば、相手が遮蔽に隠れていても熱の形と位置で、領域内にいるものがなんなのか遠目でもわかるようになるんじゃないですかね?」

「わ、私は、自分の目が弾け飛ぶなんて嫌だぞ……」

「大丈夫ですよ。どこかで練習してみます?」

「うーむ、使えたら便利そうではあるんだよなあ――まあ、習得するに越したことはないか。頼んでいいか?」

「喜んで」


 そうこうしていると、時刻はどんどんと流れていき、すでに一般人なら寝静まっているような時間帯になっていた。


 時間を確認する術はこの部屋にはないが、エレノアのもとにやってきた睡魔が一日の終わりを告げ始める。


「ふわぁ……そろそろ眠くなってきたな」

「では、おやすみなさいエレノア様」

「お前は今日もベッドで寝ないのか?」

「大丈夫です。それよりエレノア様は体を休めて明日に備えてください。良い感じに体をリフレッシュすれば、色々な魔術の使い方を思いつくかもしれませんよ」

「お前の自由な発想が真似できるとは思えないけどな」


 少しずつうつらうつらとしてきたエレノアを見ながら、アーシェは部屋の明かりを消す。

 外からの光も月明かり程度のもので、部屋の中はほとんど見ることができない状態になる。そんな中で、エレノアの寝息が小さく聞こえ始めたころに彼は荷物をまとめ始める。


 とは言っても、持つべきものは少ない。

 いくつかの武器と、魔力が枯渇した時などの緊急時に用いる魔石を数個手に取って鞄に詰めていく。


 ぎちぎちというには余裕のある軽い鞄を持って、彼は夜中の宿の部屋から出ていこうとする。


「じゃあエレノア様、おやすみなさい。そして、行ってきます。朝には戻ってくるので、それまではゆっくり寝ていてください」


 そう言うと、彼はひっそりと扉を開けて部屋を後にする。

 宿の受付も主人も誰も彼の姿を見ることはない。ましてや夜中の街の中に人がいるはずもない。


 彼の足の向かう先は、冒険者協会だった。

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