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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第二章 訪れた帝国での日々

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第十三話 依頼達成

「どうしました?」


 突然何かに気を取られたように違う方向を見始めたエレノアに驚き、なにを感知したのかを聞く。


「いや、私の領域に人が入り込んだ――数は三……だが、熱の動き方を感じるに一人は重傷な様にも思われる」

「領域……方向はどっちですか。俺が見ます」

「ああ、あっちの方だ」


 アーシェはすぐさま魔術を使い、遠方を確認する。

 彼女の領域という言葉を聞いて、すぐに行動に移すあたり、彼もまた彼女の能力を信用しているようだった。


 エレノアの魔術適性は火――単純な攻撃性の高い魔術を扱える属性だ。ただ、攻撃以外にも転用できる点が多く、今回の彼女がすでに使っていた魔術領域もそれに該当する。

 火の魔術の応用で、熱源を感知するものを領域として開く。これを使えば、通常の気温より高い生き物や、体温の低いアンデッド系の感知もできる。


 今回はその彼女の魔術に人間の動きに似た反応が入ってきたのだ。


 それを理解しているアーシェは魔術を使って、遠方を眺める。

 すると、すぐに彼女の言った方向に人の姿を捉えた。言われた通り、数は三――一人が先行して走っており、それに続く形で二人が続いている。


 ただし、後ろに続いている二人のうち一人は、もう一人におぶられており、息もだいぶ荒いように見える。

 しかも、特に走る速度を緩める様子もなく、むしろ後ろを気にしながら逃げているようだった。


「確かに三人ほどいますね」

「お前、あんなに遠くのものを見えるのか? む、もう一つ領域に入ってきたな――今度は魔物のようだが……」

「なるほど……エレノア様、行きましょう」

「そうだな。見捨てるのも寝覚めが悪いか」


 そうして二人は収集した荷物を持ちながら魔物から逃げ惑う三人の方へと向かっていった。


 ◇◇◇◇◇◇


 なんてことない依頼のはずだった。

 畑を荒らす害獣を駆除して、数を減らしつつ住処を破壊してほしいというレベルのものだった。魔物もホワイトラビットとDランク程度でも簡単に狩れる魔物が相手ということだった。


 現に三人の冒険者は簡単にその依頼を終わらせて、帰路に就いていたのだ。

 その道中、突然彼らのもとに不幸が舞い降りる。


「はぁ、はぁ……インパクトボアなんて――なんで、こんな時に……!」


 三人が相対した魔物は少々強い魔物だった。

 この森に生息域が伸びているが、群生地はもっと離れた位置だから基本的にこの森で警戒しない魔物なのだ。


 確かに協会でたまに出るとは言われているが、本当にそう言ったことは稀で、事故に遭遇したようなもの。道にたまたま現れた馬車に撥ねられるくらいありえないこと。


 しかし、問題は遭遇することではなく、その強さだ。


 帝国内でその魔物は中堅レベルの冒険者の集まりで倒せるものであり、三人が潜っていた森の中で活動するような力の弱い冒険者が遭遇すれば最悪命はない。

 怪我をしても逃げられれば御の字という相手だ。


「もう、俺を置いていけ……」

「なに言ってんのさ。私たちは仲間だろ――絶対に見捨てないから……!」

「わかっ、てるだろ――もう追いつかれる。俺を置いていけば、時間が、稼げる……」


 すでに魔物の攻撃を受けて重症の冒険者がそう言って囮になろうとする。だが、冒険者はチームプレイの場面も多く、一人欠けるだけでこれからの冒険者生活が危ぶまれる。

 それだけではない。まだ駆け出しとはいえ、お互いで思い合い、戦ってきた仲だ。見捨てられるはずがない。


 と、そんな時、三人の前に人影が現れた。


「な、なあ――この三人、足遅くないか?」

「え、エレノア様、そういうのは隠れて言いましょう……まあ、とにかく――大丈夫か?」

「え、あ……? え……」


 突然現れた影から声を掛けられ、パニックになっている怪我人以外の二人は困惑する。

 しかし、現れた二人のうちの一人のアーシェはすぐに臨戦態勢に入った。


「エレノア様、俺がこのまま相手をします。三人と先に街に向かってください」

「わかった。お前も無理はするんじゃないぞ」

「わかりました。あとで落ち合いましょう」

「よし、お前たち――早く行くぞ」

「え、嘘……え? いや、あなたの仲間は――」


 いつの間にやら前に立ってくれた男が身代わりとなり、その近くにいた女に誘導されて逃げ始める。

 アーシェのほうが気になる冒険者たちは彼の身を案じながらも、自分たちの身が可愛さに誘導通りに走り始める。


 何刻か後、森を抜けたエレノア含む四人は、アーシェが惹きつけていたおかげでインパクトボアの難を逃れた。


 ようやく自分たちが安全だと判断した四人は少し休憩に入る。

 エレノアは休憩ついでに応急処置的な治癒魔術を使用した。すると、重症者の脈と呼吸は幾分か安定し、どうにか一命をとりとめた。


「これでしばらくは大丈夫だろう。この後は治療院に連れていき、しかるべき治療を受ければ命は助かるだろう」

「あ、ありがとうございます。でも、治療院に行くようなお金は……」

「ふむ、ならばこれを使うといい」


 そう言って彼女は持っていた幾分かの金貨を冒険者に渡す。


「でも、こんな見ず知らずの私たちに――」

「先ほどお前たちがこの者を見捨てようとしなかったのは見ていた。だから、この金を治療以外に使ったりはしないだろう」

「でも、あなたの仲間が――」

「ああ、それならもう心配いらない」

「え……?」


 エレノアの視線がいつの間にやら自分たちの後ろに行ったと思い、彼女たちもエレノアの視線の先を見る。すると、血みどろに汚れたアーシェが立っていた。


「ひっ……!?」

「ビビんなよ。冒険者だろうが――まあ、うまく逃げて、応急処置も済んだみたいだな……エレノア様も特に問題はなかったですか?」

「ああ、ところでその魔物の頭は?」

「いや、インパクトボアって頭の骨が異常に発達してて、その硬さから武器の素材として使えるらしいんですよ。それなりのお金になるかなー、って思いまして」

「ま、待ってよ……倒したの? あれを?」

「そう言っているだろう」

「あ、はい、そうですけど……」


 エレノアの思いもよらない圧に助けられた冒険者の一人は気圧される。

 それに気づいた彼女は慌てて自分の態度を和らげた。


「とにかく、もうここで解散しても問題ないな。行くぞ」

「はい」

「あ、あの――お名前だけでも……」


 去り際に名前を聞かれ、二人は振り返り、答えた。


「エレノア――最近冒険者になったエレノアだ」

「俺はアーシェ。協会で顔を合わせることあると思うから、よろしくな。じゃ――」

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