第十二話 初任務
冒険者としての登録も終え、二人は張り出された掲示板の方へと向かった。
掲示板には協会に依頼された任務等があり、冒険者の階級に合わせて区分けまでしてあった。
現在、二人の受注できる任務は最低レベルのもの。簡単にこなせて、命の危険が少ない任務ばかりだが、その報酬は少ない。安くて、その日の飲み代程度。高くても背伸びして一泊高めの宿に泊まれるような金額どまり。
当面の資金を稼ぐにはあまりにも効率が悪い。
「ほう、Sランクの依頼ともなると超大型の魔物の討伐依頼があるのか」
「まあ、そのレベルになるまでどのくらい時間がかかるのやら、って感じですけどね。現実的に稼ぐのなら、最低限Cランクの準大型の魔物の討伐くらいですね。Sランクはなるのは大変ですけど、Cランクは相当見込みがないとかじゃなければなれるレベルらしいですからね。順当に依頼達成を積み重ねていきましょう」
「そうだな。では、今日はこの蛍光草の収集にでも行くか?この時間なら、ちょうどいいだろう」
「わかりました。じゃあ、受付に受注の報告をしてくるので、少し待っててください」
そう言うと、アーシェは受付のほうに向かう。
「依頼の受注をお願いします」
「はい、蛍光草の収集ですね。初めての依頼としてはいい難易度だと思いますよ。ただ、指定された森には少々強い魔物がいます。苦戦を強いられる場合は迷いなく逃げてくださいね」
「わかりました。では、行ってきます」
二人は初めての依頼を受け、教会を後にし、指定された森の中へと入っていく。
収集用の鞄だけ持ち、森の中に入る姿を他の冒険者に見られれば、命知らずだとあざ笑われたに違いない。
しかし、二人は魔術を扱える。それだけで魔物に対抗できるだけの教育を受けている。
あくまで、二人は他の冒険者のように剣や弓を装備し、がちがちに固めないと負けるというところにはいない。
基本は中、遠距離での魔術戦闘をする二人にとって、鎧などの装備を付けずに身軽にいる方が楽なのだ。とは言っても、二人が帝国の魔物を甘く見ているというのは否めないのだが。
「しかし、蛍光草なんて集めてどうするのだろうな、依頼主は」
「ああ、エレノア様は使ったことないから知らないんですね。蛍光草は日中に光を集めて、夜間発光する特性を持った植物なのはご存じですよね?」
「ああ、それくらいは常識だ」
「あれ、光るときに結構なエネルギーが出てるらしくて、日中に手に入れると光る前のエネルギーを蓄えた状態の蛍光草を手に入れられるんです。で、それを精製して薬にすると、蛍光草のエネルギーで眠気が吹き飛ぶんですよ」
「ん……? つまり、徹夜のお供の眠気覚ましというやつか」
「そうなりますね。俺のいた研究室でも蛍光草ドリンクは常備されてました」
「寝ないという成果を出すが、睡眠を奪う植物。良いのか悪いのか……はぁ」
アーシェがそんなものを使っていたことに、ため息をつく。
彼も彼女の言いたいことは理解するが、あの時はそうも言ってられなかったから何も言わなかった。ただ、一つだけ弁明するのなら、一度思いついたら眠る前に書ききりたかったという事だけ。
そうこうしているうちに、二人は崖のふもとに生える蛍光草を発見する。
簡単に見つかったことは喜ばしいのだが、その場所はあまりにも人の路から離れた場所にあった。
「たっか……」
「蛍光草ってあんなところに生えてるんですね。そりゃ、依頼を出すわけだ」
「どうやって取ろうか……」
目的のものは崖の真ん中あたりに生えており、二人が手を伸ばしたところで絶対に届かない場所にある。
どうやって取ろうかと思案しているところに、そう言えばとアーシェは自分のポケットの中から一冊の手記を取り出した。
「なんだ、それは?」
「いや、協会でもらった初心者本なんですけど、受付の人が蛍光草の収集を初心者には丁度いいと言っていたので、なにか載ってないかと思いまして」
「なんだそれ、私はもらってないぞ」
「紙も貴重ですからね。パーティーに一冊という形なんでしょう――あー、やっぱりか」
「なにかわかったのか?」
協会で受け取った本を読んでアーシェはこの依頼の本当の達成の仕方を見つけた。そのやり方は崖を上るよりは簡単で、少し命に危険がかかるやり方だった。
「エレノア様、この任務――収集依頼に見えて、一部討伐というか魔物と相対することがある依頼みたいです」
「というと、あの植物を回収する魔物がいるのか?」
「みたいですね。というわけなので移動しましょう。ここらへんでその魔物の巣があるみたいなので」
◇◇◇◇◇◇
移動を始めてからしばらくして、二人は目的の場所に到着する。
視線の先には、ちょっとした洞窟があり、なにかしらの巣になっていることは見て明らかだった。
その巣の中には光蝙蝠と呼ばれる魔物がいる。理由はわかっていないが、アーシェの持つ書物には蛍光草を集める習性があるという。
しかも、その巣からそれを奪うのはかなり簡単らしく――
「なんでも、音に異常に敏感らしいんですよ」
「お前の電撃で全滅させられないのか?」
「討伐依頼ならやりますけど、たぶんあの蝙蝠は蛍光草を取るための“手段”なんじゃないですかね? 他の人が困らないように、できるだけ戦闘になるのは避けたいですね。というわけなので、エレノア様、任せてもいいですか?」
「ふむ、そういうことならいいだろう。炸裂系の魔術でいいか?」
エレノアの問いかけに彼はうなずく。
それを肯定とし、彼女は洞窟の入り口から少し離れた場所に火の魔術を炸裂させた。
ドォン!と大きな音がしたかと思えば、すぐに魔物たちが奇声を上げながら飛び出して来る。
脇目も振らずに異常から逃げていきたいのか、あからさまに立っていたアーシェとエレノアに気を向けることすらなくどこかへと消えていった。
「ささ、今のうちに目標量を――」
「これでは山賊みたいだな……」
洞窟の中に入り、無事に蛍光草を見つけた二人は、協会にもっていけば依頼完了というところに持ってくる。今回の初任務は楽だったと悠々自適に帰ろうとしたところで、異変は起きた。
「ん……?」
エレノアがなにかに気付いたような様子を見せて、なにもない方向を注視し始めたのだ。




