アイドル
きいろ?
教室で友達を見つけた私は駆け寄った。
「昨日の新作動画見た~? キッズ、もー最高!」
ケイコはあきれ顔になった。
「アイラ、アンタこの前まで、大人の魅力ラブ~じゃなかった?」
それは間違っていない。けれど、
「結婚とか考えると、あんまり歳が離れてないほうがよくない?」
「考えないって、普通」
「あはは。そだよね。冗談。キッズは今ごろ魅力に気づいちゃっただけ」
「ま、キッズ好きになってくれて嬉しいけど。それより今日は、男子の転入生がいるんでしょ? 楽しみじゃない?」
「一般人はどうでもいいよ」
「見たら気が変わるかもよ?」
話題は変わっていったけれど、実は私は、アイドルと結婚することを本気で考えている。
だって結婚すれば、あんな綺麗な顔で見つめられ、あんな素敵な声で「アイラ、好きだよ」とか毎日囁いてもらえるのだ。ああ、もう想像するだけで、うっとり……。
でもそんなことはケイコにも内緒。ファンはみんなライバルだ。ライバルは少ないほうがいい。
「はい。席に着いて。転入生を紹介します」
先生は、地味な男の子を連れてきた。
前の席のケイコに、私は囁いた。
「どうよ?」
「ハズれ」
ほら、やっぱりこんな普通の学校には素敵な男の子はいないのよ。
「……進藤一哉です。……よろしくお願いします」
あ、でも声はなかなかいいかも。
隣の席になったので教科書を見せてあげた。進藤君は顔も向けなかったけど、ぼそぼそとお礼は言ってくれた。
下校途中、ケイコと二人きりになると、さっそくケイコが眉をひそめて囁いた。
「あの子、暗くない?」
「暗い。男子にもウケが悪かったみたい」
「アイラ、ずーっと面倒みなくちゃいけないかもよ?」
「えー?」
私は嫌そうな声をだしたけれど、実は内心、楽しんでいた。いい声だと思ったのは間違いじゃなかったし、後ろの席に座れるということは背も高いってことだ。残る問題は一つ。
「やっぱ顔よね」
「またアイドルの話?」
呆れ顔のケイコに、もちろんと頷いた。
翌日、ケイコはカゼで休みだったので、私は存分に進藤君を観察することができた。が、顔がどうもはっきりわからない。うつむき加減で目や口がはっきり見えないし、適当に伸びた髪が邪魔をして、輪郭も見えない。
「そうだ!」
すでに仲間外れっぽい進藤君を、一緒に帰ろうと誘うと、あっさりOKされた。
「今日は大声出したいんだ。カラオケ行かない?」
歌いたかったのは本当だし、歌う時くらい素の自分を出してくれるかも、と思ったからだ。
最初は遠慮していたのか、なかなか顔も上げてくれなかったけれど、数曲目でようやく顔を拝めた。その瞬間、これはいける! と確信した。私だって、無駄にアイドルの追っかけばかりしてるわけじゃない。目には自信がある。
それからは、まるで嘘のように話が進んだ。
雑誌の「カッコイイ同級生」で「街で見かけたイケメン君」で、「素敵な先輩」で賞をとった。
当然、髪型は変えて、姿勢も正し、私服にも気を配っている。その変身につきあったのが、この私なのだ。
そしてついに、進藤君はアイドルとしてデビューが決まった。好青年なのにどこか抜けていて、マイペースなところが良かったらしい。今のところ、人気はうなぎ上りだ。
「で?」
「で?」
私はケイコに聞き返した。
「だからぁ。約束くらいしたんでしょ? 『卒業するころ迎えに来るよ』とかさ」
「なんで?」
「なんでって……。進藤君がデビューできたのはアイラのおかげだし。アイラ、昔っからアイドルと結婚したかったんでしょ」
あらー。ばれてたのね。
「進藤君からは最近さっぱり連絡ないよ。アイドルってやっぱ忙しいじゃない?」
「え~? あれだけお世話したのに?」
「ケイコは大げさだよ。私はちょっとアドバイスしただけ。今の人気は進藤君の力」
「そうかなぁ」
「そう。それに私、最近アイドルどうでもよくなっちゃった」
「え、追っかけアイラが? 熱でもあるの?」
「失礼な! 大人になったって言ってよ」
だってアイドルだったら、甘いセリフも色んな人に言わなくちゃいけないでしょ? 私は私だけに、笑って言って欲しいんだもん。
20030830
これ書いたのすっかり忘れてました。
冷めた女子と実は……なアイドルで、これから二転三転しても面白そう。てか、すでにそんな作品がいっぱいありそうです。
動画、元はMステと書いていました。アイドル名も当時のものだったけど、さすがに今は使えない。今のアイドルに詳しくないので、キッズは架空の動画アイドルです。もし実在していたらすみません。




