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傭兵団の仕事

 こうして晴れて傭兵団なるものを結成した私たち四人ですが、まあ、大人からすれば子どもの遊びの延長にしか見えないのでしょう。私とユーリクの家の前に「依頼募集中!」とマックスが歪んだ文字で書いた立て札を立て、それを頼りに大人たちがやってきますが、まあ、何と言いますか……。「迷子の犬を探してくれ」「肩こりが激しいから肩を揉んでくれ」「木の実を採ってきてくれ」「夕方の水やりよろしく」などと、いわゆる「お使い」ばっかりでした。報酬も、お菓子だのハンカチだのコイン一枚だの……その程度です。

「くっ……なぜ、もっと血が踊るような依頼が舞い込んでこないんだ……」

 汗水垂らしながらマックスが嘆きます。彼の手には、野菜の苗が。今日の仕事は、山のようにあるお野菜の苗を全部畑の畝に植えることです。ちなみに、報酬は木の実ケーキ一人ひとつ。

「オレは、魔物退治とか、そういうのを心待ちにしているのに……」

「まあ、焦っても仕方ないだろう」

 一方、隊長であるユーリクは平然として、むしろ楽しそうに苗植えをしています。苗の感覚も絶妙で、いい仕事しています。

「これも体力作りだと思えばいいだろう?」

「よかねーよ!」

「じゃあマックス、競争だ」

 ユーリクはすっと立ち上がり、延々と注ぐように見える畝畑をびしっと指さしました。

「畑の端までいかに早く、正確に苗を植えられるか。どうだ?」

「お、おう! 受けて立つ!」

 単純なマックスは一つ返事で了解し、二人とも猛烈な速さで苗を植え始めました。

 苗を積んだ台車を引いて、セオドールがやってきます。彼は額の汗を拭い、雄叫びを上げながら苗を植える二人を見、首を傾げました。

「……何やってんの、あの二人」

「競争だって」

 私は鍬を手に、二人が踏み荒らした畝をせっせと直しながら答えます。

「早く、正確に苗を植えられた方が勝ちですって」

「へえ……ユーリクとマックスならやりかねないね」

 セオドールの台車から苗を降ろすのを手伝いながら、私は惜しみなく日光を降り注がせる太陽を見上げました。

 こんな日々が、大好きでした。



 私たちは大人になりました。この町では十五歳で大人と認められ、結婚もこの年から許されます。

 年頃の女の子はみんな、早々に相手を見つけて結婚していきました。私の隣の家の子も、旅芸人の男性の所に嫁いでいきました。彼女も今頃、旦那さんと一緒に世界各地を回っているのでしょう。

 でも、私は相変わらず、傭兵団の一員でした。五年前にユーリクが削った木の看板も、今はすっかり朽ち果て、軒下で頼りなくぶらぶら下がっています。


 この頃になると、依頼の内容も変わってきました。女の子である私はともかく、ユーリクたちには力仕事が多くなってきたのです。武具の修理や鍛冶屋の手伝い、隣町までの護衛など、いよいよ「傭兵団」らしくなってきたのです。

 ユーリクもマックスもセオドールも、剣術を心得ています。ですが、私は相変わらず何も戦えません。だから最初の約束通り、私はユーリクたちが帰ってくるのを待つ仕事に入りました。お茶を入れ、救急用具の準備をして三人が帰ってくるのを一番に出迎えます。三人ともぼろぼろに怪我して帰ってくる(特にマックス)ので、手当のし甲斐があります。あっという間に私の手当スキルも上がっていきました。

「今日は、こんなに大物を仕留めたんだ!」

 嬉々としてユーリクが語りますが、私が消毒液に浸した脱脂綿を傷口に当てると、うっと表情を歪めます。

「シリー……少しは加減してくれよ」

「これくらい我慢しなさい」

「まあ、確かに今日の戦いは少しユーリクが無謀だったかな」

 いつの間にか四人の内で一番背が高くなったセオドールがぼそっと言います。彼は要領もいいので、かすり傷程度しかありませんでした。

「今日の任務は商人の護衛だったんだ。何も、無理に魔物を倒そうとしなくてもよかっただろう」

「でも、シリーに見せたかったんだ」

 唇を尖らせて抗議するユーリクはまるで、小さな子どものよう。体はぐんと大きくなっても、その動作は小さい頃から変わっていません。

「今日仕留めた魔物の角。ほら、さっきその棚に置いただろう」

「……あれ、角だったの?」

 ユーリクの言う「角」は、部屋の隅の棚に置かれた小さなコップのようなもの。象牙色で円錐形をして汚いから、てっきりマックスがどこぞで拾ってきたがらくたかと思ってしまいました。

「オレが仕留めたんだ!」

 ちょっと離れたところでマックスが声を上げます。あ、彼は当然の事ながら一番重傷で、ベッドに包帯ぐるぐる巻きになって寝ています。どうやったらあんなに怪我するのか、セオドールを見習ってほしいですね。

「ユーリクとオレで挟み撃ちして、こう、ぐさーって!」

「……その直後、魔物の決死の体当たり喰らって失神してたけどね」

 ぼそっとセオドールが付け加えます。彼の言うことはいつも正論ですが、時折、何と言いますか……毒舌家っぽくなるんです。

「商人さんも驚いていただろう。あんまり、無茶はするんじゃないよ、マックス、ユーリク」

「……へーい」

 ふてたようにベッドに転がるマックス。彼を呆れたように見るセオドール。私の治療でいちいち顔をしかめるユーリク。

 やっぱり私はこの空気が好きでした。



 だんだんと、ユーリク傭兵団の名は知られるようになりました。同時期に名乗り上げた他の男の子たちは早々にリタイアし、ユーリク傭兵団のみがこの町でなおも活動を続けていました。隊長ユーリクの方針で、メンバーは何年経とうと四人のまま。時には入隊希望者もありましたが、全てユーリクが断ってきました。その代わりに、私たちの傭兵団の補助といいますか、下に付くようになりました。ユーリクは決して、そういう人たちを見放したり見下したりしなかったので、たくさんの人から慕われてました。


 そして。私たちが十七歳になった年の秋。ユーリクの元に、国の使者がやってきました。

 立派な服を着て、目も眩むような馬車に乗ってやって来た使者さん。辺境の街の住人はみんな大あわてでした。家中を掃除し、町を飾り立て。なんだか、お祭りの準備をしているみたいです。

 彼が来た目的はズバリ、国王陛下からのユーリク傭兵団への依頼。近頃名を挙げてきた私たちのことを耳にし、国王様が興味を持たれたそうです。

 現在も魔王の存在は世界を脅かしています。国王陛下も、勇者の来訪を心待ちにしていることでしょう。だから、ユーリクの力に目を付けたのです。

 依頼……いえ、命令内容はここからずっと遠く離れた山岳地帯に巣くう魔物の討伐。見事、その魔物を撃破しその証拠を持ってきたなら莫大な褒美を取らせる、と言います。


 その日の晩。傭兵団内で会議が開かれました。


「報酬はとてもおいしいし、待遇も悪くない」

 揺らめくランプの明かりの中、ユーリクが口火を切ります。

「だが、国王陛下は俺たちのみでの旅立ちを所望とのことだ。つまり、傭兵団四人のみで」

「四人って……まさかシリーも入っているのか?」

 誰よりも大きな体を持ち、たくましい青年に成長したマックスが太い声を張り上げます。

「まさか! こいつは無理だろう!」

「私も、着いていけるとは思えないわ」

 私の方から、参加を拒否します。私の存在が足手まといになることは確かでしたから。

「でも、やっぱり三人だと不安じゃない?」

「……確かに。今までにないくらい長い旅になるだろうから……」

 セオドールも思慮深げに考え込みます。彼は長身ですが、相変わらず細身でした。でも、歌声の才能はめきめき上達して、町を歩けばその美声に誰もが振り返るくらいになったのです。

「でも、俺は決して無謀だとは思わない」

 括弧とした口調で言うのは、ユーリク。彼はこの町の誰よりも剣術が巧みですが、引き締まった細い体をしています。髪も伸ばしているので、一つにくくった茶色の髪がさらさらと流れています。

「この三人なら今まで、どんな魔物だって倒してこれた。今回はちょっと目的地が遠くてちょっと敵が強いだけだ。何も心配することはない」

 そして、ユーリクは視線を私の方へ投げかけます。

「……ごめん、シリー。やっぱり君は連れていけないよ」

「分かってるって」

 私は笑顔でユーリクの背中を叩きました。

「何度も言っているでしょう、私はみんなのサポート役。みんなが帰ってくるのを待っているだけでも十分なんだから」

 私の力なんて大したこと無いのに、ユーリクは痛そうに笑顔で背中をさすってます。

「あはは、それはありがたいよ」

「そうだ! シリーが待っててくれるからオレたちもガンガン戦えるんだ!」

 おおお、と意気を高めるマックスに、相変わらず毒舌で「マックスはもうちょっと落ち着くべきだよね」とからかうセオドール。


 まだ、まだ大丈夫。

 まだ、私たちの仲は壊れていない。

 私は胸を押さえ、自分に言い聞かせるように目を閉じました。

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