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ちいさな傭兵団

 勇者様。

 それは全世界の人に憧れる存在。

 強くて優しくて勇敢。そんな、素敵な人。

 でも、伝説の勇者様だって人間。

 悩むことも、涙することもある。

 それを、知りました。



 私の名前はシリー。小さな小さな辺境の町に住む、ただの一般市民です。得意なことは……そうですね、山菜を摘んでお総菜を作ることでしょうか。これなら、町の誰にも負けない自信があります。

 まあ、つまりどこにだっている一般市民なわけです。ただ、一つ特殊なことがあるとすれば……それは、「勇者様の幼なじみ」であること。

 と言いましても、その勇者様は生まれたときから勇者様だったわけではありません。彼もまた、この町で生まれ育ったやんちゃな男の子だったのです。同年代の他の男の子より体力があって力持ちで、特訓好きな活発なただの男の子でした。

 だから、私も彼と幼なじみだったのです。ただの男の子とただの女の子。誰にも責められることも非難されることもなく、いつも一緒に遊んでいました。



 この町には女の子が少なくて、しかもほとんどの子はお裁縫やお人形遊びが大好きでした。お家の中にいて、可愛いお人形で家族ごっこをしたり、お洋服を縫ったり、お化粧の練習をしたり。何度か、彼女らにも一緒に遊ばないかと誘われましたが、私はいつも断ってました。だって、女の子と一緒に家で遊ぶより、男の子と混じって外で遊ぶ方が好きだったのですから。だからといって女の子から疎まれるわけでもなかったので、私は気楽に過ごしてました。


 いつの時代も、男の子はヒーローごっこが好きです。伝説の勇者になって、悪を退治する。うちの町の男の子もこぞって「勇者」になりたがりました。そして、大きくなったら魔物退治をするのが夢なのだそうです。

 ああ、そうでした。この世界にはいわゆる「魔物」が蔓延っています。町の中こそ、呪術師さんが結界を張ってくれたり魔よけの聖水をまいてくれたりしているので迂闊には魔物も入ってこないのですが、管理されていない山や森は魔物の巣窟。うっかり足を踏み入れれば魔物のエサになってしまう、と子どもたちは親から脅しまがいの注意をされます。

 そして、その魔物を率いているのが「魔王」。ちなみに私は魔王がどんなものか、よく知りません。だって、所詮町娘ですもの。そういう存在があることぐらいしか、聞き及んでませんから。魔王がいるために、この世界には魔物が満ちているそうです。

 で、魔物に対抗するため、世界各地で魔王退治の勇者を捜しているのです。大国の王様にその実力を認められ、魔物討伐や遠方遠征の命を受けていくと当然、腕も上がってきます。そうして、王様から軍隊を与えられて魔王討伐へ赴くことができるそうです。王様だって、無謀な戦いはさせません。これぞ、と思う猛者を勇者に任命して魔王討伐という最重要の任務を与えるということです。しかし、今まで幾多の勇者が旅立っていますが、誰一人も、その命を果たすことができませんでした。

 だから男の子たちにとって「勇者」は目標であり、また一つの憧れでもあったのです。


 ユーリクもまた、少年時代に「ユーリク傭兵団」なるものを立ち上げました。あ、ユーリクというのは例の、私の幼なじみもとい勇者様の名前です。当時は彼も私も十歳そこらで、元気いっぱい無謀いっぱいの年頃でした。



「ねえ、傭兵団、って何をするの?」

 私はユーリクの背中に問いました。当のユーリクは私に背を向けて荒削りの木ぎれに何か彫り込んでいます。多分、傭兵団名を書いているのでしょう。

 ユーリクはノミを両手で握りしめ、振り返ることなく言いました。

「そりゃあ、メンバーを組んで魔物退治するんだよ。あと、いろんな依頼を受けて報酬をもらったり」

「……怖くないの?」

 魔物退治、と簡単に言いますが、決して容易なことではありません。未熟な冒険者が突然変異で現れた魔物に襲われることだってありますし、いくら徒党を組んでも全員無事で帰還できるとは言い切れません。

 ですがユーリクはくるりと振り返り、眩しいぐらいの笑顔で頷きます。

「もちろん怖いよ。でも、戦えば強くなれるんだ。うちの町はそんなに裕福じゃないだろ。でも、魔物退治で名を挙げたらたくさん報酬ももらえるし、王様から大切な任務を受けることだってあるんだ」

「報酬……」

 確かに。討伐した魔物が強ければ強いほど、報酬も多くなります。その依頼者が貴族だったり、王族だったりすればなおさら。

「俺、いつかここを出るんだ」

 手元に視線を戻し、ユーリクはぽつりと言いました。

「シリーの父さん母さんにも世話になってるし、外に出てたくさん稼ぐ。それで、いつかここに帰ってくるんだ。がっぽり報酬を手にして、ね」

 そうなんです。ユーリクには両親がいません。何年も前、ぽいっと町の外壁際に捨てられていた赤ちゃんを私の両親が引き取ったのです。私とほぼ同い年だろうから、きっと娘のいい友だちになるだろう、って。

 ユーリクの決意を聞いて、私は胸の奥が熱くなるのを感じました。ユーリクの夢の重さがずっしりと、重く感じられたのです。

「……じゃあ、私も傭兵団に入れて」

「え?」

 聞き間違いか? とばかりにユーリクが顔を上げます。

「でも、シリー、君は剣も弓も持てないだろう?」

「うん、でもユーリクたちが帰ってくるのは待てるよ」

 負けじと、私は言い返します。

「ユーリクはいっつも無茶するから、怪我だらけじゃない。だから、私がユーリクの手当をするの。あと、温かいお茶やお菓子を作って待っているの」

 ね? とユーリクに詰め寄って嘆願すると、納得したようにユーリクは頷きました。

「確かに……この町には治癒呪術師もいないし、手当係は大切だね」

 町の外のギルドや王様の軍には、魔法を操る呪術師や癒しの術を使う治癒呪術師がたくさんいるそうです。でも、うちにはいません。土地柄もあって、この辺では生まれにくいし、わざわざ呪術師を雇うお金もないのです。ずっと昔に町に結界を張った呪術師さんがいなくなってから、めっきり魔法とは無縁なのです。


 そういうわけで私は「ユーリク傭兵団」の名誉ある第一隊員となりました。ちなみにもちろん隊長はユーリクです。で、他のメンバーは……。

「おまえたちも俺の傭兵団に入ってくれよ。あ、拒否権はないから」

 私に言ったときとは正反対の横柄さでユーリクが言いますが、言われた男の子二人は……。

「あったり前だろ! というかオレを差し置いてシリーが第一隊員になったのが気にくわねぇ!」

「僕でよければ。一緒に頑張ろうね、ユーリク」

 先に元気よく言ったのが、マックス。私の身長ぐらいありそうな剣をブンブン振り回す、無鉄砲な男の子です。「おつむはあまりよくない」と町の人に言われてますが、彼は明るく前向きで、力持ち。ユーリクのいい相棒になりそうです。

 もう一人は、セオドール。吟遊詩人見習で、ユーリクやマックスよりずっと華奢で細身です。しかし、歩く弾丸のような二人をサポートするのには彼が適任です。二人はお金にも無頓着なので、旅先でセオドールが路上ライブしないと、すぐに資金が底をついて行き倒れ確実でしょうし……。

 マックスもセオドールも、ユーリクと同じ私の大切な幼なじみです。ずっと四人で遊んでいました。性格は全然違うのですが、私はこの三人が大好きです。

「それじゃあ、団員も三人になったことだし」

 木彫りの札に団員名を彫り込み、ニッと、太陽のような笑顔でユーリクは笑います。

「ユーリク傭兵団……ここに誕生!」

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