第三十八話:郵便受けに、お手紙と包みですわ!
朝、館の門の外にある郵便受けに、お手紙と、そして、包みが二つも来ておりました。
「なんでしょうか! マリア!」
「はい。楽しみでございますね、お嬢様」
ワクワクしながら、わたくしたちはそれらを持って、館へと戻ります。
「まあ、マスターからの手紙ですわ」
「昨日の今日でございますから、町長様からのお返事かと存じます」
「呼び出しのお達しかもしれませんわね」
「手紙を開けるのが、少し恐ろしゅうございますか?」
「いいえ、ちっとも! むしろ楽しみですわ。どんなお叱りのお手紙か、早く確かめたいですもの!」
「お嬢様は相変わらずでいらっしゃいますね」
わたくしは包みを抱えたまま、手紙を開きました。
手紙には、こう書かれておりました。
『鏡はくれてやる』
それだけでございました。
「……まあ」
「マリア、これをご覧になって」
「はい、拝見いたします」
マリアが手紙を見ました。
「……本当に、これだけでございますね。おそらく、町長様のお言葉を、そのまま書き写されたのでございましょう」
「マスター、本当にそのままお書きになったのですわね」
「はい。ギルドマスター様は、町長様に言われるがままにお書きになったようでございます」
「ふふ、目に浮かぶようですわ。机を叩いておっしゃったのかしら」
「あるいは、腕を組んで鼻を鳴らされたのかもしれません」
「どちらにいたしましても、迫力のあるお言葉ですわね」
「左様でございますね」
わたくしは、そこでちょっと安心いたしました。
「それにしても、マリア」
「はい、お嬢様」
「わたくしたち、叱られずに済みましたわね」
「はい。呼び出しのお達しもございません」
「あの手紙に、お怒りの言葉は何もございませんものね」
「『鏡はくれてやる』と、そう書かれているだけでございます。あの姿見は、畑のご家族の物になりましょう」
「ほら、マリア。わたくしの申し上げた通り、町長様は分かってくださいましたわ」
「……そういうことにしておきましょう」
一つの包みは、重たい紙の袋でございました。
袋には、受付のクラリスさんからの書き付けがついてございます。
『アリシア様 マリア様
畑のご家族より、このたびの依頼の御礼として、ギルドに麦粉をいただきました。
お二人の取り分を、こちらにお届けいたします。
あわせて、町長様よりお二人にとお預かりしたものがございますので、別の袋にてお届けいたします。
冒険者ギルド クラリス』
袋の口から、香ばしい麦の匂いが立ち上っておりました。
畑で採れた麦を、丁寧に挽いた粉でございます。
あのご家族が、毎日畑に出て、汗を流して作られた麦でございます。
「まあ、こちらは麦粉ですわ!」
「畑の家のご家族からの、お礼でございますね」
「大切にいただきましょう。この麦粉で、何か焼いてみたいですわ」
「お嬢様がお焼きになるのでしたら、私もお手伝いいたします」
わたくしは、もう一つの包みを持ち上げてみました。
「それで、こちらの包みは、何かしらねえ?」
「手紙とともにございました包みでございますね」
「ええ。小さな袋ですけれど、何か硬いものが入っておりますわ」
手に収まるほどの革袋で、口は紐できつく結ばれております。
「クラリスさんの書き付けにございました、町長様からのお預かり物でございますね」
「何が入っているのかしら」
「包みを開けてみましょうか」
「お嬢様。開けるのは、食堂でといたしましょう」
「ええ、そういたしましょう!」
わたくしたちは、食堂へと足を運びました。
食堂の窓には、厚手のカーテンが掛かっております。
「マリア、お茶を淹れてくださる?」
「かしこまりました。すぐに湯を沸かしてまいります」
マリアは厨房へと向かいました。
わたくしは椅子に腰を下ろしました。
革袋を見ました。
紐をほどくのが、待ち遠しくてたまりません。
淑女たるもの、お茶が揃うまで我慢すべきですわね。
わたくしは姿勢を正して待ちました。
やがて、マリアがお茶の支度を整えて戻ってまいりました。
「お待たせいたしました、お嬢様」
「ありがとう、マリア」
マリアがカップにお茶を注ぎますと、湯気とともに、心地よい茶の香りがいたしました。
「では、改めて革袋を開けてみましょう」
「はい。紐を解きます」
マリアが細い紐をほどき、革袋を開けました。
長卓へ、硬貨が一枚、ころりと転がり出ました。
金貨でございました。
「まあ、金貨ですわ!」
「銀貨ではなく、金貨でございますね」
「でも、ご報酬は麦粉でしたわよね。どうして町長様が、金貨をくださいますの?」
さすがのわたくしも、姿見にひびを入れたから、とまでは思いませんでした。
「書き付けには、わけまでは書かれておりませんでした」
「きっと、姿見を大切に運んだご褒美ですわ!」
「ひびを入れた者へのご褒美とは、存じかねますが」
「マリア、あなたも椅子に座って、ともにお茶をいただきましょう」
「恐れ入ります」
マリアは椅子を引いて腰を下ろしました。
わたくしは金貨を手に取りました。
小さいのに、手に重うございます。
「これで、何が買えるかしら」
「魔石と食料を、当分のあいだ買い足せます。石鹸とお茶の葉も足りるかと存じます」
「では、麦粉で焼くお菓子のバターも、買えますわね!」
「はい。それくらいでしたら」
わたくしは温かいお茶を含みました。
「それにしても、あの短い手紙と、この金貨がいっしょに来るなんて、なんだか不思議な組み合わせですわね」
「言伝の言葉はそっけないものでございましたが、お気持ちは大変重うございます」
マリアが金貨を革袋へ戻して、カップを手にいたします。
いろいろと分からないこともありましたけれど。とりあえず、ヴィクトリアさんが怒っていないことだけは分かり、ほっといたしました。
ふと、窓が気になりました。特に理由はございません。
いえ、カーテンで外は見えないのですけれど、なんとなく、外が気になったのです。
はあ、外はどうなっているかしら。気になります。
わたくしは、お茶を中断し、椅子から立ち上がりました。
パンパンとドレスを軽くはたきます。
そして窓へ近づき、カーテンに手を伸ばしました。
すると、マリアが音もなくやってきて、黙ってカーテンを引きました。




