第十一話:館の朝は、今日も平和ですわ
わたくしはその日も、ふわりとした心地よさの中で目が覚めました。
窓際のベッドで、わたくしはゆっくりと手足を伸ばしました。
掛け布団を押し上げますと、冷たい空気が肌に触れて、頭がすっきりと冴えてまいります。
とても気持ちの良い朝でございました。
わたくしは身体を起こしました。
ふと、気がつきました。
そういえば、あの夢を見ておりません。
ここ数日、一度も見ていないのでございます。
夜に目を閉じれば、朝までぐっすりと眠れておりました。
わたくしは窓辺へと目を向けました。
二つの椅子には、メリーちゃんとアリスちゃんが座っております。
白布のたすきを掛けたまま、静かに窓の外を見つめておいででした。
――どうして夢を見なくなったのかしら?
わたくしは首を傾げました。
あれこれと考えてみましても、本当のところはまったく分かりません。
ですから、考えるのはやめにいたしました。
なにはともあれ、夢は見なくなりました。
けれど、メリーちゃんもアリスちゃんも成仏されたわけではございません。
ですから、この人形の館の呪いも、きっと解けてはいないのでしょう。
隣のベッドから、衣擦れの音が聞こえてまいりました。
マリアが起き上がり、身なりを整え始めました。
「おはようございます、お嬢様。すでにお目覚めでしたか」
「ええ、おはよう、マリア。とってもよく眠れましたわ!」
わたくしはベッドから降りました。
マリアが手早く掛け布団を整え、枕の形を直してくれます。
その手つきを見つめながら、わたくしは窓辺のお人形さんたちを指差しました。
「ねえ、マリア。ここ数日、あの夢を見なくなりましたでしょう?」
「はい、お嬢様。私は、あの夢を見ておりません」
「やっぱりそうですのね! わたくしたち、これといった除霊をしたわけではありませんのに」
「左様でございますね。お祓い棒も、テーブルにあるままでございます」
本当にその通りでございます。
わたくしたちは何も成し遂げてはおりません。
ただ、見つけたお人形さんをきれいに洗って、服を着せて、椅子に座らせただけでございます。
それなのに、わたくしはちっとも不安ではございませんでした。
「でもね、マリア。わたくし、なんとなく思いますの!」
「何でございますか、お嬢様」
「わたくしたち、ここで暮らすことを許されたのではありませんこと?」
口に出してみますと、すとんと腑に落ちました。
理屈ではございません。
ただ、長年の勘のようなものでございました。
このお人形さんたちが何を考えているのか、わたくしには分かりません。
けれど、この部屋の空気は、以前よりもずっと穏やかに感じられるのでございます。
マリアは窓辺のお人形さんたちへ目を向け、それからわたくしに向き直りました。
「左様でございますか」
「ふふふ。そうなのですよ、きっと」
そう、これこそがわたくしの除霊なのです。
悪霊たちを強制的に除霊、とはべつの。
「それでは、朝のお支度をいたしましょう」
わたくしたちが手早く身支度を整えますと、すっかりお腹が空いてまいりました。
「マリア、朝ごはんにいたしましょう!」
「かしこまりました。厨房へ降りましょう」
わたくしたちは主寝室を出て、階段を下り、厨房へ向かいました。




