第八話「初陣」
森の中。
背の高い木々が空を覆い、葉の隙間から零れる橙色の光が、まだらに地面を照らしている。
湿った土の匂い。
風に揺れる枝葉の擦れる音。
その中に――異質な気配が混じっていた。
「……来るな」
レオが低く言った、その直後。
茂みの奥で唸り声が重なる。
影が揺れ、次の瞬間、魔物の群れが一斉に姿を現した。
「雑魚が群れでおでましか」
ゼンが双剣を構える。
「行くぞ!」
レオは迷いなく地面を蹴った。
そのまま正面から切り込む。
刃が閃き、一体を斬り伏せる。
間髪入れず、その死角へ滑り込む影。
「へばるなよリーダー!」
ゼンが笑いながら斬り込む。
「お前こそな!」
荒い。
だが、噛み合っている。
レオが押し、ゼンが崩す。
互いに補うわけでもない。ただ己の動きを通しているだけなのに、不思議と隙が埋まっていく。
「それ!喰らえー!」
軽やかな声とともに矢が走る。
ミリーネの一撃が、ゼンの背後へ回り込もうとした魔物を正確に射抜いた。
「へへん!全部命中!」
その横で、重い衝撃が地面を打つ。
「深追いするなよ」
ディオが斧を構え、前線の揺らぎを押し戻す。
崩れかけた位置に、確実に入る。
その後ろで、柔らかな光が広がった。
「加護を」
セレナの祈りが、前衛を包む。
剣に淡い光が宿る。
そして――
「癒やせ」
ティアの声が重なった。
削られた体力が、違和感なく戻っていく。
守る力と、戻す力。
性質の違う二つが、自然に噛み合っていた。
「右側、密度が高いですね」
クロードの声と同時に、魔法が放たれる。
爆ぜる光が群れを削り、戦場の流れを傾けた。
その一方で、エイルは何も言わない。
ただ、見ている。
紫の瞳が、戦場全体を静かに捉えていた。
白い精霊が前線を駆け、もう一体が側面から圧をかける。
無言のまま、流れを整えていく。
戦いは――順調だった。
(……あぁ)
(1度目の時も、こんな流れだったな)
ティアは思い出す。
レオが踏み込む位置。
ゼンが入り込む間合い。
ミリーネの矢が通る軌道。
どこに立てばいいか。
いつ動けばいいか。
全部、分かる。
だから――
一歩早く、動く。
回復も、攻撃も、迷いはない。
ズレは、一切なかった。
「そこ――」
言葉が、こぼれる。
ゼンが反射的に動いた。
次の瞬間、その位置を魔物の爪が掠める。
「……おわ!よくわかったな!」
振り返るゼンに、ティアは視線を逸らす。
「……勘」
それだけ言って、再び前を向いた。
誰も深くは追及しない。
戦いは、そのまま終わりへ向かう。
やがて、最後の一体が倒れた。
森に静けさが戻る。
葉擦れの音だけが、かすかに響いていた。
「ほら!言った通り!私たちの連携完璧だよー!」
ミリーネが弓を掲げて笑う。
「やりましたね」
セレナが微笑み、軽く手を合わせる。
「悪くねぇな」
ゼンが肩を回す。
「初めてにしてはな」
レオは短く言い、剣を収めた。
いつも通りのやり取り。
自然にまとまっている空気。
――強いパーティだ。
誰が見ても、そう思うだろう。
ティアは静かに目を伏せた。
魔物の数は想定より多い。
このまま進めば、日が落ちる。
「……今日はここで野営だな」
迷いのない判断。
「えー!?」
ミリーネが声を上げる。
「文句言うな」
ゼンが即座に返した。
変わらないやり取り。
変わらない流れ。
(……あぁ)
その光景を見つめながら――
(ここも、同じだ)
胸の奥に、静かに浮かぶ感覚。
(……まだ、何も変わっていない)
夕暮れの森は、静かに沈んでいく。
同じ時間が、なぞるように流れていた。




