第六話「初任務」
寄宿舎の一室。
第三討伐隊に割り当てられた部屋は慌ただしい空気が漂っている。
剣を立てかける音。
革袋を結び直す音。
誰かの「これ持ってくか?」という軽い声。
戦場へ向かう準備のため皆それぞれ準備をしている。
ティアも杖にあしらわれた魔石を拭きながら、その光景を見ていた。
(……こんな感じだったな)
懐かしい記憶が頭に浮かぶ。1度目の時と変わらない光景。
そのとき、扉が開いた。
「第三討伐隊、準備は進んでいるか」
ドアを開け現れたのは、現場担当の兵士だった。
淡々とした声で、紙束と地図を差し出す。
「明日の朝発。指定区域の魔物討伐だ」
任務の通達だった。
レオが地図を受け取り、すぐに広げる。
「ここか……ルートはこっちでいいな」
指先が迷いなく線をなぞる。
それを横から覗き込んで、ゼンが眉をひそめた。
「遠いんだけど」
「文句言うな。初任務だし気を引き締めるぞ」
レオの言葉に、ゼンは鼻を鳴らす。
「はいはい、承知しましたよー」
軽口のまま、装備を確認していく。
ミリーネはその横で、背伸びをしながら笑った。
「帰りにさ、屋台寄れるかな?」
「任務前から遊ぶ気かよ」
ゼンが呆れたように言うと、ミリーネは悪びれもなく肩をすくめる。
「だって楽しみ作っとかないとやってられないし」
セレナはそのやり取りを見て、青い瞳を細め静かに笑った。
「無事に帰れたら、ですね」
クロードは地図を見たまま、淡々と口を開く。
「地形的には問題ないです。ただ魔物密度はやや高い」
「ふむ。魔物が多いなら回復薬や解毒剤も多く持っていこう」
ディオは薬の便を鞄に入れ、紐を締め直す。
「無理せず、確実にいこう」
その言葉は重くも軽くもない。
ただ“当然の確認”だった。
エイルは少し離れた位置で全体を見ていた。
「隊列、少し調整した方がいいかも」
誰に向けるでもなく、小さく呟く。
それぞれが、それぞれの形で準備を進めていた。
ティアもその輪の中にいる。
声を出すでもなく、ただ見ていた。
どのやり取りも、懐かしい。
胸の奥が、わずかにざわつく。
未来ではここにいる全員が悲惨な死を迎えた。
始まりの時は、こんなに穏やかな時間を過ごしていたのに。
談笑がひと段落すると、レオが地図を折った。
「じゃあ、今日はここまでだな」
その一言で、空気が動く。
それぞれが立ち上がり、部屋を出ていく。
ミリーネがゼンに何か言い返しながら笑い、
セレナは静かに手を合わせるような仕草をして去る。
ディオは最後に全体を見渡し、
クロードは何も言わずに外へ出た。
エイルは一度だけティアを見て、すぐに視線を戻した。
そして、部屋には静けさが残る。
ティアは一人、そこに立っていた。
さっきまでの喧騒が、嘘のように遠い。
明日の任務は、問題なく終わる。
問題は、その先だ。
ティアは杖を握り直した。
視線を上げる。
ティアは小さく息を吐いた。
今度は、誰も死なせない。




