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集灯町~白雪とぼくらの四季~  作者: パパパパーン


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第五章 白影寺の落ち葉と影

そして季節は巡り——


秋の風が吹く朝、ぼくはいつも通り、

 白雪を起こすために、冷凍庫のドアを開けた。


「白雪ー、起きてー。

 今日は白影寺の落ち葉掃除だよー」


「白雪?」


・・・静かだった。

いつもなら、

冷気がフワッと漏れてきて、

白雪の小さな寝息が聞こえるのに。


「・・・あれ?」


 パパとママも不思議そうに顔を出す。


「白雪ちゃん、もう起きてるのかしら」


「珍しいな。いつもお寝坊さんの白雪ちゃんが早起きするなんて。」


 その時だった。


 庭から、ひんやりとした風が流れてきた。


 秋の朝にしては、

 不自然なほど冷たい風。


 ぼくはその風に導かれるように、

 庭へ向かった。


 窓を開け庭へ出ると

 朝日が差し込み、

 紅葉が舞い込んできた。


 そして、その中に

 白雪が立っていた。


 昨日まで幼稚園児だった白雪が、

 制服姿の高校生になって。


 銀白の髪は腰まで伸び、

 秋の光を受けて淡く輝いている。


 瞳は氷のように透き通り、

 でもその奥に、

 幼い頃と同じ優しさが宿っていた。


 そして、

 白雪はぼくを見て、

 ふわりと微笑んだ。


 夏の終わりに見た、

 あの幼い笑顔と同じ形で。


「・・・福大。

 おはよう・・・」


 その声は少し大人びていて、

 でも確かに白雪の声だった。


 ぼくは言葉を失った。


「し、白雪?

 なんで・・・そんな・・・」


 白雪は首をかしげる。


「・・・わたし。

 おおきく・・・なった・・・」


 当たり前のように言う白雪。

 でも、ぼくの心臓は爆発しそうだった。


 パパとママも固まっている。


「ガッハッハッハ・・・

白雪ちゃん・・・?

え、えぇ!?

昨日まで、こんなか小さかったよね。」


 パパが自分の膝の高さぐらいに手をかざして驚いている。


「・・・かわいい。

・・・いや、綺麗。

・・・いや、かわいい。

・・・いや、綺麗。」


 ママは混乱していた。


 白雪はそんな二人に、

 そっと微笑んだ。


「・・・パパ・・・ママ

・・・おはよう。」


 その瞬間、

 庭の空気がふわりと冷えた。


 白雪の冷気が、

 秋の紅葉を凍らせながら舞い落ちていく。


 ぼくは思わず息を呑んだ。


「白雪・・・

すごく・・・綺麗だよ・・・」


 白雪は少しだけ頬を赤くして、

 ぼくの袖をそっと掴んだ。


「・・・福大。

一緒に・・・行こう

紅葉・・・拾い・・・。」


 その笑顔は、

 夏の白雪の笑顔と同じで、

 でももう幼くなくて、

 胸がぎゅっとなるほど綺麗だった。



 白影寺へ向かう道を、ぼくは白雪と手を繋いで歩いた。

 昨日まではぼくの方が大きかったのに、今の白雪は見上げるぐらい大きくなってる。

 手は冷んやりして気持ちいいけど、ぼくの手は火が出るほど熱くなってる。


「し、白雪。ぼ、ぼくの手、熱いでしょう。手、放すよ。」

「・・・熱くない。

手・・・放したく・・ない。」


 白雪はぼくを抱き上げてギュッと抱きしめた。


「しぃー、しらぁーーゆきぃーー。」


 ぼくの体温が一気に上がり、身体中が赤くなった。

 白雪の冷気が強まり、ぼくの体を冷ましてくれる。

 冷気は広がり降りゆく落ち葉が凍り、霜の模様が石畳に広がっていく。


 ぼくは心地よい冷たさに抱かれて、白雪の横顔に見惚れていた。

 


 白影寺の境内に着くと、

 トラブルファイブが騒ぎ始めた。


「うわぁぁぁ!!

 白雪ちゃんが……

 白雪ちゃんが……

 おっきくなってるぅぅぅ!!」


まつりちゃんが白雪の周りをピョンピョン飛び回りながら大騒ぎしている。


「高校生じゃん!!

なんで!?なんで!?

昨日までちっちゃかったじゃん。

なんで!?なんで高校生!?」


雷斗はうるさいの


「白雪ちゃん・・・

綺麗・・・

最高・・・。


賽ちゃんはうっとりして白雪を見つめている。


「白雪様・・・

神々しい・・・

(ビクン!ビクビクン!)

ああ、筋肉が勝手に震える・・・。」


 白雪はみんなに向かって、

 静かに微笑んだ。


 舞い散る紅葉が冷気で凍り、

 光を反射してキラキラと輝き

 霧散した。


 その光景は、

 まるで白雪のために世界が演出しているみたいだった。


そんな事より。

白雪に抱き抱えられたままのぼくの事、

誰か突っ込んでくれないかな?


恥ずかしくて死にそうだよ。


白影寺の境内は、

 まるで赤い海のように落ち葉が積もっていた。

 ぼく達の胸の辺りまで積もった紅葉は、屈めば体が隠れるくらいだ。


 五重塔の上から、

 ひらひらと紅葉が降り続けている。


「よーし!落ち葉掃除、開始ー!」


 パパの掛け声で、

 ぼくらはほうきを手に散らばった。


 ・・・と言っても、

 白雪に抱き抱えられたままのぼくは、

 まだ地面に降りられていない。


「白雪・・・そろそろ降ろして・・・

恥ずかしいから・・・」


「・・・嫌だ。

 福大・・・

 あったかい・・・」


 白雪はぼくをぎゅっと抱きしめたまま、

 ほうきを片手に持っている。


 その姿は、

 どう見ても『掃除する気ゼロ』だ。


「福大だけズルいーー!!」


 まつりちゃんが白雪の周りを

 ピョンピョン跳ねながら騒ぐ。


「白雪様・・

 神々しい・・・

 (ビクンッ)

 ああ、筋肉が・・震える・・・」


 白翁様は上半身裸で、

 大胸筋をピクピクさせながら落ち葉を掃いている。

 掃くたびに落ち葉が舞い上がり、

 逆に散らかっていく。


「白翁様、散らかしてますよ」


「すまん!!

筋肉が勝手に・・!」


雷斗が紅葉の海に隠れて、ジョーズの効果音と共に白雪に近づいてくる。


ドゥードゥン!

ドゥードゥン!


箒をピョコンと掲げ、ジョーズのヒレに見立ててジグザグと近づいてくる。


ドゥードゥン!ドゥードゥン!

ドゥードゥン!ドゥードゥン!


パァーーーン!!


紅葉の海から飛び出して白雪の目の前に現れた瞬間。


パコン!


「痛てぇーー!」


まつりちゃんに箒で頭を叩かれていた。


「白雪ちゃんに変な事しないでよ。」


「ちょっと脅かそうとしただけだろう。」


「脅かすって・・・こんな感じ?」


突然、紅葉の海の中から、雷斗の真後ろに白いワンピース姿の賽ちゃんが現れ、耳元で囁いた。


ひぃぃぃーーー!


雷斗悲鳴が境内にこだまする。

雷斗のビビリは全然治らないな。



 白雪はぼくを抱えたまま掃除をしようとする。


白雪が箒を持つと、周りの落ち葉がふわりと浮き上がり・・・


パキパキパキッ


全部、凍って砕けて消えた。


「・・・あ」


「白雪・・・

掃除出来たね。凍らせたら消えちゃうから楽で良いよ。

さすが白雪。」


「・・・掃除・・・むずかしい・・・」


 白雪はしょんぼりとほうきを見つめる。


 その姿が可愛すぎて、

 ぼくの心臓はまた爆発しそうだった。



「白雪ちゃん髪サラサラ〜!!

 触っていい!?触っていい!?」


「・・・だめ」


「えぇぇぇぇぇぇ!!」


 まつりちゃんが地面に崩れ落ちる。


「白雪ちゃん

・・・冷気が・・・秋に合う。

・・・最高。」


 賽ちゃんは落ち葉の山に埋まりながら

 うっとりしている。


「白雪ちゃん・・・

 大きくなったねぇ・・・

 パパはパパは、・・・泣きそうだよ。」


うぁぁぁぁぁーーーん



「・・・本当に・・・綺麗。」


ママがうっとりと見つめている。


 白雪は二人に向かって、

 静かに微笑んだ。


「・・・パパ

・・・ママ

・・・ありがとう。」


うわぁーーーーん


パパ、ママ泣きすぎだよ。


 

落ち葉を集め終わると、

 境内の真ん中に見上げるほどの大きな山ができた。


「凄ーい!紅葉山だ。」


 まつりちゃんが紅葉山の周りをグルグル周り出した。

 そんなにグルグル回ったらバターになっちゃうよ。


「よーし!焼き芋タイムだー!!」


 パパとママと白翁様が山ほどの芋を抱えてやって来た。


「こんなに焼くのか?絶対に食い切れないだろう。」


「何を言っとるんじゃ、まだまだ向こうにあるぞ。雷斗も手伝え。」


「まだあんのか!誰がこんなに食べるんだよ。」


「そうか、雷斗は知らないのだな。

毎年沢山来るぞ。

白影寺の焼き芋と紅葉のイルミネーションは秋の一大イベントだからな!」


「そうなのか!八尺様も来るか?」


「ああ、もちろん来るぞ。焼き芋大好きの常連だからの。」

「本当かよ!

だったらよしオレに任せろ!

行ってくるぜ!」


雷斗は分かりやすすぎるな。


 白翁様が新聞紙に火をつけて紅葉山に放り込む。

 火は瞬く間に燃え上がり紅葉を燃やす。


 紅葉山に火がつくと、

 パチパチと音を立てながら、

 紅葉がゆっくりと燃え始めた。


 炎が大きくなるにつれ、

 煙がゆらりと立ち上がる。


 最初は細く、

 やがて太く、

 天へ向かってまっすぐ昇っていく。


 紅葉の赤を吸い込んだ煙は、

 ほんのりと赤みを帯びていた。


 火の粉が空へ舞い上がり、

 その向こうで煙が揺れ、

 白影寺の影がゆらゆらと歪んで見える。


「わぁ・・・きれい。」


 まつりちゃんが目を輝かせる。


 その時、

 白雪が火のそばに歩み寄った。


「白雪危ない!」


 ぼくの静止よりも早く、

 白雪から冷気がふわりと広がる。


 ・・・煙の色が変わった。


 赤みを帯びていた煙が、

 白雪の冷気に触れた瞬間、

 白く輝き、透き通るような色に変わる。


 まるで煙が白雪に惹かれて、

 頬を赤らめてる。


 炎の紅、

 紅葉の朱、

 白雪の冷気の青、

 そして煙の白。


 四つの色が混ざり合いそれぞれの色が渦を巻く様に白影寺を包み込む。

 境内はまるで異世界のようだった。


 火の粉は上へ舞い上がり、

 紅葉は下へ広がり、

 煙は天へ昇り、

 氷の粒は横へ拡大する。


 四つの動きが交差し、

 白雪を中心に

 世界がゆっくりと回っている。


 紅葉山の炎に照らされた白雪は、神々しく、その横顔は、炎の赤と冷気の青と煙の白に照らされて、息を呑むほど美しかった。


 ぼくは思わず見惚れてしまった。


(・・・白雪。・・・・綺麗だ。)


 昨日まで幼稚園児だった白雪が、

 こんなにも幻想的な存在になるなんて、

 胸がぎゅっと痛くなるほどだ。


 ぼく達は、その光景と白雪の美しさに、ただただ眼を奪われ、しばらく立ち尽くしていた。

 賽ちゃんと白翁様がその場で平伏していたなんて、全然知らなかった。



「はっ!い、いかん!!見惚れてしまった。

よし、みんなでどんどん芋を放り込むんじゃ。」


 意識を取り戻した白翁様の掛け声で、みんなも我にかえる。


「「「おーーー」」」


 掛け声と共に、大量の芋達を紅葉山に放り込んで行く。


 賽ちゃんは煙の中から顔を出し、

 稲川淳二みたいに言った。


「嫌だなぁ〜、怖いなぁ〜

・・・焼き芋

おかしいな〜、変だなぁ〜

・・・じゃがバター」


ギャャァーーーー!!

キャーーーーーー!!


「賽ちゃん、無駄に怖く言うのやめてくれないかな。まつりちゃんと雷斗が怖がってるでしょう。」


 雷斗がぼくにしがみついて離れやしないし、まつりちゃんは境内を駆け回っている。


パパ、ママ、白翁様はどんどん芋を焚べていく、芋の他にも野菜や肉、魚などなんでも放り込んで行く。

本当に誰がこんなに食べるんだろう。



「できたぁぁぁ!!」


 まつりちゃんが芋を取り出し、パクッとふたつに割ると、湯気と甘い匂いが広がった。


「白雪ちゃん、はい!あつあつだよ!」

「・・・食べていいの?」

「もちろん。熱いから気を付けてね。」

「・・・うん。」


 白雪は芋を受け取ると、

 ほんの少しだけ目を丸くした。


「・・・あったかい。

・・・福大みたい。」


 そして、

 小さく一口。


「・・・おいしい。」


 その一言で、

 みんなが笑顔になった。


 ぼくの胸も、

 じんわりと温かくなった。


「よーし。ではみんな好きなだけ取っていけ。山ほどあるから、山ほど喰らえ。」


白翁様の大声が白影寺に響き渡ると、白影寺の大門が大きな音を立てて開き、集灯町の住人が次々と境内に雪崩れ込んできた。


皆の目当ては白影寺の紅葉で焼かれた食べ物。

【白の御方】の恩恵が得られると、毎年多くの住人が訪れる。


貧乏神のつむぎちゃん

ぽぽぽ牧場 八尺様

テケテケ

シンデレラフィット家具の店 隙間埋

木葉の守り人 アンドロイド 灯Hazuki

泣いた赤鬼亭 赤鬼の赤時雨

ブックカフェ【雨読灯】雨女の美雨

【人形の集月】 メリーさん

DJ オル&トロス

月守屋敷 結月様

掛け軸幽霊のうらめちゃん

木の葉老


他にも続々と住人達が集まってくる。


 

白翁様が涙を流しながら


「今年は【白の御方】自ら焼いて下さった。

みんなたらふく食え、

食ったらどんどん連れてこい、

皆に【白の御方】の祝福を。」


と大声で叫んでいる。

 境内は異形の者達で溢れかえり、白影寺に続く道も全て異形の者達で埋め尽くされている。


 ぼく達は白影寺の屋根に登ってそんな境内の様子を見下ろしている。


「・・・福大。」


「ん?」


 白雪はぼくの口元についた芋を、

 そっと指で取った。


「・・・ついてる。」


と、パクリと自分の指についた芋を食べた。


「ひゃっ・・・。」


 ぼくの体温が一気に上がる。


 でも、白雪の冷気が、

 ぼくの頬を優しく冷ましてくれた。



【白影寺・屋上】


 白影寺の屋上へと続く階段を、ぼくは白雪に手を引かれながら登っている。

 高校生白雪の手は細身で冷んやりと冷たい。その冷たさが、ぼくの火照った体には、ちょうど良く心地良い。


外に出ると、風がふわりと吹き抜けた。


 夕日が沈む直前の空は、

 橙と紫と群青が混ざり合い、

 まるで絵の具を溶かしたような色をしていた。


 眼下には集灯町の街並みが広がり、

 家々の窓が夕日の光を受けて金色に輝いている。


 境内は住人たちで溢れ、

 焼き芋の煙がゆらゆらと昇り、

 笑い声が遠くから聞こえてきた。


 そして白影寺の背後には、

 巨大樹【木の葉】が黒い影となってそびえ立っていた。

 枝の先が風に揺れ、

 葉が夕日の残光を受けて淡く光る。


 そのすべてを背景に、

 白雪はぼくと手を繋いだまま、屋上の中央に立った。


 銀白の髪が風に揺れ、

 冷気がふわりと広がるたびに、

 舞い上がった紅葉が凍り、

 光を反射してキラキラと散っていく。


 まるで白雪の周りだけ、

 時間がゆっくり流れているようだった。



 屋上にはすでに、トラブルファイブのみんなが集まっていた。


「わぁーーー!!!高いーーー!!

風、気持ち良い。」


 まつりちゃんが体いっぱいに風を受けて屋上を駆け回っている。


「お、おい。危ねぇぞ。あんまり走り回ると落ちるぞ。」


雷斗は壁に密着して震えてる。


「落ちないよー。

雷斗こそ気をつけてね。

その壁崩れて落ちるかもよ。」


キャハハハハ


「え、崩れる!!

いや崩れねぇよ!!

いや崩れる!!

いや崩れねぇ!!」


ウォーーー!!


 雷斗はパニックで壁に張り付いたまま震えている。


 その横で、柵のそばに靴を揃えて、靴の下に【遺書】と書かれた封筒を置いて、柵から身を少し乗り出す様に歩く賽ちゃん。


「・・・最高。」


 賽ちゃんは風に吹かれながら恍惚としている。怖すぎる。



 白雪はそんなみんなを見渡し、


「・・・みんな・・・来て。」


小さな声で呟いた。


 まつりは風に髪をなびかせながらはしゃぎ、

 雷斗は高所にビビりつつも白雪から目を離せず、

 賽ちゃんは風に吹かれながら恍惚としていた。


白雪はそっと右手を上げた。


 白雪の手のひらの上に、

 冷気が集まり始めた。


 空気中の水分が凍り、

 青い光を吸い込みながら形を作っていく。


 氷の粒が集まり、

 ゆっくりとペンダントの形になった。


 氷の中で、

 青い影のような模様がゆらゆら揺れている。


「・・・賽。

 これ・・・あなたの・・・」


 賽ちゃんはペンダントを見つめながら震えている。


「・・・最高

白雪ちゃん・・・最高」


 ペンダントを握った瞬間、

 風がざわりと揺れ、

 霊たちの気配が一斉に集まってきた。


「・・・これって。」

「うん。賽、好きでしょう。

・・・・霊。」

「・・・最高!」


賽ちゃんは白雪に抱きついて大喜びしてる。

霊が寄ってくるペンダント・・・

嬉しいのそれ?



 白雪は静かに左手を上げる。


 冷気がふわりと舞い、

 桃色の光が集まり始めた。


 氷の粒が渦を巻き、

 透明な雫型の髪飾りが形を成す。


 光に当たると虹色に反射した。


「・・・まつり。

これ・・・あなたに。」


「かわいい!!かわいい!!

 白雪ちゃん天才!!」


 まつりが走ると、

 髪飾りがチリンと鳴った。


 氷の音が風に溶けて、

 屋上に小さな虹が生まれた。



 白雪は両手を胸の前で合わせ、

 そっと開いた。


 黄色い光が集まり、

 稲妻の形を描き始める。


 氷の稲妻が完成すると、

 触れる前から“ひんやりビリッ”とした気配が漂った。


「・・・雷斗。

これ・・・あなたの。」


「うおっ・・・

 ひんやりビリッ・・・

 カッコいい・・・」


 雷斗は耳まで真っ赤になった。


「白雪ちゃん・・・

オレ・・・これ一生大事にする・・・」


「・・・うん。」


 白雪は小さく微笑んだ。



 賽ちゃんの青色

 まつりちゃんの桃色

 雷斗の黄色


 三つの色が風に揺れ、

 白雪の冷気で光が揺らぎ、

 紅葉がその光を吸って舞い踊る。


 夕日が沈み、

 マジックアワーの空が深い群青に変わる。


 白雪は胸に手を当て、

 風に揺れる髪の隙間から、

 静かに言った。


「・・・みんな。

 大好き・・・

 ありがとう・・・」


 その言葉と同時に、

 巨大樹【木の葉】の影が風に揺れ、

 屋上の光がふわりと揺らいだ。


 まるで町全体が、

 白雪の祝福を受けているようだった。


って・・・。

あれ?みんな貰ってるのにぼくは?

ぼくにはないの?


「・・・白雪、ぼくにはないの?」


白雪はぼくの耳元に顔を寄せ、恥ずかしそうに囁いた。


「・・・福大は・・・あとで」


「は!はいぃぃ!!!」


 

 屋上から階段を降りると、

 白影寺の参道に沿って並ぶ紅葉が、

 ふわりと光を帯び始めた。


 最初は弱い灯りだったのに、

 次第に橙、金、赤の光が強まり、

 紅葉の一枚一枚が宝石のように輝き出す。


「わぁぁぁ!!

 ライトアップだぁぁ!!」


 まつりちゃんが跳ねる。


「すげぇ・・・

紅葉が・・・光ってる・・・」


 雷斗は思わず見惚れていた。


「・・・いいね。

 この光・・・

 霊が寄ってくる・・・」


「賽ちゃん、怖い事言わないでくれるかな。」


 ライトアップされた紅葉の道を歩くと、

 白雪から貰ったアクセサリーが

 光を反射して揺れた。


 賽ちゃんの青いペンダントは

 夜の光に溶けるように淡く光り、


 まつりの桃色の髪飾りは

 虹色の粒を跳ね返し、


 雷斗の黄色い稲妻は

 光の中で瞬いていた。


「白雪ちゃんの・・・

 すごい・・・」


「かわいい〜〜!!」


「カッコいい・・・」


 三人はそれぞれのアクセサリーに夢中で、

 何度も何度も眺めては喜んでいた。


 その横で、

 白雪は巨大樹【木の葉】をじっと見つめていた。


 風が吹き、

 白雪の髪が揺れる。


 冷気がふわりと強くなり、

 木の葉の影が揺れた。


「・・・福大。」


「ん?」


 白雪はぼくの袖をそっと掴み、

 木の葉を見つめたまま言った。


「・・・あそこで・・・

・・・待ってる。」


 次の瞬間、

 白雪の姿が、

 風に溶けるように消えた。


 冷気だけが残り、

 紅葉が一枚、凍って落ちた。


「えっ!白雪ちゃんどこ行ったの!?」


「・・・木の葉・・・呼んでる。」


「福大、行ってこいよ。

 なんか・・・大事な感じするし」


 まつり、賽、雷斗が

 それぞれの表情でぼくを送り出す。


「・・・うん。行ってくる」


 ライトアップされた紅葉の道を、

 ぼくは一人で歩き始めた。


【木の葉の元で】


 白雪の冷気の残り香が、

 風に混ざって漂っていた。


 巨大樹【木の葉】は、

 夜の光を受けて静かに揺れている。


 その下で白雪が待っている。

 そう思うだけで、

 胸がぎゅっと熱くなった。


 ライトアップされた紅葉の道を抜けると、

 視界の奥に、巨大樹【木の葉】が姿を現した。


 遠くから見ていたはずなのに、

 近づくほど、その大きさが現実味を失っていく。


 幹は、まるで山の壁のようだった。

 直径は50メートルを超え、

 表面には無数のヒビや模様が刻まれている。


 それはただの木の模様ではなく、

 2000年以上の時間そのものが

 幹に浮き出ているようだった。


 学校の授業で習ったんだ。

巨大樹【木の葉】は樹齢2000年以上だと。

 木の葉老も

「だいたいそれぐらいかの?」

って言ってた。


 幹の表面には苔が生え、

 その間から小さな花が顔を出している。

 秋の今は、赤、金、深緑が混ざり合い、

 まるで絵画のような色彩を作っていた。


 木の葉の根は、

 町の道や建物の下をゆっくりと這い、

 まるで町全体を抱きしめているようだった。


 集灯町の家々の土台には、

 木の葉の根が自然に溶け込み、

 橋の欄干や石畳の隙間からも、

 根がひょっこり顔を出している。


 町が木の葉に寄り添っているのか、

 木の葉が町を支えているのか、

 もう分からないほどだった。


 そして、

 夜の木の葉は、昼とはまったく違う姿を見せる。


 最上部の枝葉が、

 ふわりと柔らかい光を放ち始めた。


 赤でも金でもない、

 言葉にできない『温かい光』


 その光がゆっくりと降り注ぎ、

 町全体を包み込んでいく。


 集灯町の『灯』という名前は、

 この光から生まれたのだと、

 誰が見ても分かる。


 風が吹くと、

 光る葉が揺れ、

 光の粒がこぼれ落ちるように見えた。


 ぼくは思わず息を呑んだ。


(・・・白雪。

 こんな場所で・・・

 ぼくを待ってるのか・・・)


 ぼくの胸がどんどん熱くなる。


 木の葉の根元へ近づくほど、

 白雪に近づくほど、

 空気がひんやりと澄んでいく。


 木の葉の根元は、完全に“別世界”だった。


 地面は薄く凍り、

 霜が星のように光っている。


 空気中には氷の結晶が舞い、

 光る葉がゆっくりと回転しながら降りてくる。


 冷気は強いのに、なぜか痛くない。

 むしろ優しく包まれるような冷たさだった。


 その中心に白雪がいた。


 木の葉の幹に背を預け、

 風に揺れる銀白の髪をそのままに、

 静かに目を閉じて立っていた。


 白雪の足元からは薄い霜が広がり、

 木の葉の根元を白く染めている。


 白雪の周りだけ、

 時間が止まっているようだった。


 光る葉の光、

 氷の結晶、

 木の葉の影、

 白雪の冷気。


 そのすべてが白雪を中心にゆっくりと回り、

 まるで『世界が白雪を守っている』ように見えた。


 ぼくは息を呑んだ。


(・・・白雪。

 こんなに・・・綺麗だったんだ・・)


 胸が燃える様に熱くなる。

 心臓がドクンドクン高鳴り、どんどん体温が上昇するのが分かる。


 白雪は、ぼくの命を救ってくれた。

 あの日、

 1月の星降る夜。


 原因不明の病で、

 ぼくの体はいつも熱くて、

 興奮するとすぐに40度を超えた。


 医師は言った。

 「命を燃やしているようだ」と。

 「次の発作があれば危ない」と。


 そんなぼくが、

 両親と天体観測に行った夜。


 空から降ってきたのが白雪だった。


 泣いていた。

 理由は今でも分からない。

 でも、泣いている白雪を抱きしめたいと思った。


 大丈夫だよって言いたかった。


 氷より冷たい白雪と、

 燃えるように熱いぼくの体が触れた瞬間、ぼく達は溶け合い一つになった。

そして、

 ぼくの熱は静まり、

 白雪の涙は止まった。


 あの瞬間から、

 ぼくは生きられるようになった。


 白雪と出会って、まだ数ヶ月。

 でも、白雪と出会ってからのぼくは、

 楽しいことでいっぱいだった。


 無理だと言われた小学校に行けた。

 友達ができた。

 笑えるようになった。


 そして、

 ぼくは白雪のおかげで、生きている。


(・・・白雪・・・

 ぼくは・・・

 これからもずっと・・・

 君と一緒に・・・)


 白雪がゆっくりと目を開けた。


 その瞳は、

 木の葉の光と氷の結晶を映して、

 息を呑むほど綺麗だった。


「・・・福大。」


 白雪がぼくの名前を呼んだ瞬間、

 木の葉の光がふわりと揺れた。


 まるで木の葉そのものが、

 白雪の声に応えているようだった。


「・・・白雪」


 ぼくが声をかけると、

 白雪はゆっくりと目を開けた。


 その瞳は、

 木の葉の光と氷の結晶を映して、

 息を呑むほど綺麗だった。


「・・・福大。」


 白雪がぼくの名前を呼ぶだけで、

 胸がぎゅっと熱くなる。


 ぼくは白雪のそばに歩み寄り、

 木の葉の根元に並んで座った。


 白雪は静かにぼくを見つめている。

 その表情は変わらないのに、

 どこか優しくて、温かかった。


「白雪・・・

ぼくね、ずっと言いたかったことがあるんだ」


 白雪は小さく頷く。


 ぼくはゆっくりと話し始めた。


「1月のあの日・・・

 白雪が空から降ってきた日・・・

 ぼく、死ぬかもしれなかったんだ」


 白雪のまつ毛が、ほんの少し揺れた。


「・・・ありがとう。

 白雪が助けてくれたから、

 ぼく、生きてるんだ」


「・・・うん」


「泣いてる白雪を見たら・・・

ぼく、抱きしめたくなって・・・

大丈夫だよって、抱きしめたくなって

なのに・・・ぼくの方が助けて貰って。

・・・あの日・・・ぼくを助けてくれて

・・・ありがとう。

・・・あの日ぼくは白雪に命を救われたんだ。

・・・ありがとう。」


「・・・私も・・・救われた。

・・・福大に救われたの。

・・・ありがとう。」


 ぼく達は泣いていた。流した涙が一瞬で凍るほど、白雪の冷気が強い。

 でも、隣に座る白雪の温もりは冷気なんか感じさせないほど暖かった。

 白雪の冷気が強まり、ぼくの熱は高まっていく。


「春になって・・・

白雪と一緒に家族でご飯食べたよね」


「・・・おいしかった」


「うん。

 白雪が来てから、ぼく・・・

 みんなのご飯を作れるようになったんだ」


「うん、いつもありがとう。」


ぼく達を中心に冷気が強まっていく。

 

「夏は・・・

雷斗とまつりちゃんと賽ちゃんと、

学校で怖い体験したよね」


「・・・した」


「異世界に閉じ込められたり・・・

 あれ、めちゃくちゃ怖かったけど・・

 白雪がいてくれたから、ぼくは平気だった」


「・・・うん。」


「月守屋敷も楽しかったし、

 夜中のお墓掃除も楽しかった」


「・・・たのしかった」


白雪の想いが冷気を強めていく。

だからぼくは自分の中の熱をどんどん高めていった。

 

「今日の焼き芋も最高だったし、

 屋上から見た集灯町の街並みも・・・

 紅葉のイルミネーションも・・・

 全部、全部綺麗だった」


「・・・うん」


ぼく達を中心に地面が凍りつく

木の葉も凍っていく。

 

「白雪のおかげだよ。

 白雪があの日、ぼくを助けてくれたから・・・

 ぼくはこんなに楽しい時間を過ごせたんだ」


 白雪はゆっくりと目を伏せた。


「・・・ありがとう。

・・・こんなに楽しいのは

福大のおかげ。

福大がいてくれたから、みんなに出会えた。

福大・・・ずっと・・・一緒だよ。」


「うん。これからも

ずっと一緒にいよう」


 白雪はぼくの前にしゃがみ、

 そっとぼくの頬に触れた。


 凍てつく様な指先が、

 ぼくの熱を優しく冷ましてくれる。


 白雪は、

 ほんの少しだけ微笑んだ。


「・・・うん。

ずっと・・・ずっと・・・

一緒だよ。」


 そして、

 白雪はぼくの頬に、

 そっとキスをした。


 その瞬間、

 木の葉の光がふわりと揺れ、

 周りの氷がゆっくりと溶け始めた。


白雪がぼくを抱きしめると、

 木の葉の根元に漂っていた冷気が、

 ぼくの体温に触れてふわりと揺れた。


 白雪の冷たさと、

 ぼくの熱が混ざり合う。


 あの冬の夜と同じ、

 でも、あの時よりもずっと優しくて、

 ずっと温かかった。


 白雪の胸に触れている部分が、

 じんわりと熱くなる。

 ぼくの胸は逆に冷たくなる。


 その『境目』で、

 光が生まれた。


 ぼくと白雪の間に、

 小さな光の粒がふわりと浮かび上がる。


 最初は白雪の冷気の青。

 次にぼくの熱の赤。

 そして、

 木の葉の光の金色が混ざった。


 青と赤と金がゆっくりと渦を巻き、

 光の粒が集まり、

 形を作り始める。


 氷の粒が寄り集まり、

 炎のような赤い光が脈打ち、

 木の葉の金色が中心で瞬く。


 やがて——

 しずく型のペンダントが二つ、

 ぼくたちの胸の間に生まれた。


 透明な外側は氷のように澄んでいて、

 内部は二層構造になっている。


 一つは、

 青が強く、中心に赤い光が揺れる。

 白雪の冷気の色。


 もう一つは、

 赤が強く、中心に青い光が脈打つ。

 ぼくの熱の色。


 どちらの中心にも、

 木の葉の金色の光の粒が宿っていた。


 白雪はそっと手を伸ばし、

 青い雫の方を手に取った。


「・・・福大。

これ・・わたしと・・福大の。」


 白雪はぼくの胸元に手を伸ばし、

 優しくペンダントをつけてくれた。


 冷たい指先が、

 ぼくの首筋をかすめる。


 ぼくは赤い雫を手に取り、

 白雪の首元にそっとかけた。


 白雪の肌は冷たくて、

 でもその冷たさが、

 ぼくにはたまらなく心地よかった。


 ペンダントが光を受けて揺れる。


 白雪の胸元で、

 赤と青と金がゆっくりと混ざり、

 紫の光がふわりと生まれた。


 ぼくの胸元でも同じ光が揺れる。


 マジックアワーの空と同じ色。


 ぼくたちは顔を見合わせて、

 自然と笑い合った。


「・・・白雪

本当に・・・綺麗だよ」


「・・・福大も・・・綺麗。」


 白雪はぼくの頬に手を添え、

 そっと額を寄せてきた。


 木の葉の光が揺れ、

 氷の結晶が舞い、

 ぼくたちのペンダントが紫に光る。


 世界が静かに祝福しているようだった。


 ぼくは心の底から思った。


(・・・あぁ

 この瞬間のために・・・

 ぼくは生きてきたんだ・・・)


 本当に幸せな瞬間だった。



【白雪の冷気と狂気】


 木の葉の根元で生まれたペアペンダントが、ぼくと白雪の胸元で淡く光っていた。


 手を繋いで白影寺へ戻ると、

 境内はまだお祭り騒ぎだった。


「白の御方がお戻りになったぞー!!」

「白の御方の焼き芋だ!!」

「白の御方を讃えよ!!」


 住人たちの歓喜が夜空に響く。


 白雪はその光景を見た瞬間、

 ぴたりと足を止めた。


 白雪の手が震えている。


「・・・白雪?」


 白雪は答えない。

 ただ、目を見開いていた。


 その瞳には、

 恐怖と絶望が混ざっていた。


(・・・あ)


 ぼくは気づいた。


 白雪は、

 『神様扱いされること』が一番つらいのだ。


 白雪の冷気に反応する様に、

 風がざわりと揺れ、

 木の葉の光が脈打つ。


「・・・いや

いや・・・いや。」


 白雪はうずくまり、

 頭を抱えた。


「白雪!!」


 ぼくが駆け寄ろうとした瞬間、

 住人たちが白雪を見つけて群がってきた。


「白の御方だ!!」

「触れさせてください!!」

「祝福を!!」


「やめて!!」

 ぼくは叫んだ。


 でも止まらない。


 白雪は震えている。

 冷気がどんどん強くなる。


「・・・止めて

止めて・・・もう止めて。」


 白雪の声は震えていた。


 パパとママが白雪をかばう。


「みんさん落ち着いて下さい。」

「止めて下さい。お願い止めて。白雪ちゃん苦しんでるでしょう。」


 まつりちゃん、賽ちゃん、雷斗も前に立つ。


「嫌がってるだろう。来んなよ。あっち行けよ。」

「止めて来ないで、白雪ちゃん嫌がってよぉ。」

「・・・来ないで。」


 白翁様、つむぎ、木の葉老も駆けつける。


「止めるんじゃ。皆落ち着くんじゃ。」

「全然止まらないよぉー。

どうしようー。」

「静まれ静まるんじゃ。」


 でも——

 住人の歓喜は止まらなかった。


「白の御方!!」

「触れさせて!!」


 その瞬間——

 住人の一人の手が、

 白雪の肩に触れた。


 白雪の瞳が大きく揺れた。


「・・・やめて・・・!!」


 冷気が爆発した。


 吹雪のような冷気の奔流が、

 白雪の体から四方へ広がる。


「白雪!!」


 ぼくは反射的に飛び込んだ。


 白雪の前に立ち、

 その冷気をすべて受け止めた。


 胸が焼けるように冷たい。

 皮膚が裂けるように痛い。

 でも——


(白雪を・・・守らなきゃ・・・)


 ぼくの熱でも抑えきれない。

 冷気が体を切り裂くように通り抜ける。


 視界が白く染まる。


 そして、

 ぼくは血を流して倒れた。


 境内が静まり返る。


「・・・福大?」


 白雪がぼくを抱きしめる。


「いや・・いや・・いや・・

福大・・・・!!

いやだ・・・!!」


 白雪の涙がぼくの頬に落ちる。


「だい・・・じょうぶ・・だよ・・

 白雪・・・」


 ぼくはそう言って、白雪の涙を拭い、

 意識を失った。


 

 私の目の前には、血を流して倒れた福大がいる。

 私は涙を流し、福大の手を握りしめている。

 私が傷つけたんだ。 大好きな福大を私が傷つけた。

福大の呼吸が段々小さくなる。


(境内に救急車のサイレンが鳴り響く)


また繰り返す。

私は何度も何度も繰り返す。

誰かを傷つける事しか出来ない。

私の冷気は、周りの人達を傷つけ、

私自身も傷つける。


(福大の手を離さず、一緒に救急車に乗り込む。パパとママが泣いている。)



気付いたら私は神として祀られていた。

崇められるままに、 冷気で人を傷つけ 冷気で田畑を壊していった。


カーーンカーーンカーーン


私を讃える鐘の音が嫌いになった。


私を讃える祈りの声が嫌いになった。


私はただ「止めて」と言えなかった。


だから逃げ出した。

歯向かうことも、断る事も出来ずに

私は逃げ出した。


(病院についても私は福大の手を離さなかった。絶対に離さなかった。

震える私の手を福大がしっかりと握り返してくれてるから)



気付けば悪魔と罵られていた。

 私の住む場所は寒く草木も凍る。 近づけば氷漬けにされ命を取られると言われた。 私は何もしていない。 ただそこで暮らしていただけ。


1人で暮らす小さな小屋。


ヒューーーヒューーーー


吹き荒ぶ風の音が怖かった。


ピキピキピキィィーーン


辺りが凍りつく音が怖かった。


 ある日、住人が私を追い出そうと大勢でやって来た。


だから逃げ出した。

歯向かうことも、反撃する事もせずに、 私は逃げ出した。


(福大は病院のベッドで眠っている。私はそばを離れず、ずっと福大の手を握り続けている。

心電図の音も私には届いていなかった。)



気付けば天使と呼ばれていた。

 私の美しさに心惹かれたと、言い寄ってくる男がいた。

 男は言った。 私の天使よ、私と結婚して欲しい。 その美貌と氷の力があれば、我が国は全てを征服する大国となる。 全ての栄華を天使に捧げる。

 

 断った。何度も何度も断った。 そうしたら、軍隊が私を襲った。


 ザッザッザッザッザッザッ


何百もの軍靴の音が辺りを囲み


 パンッパンッパンッパンッ


何百もの銃弾が私を襲った。


だから逃げ出した。

歯向かうことも、反撃する事もせずに、 私は逃げ出した。


(入院して2日目 福大はまだ目を覚さない。 パパとママ、雷斗、まつりちゃん、賽ちゃんがお見舞いに来る。 白翁、つむぎ、木の葉の気配がした時、無意識に私の冷気が強くなった。 3人は扉の外まで来て帰っていった。)


私は私の力が嫌いだ。

 私はいつも私を絶望させる。 私が生きているだけで誰かを傷つけ、私も傷つく。 何千年もそうやって生きて来た。


私は誰からも愛された事がない。

私は誰も愛した事がない。


 だからあの日、私は死のうと思った。 私が私から逃げ出すためにはそれしかないと思った。


 死のうと思った時に涙が溢れて来た。 死んでしまえば楽になると思ったのに、涙が溢れて来た。 私は死にたくはなかったんだ。 こんな自分なのに、私は私から逃げ出したくなかった。


 でも、死にたくないと思えば思うほど、今までの事を思い出して涙が溢れた。

 私は死と生の狭間で泣き続け空を彷徨っていた。


 そんな時に出会ったのが、今まで感じた事のない熱い想いだった。

 命を燃やす様な熱い想いを感じた時、私はその熱に惹かれる様に飛んでいった。


 熱の正体は小さな子供だった。 命を燃やして私の冷気から両親を守っている。


 そして、泣きじゃくる私に近づいて私を抱きしめてくれた。 強まる冷気をものともせずに、命を燃やして私を抱きしめ。


「大丈夫だよ。1人じゃないよ。」


と私に言ってくれた。


私は初めて愛を知った。

両親への愛。

私への愛。


 私は子供の命と私の命を一つにして、2つに分かれた。


 これでもう私たちはいつまでも一緒。 だからもう絶対に離れたくない。

もう逃げ出したくない。

貴方といつまでも一緒にいたい。

でも、貴方を傷つけたくない。



 ぼくが目を覚ますと白雪の姿はどこにもなかった。


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