第ニ章 トラブルファイブ、全員集合!
ぼくと白雪が玄関を出た瞬間だった。
ピカッ!
空が一瞬白く光った。
白雪の冷気がフッと揺れて、ぼくの胸の熱がドクンっと跳ねる。
ゴロゴロゴロ……
ドッカーーーン!!
気持ちいい春の朝の静寂を打ち破る大音量と共に隣の家に雷が落ちた。
「ギャーーーー!!」
「・・・あ、雷斗。今日も怒られて雷落とされたな。」
白雪が胸ポケットからチョコンと顔だけ出してボソリと呟く。
『・・・うるさい』
煙がもくもくと上がる隣の家から、
雷斗が飛び出してきた。
髪の毛がパーマみたいにクルックルになって、顔には煤がつき、頭から湯気と青白い火花がバチバチ散ってる。
「ちきしょうこの雷親父!怒るたんびに雷落としてんじゃねぇよ!」
雷斗が叫ぶたびに周りの空気がビリビリと震え、ぼくの腕の産毛が逆立つ。
そして家の中から雷鳴みたいな声が響く。
「うるせえバカ息子!朝っぱらから雷おこし全部食いやがって!そのヘソ取っちまうぞ!」
「覚えてろよ雷親父!!」
「さっさと学校行きやがれ!!」
雷斗はパンパンに膨れたランドセルを背負いながら、
ぼくに気づいて手を振った。
「お!福大じゃん!おっはよー!白雪ちゃんもおはよ!」
「雷斗、頭パーマになってるよ。」
「だろ!?オレのカッコ良い稲妻ヘアが台無しだぜ。あの雷親父、雷おこしをちょっと食べただけでブチ切れやがってよ!」
「雷斗のお父さん、雷おこし大好きだからね。」
「雷おこしは最高だからな!美味すぎて朝から全部食っちまったぜ!」
白雪がぼそっと言う。
『・・・食べ物の恨み、こわい』
「まったく心の狭い雷様だぜ!」
雷斗の金髪チリチリパンチ頭からプスプスと煙が出て、バチバチと電気が放電してる。
毎朝怒られてるんだよな雷斗って。
藤原雷斗は隣の家に住むぼくの幼馴染だ。雷様の刺繍が入ったスカジャンと黒い短パンはいつものお馴染みの格好だ。
「スゲェーだろ。このスカジャン。じいちゃんの若い頃はこんな感じだったんだぜ。」
半裸の雷様の刺繍がされ、外国の観光客が喜びそうなデザインを目をギラギラさせながらこれ見よがしに見せてくる。
「この背中の筋肉がカッコ良いよな。背中で語ってる感じが堪らないぜ。」
ぼくは毎朝、雷様の話を聞かされて堪らないよ。
家を出てすぐの十字路でぼくはピタッと立ち止まる。
ぼくの中の熱が何かに反応している。
これは・・・来るな。
「どうした?」
雷斗はチリチリ頭からバチッと火花を散らして何も気にせずズンズン歩いてく。
どうしたって?もちろん、まつりちゃんを警戒してるんだ。
万来まつりちゃんは毎朝必ずこの十字路でぼくとぶつかるんだ。毎日必ずだよ。
どうなってんだよ。初めはわざとやってるんじゃないかって疑ったけど、まつりちゃんに限ってわざとじゃないって分かったのはすぐだ。
だってまつりちゃんに限ってそんな計算出来るわけがない。
天真爛漫の暴走少女にそんな知能犯みたいな行動は無理だから。
正面、よし、いない。
右、よし、いない。
左、よし、いない。
後ろ、よし、いない。
「いない・・・今日は大丈夫なのかな?」
怪しい、周りにまつりちゃんの気配はしないけど、ぼくの中の熱が警戒体制を解いてない。
「大丈夫だろう。毎日毎日ぶつかってたまるかよ。」
雷斗が笑った瞬間。
頭の上で頭の上でバチッと青い火花が散った。
『福大・・・来る』
「え!」
正面、右、左、後ろを振り返ってもまつりちゃんは来ていない。
「白雪、まつりちゃんいないよ。」
胸ポケットの白雪に向かって呼びかけると、白雪は小さな手で真上を指差した。
「え?」
「どいてぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
ゴツン!!!
「「痛ぁーーーい!!」」
鈍く痛そうな音と共に声が見事に重なり、ぼくの頭とまつりちゃんの頭が今日もゴッツんこした。
衝撃でぼくの体温が跳ね上がり、白雪の冷気が周りの温度をギュッと下げ、雷斗が放電する。
なんでこうなるんだよぉ〜。
雷斗はお腹を抱えながら大笑いしてる。
「さすがお約束キャラのまつりだぜ。期待を裏切らないよな。」
「もぉ、どいてって言ったのに、どうしてどいてくれないのよ。」
まつりちゃんは地面に転がったまま、食パンを咥えて頭とお尻をさすっている。
「どうしてまつりちゃんが上から降って来たの?」
「近道を通って来たからに決まってるじゃない。」
ぴょんっと立ち上がって、カッコよく親指を立ててる。
その勝ち誇った様な自信満々な姿をみたらなんだか分かった様な気がする。
どうやら今日のまつりちゃんは塀の上を通学路にしてるみたいだ。
理解は出来ないが、分かってしまった自分がなんだか悔しい。
まつりちゃんのふわふわ薄茶色の髪の毛に葉っぱや小枝がささり、パーカーと短パンは泥や埃で見事に汚れてる。元気の塊みたいなまつりちゃんはいつでも暴走少女なんだ。
口に咥えた食パンを手も使わずに器用にたいらげ、モグモグゴックしてから、両手を合わせて
「ご馳走さまでした。でね、この塀を越えたら近道になると思って飛び越えたんだけど、失敗しちゃった。」
なるほど、だから上から降って来たのね。それに、ちゃんとご馳走様が言える良い子でもある。
パンを咥えながら走っていた事は、この際気にしないでおこう。
「近道なんて最高じゃんか!!今日はまつりの近道使って学校行こうぜ。」
雷斗のチリチリ頭がバチっと火花を散らし身体中がバチバチと放電し始める。
「興奮して来たぜ!」
雷斗、それ絶対に遅刻するフラグだから。
「でしょ、でしょ。近道すれば今日こそ遅刻しないんだから。」
『絶対遅刻確定間違いない』
「キャー、白雪ちゃん。今日も可愛い。」
ぼくの胸ポケットから白雪を取り出し頬ずりしながら片足でクルクル器用に回り始める。
何故か雷斗もクルクルと回り出す。もうやめて収集つかないから!
『やーめーーてーーー』
「ちょっとまつりちゃん止めてよ」
『回るー回るー』
「だってだってだって、だってなんだもん。」
「意味わかんないよ。」
『世界が回るー』
「白雪ー。」
クルクル盛大に回転してまつりと雷斗は同時にピタリ!と動きを止めた。
そして、まつりは道に両手両膝をついて頭を立れて、
「気持ち悪っ」
と、うずくまっている。
おバカな娘なんだよ。まつりちゃんは出会った時から、本当にこんな感じなんだ。
「まつり最高じゃんか!マジウケるぜ。」
高笑いする雷斗はケロッとしている。お前達最低だよ。ぼくの白雪になんてことしてくれるんだ。
クルクルと目を回している白雪をそっとポケットに戻す。
「とにかく、近道はしません。今日は真っ直ぐ学校に行きます。」
ビシッと言い放ってやったが、雷斗とまつりちゃんはピョン、スタッと塀の上に飛び乗り学校とは真逆の方向に走り出した。
「ちょっと待ってよ。どこ行くの?」
「学校に決まってるでしょう。」
あー、まつりちゃんの笑顔が眩しすぎる。さっきまで苦しんでたのが嘘のように活き活きしてるじゃん。
学校への近道ってだけで、かなりテンションが上がってるこれは。
「福大、早く来いよ。近道だぜ。近道。ワクワクすっぞ。」
どちらのゴクウさんですか?あなたは。
「ところでまつりちゃん。」
「なに?登れないの?手伝ってあげようか?」
「福大、手伝ってやるよ。高いとことから観る景色は最高だぜ。」
塀の上ではしゃいでる2人はテンションMAX。
雷斗は全身雷でバチバチさせ。
まつりちゃんは満面の笑顔でその場駆け足をはじめている。
はぁ、何とかは高いところが好きなんだよな。
「まつりちゃん、ランドセルどうしたの?持ってないよ。」
「え?え!えーーー!!」
まつりちゃんは塀の上でクルクルと自分の背中を見ながら回っている。
あんまりクルクル回るとまた気持ち悪くなるよ。
「まつり、ランドセルどうしたんだ?」
「落としたかも!!どうしよう」
「探すに決まってんだろ。行くぞ福大。冒険の始まりだ。」
冒険が始まる前に授業が始まるよ。
「行くよ福大。お宝が私たちを待ってるよ。」
待ってるのはまつりちゃんのランドセルだから。
「白雪、今日も遅刻だよ。」
ポケットの中にいる白雪を見ると、さっきまでクルクルしていた目が一変して、目をキラキラと輝かせている。
『冒険・・・ワクワク』
「お前らぁー!必ずお宝をGETするぞ!白雪見てて、ぼくは冒険王になる!」
気付くとぼくは、2人を置いてけぼりにしてまつりちゃんが飛んできた方に駆け出していた。
「福大って、白雪ちゃんが絡むと性格変わるよね。」
まつりちゃんが呆気にとられ
「福大ってチョロいからな。」
雷斗がぼくを憐れんでいる。
そんな風に思ってるなんて微塵も気付かずぼくは突き進んでいた。愛は盲目なのだ。
フォロミーーー
ぼくの雄叫びが集灯町の朝を今日も彩っていた。
昼休みが終わるチャイムが鳴ると次は掃除の時間だ。
♪お掃除お掃除今日はどこを綺麗にしようかな♪
ぼくは掃除が好きだ。
って言うか、家事全般が好きだ。
白雪のために料理を作ったり、
白雪のために掃除したり、
白雪のために洗濯したり。
白雪のために生きる事が最高に楽しい。
白雪の事を考えるだけで、自然と体がメラメラ、メラメラ熱くなる。
だからかな、アイツらのあのテンションには全然ついていけない。
「あー、いつか決めたいぜイナズマシュート、そん時オレはスーパーヒーローになれるのになぁ。」
「雷斗!ダッシュダッシュダッシュだよ。キック&ダッシュなんだよ雷斗!」
「そうなんだよ、まつり。つまり。」
「つまり」
「「翼くんなんだよ」」
雷斗とまつりの会話に全くついていけない。何なんだろうこの2人は。
2人が教室に戻ってきたら急に騒がしくなり、雷斗の頭にバチバチと火花が散り、まつりちゃんは元気オーラを撒き散らしている。
そんな2人には一切目もくれず、河原賽ちゃんが窓の外をジィーッと見ている。
賽ちゃんは色白でほっそりしてて、いつも儚げな表情をしてるんだ。
白いワンピースのスカートと黒く長い綺麗な髪が窓から入ってくる風を受けてサラサラと揺れている。まさに深窓の令嬢だよ。
「賽ちゃんどうしたの?」
窓からはグランドでギリギリまでサッカーを続けている生徒が見える。
「あ、まだサッカーしてる。もう掃除の時間なのに、絶対に先生に怒られるよね。」
賽ちゃんはジーッと窓の外を見ている。あれ?聞こえなかったかな?
すると白雪がポケットから出てきて、賽ちゃんの肩に乗って同じ様に外を見つめる。
「白雪どうしたの?」
「どうした?あ、アイツらまだサッカーやってんじゃねぇか。オレも行こうかな。イナズマシュート決めないとな。」
「じゃあ私も行こうっと。」
「ダメだよ雷斗、まつりちゃん。これから掃除の時間なんだからね。」
「「はーい」」
「福大って真面目だよな。そんなんじゃつまんない大人になっちまうぞ。オレを見習えよ。」
「それだけは嫌。」
「じゃあ、今日の掃除は・・・窓掃除かな?賽ちゃんもそれで良い?」
賽ちゃんはコクリともせずに白雪と一緒に窓の外を見つめている。
「OK、良いってさ。」
「いや、賽ちゃん何も言ってないよ。」
「賽ちゃん私は親友なんだよ。それぐらい分かるに決まってるじゃない。ねぇ賽ちゃん。」
まつりちゃんは微動だにしない賽ちゃんに抱きつき、ついでに白雪の頭もよしよしと撫でている。
本当に分かってんのかな?
「よし、じゃあオレに任せろ。ピカピカにしてやるぜ。」
雷斗はバケツから濡れたままの雑巾を取り出してビチャビチャと窓を拭き始めた。
それを見て一瞬で体が火照りキィーってなってイライラしてしまった。
「誰だよ窓に手垢つけたの、全然落ちねぇじゃん。」
「何やってんだよ雷斗。濡れた雑巾なんかで窓拭いたら、余計に汚くなるだろう。窓は濡れた新聞紙を使って綺麗にするんだよ。見てて、こうするの。」
ぼくは、新聞紙を濡らして窓を丁寧に拭いて、最後に乾いた新聞で水気をとった。
「見てよ。こうすれば窓は綺麗になるんだから。」
「凄ーい。窓ピカピカだよ。福大天才。」
「ありがとう、まつりちゃん。炊事洗濯家事全般の事なら何でも聞いてよね。」
「でもよ。この手垢綺麗になってないぞ。」
「え?あ、本当だ。ん?でもこれ、おかしいな。この汚れ・・・裏側の汚れじゃない?」
「何言ってんだよ。これ手垢だろう。裏側って、ここは3階の校舎なんだぜ。外にベランダもないし。どうやってそんな所に手垢がつくんだよ。」
まつりちゃんが体をビクッと震わせる。
「ちょっと待ってちょっと待って。それ、私が嫌いな展開じゃない?やめてよ。本当にダメだからね私。」
まつりちゃんが何かを敏感に感じ取り後退りして窓から離れる。
「・・・いるよ。」
『・・・いるね』
賽ちゃんと白雪は窓に手を添えて呟くと。
バン!!!!
と大きな音を立てて、突然白い手形が窓を叩いた。
「きゃーーー!」
悲鳴をあげ、ドテッと尻もちをついて、まつりちゃんがガクガクと震えている。
バン!!バン!!
白い手形が音と共に窓に張り付く。
「ひぃーー!」
ぼくと雷斗も小さな悲鳴をあげビックリして窓から離れてしまった。
賽ちゃんはぼく達の悲鳴にも反応しない。ただ静かに窓の外を見つめている。
バン!バン!!バン!バン!!バン!!
手形がどんどん増えていくけど、白雪と賽ちゃんだけが、窓に手を添えたまま動かない。
その沈黙が凄く怖いのはぼくだけだろうか?ぼくは静寂に耐えられず。
「白雪離れて」
白雪がチラリとこちらを見た瞬間。
バン!バン!!バン!バン!!バン!!
バン!バン!!バン!バン!!バン!!
窓を埋め尽くす白い手形。まつりちゃんはさらに悲鳴をあげ、雷斗は仁王立ちしたまま固まっている。
ぼくは賽ちゃんと白雪を窓から引き離そうとするが、
「大丈夫。」
そう言って、窓に向かって
「最初は・・・・グー」
「え?」
バン!バン!!バン!バン!!バン!!
と、無数の手形は【グー】を出す。
「・・・じゃんけん・・・ポン」
賽ちゃんが【パー】を出すと
バン!バン!!バン!バン!!バン!!
と、【チョキ】の痕がつく。
(あっち向いて)
寒気がする様なか細い声が聞こえ
(ほい)
窓に指で右を指す痕がつく
賽ちゃんは左を向く。
ケタケタケタ
窓の外から笑い声が聞こえてくる。
呆気に取られているぼくを他所に、賽ちゃんと白雪は白い手形と共にあっち向いてホイを続けている。
窓の外の笑い声はしだいに大きくなる。クラス中が静まりその様子を眺めている。
そして、一際大きな笑い声が起きた瞬間。窓の外に白い霧の様な姿をした無数の子供たちが笑いながら走り去っていった。
『帰ったね』
「うん」
静寂のクラスの中で2人の声だけが聞こえる。賽ちゃんは外を見つめたまま、自分の体を両手で抱きしめて体を震わせている。
「賽ちゃん・・・大丈夫?」
賽ちゃんも怖かったなんだろう。当然だ、いきなりあんな心霊体験したら誰だって泣き出したくなるくらい怖いに決まってる。
「賽ちゃん・・・大丈夫だよ。」
ぼくはそっと震える賽ちゃんに近づくと、突然賽ちゃんが振り返り。
「最っ高!!!あーゾクゾクした。」
頬を赤らめ目をキラキラさせながら興奮している賽ちゃんは、まるで別人の様にはしゃいでいる。
「身の毛もよだつ様な、この感覚が堪んないのよね。」
体をブルブル震わせながら喜ぶ賽ちゃんは・・・ちょっと怖い。
「見た見た?今の?見たよね!まつりちゃん。今の幽霊最高に怖かったよね。窓ガラスをバババババン!!!!って叩いた時なんか、ゾクゾクゾクって興奮しちゃったよ。もう本当に最高!これだからやめられないよね。ホラーって。」
賽ちゃんが鼻息荒く早口で顔を真っ赤にして興奮しているが、まつりちゃんは失神状態で白目をむいている。
「白雪ちゃん、またやろうね。」
『うん』
ガシッと手を合わせるこの2人、相性良すぎじゃない?
ただクラスにいるみんなは誰1人声を出せず、教室の中はしーんと静まり返っていた。
「コラ!!お前ら!!掃除はどうした!!全然やってないじゃないか!!」
教室に先生の怒号が鳴り響きやっとぼくたちは現実に戻された。
雷斗は仁王立ちのまま気絶していた。こいつもホラー苦手だったんだ。
ぼくたち5人はいつも一緒だ。
正体不明の可愛い雪女白雪。
感情が高まると熱を発するぼくは千葉福大。
雷様をご先祖に持つ藤原雷斗。
来る者拒まず去る者逃さずの万来まつり。
心霊現象の探究者河原賽。
ぼく達は行く先々でトラブルに巻き込まれる。みんなはぼく達の事を
【トラブルファイブ】と呼ぶ。
放課後。
ぼく達5人は残って校舎の掃除と先生から頼まれた雑用を終えてやっと帰る事が出来る。
「やっと帰れるぜ。あー疲れた。見ろよ福大、俺のイナズマヘアが、ヘナチョコヘアに変わっちまったぜ」
雷斗は感情を全身で表現するから分かりやすいんだよね。髪の毛がへたりパチっパチって弱々しい火花散っている。
肩を下げ体をくの字に曲げてトボトボと歩いて、全身から疲れが溢れ出てる。
一方まつりちゃんは全く疲れを見せず、クルクルピョンピョン跳ねながら、突然スイッチが入ったみたいに。
「ねぇねぇ福大。」
「なに?まつりちゃん。」
「ねぇねぇ白雪ちゃん。」
『ん?』
「ねぇねぇ雷斗。」
「なんだ?」
「ねぇねぇ賽ちゃん。」
「・・・・」
「ねぇねぇみんな。ねぇねぇねぇねぇ。」
「まつりちゃんどうしたの?」
「なんだよまつり、どうしたんだよ。」
「へへへ。みんなの事呼んだだけーー。」
なにが面白いのか、キャーキャー笑いながら子犬の様に駆け回っている。
まつりちゃんは朝から晩までいつも元気だよ。
・・・こっちが疲れるくらいに。
賽ちゃんはと言うと・・・
まつりちゃんや雷斗には目もくれずに、キョロキョロと後ろを見たり、窓の外を見たり、天井を見たりしてる。
え!?怖い。
これはこれで怖いんだよな。賽ちゃんの心霊現象スイッチって、いつ入るか分からないんだよ。
白雪はぼくのポケットの中でうとうとしている。
ぼく達【トラブルファイブ】は・・・。
誰だよ、こんな名前つけたの?
略して【トラファイ】?
無駄に略さなくてもいいから。
誰が呼んだか勝手にあだ名もついている。
トラファイシルバー白雪
トラファイレッド福大
トラファイイエロー雷斗
トラファイピンクまつり
トラファイブルー賽
誰だよこんな戦隊ものみたいなあだ名をつけたヤツは?
「よし!トラブルファイブ!略してトラファイ!!行くよトラファイイエロー雷斗!!今日は近道で帰るよ。」
「ガッテン承知の助だぜ!トラファイピンクまつり!」
見つけました。もしかしたらとは思ってたけど、絶対にこの2人だ。
もう溜め息しか出ないよ。
ぼく達5人はガヤガヤ騒ぎながら教室を出た。
廊下は夕日の赤に染まり、誰の声も聞こえない。校舎にはぼく達しか残ってないみたいだ。
「ふふっ・・・誰もいないね」
賽ちゃんがニタリと笑った。
ぼくの背中に冷たい汗が流れる。
ヤバい・・・。賽ちゃんがあの笑顔をする時は絶対にヤバい時だ。
『静かだね』
眠っていたはずの白雪が、ちょこんとポケットから顔を出して呟いている。
心なしか白雪から漏れる冷気が強くなった気がする。白雪も何かを感じたのまもしれない。
「やだやだやだ!こういうの絶対やだ!」
まつりちゃんがガクガクと震え出し、雷斗の服をギュッと掴む。
カーカー
「ひぃーーー」
「うわぁっ!!・・・お、俺、ビビってねぇし!」
雷斗の頭がバチッと放電し、まつりちゃんもカラスの鳴き声聞いただけなのにこのビビリ様。
「早く帰ろう」
ぼく達は駆け足で下駄箱に向かった。
カーカーカー、カーカーカー、カーカーカー
気のせいかカラスの数が増えている。夕暮れに照らされたカラス達が不気味でしょうがない。
まつりちゃんは恐怖でキャーキャー叫び
雷斗は「怖くない怖くない」って何度も叫び
賽ちゃんは推しを見る様にキャーキャー叫び
ぼくは「急げ急げ」と叫び続けた。
白雪だけが、無表情に前だけを見つめている。
下駄箱で靴に履き替え急いで校庭に出ると、校内スピーカーから曲が流れ始めた。
♪ とおきやまに♪
カーカーカー、カーカーカー
♪ひはおちて♪
カーカー、カーカー、カーカー、カーカー
普段は何とも思わない下校の曲なのに、誰もいない校舎から聞こえてくる下校の曲はぼく達の恐怖をこれでもかと煽ってくる。
「沈む夕日、無数のカラス、4人の生徒、誰もいない校舎」
「やめてよ賽ちゃん。それがどうしたの?」
「下校の曲、そして・・・」
「そしてなんなんだよ。言えよ賽ちゃん。オレ、全然ビビってねぇけど気になるじゃねぇかよ。」
「そして・・・正門まで伸びる長い影。」
校舎に沈む太陽が、僕たちの影を異常に伸ばし、正門まで続いている。
「ねぇ・・・影・・・長すぎない?」
「夕日だからだろ!」
「そっか、そうだよね。絶対そうに決まってるよね。」
「当たり前だのクラッカーだぜ。」
『違うよ』
「白雪ちゃん止めて。違くないよ。夕日のせいだよ。怖いのやめてよぉ〜」
まつりちゃんが鼻水ズルズルしながら涙を流しぼくに抱きついてくる。
「福大、オレ全然ビビってねぇからな。全然だかんな」
分かったよ。分かったから。雷斗がめちゃくちゃ怖がってるのは分かったから。
日がどんどん沈んでいく。
スピーカーから聞こえてくる下校の曲は
♪ とおきやまに・・ひは・・ひは・・♪
♪ ・・おち・・おち・・おちて・・・♪
♪ ・・かえ・・れ・・な・・い・・・♪
音が途切れ、途切れになり、巻き戻り、歪んでいる。
まるで何かがスピーカーの向こうで邪魔してるみたいに。
カーカーカー
「・・・揃った。」
「賽ちゃん・・・何が・・・揃ったの?」
俯きながら体を揺らして、ニタニタと喜んでいる賽ちゃんは、1人この状況を楽しんでいる。
賽ちゃんおかしいよ。この状況で喜んでるって、もう異常だよ。
「・・・行けるよ。」
「え?」
『福大。帰れなくなるよ。』
「え?」
『太陽が沈むまでに正門を出ないと』
「出ないと?」
『・・・帰れなくなるよ』
♪ ・・おち・・おち・・おちて・・・♪
♪ ・・かえ・・れ・・な・・い・・・♪
カーカーカー!!!
「走れーーーーーーーーー!!!!!」
ぼくの叫び声でみんなが正門に向かって駆け出した。
賽ちゃんは足がカメよりも遅いので、いつもの様にぼくと雷斗で抱えて走る。
正門に向かって走る、走る、走る。
正門に向かって走るが、距離が縮まらない。
全力で走ってるのに、走っても走っても、正門が遠ざかる。
「なんで!?なんで近づかないの!?」
「福大、もっと早く走れ!」
「これが精一杯だよー。」
「オレのイナズマパワーでぶっちぎってやるぜ。」
雷斗は1人で賽ちゃんを抱えて、体にバチバチと雷を帯びながら走り出す。
運動神経抜群の雷斗がこの状態になると誰も追いつけない。
「よし行け雷斗!!」
が、まるで体を両手で掴まれているかのように、雷斗は全く前に進めていない。
「どうなってんだよこれ!全然進まねぇじゃんかよ。」
気付くと正門に続く影が増えていた。
1本増え。
2本増え。
3本増え。
どんどん長い影が増え、グランドを埋め尽くしている。
その影がぼく達の体に巻き付いている。そして、後ろを振り向くと。
黒い何かがこちらに向かって走ってきている。
キャーーーー!!!!
キャーーーー♡♡♡♡
ヒィーーーー!!!!
「走れーーーーー!」
♪ ・・お・・おちおち・・おちて・・・てて♪
♪ ・・かえ・・さ・・な・・い・・・・♪
カーカーカー
『間に合わない』
太陽が沈みきった瞬間、世界が“落ちた。
パチン。
電気のスイッチを消した時の様な音が聞こえると。
光が消えた。
音が消えた。
風も止んだ。
空気が・・・変わった。
空は墨を塗りたくった様に真っ黒で星一つ見えない。
校舎には灯りはなく静まりかえっている。
あんなにいたカラスの姿もなく、鳴き声も止んでいる。
校庭の中にあるライトだけが、辺りを薄っすらと灯している。
♪ とおきやまに・・・ひは・・おちて・・・♪
「賽ちゃん・・・ここどこ?」
「この世で亡くなった人が・・・あの世に行くまでいる場所。・・・この世とあの世の狭間。帰りたくても帰れない場所。戻りたくても戻れない場所。それがここ。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「だからどこだよここぉぉ!!」
まつりちゃんと雷斗は半狂乱でぼく達の周りをぐるぐると駆け出した。
賽ちゃんは「最高!」と喜び回っている。
どうしよう。もう帰れないの?
パパとママに会えないの?
ずっとここにいなくちゃいけないの?
『福大。』
「白雪、どうしよう。もう帰れないって。このまま戻れないって、どうしよう白雪。ぼく嫌だよ。帰りたいよ。」
『夕飯は冷製スープに冷や汁が食べたい』
「え?」
『帰ったら作って』
「家に帰ったら?」
『うん・・・お願い。』
銀色の大きな瞳でぼくを見つめて、いつもの様に無表情にお願いされた瞬間。
冷やぁぁぁぁぁぁぁ汁ぅぅぅぅぅぅーーーー!!!!
ぼくのやる気スイッチに火がついた。
「トラブルファイブ全員集合ぉぉ!!」
「「「おう!!」」」
ぼくの体は愛の炎に包まれみるみる力が湧いてくる。
「俺は!冷や汁レッド千葉福大!
冷や汁ファイブ名乗れ!!」
「冷や汁シルバー白雪!」
「冷や汁ピンク万来まつり!」
「冷や汁ブルー河原賽!」
「いや、名前違くねぇ?なんだよ冷や汁って。」
「何か問題があるのか雷斗!!」
「ダメだよ雷斗、こうなった時の福大に逆らっちゃ。」
まつりちゃんがオロオロしながら雷斗にダメ出ししている。
「雷斗!名前!!」
「ヒョエー、怖ぇー。冷や汁イエロー藤原雷斗!」
「全員揃って」
「「「「「冷や汁ファイブ!!」」」」」
チュドーーーン!!
ぼくの熱い想いが燃え盛り、ぼくらの背後で5色の爆発が巻き起こる。
「聞けぇー!!」
声を荒らげ校庭に響き渡るぼくの声は、まるで万人の前で演説をする英雄の様だ。
「この程度の心霊現象は初めてじゃない。今まで何度も経験してきた。思い出すだけでも失神してしまうレベルの恐怖体験も一度や二度じゃない。そうだろ賽ちゃん!!」
「はい!思い出しただけでゾクゾクするくらい最高の体験でした。」
「そうだろう。だったら今回も最高に面白い思い出にしてやろう。分かったか!!」
「「「「はい!」」」」
「早くここから抜け出して、白雪に最高の冷や汁を作るぞー!!」
「「「「おー!!」」」」
「冷や汁ファイブ出撃だーー!!」
「「「おーーー!!」」」
「だからトラブルファイブだって。」
雷斗のツッコミにも気付かず、バカな事をしていたら、ぼく達の周りを取り囲むように影が揺れていた。
小さな子どもの影がぼくたちを見ている。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!何あれ何あれなんなのあれーー。」
「来るなぁぁぁ!!オレは怖くなんかないんだぞ!」
まつりちゃんと雷斗はあいも変わらずビビってる。
『泣いてる。みんな泣いてる。』
「みんな帰りたいんだよ。」
「どこに?」
「決まってるじゃない・・・家によ。」
影の子供達が、ぼくたちに手を伸ばす。
雷斗とまつりちゃんは手から逃げる様に後退り、ぼくも手を避けてしまった。だって凄く怖いんだ。
怖くて怖くて、この手に触れたらもう本当に帰れなくなる気がする。ぼくの本能が触れられたら終わりだと叫んでいる。
『大丈夫、怖くない』
白雪が小さな手で影に触れる。
「白雪危ない。」
『大丈夫。危なくない。怖くない。』
「福大、歌おう。」
「え?」
「帰りたいならみんなで歌おう。みんなで歌えば、みんなで帰れるんだから。」
♪クマの子見ていた かくれんぼ♪
賽ちゃんが透き通る様な綺麗な声で歌い出した。
「ほらみんな歌ってよ。帰りたいんでしょう。福大も白雪ちゃんも。」
ぼくも白雪も賽ちゃんに合わせて歌い出した。
♪お尻を出した子 一等賞♪
影の子達が体を揺らしてざわめき出した。そしてどんどん数が増えていく。影の子供達はまるで家の匂いを探すみたいに、ぼく達の歌に手を伸ばしている。
「雷斗もまつりちゃんも帰りたいなら歌おう。」
雷斗もまつりちゃんも訳が分からないと言った表情で、でも藁にもすがる思いで歌い出す。
♪夕焼け小焼でまた明日 また明日♪
「ほら、みんなも歌おう。歌って帰ろうよ。」
影達に向かって手をかざす賽ちゃんはまるで女神様の様に輝いている。
影達は光に吸い込まれる様に手を出して歌い始める。
♪いいな いいな 人間って いいな♪
♪美味しい おやつに ほかほか ご飯♪
影達とぼく達は手を繋ぎ大きな何十もの円になる。
♪子供の帰りを 待ってるんだろな♪
ぼく達の声と影達の声が校庭を包み込むと、真っ黒だった空にバリバリっと光のヒビが走り、ヒビは広がり無数に増えていく。
♪ぼくも帰ろう お家へ帰ろう♪
ぼく達の大合唱は校舎を裂き、暗闇を裂き、世界を裂いていく。
♪でんでん でんぐりかえって♪
バリーーン!!
世界が裂かれ、目の前にはいつもの正門が見えている。
♪バイ バイ バイ♪
影達はぼく達と狭間の世界から抜け出しそれぞれの家に帰って行った。
最後の影がぼく達にペコリとお辞儀をして消えってた。
「戻ったぁぁぁ!!戻って来たぞー!」
「雷斗、喜びすぎだよ。雷、放電してるから。」
「私もう絶対遅刻しなーい。もう絶対真っ直ぐ帰るぅ。」
泣きながら宣言するけど、いつも同じ事言ってるよねまつりちゃんって。
「白雪ちゃん・・・最高だったね。また行きたいね。」
『うん』
賽ちゃん、二度と行かないから。白雪も「うん」とか言わないでくれるかな。
『福大、お腹空いた。』
「よし、じゃあ帰って冷や汁作るよ。まずは魚屋で鯵を買わないとね。」
「あ、じゃあ私も一緒に行く。」
「オレも一緒に行ってやるか、どうせ隣の家だし。」
「鯵の心霊スポット紹介するね。」
「そんなのあるのかよ。もういいよ心霊現象は。」
『お腹空いた』
「よしじゃあ、魚屋さんにレッツラGO」
翌日、学校帰りに寄り道をした生徒がいると先生に呼びだされ、怒られ雑用をした帰りに再び狭間の世界に迷い込んだ事はまた今度話そうかな。
今日はもう疲れたよ。




